迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「さ、流石に、撒いた、よな…?」
疲れ果てたとは言え十分近く全力疾走と、俺はまだ人間族だよな?と本気で怪しむような真似をやらかし疲労困憊になった俺は、建物に寄りかかって体力の回復に努めながら思考を回した。
(バトルシティのレギュレーションに合わせるためのデッキ調整は必須だろう。
かといってギチギチに詰めたらデッキパワーが上がりすぎて『グールズ』や海馬瀬人に目をつけられてしまい原作崩壊の引き金を引いてしまいかねないし、だけじゃなく度を超えすぎればブルーノ達『イリアステル』の介入を呼び込む可能性まで引き起こしてしまう。
だからといってそこそこ勝てる程度に抑えたら万が一の際に
状況を整理すればするほど二律背反に苛まれる危うい状況なのだと再確認し、再びパンドラマジシャン達への報復を決意した。
「大丈夫かいお前さん?」
漸く呼吸が落ち着いて来た間際に俺に向けた心配そうな雰囲気を含んだ老齢な声がかけられた。
「え? あ、はい。
少々走り過ぎただけで…」
労られた礼を言おうと顔を上げ、俺はその人物があまりにもよく知る者であったために固まった。
(『武藤双六』!!??)
その姿はバンダナにオーバーオール姿の背の低い老人と昔見たそのままであり、俺は思わず顔を上げ自分が寄りかかっていた建物を改めて確認する。
「ここは『亀のゲーム屋』だったのか…」
武藤双六が経営するゲームショップであり主人公である武藤遊戯の実家でもある全ての始まりの場所。
知らない内にこんな場所まで走っていたのかと自身に呆れつつ、平静を装い双六に相対する。
「お気遣いありがとうございます。
少し気分が悪かっただけなのでもう大丈夫です」
「それならば良いがのう」
問題ないと告げるもそれでも心配そうに俺を伺う双六に俺は彼なら信用出来るとバトルシティに参加するにあたっての悩みを相談することにした。
「話は変わるのですが、一つお願いがあるのです。
実は私、諸事情があって何の前通達無しにバトルシティへの参加を強制されてしまったのですが、手持ちのカードのどれが提示に値するのかいまいち分からない状態なのでご教授願えないでしょうか?」
「儂にかい?
見るのは構わないが儂で良いのかい?」
「ええ。伝説のゲームプレイヤー武藤双六の審美眼であれば信用に値すると思います」
「ほほぅ?」
双六自身を評価してお願いするのだと言うと、何故か双六は目を細め俺を訝しむように見だした。
「儂の若い頃を知っているのか?」
「いえ。実はそう詳しくはありません。
失礼かもしれませんが、貴方の来歴について知ったのは『ペガサス=J=クロフォード』が主催した大会で優勝を果たしたお孫さんの活躍を聞き、興味を持って彼について調べた際に貴方がかつてそう呼ばれた凄腕であったという事を知ったぐらいなんです」
つま先からではないが一応本当の事を正直に告白すると、双六は目元の険を解き「成程」と納得した様子を見せた。
「孫からの流れで儂についても知ったというなら納得じゃな。
なんせ儂の自慢の孫じゃ!
儂に似てゲームの腕はピカ一じゃからのう!」
自慢気に語る双六に、神をも従える王の魂の器に選ばれるのだから彼の才覚は本物だと心から同意する。
「よし! お前さんの頼みを聞いてやろう!
外でカードを広げるのは危ないから店に入りなさい」
「ありがとうございます」
そう店の戸を開けて促す双六に続き『亀のゲーム屋』の軒を潜る。
こじんまりとした外観に違わず中は狭いながらも移動しやすく商品の陳列をはじめとしたレイアウトに気を使っているために狭さより秘密基地に入り込んだワクワク感を感じさせる見事な店内であった。
「こっちじゃよ!」
亀のゲーム屋に入店したと遊戯王ファンから石どころかニビルを投げられても納得するしかない体験をしているなぁと悦に浸っていた俺は双六の声に我に返りカウンターで待つ双六の下に向かう。
「失礼しました。
良い店と思いつい意識が逸れてしまいました」
「そう言ってもらえると嬉しいのぅ。
じゃあカードを見せてもらおうかの」
「わかりました」
デュエルディスクを持ち上げ、ソートモードを起動しカードの並びを整頓させてからデッキを抜き取る。
「ほう!?
