迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
おかしいなぁ? これ、十話で完結予定だったんだぜ?
十代のアドバイスを受けつつ人間界のデッキパワーに合わせたデッキを制作してから4日後、俺は一人魔法族の里を訪れた。
「漸く踏ん切りがついたようだな」
呼び出しだ張本人ことパンドラマジシャンが研究室を兼ねた自宅に入った俺の顔を見るなりそう鼻を鳴らした。
「まあいい。
実験の内容について説明する」
「せめて挨拶ぐらいしてもらえないですかねぇ?」
良く言えばストイックな態度にそう文句を口にするとパンドラマジシャンの代わりに何故かマナことブラック・マジシャン・ガールが謝罪をした。
「ごめんね執事さん。
パンドラ師匠は口下手だから」
意図してではないあざと可愛い謝罪に俺ははぁと溜息を吐く。
「彼がそういう方だとは分かってますよ。
しかし、お二方もその実験とやらに関わっておいでなのですか?」
俺たちのやり取りを我関せずという態度で真剣に魔法陣の前で準備を進めるマハードことブラック・マジシャンに視線を向ける。
そこにはブラック・マジシャンに加えてとても懐かしいモンスターが居た。
「彼は【時の魔術師】ですよね?」
「違うのである!
吾輩は時の魔術師の中でも一握りの精鋭のみが名乗る事を許された【時の魔導士】なのである!!」
俺の呟きを耳聡く聞き咎め作業を中断し訂正しながらそう胸を張る時の魔導士だが、確かによく見れば時計の部分が違うがパッと見では違いが分からない。
というか、時の魔術師って種族名なのか?
「今回の実験はマハードの蓄積した次元航行の更なる拡張を目指し、時の魔導士の持つ時間操作を併用することで時間干渉を同時に行う技術の完全確立が最終目標となる」
そんな光景に頓着しないでパンドラマジシャンが説明を口にする。
「時間に干渉…タイムマシンを作る気ですか?」
「マシーンではない!
これは魔術による神秘の操作だ!」
若干キレ気味にそう訂正するパンドラマジシャンに俺は謝罪する。
「すみません。
同居している友人に未来から来たものが居るのでつい」
「ふん! 才能に頼らぬ機械技術が悪いとは言わん!
だがしかし、時間の潮流を形成する無量の情報を管理制御せしめるに足る制御機構のコスト増大を鑑みれば魔術と科学のどちらが優れているかなど火を見るより明らかでありそもそも…」
一度始まると十分は止まらない長いオタク語りが始まったのでそちらを無視してマハードの方に声を掛ける。
「お久しぶりですブラック・マジシャン殿。
本日の実験について掻い摘んだ説明を頼めますか?」
「ああ。久しぶりだな。
説明なら…」
声を掛けると作業を中断したマハードがパンドラマジシャンに視線を向けるが、絶賛ヒートアップ中であることを見るや頭痛を堪えるように手を頭にやる。
「いや。私からさせてもらおう」
「お願いします」
そうして詳細な説明を受けたのだが、できる限り専門用語を省いたはずの説明も素人には非常に難解であり、辛うじて理解出来たのは要点のみであった。
「つまり、魔法使いとしての素養の低い者が時間移動魔法を行使された際にどんな影響を受けるか確かめたいと言うことで宜しいのですか?」
「要点は間違いない。
それ以外の目的もあるが、それらが貴殿に害を及ぼすものではないことは約束しよう」
「わかりました」
呼び付けられた理由についても納得できた。
しかしだ、
「私に与えられる利があるようには聞こえませんね?」
それ自体は別に構いはしないのだが、嘘を吐かれたとも思えないので首を傾げてしまう。
「何故気付かないのだ貴様は」
と、漸く自分の世界から帰ってきたパンドラマジシャンが呆れた様子で俺を見ながら言った。
「過去に戻る事が出来るなら貴様が
「………」
その言葉に何と返せばいい?
その通りだと喜べばいいのか?
そんな事出来るかと怒ればいいのか?
