迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
人間という生き物は
「【
右手を埋めたら死ぬと落ちていく左腕に噛みつきそのまま仕込んだ【緊急テレポート】を右手で握り潰しながら無理矢理発動してその場から逃げ出そうとした。
だが…
「がはっ!?」
座標も定めずに無理に行った跳躍は退避にこそ成功するも大きく距離を離す程度にしか叶わなかった。
「ぐっぐぐ…」
しかも転倒の衝撃でシャットダウンしていた痛覚が喚き思考がぐちゃぐちゃに掻き回される。
『ああ!?
なんとお可哀想に!
いけません!これはいけません!
「あの男が私達との交渉に応じるわけないでしょう。
現に、貴方に対して微塵の油断もしていなかったじゃない」
誰…だ?
急に湧き上がる寒気に出血が危険域に近付いていることを察しながら俺は痛みを無視して大神祇官と語らう相手に視界を向ける。
そこに立っていたのは紫色の長髪を背に流す機械人形であった。
その手には血の滴る大鎌が携えられており、その刃に斬られたのは明白だった。
俺は、そのモンスターを知っている。
「【オルフェゴール・ガラテア】…?」
しかし俺が知るガラテアとは些か以上に違いがある。
髪はくすみ顔には幾条もの罅が走る姿は経年劣化を伺わせる
そして何よりもの違いはその表情は邪悪に歪んでいる事だ。
刹那、俺は以前迷い込んだアウラム達の姿を過ぎらせ、その幾つかのピースはとある可能性を俺に至らせた。
「お前…は、まさか、【リース】…か!?」
アウラム達を星遺物を巡る旅へと導き、その目的は星遺物が宿す星の力を我が物としようと企んだ【星遺物】ストーリーそのものの諸悪の根源。
それリースがイヴの身体を乗っ取ったのと同様にガラテアを器にこの場に現れたのだと推察した。
「あら?それだけの重症を負わせたのに随分冷静ね?
それに痛みで思考を殆ど鈍らせずその答えにあっさりと辿り着くなんて…。
もしかして前にも似たような怪我をしたことがあるのかしら?」
俺の怒号にガラテア…否、リースは醜悪な笑いを浮かべながら俺に憎しみの篭った眼差しを向ける。
「久しぶりねぇ?
貴方のお陰で私の悲願は完全に喪われたわ!!
その御礼を届けに来たの。嬉しいでしょう?」
鎌を振って血糊を払い俺を嘲笑うリースに、俺は必死に立ち上がりながら怒りではなく
「…はっ!『妹を救う以外何でも出来る』…なんて別称は…返上…出来たんだな…ニンギルス!」
悲嘆と狂気に呑まれ、それでもなお妹を救おうと足掻き続ける運命を背負わされた友がその運命から脱却出来たのだと知れたのだ。
腕の一本なんて、安すぎる対価だよ。
「っ!このっ!?」
俺の言葉に怒りを吹き出したリースが俺を斬り殺そうと鎌を翻した。
【緊急テレポート】は握り潰したせいでもう使えない。
せめて急所は外そうと残る右腕も捨てる覚悟で前に翳した刹那、
ガキンッ!!
青い光が俺とリースの間の空間を駆け抜け【リンクサーキット】が開くと中から二体のモンスターが飛び出しその片方が手にした剣でリースの鎌を受け止めた。
「お前は!?」
「これ以上お前の好きにさせるかリース!!」
蒼の光を宿す剣士がその手に握る大剣でリースを押し留めながら赫怒を瞳に宿し叫ぶ。
「マスターちゃん!
すぐに助けるからもう少しだけ頑張って!!
「あすとらむ…ますかれーな…」
血が足りなくなってきたらしく呂律さえ怪しくなり始めた俺に必死に応急処置を進めるマスカレーナを横にリースとアストラムは激しく打ち合う。
「この力は…そう。アウラム貴方、私が欲してやまなかった星の力を手に入れたのね!!」
「違う!!
俺は託されたんだ!!
お前の野望によって奪われた全てを終わらせるために!!」
アストラムの力の根源が己が求めていたものだと気付き狂気と嫉妬に顔を歪めるリースにアストラムは吠える。
「そのまま抑えててアストラムちゃん!!」
動かせるようになった案内人をバイクに固定しながらマスカレーナがそう頼むが、させまいと大神祇官が襲いかかる。
『彼を連れて行かれるのは困るのですよ!』
「まずっ! …な〜んてね!」
一瞬焦りを見せたマスカレーナだが、ニヤリと笑った直後真横からの衝撃で大神祇官は壁に叩きつけられる。
『カハっ!?』
「専門外とはいえ、偶には矢面にも立たないとね!」
強襲したのは空間の歪みから飛び出した右目にモノクルを装着し機械仕掛けの手袋を装備した【クロノダイバー・リダン】。
「リダンちゃん!見付かった?」
「勿論だよ!
