魔法少女ディストピア☆クラウン   作:巳知外 竜世

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06話 反乱軍アジト殲滅作戦 中

 

 焦りが生まれた瞬間、リツが入ってきた入り口の向こうから爆音が響く。

 一拍遅れ、シアンが「やっばい!」と転がり出てきた。後を追い、爆炎が吹き出してくる。

 

「ごめん抑えきれなかった!」

 

 ほんの少し間を置き、煙幕代わりの炎を突っ切って亜竜の魔法少女が巨大な爪を振りかざす。

 爪の形の炎が迫る。

 飛び退き際にも引き金を引くが、頭を狙った射撃は正確さが仇となり、大半が反対側の爪を盾に、残りは魔法障壁に弾かれた。

 ウィルムの背後からも、ゾロゾロと蜘蛛型兵器が湧き出してくる。

 

『こちらも手間取ったのでお互い様です! 反乱軍はあの扉の先、リフトで下層へと逃走しました。追跡はこの兵器に遮られたので、取り逃がした形になります。申し訳ありません!』

『しゃあなし! サクッとこれ始末して行くしかないね……! このクモ結構鬱陶しいし。うおっと! ああごめん、私達の方にだけ投入されてる感じじゃないっぽかったからそこまで数は増えないと思うけど……!』

『……っ、この! 失礼。優先的に減らしていきましょうか。私からも一つ。反乱軍の銃に注意してください。ウィルムの撃つ炎のような弾が発射されます!』

 

 テレパシーで手短に情報を共有。無論その間も、蜘蛛を破壊しウィルムに対処しと動く。

 機械を遮蔽にし、飛び登って移動し、動き回り続ける。

 

『うわ。めんどくさ。反乱軍の戦力がウィルムだけならいけると思ったけ、ど! 邪魔! 今話してるでしょ! とにかく、戦力差は思ったよりなさそう』

『敵勢が増えた以上、これ以上の先行はできそうにありませんね……! より多くを私達で抑えられるように戦いますか。リフト奥の制圧は兵士の皆さんにお願いしましょう!』

『OK!』

 

 了承と共に、シアンはくるりとハルバードを回し……。

 

「“スカイブレード(空観飛剣)”」

 

 魔法で浮遊する剣を作り出す。数十以上並ぶそれらは、ギュアッと凄まじい勢いで機械蜘蛛に突き刺さった。

 

 その間にも、残骸を踏みつけウィルムがシアンに迫る。

 割り入ったリツがウィルムの手首を打ち据え、赤熱する爪を逸らした。

 

 ガチ、と引き金を引き、至近での発砲。

 同時、下部のレーザーブレードで斬りかかる。

 左。薙ぎ払い。右、刺突。

 引き金を引き、反動すら利用して回転。

 弾丸をバラ撒き、すくい上げるように飛び上がっての回転斬り。

 

 細かい攻撃を防ぎ、躱し、ついに大きく飛び退いたウィルムの背に、扇に展開された空の剣。

 それを纏めて爪で打ち払うウィルム。

 追撃にハルバードを構え突進するシアン。

 しかし、離れた所にいたリツは気づく。

 

「ッ、右ですッ!!」

 

 右方の扉が開き、そこから現れた重武装の造反者達が一斉に銃を撃つ。

 突貫を止め、飛び退くシアン。

 だが。

 

「燃えて消えやがれッ!! “ハイスヴァルムの憤怒(プロミネード)”!!!」

 

 シアンの回避した先、床が斑に赤熱化し……。

 間欠泉のごとく、炎が吹き上がった。

 

 爆裂。轟音と熱波が空気を揺らす。

 強烈な衝撃波が撒き散らされ、散らばっていた部品や工具が吹き飛び、釣られていたクレーン等が激しく揺れた。中央の柱二つが巻き込まれ、半ばからへし折れていく。

 

 くそ、シアンは!?

 焦燥に急かされたのは一瞬。

 反乱軍兵士はこちらに銃口を向けた。

 

 瞬時に狙いをつけるが、サブマシンガンの弾丸は、反逆者達の盾に深く弾痕を穿つに留まる。

 発射された火球を避けるのは容易だ。

 が、爆炎に巻き込まれないよう退避していた機械蜘蛛が迫る。

 

「“実弾魔法(マギサバレット)・破砕弾”!!」

 

 サブマシンガンの弾丸が、リツの詠唱と共に全て強烈な破裂弾へと置き換わる。

 二丁の短機関銃がバラ撒く、しかし狙いの正確な弾丸は機械蜘蛛をスクラップに変えていく。

 だが、それでも対処しきれず、破壊を免れた個体が潜り込んできた。

 