分からない。
稀に蘇る悪夢の記憶が消え去ることに確かに希望は感じた。
だが、それは同時に…
「それは出来ない」
はっきりと俺は拒絶を口にした。
「ほう?」
てっきり喜ぶと思っていたらしいパンドラマジシャンが興味深そうに眉を動かす。
「確かに
だけど、それじゃあ
辛い記憶だ。
忘れたいのに決して消えてくれない悪夢として苛む嫌なものだ。
だけど、その先で、そんな俺だからこそ救えたものが確かにあったんだ。
『また一緒に楽しいデュエルをやろう』
その約束をした俺が、勝手に逃げ出すなんて
「それになんだかんだで良いことだって沢山あったんだ。
それらまで纏めて無くなるぐらいなら、どんなに辛くても踏ん張っていかなきゃ格好悪いだろう?」
やせ我慢は承知でそう嘯くとパンドラマジシャンは鼻を鳴らした。
「フン。ならば好きにしろ。
どのみち貴様を協力させる事に変わりないのだからな」
「師匠、あれってツンデレってやつですか?」
「私に聞かれても困る」
「聞こえているぞマナ!!」
余計なことを口にしパンドラマジシャンの雷が落ちて半泣きになるマナのお陰で空気が緩んでいく。
「さて、話し合いも一段落したようだしそろそろ始めようではないか」
そう時の魔導士の言葉にパンドラマジシャンが俺に言う。
「貴様には3年ほど前の童実野町に行ってもらう。
一応聞いておくがデッキは指示通り加減した物になっているだろうな?」
「ああ。用意してあるよ」
十代のアドバイスを経て最終的に50枚というやや重めの構成になっていたが、ユベル曰く「アカデミア在学中の十代といい勝負が出来る程度になっているよ」という評価なので問題無いだろう。
暫く後になってユベルの言葉が何時頃の時代を指しているのか互いに思い違いをしていたことに気付き、デュエル中に軽く冷や汗を掻く羽目になったのだがそれについては後で語る。
「因みに事件なんかは遭ったりします?」
「済まないがその頃だとファラオの器であったマスターも友人達も童実野町には居なかったから把握してはいない」
「いえ。それで十分です」
原作主人公不在ならトンデモ事件や世界崩壊案件なんかが童実野町で起きるわけがない。
ワンチャン海馬瀬人が主役で事件のパターンもあり得るが、そうなったら最悪【召喚】してでも全力で逃げよう。
安全を担保するに十分な答えを聞き肩の力を抜く。
(主催は魔術のエキスパートばかりだしこれはもう只の観光旅行として楽しんできて大丈夫そうだな)
勝ったな!風呂入ってくるぐらいのフラグが立った気がしないでもないが、念の為にサイドデッキには普段遣いしているエクストラデッキとガチめのグッドスタッフも何枚か仕込んでいるのでデュエルする羽目になっても本気モードのブルーノや最終決戦時のユベルクラスのデッキでも使われなければ一方的に蹂躙されたりはしないだろう。
「最初に現世をこの時間軸に固定するためにアンカーとなるアイテムを1点指定しろ」
「ネクタイピンなどで宜しいのですか?」
「それでも構わないが、可能なら数が少ないものであるとより効果を望めるだろう」
「数が少ない物ですか…。
では此方を」
そう言って俺は掛けていた眼鏡を差し出す。
「迷宮城の姫が手ずから制作した一点物です。
これであれば条件に合致しているかと」
「貴様にしてはいい判断だ。
加えて貴様の執着心が魔力として眼鏡に浸透しているのがより使いやすくしているのも高得点だ」
パンドラマジシャンが若干引き気味に言っているが、別にそこまで執着しているつもりはない。
眼鏡をオリジナルの神のカードと交換してくれと言われても即答で断る程度だから大したことなんて無い。うん。
「これでいいだろう。
磨くのは後にして眼鏡を掛けてから魔法陣の上に立て」
魔術を施してから返された眼鏡を丁寧に磨いていたら注意されたので仕方無く作業を中断して眼鏡を装着し描かれた魔法陣の中心に立つ。
「それでは実験を開始する」
宣誓の言葉と同時に4人が各々の杖を掲げ、掲げた杖から魔力が魔法陣へと流れ込み魔力を注がれた魔法陣が淡い光を放ち始める。
光が徐々に強くなり素人目にも儀式が進んでいる事が分かるような状況で突然時の魔導士が叫んだ。
「っ!? なんだこの歪みは!?
いかん!! 儀式は中断しろ!!」
「嘘だろ!? 魔法陣から出るべきか!?」
「違う! これは外部からの介入だ!!
