迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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お待たせしましあ。




俺は人間を辞めるZE☆

 姫様の面影を感じさせる幼子は俺の側へとトテトテと近づき、不思議そうに尋ねた。

 

「ねぇ? わたしはおひめさまなの?」

「…え?」

「え?」

 

 思いもよらない質問に無意識に首を傾げると幼子も同じように首を傾げる。

 

「姫様じゃ、ないのですか?」

「しらない。わたしいがいのはなすいきものはあなたがはじめてだもん」

「………」

 

 幼子の言葉に頭が真っ白に視界が真っ黒に染まりそうになるが、洒落にならないと顔面に拳を叩き込んで強制的に再起動させる。

 

「きゃっ!?

 おはなからちがでてるけどへいきなの?」

「問題ありません」

 

 力を込めすぎて溢れた鼻血をハンカチで押さえつけ思考を全力で回す。

 

(自分以外の話す生き物を初めて見ただって!?

 彼女の親は何を考えて…)

 

 意図して放置したのか、或いはそれしかないから城に残したのか。

 どちらにしろ、このままさよならというのはあまりにも忍びない。

 

「とりあえずお名前をお伺いしても宜しいですか?」

「わかんない!」

「……」

 

 どないせいというんだ!!

 

「…そうですか。

 では、【アリス】と、そう呼ばせていただいてもよろしいですか?」

 

 仮の名前としてアリアス達と似た音をと、そう提案すると幼子は目をぱぁぁと輝かせて嬉しそうに笑った。

 

 そうしてふと気づく。

 俺は今日に至るまで姫様のお名前を聞いたことがなく、その事を疑問にさえ思わなかった事を。

 

「わたしアリス!

 わたしのおなまえアリス!!」

 

 名を与えられたのが余程嬉しかったらしくキャッキャッと燥ぐアリスの声に彼女が自身の名さえ知らぬまま本当に一人ぼっちであったのだと改めて打ちのめされて思考が切られてしまう。

 

(守護らねば…)

 

 しかし、そう決意したといっても異邦人であり帰る場所があるのだから何時までも彼女の側に居られはしない。

 

「ねぇねぇ!あなたのおなまえは?」

「私の名前ですか?」

 

 悩む俺へと問い掛けるアリスに隠す必要もないなと本名を明かすも…

 

「じゅちゅもー? 呼べないわ!!」

 

 幼いゆえの滑舌の悪さのせいで自身でも分かるほど全く反芻できず逆ギレを起こさせてしまった。

 

「呼びにくければ執事と呼んでください。

 身近な者達もそう呼んでいますので」

「しちゅじ!

 こっちのほうが呼びやすいわ!」

 

 ちゃんと呼べていないのだが、アリスが満足しているので構わないだろう。

 

「しちゅじ! しちゅじはおそとからきたのよね?」 

「ええ。そうなりますね」

 

 異世界から来たとは言えずそう頷くとアリスは目を輝かせて尋ねる。

 

「じゃあじゃあ!あかちゃんどうつくるの?」

 

 ……よりにもよってそれかぁ〜

 

「アリスはどうしてそれを知りたいのですか?」

「かぞくがたくさんいればしあわせだから!

 だからあかちゃんつくるの!」

 

 汚い大人でごめんなさい。

 

「…困りましたね。

 私は人間なのでアリス達悪魔族がどうやって赤ちゃんを授かるのか知らないのですよ」

「そっかぁ…」

 

 あからさまにアリスが残念がる。

 ごめん。普通に人間と同じ方法で出来ると知ってるけど許してつかあさい。

 

「そっだ!しちゅじ!こっちきて!」

 

 と、いきなり走り出すアリスに子供は突飛すぎると苦笑をこぼし追いかけると…

 

「はい?」

 

 不意にパカンと足元が開いてなくなった。

 

「マジか!?」

 

 下は真っ暗で底は見えず、このまま落ちたら助からない。

 

「【緊急テレポート】!!」

 

 服に仕込んだ非常手段を切り走っていた穴の手前を指定して空間跳躍し穴の中から脱出したのだが…

 

 べチャリ

 

「はいぃっ!?」

 

 床がトリモチのように強力な粘着剤が敷かれており身動きが取れなくなる。

 

「わーい!ひっかかったー!!」

 

 穴の先でアリスがそう嬉しそうに燥いでいることから彼女が仕掛けた罠で間違いないようだ。

 

「ねぇねぇビックリした?

 すごいでしょ!わたしがおねがいするとおしろにいろんなことがおきるんだよ!」

 

 そう自慢げに語るアリスだが、俺は別の思考に気を取られていた。

 

(姫様と同じく罠の管理権限をアリスも有しているのか。

 やはりこの子は姫様の幼い時分で間違いないようだ。

 だとするなら俺は…)

 

 「……おもしろくなかった?」

 

 思考に没していたらアリスが不安そうに俺を見上げていた。

 

「いえ、その…、驚き過ぎて頭が真っ白になってました」

 

 なんとかそう言葉を絞り出すとアリスはがっかりした様子で「そっか」と呟いた。

 

「じゃあ今度はおっきなやいばがびゅーんてするのとかみせてあげるね!」

「いえ、もう十分です」

 

 着地狩りをきっちり仕込んでいた辺りからもアリスのセンスはずば抜けており、もし彼女が本気で殺しに来たら赤いシミをぶち撒けることになることは間違いないだろう。

 

『漸く見つけたぞ執事!!』

 

 と、そこに空間を震わせてパンドラマジシャンの真剣な声が響いた。

 

『今から貴様を近い次元座標に転送する!

