迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
先ずはオープニングフェイズから。
「ふぅん?
つまり奴のデュエルディスクの完全再現は現時点では不可能という事だな?」
「うん」
叱責を畏れて縮こまるモクバを一瞥もせず、瀬人は静かに「そうか」と口にした。
「ならば追加する機能はオートシャッフルとサーチに絞りその2つを搭載した新モデルの開発をするよう命じておけ」
「わ、分かったよ兄サマ」
怒りもなく淡々と指示を降す瀬人に意表を突かれ戸惑うモクバに瀬人は問う。
「どうしたモクバ?」
「ううん。ただ、兄サマが役立たずって怒ると思っていたからつい…」
隠し立てするほうが機嫌を損ねると兄を知るモクバが正直に告げると瀬人は鼻を鳴らす。
「ふん。認めたくはないがあのデュエルディスクは一年二年程度で追いつける代物ではない程度は見ただけで分かる。
なにも分からないことが解ったなどと巫山戯た答えを返さなかっただけ今は十分だ」
そう締めくくり瀬人はもう一つの疑問を問うた。
「それで、あの男はどうしている?」
決勝戦の第一段階が行われる飛行船に来させるはずが何故かモクバだけが来たことを問い質すと、モクバは何故か顔を引き攣らせた。
「それなんだけど、突然喚き出して泡を吹いて寝込んじゃったんだ」
「なんだと?」
あまりに意外な答えに虚を突かれる瀬人にモクバは言う。
「定時退社を告げる鐘が鳴って帰っていく社員達を見ていたら突然おかしなことを言い出したんだよ」
『そんな…定時退社なんて有り得るはずがないだろう!!??』
『残業六十時間は六十時間まで使い潰してそれ以上記載させないのが当たり前じゃないか!!??』
『深夜手当なんて幻想だ!!労基なんて何の役にも立たないんだ!!!!』
「って、滅茶苦茶騒いでそのまま…。
医者には診せたけどただのパニック障害だってさ」
「………」
過去の社畜時代のトラウマを発生しパニックに陥ったと聞かされた瀬人は、不意に義父『海馬剛三郎』が社長だった頃に過度な重勤務を課された社員が何人も精神を病んで自殺していたのを思い出した。
「モクバ。
後で各部門の勤怠調査を念入りに行っておくよう内部監査に指示を出しておけ」
「わかったよ兄サマ」
嘗ての軍事総合企業であった海馬コーポレーションの頃なら兎も角、今の海馬コーポレーションは少年少女をメインターゲットに展開するアミューズメント企業なのだ。
そんな企業で過労死など起きればただでさえ軍事総合企業の暗いイメージがいまだに根強い海馬コーポレーションの株は更に下がるだろう。
(奴の強さの秘密、それは精神の均衡の崩壊を引き起こすほどの極限状況から這い上がる為に身に着けたものだったか…)
単にブラック企業ですり潰されただけなのだが、そんなことは露とも知らない瀬人は勘違いから身内への重い感情も有り案内人に対しシンパシーを覚えつつ、その思考を振り切りまもなく始まる最後の篩い落としの舞台へとその足を向けるのだった。
〜〜〜〜
目が覚めたら画面の向こうで決勝の地『アルカトラズ』が海馬瀬人の手により爆発していた。
「やっちまった……」
社会に夢見ていた頃のホワイト企業が異世界にしか無かったと打ちのめされて寝込んでいたら、『ノア編』はおろかバトルシティの決勝戦まで終わってたんだよ。
「ちくせう。あの時の興奮をもう一度リアタイ出来たはずなのに…」
因みに俺が寝込んでたのは一日程。
逆算すると此方でのたった一日で現実世界では半年以上が経過したって事になるんだよね…。
「浦島現象の正体見たりってか?」
笑えないジョークを口にしつつ、ベッドを降りて上着を着てから研究所内を歩く。
目的は当然デュエルディスクである。
それにしても妙だ。
「人が居ない?」
すれ違う職員はおろか人の気配さえない。
「……」
なんと言うべきか、事件が始まりを予感させる独特な空気を感じ【緊急テレポート】を袖に隠してデュエルディスクを預けた場所へと急ぐ。
しかし懸念を他所に人に遭わないことを除けば特に異常もなく俺は台座に乗せられたデュエルディスクを手に取り装着出来た。
「このまま素直に…とは行かないよな?」
デッキを差し込みそうごちたところでカツンと自己主張するように無音の研究所内に大きな足音が響いた。
「……」
カツン、カツン、とゆっくりとだが確実に近付く足音に逃げ場は無いと判断しデュエルディスクを起動して待ち構える。
そして、足音が扉の少し前で止まり扉越しにも関わらずハッキリと俺に対して声が投げかけられた。
『そう警戒なさらないで頂きたい。
私は貴方と話がしたいのです』
僅かにくぐもった声は温和な口調でそう告げた。
『此方に来ていただけないでしょうか?