自動でカードを並び替えてくれるとは海馬瀬人もやるもんじゃな!」
「…そうですね」
オートシャッフルやソートモードは現行機にはまだ付いてないだろうけどな。
というか、このデュエルディスクが謎に多機能過ぎるんだよ。
シャッフルにサーチにソートのみならず、細かい条件を絞れる検索モードも搭載して通話やメール機能も有し、デュエルもモード切り替えでエクストラゾーンの有り無しを切り替えられるし相手盤面を表示するウインドゥも開いてくれる。
あまつさえ相手墓地や除外フィールドからの特殊召喚を行う際にはデータカードを作成して代理表示してくれるから相手から直接カードを回収するためにデュエルを中断しなくてもいいと、ストレスフリー過ぎて不満を挙げるなら嵩張ることぐらいしかマジで文句が出ない逆に怖くなるぐらいの究極のデュエルアイテムであった。
ただしリアルソリッドビジョンとリアルダメージシステムは搭載していない。
無くても精霊界なら普通に召喚すれば触れるしリアルダメージ発生するから無駄な機能な上にあっても使わないから構わないんだけどね。
因みに姫様から頂いたディスクは標準型なのでエクストラゾーンのオン・オフとオートシャッフル以外の追加機能は無くデザイン以外はデチューン品と称するしかない代物だったりする。
閑話休題
抜き取ったデッキを受け取った双六は丁寧な手つきで一枚一枚を改めていく。
「ほほう?【霊使い】とは中々扱いが難しいカードを使っておるのう。
それに【太陽の魔術師エダ】と専用サポートカードも持っておるとは、お前さんはこの子達を大事にしているのじゃな」
「ええ。彼らには何時も助けられていますよ」
この頃の基本は技巧は然程必要無いビートダウンデッキが主流だし、特殊召喚なんて融合召喚か【死者蘇生】【リビングデッドの呼び声】等の蘇生カードが主流だったもんな。
アドバンス召喚を多用しない下級ビートに属する【霊使い】はこの時代じゃまだマイナーだよな。
【霊使い】関連以外はかなり未来のカードしか無いがさて…※エダと【霊使い】専用サポートもかなり未来のカードです。
「【妖精伝奇カグヤ】と【妖精伝奇シラユキ】とな!?
儂も実物を見るのは初めてじゃな」
なんで未来のカードなのに知ってるんですか双六さん?
いやまあ、双六なら知ってても不思議と納得出来るんだけどさ。
「【海亀壊獣ガメシエル】は面白いチョイスじゃな。
【獣王アルファ】!!??【倶利伽羅天童】!!??
まさかこんな物までお目にかかるとはのう…」
この時代の人間が知るはずも無いラインナップなのだが、どうやら名前だけは存在しているらしく燥ぎまくる双六にこのあたりも使って大丈夫と安心する。
「【EMスカイマジシャン・ガール】!!??
儂でさえ名前も聞いたことがないカードじゃ!!??」
流石に【EM】は無いらしい。
未来のカードである筈の【妖精伝奇】やガメシエルとかを知っていたから逆にちょっと安心した。
と、狂喜乱舞していた双六が【ラビュリンス】を目にした途端ブルブルと震えだした。
「な、ななな、なんとおおお!?
おおおお前さん!!??
コレを何処で手に入れおったのじゃ!!??」
「私が敬愛する御方が特別にと賜わりくださった物です。
やはり貴重なカードですよね?」
「勿論じゃ!!」
興奮しきった様子で双六は嘯く。
「現存する【ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン】が4枚しか存在しない幻のレアカードなら、【ラビュリンス】は世に出回ることを許されなかった伝説のレアカードじゃ!!