 そこから一歩も動くなよ!』

「待ってくれパンドラマジシャン!!

 俺はまだ行くわけには「ダメェ!!」」

 

 なんとか猶予を貰えないかと声を上げた所で会話から俺との別れを察したアリスが俺にしがみついた。

 

「どこにもいっちゃやだ!!

 わたしをひとりにしないで!!」

 

 両の瞳から大粒の涙を流し泣きじゃくるアリスに俺は胸が引き裂かれそうな痛みを感じ振りほどけずに固まってしまう。

 

「頼む!少しだけでいいんだ時間をくれ!!」

『無理だ。

 さっきから時空の歪みが恐ろしいほどに荒れ狂っている。

 今の貴様は砂丘に落ちた砂金を奇跡的に再発見したに等しい状況だ。

 これ以上時間を要すれば貴様を捕捉する事が出来なくなる。

 そうなれば貴様は永久に時空間の迷子に成り果てるぞ』

「そんな…」

 

 今を逃せば二度と姫様に逢えなくなる?

 

 駄目だ。

 

 それだけは、駄目だ。

 

「もう一度この世界に来ることは出来るか?」 

『ブラック・マジシャンの名に賭けて不可能とは言わん。だが、無量の世界から再びこの世界を観測し移動するためには長い時間が必要となるだろう』

「……わかった」

 

 必要なのは時間だけならなんとでもなる。

 

「アリス…よく聞いてくれ」

「やだぁ…やだよぅ…ひとりぼっちはさびしいよぅ…」

 

 ぐずり悲嘆するアリスを優しく掻き抱き、背中を優しく叩きながら俺は言った。

 

「約束する。

 どれだけ掛かろうと、俺は必ず君のもとに帰って来る。

 だから、今は少しだけ我慢してくれ」

「だってぇ…」

「その約束の証を君に預ける。

 俺の大事な宝物だ」

 

 そういって涙で顔をぐしゃぐしゃにするアリスの手に以前姫様にプレゼントしたがオレが入っていないと突き返されたラビュリンスの城と姫様達が並ぶスノードームを握らせる。

 

「しちゅじ、これがあなたのたからもの?」

「そうだよ。とても大事な宝物だ。

 俺は君にその宝物を人質として預けるから、それを返してもらうためにも必ず戻って来る」

「ひとじち。ひとじちがいるからぜったいかえってくる?」

「ああ」

 

 そう頷くと、アリスはスノードームを大事に抱いて俺から少しだけ離れた。

 そして胸を張り偉そうに嘯く。

 

「いまだけはひとじちにめんじてあなたがしろをでていくのをとくべつにゆるしてあげます!

 だから、かならずかえってきなさい!」

 

 泣きそうなのを必死に我慢し、自分が思う姫様を頑張って演じる姿に俺は恭しく頭を下げた。

 

「ありがとうございます。

 必ずや、貴女の下にもう一度馳せ参じさせていただきます」

「よろしくてよ!!」

 

 そう言うとアリスは俺に背を向け廊下を一人走り去った。

 

「アリス…」

 

 握り拳が掌を突き破り肉を抉る痛みを支えに必死に堪えながら俺は声を張り上げた。

 

「ブラック・マジシャン!!」

『跳ばすぞ!! 意識を途切れさせるな!!』

 

 その言葉と同時に光が乱舞し俺の視界が真っ白に染まった。

 そして再び視界が拓けると数多の光の道が乱舞する暗闇の中へと身を舞わせていた。

 

「アリス…いつか必ずまた逢おう」

 

 激情を抑え込みそう口にしたところでパンドラマジシャンが俺に告げた。

 

『先に告げておく。

 悪いニュースが二つだ』

「良いニュースは?」

『あれば先に言っている』

 

 一つぐらい有れよ。

 

「分かった。聞こう」

『一つ目は貴様はまだこちらに戻れない。

 貴様を捕捉し時空の歪みを強引に切り抜けるために魔力を消費し過ぎた』

「最悪だな」

『そしてもう一つ。

 貴様を移動させるだけの魔力を確保するのに此方だけだと3年は必要だ』

「ファッキンジーザスと叫んでいいか?」

『だが、貴様の協力があればこちらの必要魔力を減らせる。

 方法は貴様もよく知る方法だ。

 つまり、貴様がデュエルを行うことで魔力を集める事だ』

 

 またデュエルかよ!!??

 カードゲームの世界だからってなんでもかんでもデュエルで解決するに繋げてどうすんだよ!!