申し訳ありませんが、その扉は私には少々小さいもので』
「……」
あまりにも胡散臭い。
しかしラボ内はあまり広いとは言えず不意打ちを食らったら逃げようがない。
「分かりました。
しかし、私は貴方を信用していません。
もう少し扉から離れてください」
『いいですよ』
カツンと扉から離れるように足音が数回響く。
『これでいいでしょう。
これなら一息に近付くのは難しい』
信じる気は無いが、しかしこれ以上は埒が明かないと意を決して戸を開き廊下に出る。
そうして相まみえた相手に俺はなんでとその名を口にしていた。
「【
天井に届くほどの長身に白を基調とする法衣を纏い、その顔には仮面が着けられ手には法衣にそぐわぬ付け爪を嵌めた不気味なモンスター。
『やはり私の事をご存知でしたか【迷宮の案内人】殿。
いや、こうお呼びするべきですね。
【迷宮の執事見習い】殿。』
と、仮面の奥から本当の呼び名を口にした。
「っ!?
お前はまさか、俺と同じ!?」
『話が早くて助かります。
ええ。私もまた未来より此方に参ってしまった異邦の精霊です』
その答えに俺は迷わずサイドデッキから幾枚かのリンクとエクシーズを装填し最大限度の警戒心を高める。
『私は悲しいです。
漸く巡り会えた同郷の者に斯様に警戒されるのは』
「貴殿は失脚後行方不明になったと聞いていたが?」
アークリベリオンとハスキーさんが『ゴルゴンダ砂漠』にて大暴れした後、俺は【教導国家ドラグマ】について情報を集めていた。
理由は当時あまりにも強い【烙印】への対策をと情報をかき集めている際にそのストーリーに触れ、そこでドラグマがストーリー中に於いて世界崩壊シナリオの中心地となることを知ったからだ。
しかし蓋を開けてみれば諸悪の根源である【教導の大神祇官】は教義改定の最中に消息を絶っていた。
時代の変革を見届けて役割を終えたと判断し退いたとそんな憶測が立っていたが、ストーリーを知っていた俺は間違いなく何かやらかして雲隠れしたのだと考えていた。
余談だがその後のドラグマは他種族にも門扉を開いたものの、他種族を『邪教徒』と見下していた思想の改善等の負債は払い終えておらず、まだまだ完全な融和には時間が掛かりそうだという。
『ええ。ええ。その通りですよ!
他種族を邪教徒と見做す教義の見直しが必要等と嘯く不道徳者たちにより私は嘗ての地位を追いやられ、砂漠を当てもなく放浪していた際に突然発生した【ホール】に飲み込まれこの地に来てしまったのです』
何処まで本当かは兎も角、俺が知り得た情報とも決定的な齟齬はない。
「それで、私を知っていた理由は?」
『御謙遜なさる必要はありません。
自由都市最強の
「それはそれは…」
十中八九戦場にニビルを叩き落とした件で調査の手が伸びたんだろうな。
「それで、同郷の誼で顔を見に来ただけではないのでしょう?」
『勿論です。
私の望みは帰郷すること唯一つ。
貴方ならばその方法にも目当てが着いているだろうと思い、恥を忍んでご挨拶に参ったのです』
まあ、嘘だな。
気配で解る。
コイツはストーリー通りの吐き気を催す邪悪だ。
「一応聞きますが、施設内に人気がないのは貴方の仕業ですか?」
『ええ。はい。
貴方との会談を邪魔されたくないので人避けの『奇跡』を用いらせてもらいました。
ですので、』
ザクン!
左肩に冷たい感触が走った直後、強烈な『熱』が激痛という形で肩から襲い掛かった。
零れ話ですが、大神祇官が失脚したのは実はアリアスが原因だったりします。
以下、ダイジェスト
アリアス「うんうん。後ちょっとで執事君の魂は闇に墜ちて私達の同胞に成るね」
アリアス「という事で何処からか戦火を持ち込ませようか」
アリアス「よし、ドラグマ。君に決めた」
アリアス「ねえ、エクレシアちゃん。フルルドリスちゃん」
アリアス「君達の教義は少しばかり時代遅れだ。他所の大陸には人と他種族は仲良くなれている場所が沢山在るよ」
アリアス「見聞を広げるために少しお出かけしようか」
エクレシア「これが外の世界…!?」
フルルドリス「なんて、こんな…」
アリアス「(よしよし。これで聖女と騎士団長を惑わせたと此方に戦火を広げてくれるだろう)」
〜暫くして〜
エクレシア「革命はなりました!!」
フルルドリス「我々は新たな教義と共に更なる繁栄の道を行く!!」
ドラグマ民『わぁぁぁあああ!!』
アリアス「あれ?穏当にクーデターが成功しちゃったよ」
アリアス「まあ、こっちはこれでもう少し平和になるだろうし、態々人間に化けなくてもドラグマで買い物できるから姫様への贈り物探しも楽に成るから良いかな」
因みにアルベル君は全部が致命的になってから気付いたせいで「どうしよこれ?」と引きつった笑いを浮かべてます。
次回は鉄火場スタートです。