貴様はそこから一歩も動くな!!」
まさかの外部要因によるトラブルかよ!?
「駄目!? 魔力が魔法陣に無理矢理吸い取られてる!?」
「集中しろマナ!! 気を抜くと魂まで吸い上げられてしまうぞ!!」
焦る声に彼らも必死に制御しようとしているようだが、どうにもまずい流れに無理矢理乗せられている予感がする。
「こうなれば…受け取れ!!」
突然パンドラマジシャンがカードを投げて来た。
なんとか受け取り確認すると、それはパンドラ仕様の【ブラック・マジシャン】であった。
「こうなれば一旦貴様を介入者の意図通りに飛ばす方がまだ安全を確保出来る!
貴様に預けたそのカードをマーカーとしてやる!
必ず貴様をこの場所に連れ戻すためにも死ぬ気で生き残りそのカードを死守し続けろ!!」
悔しさと怒りに顔を歪めながら真剣な顔でそう宣誓するパンドラマジシャンに俺は焦りと恐怖を飲み込みそのカードをデッキに差し込み保持する。
「分かった。信じるぞブラック・マジシャン」
「当然だ!! 我が名に誓ってこの責は果たしてやる!!」
パンドラマジシャンの言葉と同時に魔法陣の光が目を焼かんばかりに強烈に輝き、腕で目を守りながら光を遮ると突如地面の感覚が失せまるで無重力空間に放り出されたような不安定さに苛まれる。
「うわぁぁぁああああ!!??」
反射的に周囲を確認しようとして目を見開くと、視界の先には銀河のように煌めく光の粒子が満ち溢れた幻想的な光景が広がっていた。
光の粒子は俺を追い越し前へと走り抜けていく。
それはまるで光により新たな道が敷かれているようにも見えた。
或いは逆に俺の体が光の流れに逆らい遡上しているためにそう見えているのかもしれない。
ただ、どちらにせよ俺の感想は変わらない。
「綺麗だ…」
その光景に見とれていると、不意に引っ張られるような違和感を覚え視界に広がる光の道が左斜めに歪んでいく。
「うわあああぁぁぁああああああ!!??」
引っ張られるままに光の道の一つにぶつかりそうになり、衝撃に備えて身を固く身構えていたのだが、ついで感じたのは地面に足がつく安心感であった。
「大丈夫……なのか…?」
恐る恐る目を開いてみると、そこはパンドラマジシャンの工房ではなく
「……此処は、【迷宮城】?」
硝子窓の構図や床の大理石を始めとした全体像は間違いなく俺の知る【白銀の迷宮城】なのだが、俺の勘は
一体何が違う?
その答えを探してなんと無しに窓枠に手をやり、そこで俺は気付いた。
「埃が積もっている!?」
あり得ない。
完璧主義者のアリアスが触れて跡が残る程の埃を見逃すはずかないし、アリアンナ達だってそんな手抜きは決してしない。
そうして改めて視界を広く見渡してみて、俺が何故違うと感じたのかその理由を理解した。
「インテリアの彫刻が彫られていないんだ」
城の内装はその殆どが姫様の手により彫刻されたものであり、その芸術性の高さが姫様の才覚の高さを詳らかに示されている。
しかしこの城内にはそれらの彫金や彫刻が全く存在しなかった。
それが指し示す意味とは…
「まさかこの城には、誰もいないのか?」
主を迎える前の迷宮城なのかとそう結論づけようとした俺、しかし次いで放たれた第三者の声に遮られた。
「あなたはだれ?」
「ッ!?」
その声に反射的に振り向いた俺は、先程とは違う意味で目を見開くことになった。
そこには腰部から小さな羽と黒く細い尻尾をのぞかせ、頭部にはねじれた小さな角を生やした銀髪の幼い少女が佇んでいたのだ。
「姫、さま?」
幼い時代はこんなだろうと容易に将来を予感させる美しい幼子が「ひめさま?」と可愛らしく首を傾げた。
という訳で過去世界旅行(強制)の始まりです。
先ずはロリ姫(仮名)との邂逅から。
因みにパンドラマジシャンはなんやかんや言っても執事の現状に多少の自責はあるので本人なりに気は遣ってます。
現状現代サイドはブルーノも招聘しててんやわんややってます。
先に言っときますがアリアスは今回一切関与してません。
マジで何も知らないので後で知って血の気を引かしますた。