儂が聞いた話ではとあるカードデザイナーがギリシャ神話から着想を得て生み出したものの、時代を先取りし過ぎたあまりの強さゆえにDM創設者であるペガサスが市場への開放は早すぎるとプロモーションのために刷られた1デッキ分のカードしか現存しておらん幻のカードなんじゃよ」
成程。本来は実在するはずがないカードは『ペガサスが差し止めた』という形で存在を仄めかすことで認識を擦り合わせているようだ。
こう言う時はペガサスが〜と理由にすれば納得出来るって超便利だな。
「ではアンティへの提示は」
「止めておいたほうが良かろう。
無いとは思いたいが、カードの希少性に目が眩みお主に危害を加えてでも奪おうと企む者が現れかねん」
カードに欲望を抱かず俺に対して本気で心配を伺わせる双六に、流石作者が『善人』と言い切る御仁だと改めて敬意を抱いた。
「ところでそのデザイナーの方は?」
「儂の聞いた話では『I2』を辞してカードと共に姿を消したというのが最後じゃ」
「そうですか」
もしかしたらそのデザイナーが何等かの要因で精霊界に転移し、最終的に姫様の手にそのカード達が渡った…なんてことがあったのかもしれない。
そんな妄想を脇に置き、俺は本題を伺う。
「それでは双六殿。この中でバトルシティのアンティカードとして使うのに適当なのはどの辺りになりますか?」
【ラビュリンス】が論外なのは当然だが、様子から【霊使い】以外はどれも易々と提示しないほうが良さそうである。
「提示するなら【ブラック・マジシャン】か【妖精伝奇】【獣王アルファ】、後は【太陽の魔術師エダ】辺りが妥当じゃろう。
それ以外のカードは釣り合うカードがそうはあるまいて」
「ご助言ありがとうございます」
やはりその辺りが安牌らしい。
【ブラック・マジシャン】は帰還のためにも手放せないが、複数枚所持しているエダやカグヤ達を賭け台に乗せて済ませられるのはありがたい話だ。
「ところで双六殿。
実はサイドデッキにも何枚かレアカードが入っているのですが、お礼代わりに見てみますか?」
「ほほう?」
コレクターとして興味が隠せないらしく目を輝かせる双六に感謝の気持を込めエクストラ以外のカードを見せる。
「【黒魔女ディアベル・スター】じゃと!?
これもブルーアイズに負けない幻のレアカードじゃの!!」
見ることなど本来不可能なはずの未来のカードを拝めて嬉々と燥ぐ双六に礼を成せたかなと、不意に視線が壁に向かった。
「あれは…?」
枚数は少ないがそこは販売用のカードが置かれたスペースであり、展示用ガラスケースにはレアカードが陳列されていた。
その中に1枚、レアカードとは言えないカードが並んでいた。
【ドリアード】
通常モンスター
星4/地属性/魔法使い族/攻1200/守1400
森の精霊。
草木の力を借りて相手の動きを封じる。
「……」
どうしてか、俺はそのカードから目が離せなくなった。
使うか使わないかなら使わないだろう。
彼女を活かすデッキを作るなら完全新規で組まねばならず、そうなれば姫様は入らない。
なのに、どうしてか俺は、《漸く出会えた》という感想と共に姫様に救われた時と同じ多幸感に満たされていた。
「このカードが気になるかのう?」
「え? ええ。
並んでいる他のカードと少し違いましたから」
胸の感情を悟られたくないと咄嗟にそう答えた俺に双六は語る。
「そのカードは奇妙な格好の者が置いていったカードなのじゃよ。
その者はそのカードを儂に買い取らせるでもなく『儂が渡すべきと思った者に渡して欲しい』とだけ言い残して店を後にしたのじゃ」
「……」
確かに不思議な話だ。
まるで運命を導くかのような、或いは…
「お前さん、良ければそのカードを持っていかんか?」
「……何故、私に?」
「儂が渡すべきと思ったからじゃよ。
それに、希少なカードをたくさんみせてもらったからのう。その礼じゃ」
にっこり笑ってそう口にした双六の提案に俺は…
「ありがとうございます」
提案を受け入れ【ドリアード】を譲り受けた。
未来のカード問題は基本ペガサスが〜で済むから帳尻あわせがかなり楽でした。
ドリアードはフラグですが個別エンドには影響ありません。
次回はデュエル回です。
執事はブルーノが改良してくれたと思って気づいてないけど、このデュエルディスク勝手に進化してるんだよね。
後、AR機能も搭載してません。