マスターを救うには五分以内に博物館に居る武藤遊戯から【ホーリー・エルフ】を借りるんだ!!」
リダンは顕現と同時に未来へと跳び、マスターが命を拾う世界線を探していたのだ。
「任せて!!
運び屋で鳴らした腕は伊達じゃないのよ!!」
必要な情報を手にマスカレーナはエンジンを全開で吹かしスタートから全速力で急加速しながらこの場を離脱する。
「キツイだろうけど絶対に意識を閉ざしちゃ駄目だからねマスターちゃん!!」
「ぅ……ぁ……」
時に壁さえもを走路として重力さえもを無視した3次元機動を魅せながらマスカレーナは案内人を連れてラボから脱出した。
完全に逃げられたと理解した大神祇官とリースが大きく退き、アストラムとリダンは仕切り直しながら注意深く観察する。
『ああ!とても悲しいですよ!
私はただ彼の神器をお借りしドラグマへと帰りたかっただけなのに。
悲しいすれ違いのせいで苦難の道はまだ続くというのですか!』
マスターが死にかけていようと微塵も構わなかった事を知る二人はどの口がと異口同音に怒りを抱く。
「よく回る口だね。
縫い合わせたいと思ったのは初めてだよ」
「縫うより切り落とすほうが早いだろう」
二人から放たれる血も凍るような殺意を受けてなお大神祇官は『致し方ありませんね』と嘯く。
『今回は残念ですが帰らせて頂きます』
「帰れると思っているのか?」
「いいのかしら?
大神祇官の結界はとうに解かれているのよ?
私達を殺すまでにどれだけ巻き添えが作れるか試してみる?」
リースの言う通り、先程までなかった人の気配が施設内に何人も確認出来た。
「くっ…」
過去の因縁も含めてここで仕留めてしまいたいが、覚悟を抱いた戦士の必要な犠牲ではない無関係な人間を死の危険に巻き込む危険を負えるほどアストラムもリダンも人の心を捨ててはいない。
『では失礼致します。
次に逢うのは…そうですね、私たちの協力者である『オレイカルコス』を主と仰ぐ【ドーマ】の一員としてでしょう。
その際には今回のような無礼はせず、キチンとデュエルを通してわかり合えるよう努めさせて頂きます』
そう言い残し、大神祇官とリースはその場から消え去った。
「奴等、やはり『オレイカルコス』と繋がりがあったのか」
予感はあった。
魔術のエキスパートである【ブラック・マジシャン】が二人にその弟子の【ブラック・マジシャン・ガール】に加えて、時間魔術の専門家である【時の魔導士】の四人が揃ってなおマスターを帰還させるには年単位で魔力を集める必要がある。
そんな膨大な魔力をどう確保するつもりなのか、その対象の一つに『オレイカルコス』は挙がっていたのだ。
他の候補であった【ユベル】や【地縛神】などではなかっただけまだマシだが、しかし決して楽な相手ではない。
そもそもの話からして奴等が本当に『オレイカルコス』に与しているという保証もない。
漁夫の利を狙うためにドーマへとヘイトを向けさせているという可能性だってあるのだ。
「行こうアストラム。
この時代の人間に僕達を見られるのはあまりよくない」
「…ああ」
リースが立っていた場所をきつく睨み付けていたアストラムはリダンに促され最後に一言残し顕現化を解除した。
「叶わなかった『夢』を見せてくれたマスターを害した貴様らは必ず殺してやる」
リースinガラテアの大雑把な経緯
執事に助けられた一同、再び星遺物を巡る旅を再開→イヴがジャック・ナイツに誘拐される直前にニンギルスが執事から貰ったディンギルスとガラテアをイヴの服の中に隠す→ストーリー通りイヴが囚われた施設にリースを送り出す→本性を現したリースがイヴに寄生しようとした刹那ディンギルスとガラテア顕現化→ガラテア内にリース封印→真相を知りジャック・ナイツと和解→ニンギルス&ディンギルスで聖杯解体の目処を立てる→アウラムとイヴHAPPY END→数万年経過→経年劣化でリースの封印が緩みリースが主導権を乗っ取る→全部手遅れと理解し発狂→執事の仕業と理解し復讐のために次元の海へ→長い航海を経て本編へ
大体こんな感じです。
それと今回のメンツは執事が死にかけてマジモード入った姫様の本気指示による選出でした。
研究所内でもほぼ万全に戦える戦力→アストラム
執事を連れて逃げられる足を持っている→マスカレーナ
執事が必ず助かるルートを見付けられる→リダン
加えて外にいつでも顕現できる状態でアークリベリオンとスターヴヴェノムを配置しアストラム達を振り切り追ってきたら二体に叩き潰させるつもりでした。
罠とか優雅とかかなぐり捨てたガチ殺しモードですので、現代遊戯王張りに殺意に溢れてます。