「っぁ……!」

 

 切り裂かれたのは太もも。軍服ワンピースに切れ込みが走る。

 痛みに顔を顰めつつ、即座に反撃。至近からの破砕弾に、蜘蛛の機構が爆砕する。

 確認できるものは全て沈黙したはずだ。

 

 掃射が終わると同時、爆炎を突き抜けて突っ込んできた亜竜が、挟むように爪を振るう。

 ガッ、と短機関銃を左右に突き出し爪を受け止める。

 赤熱する刃がじわじわと魔法の銃を溶断していく。

 

 高く足を振り上げ、ハイキック。

 ウィルムが顎を引いて避けた隙に、リツは銃を手放した。

 

「“兵器創造(マギファクチュア)”――」

 

 抵抗の無くなった爪が閉じ――。

 

「“ショットガンスピア”ッ!!」

 

 ダァン!!

 リツに届く前に、破砕弾が飛び出した。

 

「っが……!」

 

 モロにそれを喰らい、吹き飛ぶウィルム。

 だがまだ。三度、兵士が撃った火球が来る!

 

「“スカイブレード(空観飛剣)”ッ!!」

 

 降り注ぐ青い剣が火球を撃ち抜き、半ばで破裂させる。

 荒い息をつきながら降り立ったのは、黒と空の戦乙女。

 

「怪我は!!」

「クソ痛いし熱いけど大丈夫……!」

 

 衣装が焼け焦げ、煤けた肌も痛々しいが、まだ戦えるとハルバードを構え直す。

 しかし、ギギ、と不吉な音が耳朶を打つ。

 古い構造らしく、柱が折れた影響で天井が軋み始めている。

 

「崩れる! 出るよ!」

「逃がすか!」

 

 立ち直ったウィルムが突っ込んでくる。重武装の反乱軍の姿は既に無い。退避が早いことから見るに、元より作戦に組み込まれていたか。

 リツの視界に、ちら、と倒れた男が映る。

 その上半身は見当たらず、代わりに赤熱し溶けていく鉄の床があった。

 

「は……?」

 

 視線を巡らせれば、爆炎の消えた中央は床が完全に消失。

 リツが気絶させた男たちの姿はない。

 

「味方を巻き添えに……!?」

 

 始め麻痺弾を使っていたのは、情報を引き出したり、何をしても良い(・・・・・・・)人間を確保するためだ。

 どのみち、反逆者に待つのは死。殺しを躊躇ったりはしない。

 だが、躊躇なく爆炎に巻き込み、崩壊まで織り込んで攻撃してくるなど!

 この状況で救出などできるはずもないだろうが、だからと言って!

 

「ハッ、お優しいことだな!! 役に立たない連中が何人死のうとどうでもいいだろ! 絶望郷さえ転覆できりゃ、世界はよくなる! あいつらも浮かばれるさ!」

 

 ふざけたセリフだ。

 じわじわと燻る苛立ちが火勢を増していく。

 ああ、これだから反乱軍は嫌いなんだ!

 

「……どいつもこいつも……!!」

 

 シアンが扉を切り裂いた先、狭い倉庫の壁をさらに破壊して移動する。

 繋がった通路の向こうから、図ったように飛んでくる火球。

 ショットガンでそれを破裂させ、次弾発射直前に叫ぶ。

 

「“実弾魔法(マギサバレット)・追跡弾”!」

 

 散弾全てに、敵性存在への追尾能力が宿る。

 通路の向こう側にいた造反者達は、全身を細かい弾に貫かれ崩れ落ちた。

 同時、先程の部屋が崩壊した轟音が響いてくる。

 

 さらに通路や部屋を抜け、炉のような機械の合間を走り銃を突き出す。

 発射された弾丸はウィルムを狙い曲がったが、すんでのところで回避され背後のタンクに穴を穿ち爆発させた。

 

「なぜ反乱を起こすのが正しいと考えるんですか!? この国が決定的は破綻を迎えたのは、反乱軍の前身たる革命軍が原因です!! なぜ失敗をもう一度繰り返そうとするんですか!!」

「失敗なんかしてねぇ! お前たちが邪魔したんだ!!」

「いいえ失敗です!! 革命軍のゴミクズ共が夢想に狂い、ありもしない自由を追い求めたせいで全てがおかしくなった!!」

 

 戦いの最中、怒りのままに声を荒げるリツ。

 レーザーブレードで爪を受けた一瞬の拮抗に、リツは敵手のみぞおちを蹴り飛ばす。

 