 

『貴様をこれから補足が容易かつデュエルの相手に事欠かない場所に着地させる。

 必要魔力に足りたら連絡を寄越してやるから死ぬ気で戦い続けろ』

「……オーケイブラザー。やってやろうじゃねえか!」

 

 正直感情がぐちゃぐちゃになっているもんだからどこかで発散させなきゃヤバいんだ。

 それが叶いつつ利にもなるってなら大歓迎だよコンチクショウ!!

 

 そう腹を括った所でアリスの居た城に到着した時と同様の引きずり込まれる感覚が俺を襲い、いくつもある光線の一つに俺は飛び込んだ。

 

「……着いたみたいだな」

 

 足元を踏みしめる感覚に俺は無事に新たな世界へと到着した事を確認し光を遮るのに持ち上げていた腕を下げて辺りを見回す。

 どうやらビル街のようで周りには()()()()()()()()()()()()()()()()を装着したデュエリストらしき者達を多く見かけた。

 

「…ちょっと待て」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()だと?

 改めて説明すると俺のデュエルディスクは初代遊戯王のアニメ版のバトルシティで登場した初期型の改良版である。

 これより前になるとプロトタイプの円盤を投擲するタイプと漫画版で登場した変形機構が搭載されていないバージョンの2つになるぐらいレトロなアイテムなのだ。

 だったらなんでリンク召喚にまで対応出来ているんだって話は俺に聞かれても困るから省略するが、ともあれより現代のメジャーは十代が使用するより小型化したコンパクトサイズのデュエルディスクなのだ。

 

 で、そんな最新型を誰も使用しておらず、あまつさえ最新型であると言わんばかりにこれみよがしに持っている事をアピールしている者まで見受けられる状況かつ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてものに一つしか心当たりはなく、もしその心当たりであった場合それは非常にまずい状況であると言わざるを得なくなるのだ。

 

(焦るな落ち着け。

 そもそも此処が童実野町であるかどうかという確認がまだ残っているだろう?)

 

 もしかしたら此処は童実野町ではない人間界の別の街で、今から始まるのがバトルロイヤルルールなデュエル大会の会場であるという可能性もまだ残っているんだ。

 全ての可能性が潰えるまで希望はある。

 

『今から大会ルールを説明する!』

「 」

 

 津◯健次郎ボイスが…今だけは絶対聞きたくなかった声が上空から…

 

『今日この街に集まった参加者は海馬コーポレーションが認定したレベル5以上のデュエリスト達だ…』

 

 ツダケンボイス大好きだよ?

 でも、でも…

 

「今だけはマジで勘弁して欲しかった…」

 

 他意はないはずだが、厄ネタにもほどがある最悪な場所を選んだパンドラマジシャン達にアーゼウスで殴り込みを掛けたくてたまらなくなる俺であった。

 




アリスとの交流が短すぎやしないかって?

ぶっちゃけもっと長かったんだけど、書いてる内にアルスに傾倒しすぎて執事が姫様の事を諦めちゃったんで慌てて修正したらかなりささやかな関わりになったという…

次回は(ルール的な意味で)執事ピンチです。

ところでバトルシティのセットカードは魔法罠各1枚ずつという縛りは分かってるんだけど魔法の発動回数も制限されてましたっけ?



〜〜〜〜

「んっしょ、んっしょ、」

 迷宮城のとある一角、その倉庫として使われている部屋にてアリアーヌ達は整理整頓に勤しんでいた。

「ふぃ〜。
 こういうときに執事が居たら楽なんだけどなぁ?」

 重い木箱を運び終えアリアーヌがそうごちたところで、ふと、部屋の片隅にやや不格好な小さな宝箱が鎮座しているのを見付けた。

「何だろこれ?」

 興味を惹かれ中を開いてみようとしたアリアーヌだが、異様に硬い封印が施されていることに気付きそれが姫様の手によるものと理解した。

「こら!遊んでいたらおやつは無しにするよ?」
「ひゃっ!?」

 小箱に悪戦苦闘する様子をサボりと見做したアリアスの注意の言葉にアリアーヌは飛び上がって驚く。

「ちがうよ中姉さま!
 この箱を見付けたの!」

 おやつを取り上げられてはかなわないと箱を見せつけるとアリアスはややあってから「ああ、それか」と納得した。

「その箱は姫様の宝物が納められているから元の場所に戻しておきなさい」
「中身はなんなのかな?」

 アリアスの言葉に納得しながらも好奇心を隠しきれないアリアーヌの疑問にアリアスは「さあ?」と答える。

「姫様も中身は忘れてしまっている上に開け方も忘れてしまったらしくて姫様にも分からないそうだよ」
「姫様らしいなぁ」
「こらこら。
 だけど絶対に無くせないものだってのは確からしいから触らないようにね」
「は〜い」

 アリアスに言われ元の場所に安置するアリアーヌ。
 元の場所へと戻された小箱は、ただ静かに開かれる日を待ち続けている。
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