 ……死傷黒雲により国交が断絶したせいで、大陸から見れば小さい島国であるこの国は、己の力だけで生きていくことを強いられた。

 

 発電、食料生産、資源、そして国防。

 ありとあらゆるリソースが足らず、島全体に広がった人口を生かすために統制が敷かれ、生活は日々苦しくなっていく。国も黙って見ていたわけではない。しかし疲弊していくのはどうしようもなく止められなかった。

 次第に現状に不満を持ち、革命を起こそうとする過激派が蜂起。

 

――『こんなに生活が苦しいのは、一部の特権階級が富を独占しているからだ!』

――『格差を是正すれば、皆平等に、自由に生きていける!』

 

 そんな思想を抱いて結成された『革命軍』は政府へ襲撃をかけ、上層部を皆殺しにした。

 この時に戦力を提供したのが、造反したマスコットである。

 

 だが。

 

「革命軍が旧政権の運営を破壊したから、あの『最悪の自由時代』が生まれたんでしょうに!! あの地獄は貴方も知ってるでしょう!?」

 

 革命軍は統治機構を破壊し、そして……何もできなかった。

 

 政治の中枢に存在する人間を皆殺しにしてしまえば、生まれるのは混乱だけ。

 無論、革命軍の中にも政治に知見のある者はいたが、数えるほどだった。

 

 革命軍が夢見ていた、分配できる富などどこにもなかった。

 宝箱の中には何もなかった。

 政府は、ただ公正に国を運営していたに過ぎなかったのだ。

 

 この最悪の革命により、国は機能しなくなった。

 後に、『最悪の自由時代』と呼ばれる地獄が始まった。

 

 それまでの警察組織や、コロニーごとの地方行政機関は死力を尽くしたが、焼け石に水。

 息をひそめていた裏社会の住人による暴力。生き残るために暴徒となる国民。配下を養うため、ついに正義のない略奪を始めた革命軍。終いにはコロニー同士の戦争すら起こった。

 死者はありえないほど増えていき……国民は、たった一年で二十分の一以下になった。

 

 疲弊していた国にトドメを刺したのは、間違いなく革命軍だった。

 

「あのピエロに従って頭おかしくなったんじゃねぇのか!? あいつが邪魔しなければ、そのまま上手く行ってたんだよ!」

「はぁ!? あの革命軍の中ですら人死が出る諍いが起きていた無秩序な世界が上手く行っていた!? どこを見たらそんなことが言えるんですか!! クラウン様が絶望郷を作らなければ、この国の人間は全員纏めて滅んでいましたよ!!」

 

 自由時代に突入して約一年後。

 なおも作られていた魔法少女の何人かが、マスコットの管理下から脱走。

 そして無秩序な世界をどうにかすべく、動き始めた。

 

 その一人こそが、“絶望郷の道化師”、ディストピア☆クラウンである。

 道化師は、わずか半年で仲間の魔法少女と共に革命軍を討ち果たした。次の半年で強固な支配体制を復活させ、残った国民を一つの巨大なコロニーに集めると、魔法少女の力を使い『ポストアポカリプス』を『ディストピア』にまで戻してみせたのだ。

 それが約二年前。

 

 人々は、あらゆる行動を道化師に見つめられながらも、薄暗く窮屈な日々ながらも、確かに存在する秩序に感謝して生きている。

 最悪の自由時代だけは。あの地獄だけはもう嫌だと。

 

 ――だからリツはクラウンに従うのだ。

 両親を死に追いやった革命軍を滅ぼしてくれたことや、クラウン陣営の魔法少女に命を救われた故の心情的な理由も大きいが……彼女こそが支配者にふさわしいと確信しているが故に。

 

「クラウン様が国家を動かしてなお現状が苦しいのに、文明が形を成していない自由時代の惨状からどうそのまま改善していくと!? どうやるつもりだったのかご教授願いたいですねぇ低能!!」

「苦しい現状とか何だとか、お前らの言う自由時代とやらも全部、クラウンの欺瞞情報に決まってんだろうが!! あいつが住民を都合よく操りたいから、色々誤魔化してるんだ! 何もかも全部、あの道化師が悪いに決まってるだろ!? 奴が諸悪の根源なんじゃねぇか!!」

「はぁーー……!?」

 

 何を言ってるんだこいつは?

 欺瞞情報? クラウンが諸悪の根源?

 あの自由時代が存在しなかったと、本気で思っているのか?

 

 ……ああいや、そうか。

 こいつは、最悪の自由時代で、『搾取する側』だったのか。

 そしてそんな自分の立場が当然だと、無意識レベルで思い込んでいる。

 

「……くふっ」

 

 思わず、とシアンが笑い声を漏らす。

 くすくすと漏れる声は、ウィルムに向けての心底からの軽蔑が混じる。

 

「あっはははは! あ~……、ふふっ。多分何言っても無駄だよピスメ。そいつの頭の中がお花畑なの分かったでしょ? あ、勿論ピスメを笑ったわけじゃないよ。ちょっとそいつが……馬鹿すぎて面白くなっちゃって」

「んだと!?」

「すごいよね。これだけピスメが丁寧に現状説明してくれたのに、一切合切全部ウソだと思ってるんだから。……ホントに効率悪い思考回路してるね。いや、バカな結論にたどり着くための効率はいいのかな? そんな連中しかいないから調査も簡単だったんだろうね」

 

 ギリ、とウィルムが歯ぎしりする音が聞こえた気がした。

 粗暴ながらも作りのいい顔立ちに青筋が浮かび上がり、憤怒に歪んだ形相でシアンを睨む。

 

「てめぇ……! 反乱軍の何が不満だ!?」

「だって反乱軍のやり方は効率悪いじゃん」

「効率だぁ!?」

 

 苛立ちに爪を振るい炎を飛ばすウィルムだが、シアンはそれをあっさり回避した。

 反撃に魔法の剣を飛ばすようなこともせず、煽るようにゆっくりと口を開く。

 

「まともに知識のない人間がこの都市を運営できるわけないし、よしんば上手く行ったとしても環境改善に力を注げるほど余力が出来るなんて何年先になるのさ。全っ然効率的じゃないでしょ。革命軍の失敗から何一つ学んでないわけだしね」

「環境改善なんかしてどうすんだ!」

「どうすんだ? あっはは、お笑いだね。あーしは空が見たいんだってば。あの鬱陶しい死傷黒雲どかさないといけないでしょ。だから、現状上手く行ってる絶望郷の体制を安定させて根本的な解決ができる力を作った方がいい」

「だから絶望郷が上手く行ってるのだって欺瞞情報だ! リーダーも言ってただろ! リーダーに任せりゃ全部上手く行く! お前も同意してたじゃねぇか!」

 

 リーダー? こいつは上からの情報を鵜呑みにしてこんなことを言っているのか?

 唖然とするリツをよそに、シアンは半分笑いながら、いやいやと手を振ってみせる。

 

「方便に決まってるじゃん。最初から反乱軍に未来なんてないんだよ。そんなところに所属させられちゃったんだから、あーしが最高効率で絶望郷に貢献させてもらうために利用しようかなって」

「テメェ、まさか最初からそのつもりで……!!」

「え? うん」

 

 ウィルムの憤怒に、シアンはなぜそこに疑問を持つの?とでも言いたげに頷いた。

 

「絶望郷は反乱分子が潰せて、私は反乱軍を売った功績でクラウンネット登録が戻る。まさしく一石二鳥だよ」

 

 効率いいでしょ?

 滔々と、なんでもないように語るシアン。

 ウィルムに対する呆れと怒りはそのままに、リツの背を怖気にも似た冷たさが走る。

 

 語る内容ではなく、シアンの声色が恐ろしかった。

 お腹が空いたからご飯を食べる、とか、呼吸しないと死ぬ、とでも例えればいいだろうか。

 至極――本人にとって――当たり前の理論を語る声だった。

 シアンは己の夢を叶えるため、何の葛藤も躊躇いもなくスパイ活動を始め、そして反乱軍の情報を売ったのだろう。

 

 亜竜は赫怒のあまり言葉を形にできず、わなわなと口の端を震わせる。

 そしてギッと歯を食いしばり、シアンを射殺さんばかりに睨み魔法を叫ぶ。

 

「焼け焦げろぉっ!! “ハイスヴァルムの(フレア)”!!」

 

 吐き出されたのは、先の大技にも似た爆炎のブレス。

 瞬時に通路を埋め尽くす炎を、床を裁断して下の階層に逃れることでやり過ごす。

 壁を破壊し、さらに避難。ウィルムの火で床が融解し、溶け落ちてくるのを安全圏から見る。

 

 ウィルムや反乱軍に対する怒りは、シアンの裏切りを何とも思わない言葉、その印象が前に来たことでいくらか冷えた。冷静になれ、と己に言い聞かせる。

 

「……調査と言っていましたが、まさか」

「この辺一帯の地形はある程度頭の中に入ってる。ただ、アジトの重要機密区域までは入れなかったし、地図起こしはまた別の技術だからできなかった。色々ピスメに説明するには時間が足りなかったから言ってなかったけど」

 

 あんなにも迷いなく突き進めた理由はそれか。

 確かに、余裕があれば色々と問い詰めただろう。今も一から経緯を聞きたい欲求は強いが、概要を把握したことでそれは薄まった。そして、何より状況が許さない。

 

 階下に逃れたことに気づいたらしく、天井や壁をぶち破って降りてくるウィルム。

 着地に合わせるように、破砕弾に変えたショットガンを撃つが、読まれていたのか炎の鱗じみた盾が展開され、防がれてしまう。

 

『スカイ、部隊がリフトへ到達したと連絡がありました。このまま引き付けましょう』

『了解。さっさと仕留めたいとこだけど……焦らずいこう。あいつが魔法少女だったのは知らなかったけど、元から戦闘能力だけは高かったんだ』

 

 戦いは続く。

 ウィルムの炎は戦闘において非常に強力だった。爆炎を掻い潜り銃弾を放ち、シアンが生み出した剣が飛び交い、肉薄しレーザーブレードやハルバード、赤熱する爪が空間を切り刻む。

 

 互いに消耗し、息は荒い。互いに手傷が増え、すり減った魔法障壁もボロボロ。

 リツは二対一であるのに拮抗している現状に歯噛みする。まだ魔法少女の力に慣れていないのが最たる理由だろう。時折思い出したかのように現れるクモも厄介だ。

 しかし、己らの任務は魔法少女の相手を担当すること。現状でも役目は果たせている。

 

 だが状況は良いとは言えない。

 想定よりも、反乱軍の戦力が遥かに多い。魔法少女だけ、多少のマスコット兵器だけ。考えられていたのはその程度。イレギュラーが多すぎる。

 まだ何かあってもおかしくは――。

 嫌な想像は現実となった。

 イヤーカフから切羽詰まった、悲鳴じみた報告が流れ出す。

 

『こちら第三部隊!! 反乱軍が列車を準備している!! 急ぎ援軍を――』

 

 報告は最後までなされなかった。

 

 空間を走る、見えない衝撃。

 一拍置き、バヅンと何かが千切れるような轟音。周辺の電子機器がスパークし、照明の殆どが消えていく。

 

「EMP……ッ!!」

 

 高度発展した科学文明故に、電子機器を破壊する電磁パルス攻撃ほど危険なものはない。だが、だからこそ対策も多数施され、ちょっとやそっとでは効かないはずだった。

 

『やばいね。発車までの時間稼がれてたんだ……!』

 

 テレパシーで話すシアンの声色にも、焦燥の色が滲む。

 

『列車なら、地下搬送ラインを通るはず。監視も――いや、そのためのEMPと……!』

『クラウン様も、肝心のモニターがないと存分に力を発揮できないもんね……! リツ、さっきみたいに先行して! 変な蜘蛛のせいで押されたけど、ちょっと間コイツを抑えるだけならあーしだけでもいける!』

 

 嘘はないな、とシアンの眼を見る。

 もちろん、と空色の少女は頷いた。

 

「いい加減死ねぇ!!」

 

 暴れるウィルム。

 炎を掻い潜り、これまでと同じように散弾銃を構え、迎え撃つ、姿勢を取る。

 一つ一つが爆裂する破砕弾すら、爪と鱗の盾には通じない。

 

 ならこれはどうだ!

 ――“実弾魔法(マギサバレット)・拘束弾”!

 

「……! ッチ!」

 

 弾を切り替えたのを察知したか、ドバッとばら撒かれる弾を避けるウィルム。

 

「“兵器創造(マギファクチュア)・ショットガンスピア”!」

 

 作り出すショットガンは、二丁。

 一つはフェイク。空いているリツの左手に。

 もう一つは……シアンの手元へ。

 

「っが!?」

 

 回り込んでいたシアンから不意打ちの銃撃。拘束弾の直撃を喰らい、動きが鈍る亜竜。

 非殺傷用のパライズ弾。それの電磁麻痺による拘束力を数倍に高め、具現化した弾丸。

 もはや動ける方がおかしいのだが、効力を気にしている余裕はない。

 すれ違いざまにリツも斉射をおみまいし、そのまま走り去る。

 

『頼みました!』

『任されたよ』

 

 後を追わせないよう、通路を塞ぐようにシアンが移動する音が聞こえた。

 リツは振り返ることなく、融解し固まった溶岩のような有様の通路を走っていく。

 




改稿履歴:
2024/04/09
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