迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「つまり貴様達は未来のために俺達に歴史の傀儡になれと、そう言いたいのだな?」
「それは…」
苛立ちを一切隠す様子もなくそう吐き捨てる海馬瀬人に、俺は弁明を図ろうとしてそれを取り下げる。
「…いえ。私達がどう考えようと、貴方達からしてみればそうとしか思えませんね」
敬意を抱き誠意を示そうと、行動は否定しようが無いと認めると海馬はフンと鼻を鳴らす。
「口先で己の正当性を語るなら聞く耳を保つ必要は無かったが、まあいいだろう。
先に聞いておく。
この馬鹿騒ぎに『パラディウス社』は関係しているのか?」
そう僅かに剣呑さを和らげてから空いているソファーに座る。
……え? 誰この人?
本当に海馬瀬人?
「どうした? さっさと質問に答えろ」
「え、ええ。そうです。
今回の問題に於いて我々が倒すべき存在は『パラディウス社』社長の『ダーツ』とダーツが信奉する『オレイカルコスの神』を自称する【蛇神ゲー】という精霊界の存在です」
海馬に促され思わずラスボスについて漏らしてしまう。
「フン! 気味の悪い男だと思っていたが、よもやカルトにのめり込んだ狂人だったとはな」
そう吐き捨てる海馬にあまりのらしくなさに城之内君が問い掛ける。
「一体どうしたんだよ海馬?
お前こういうの嫌っていたじゃねえか?」
オカルト嫌いの海馬がこの状況を飲み込む違和感にそう問われ海馬は鼻を鳴らす。
「確かに今の状況は気に入らん。
だが、気に入らんからと海馬コーポレーションを取り戻すための最適解と解っている道を踏み外すほうが余程愚かというものだ!」
あ、そうか。
海馬はダーツに社長の座を引きずり降ろされた挙句海馬コーポレーションのイメージダウンをこれでもかと食らわされていたのだ。
その報復が逸早く成せるならと不快感を飲み込むだけのハングリー精神でこの場に参じたのだろう。
「それにだ。
結果的にだろうがコイツには海馬コーポレーションの財産を守った事実がある。
借りはさっさと返しておきたいだけだ」
そう言って鼻を鳴らす海馬が海馬コーポレーションのラボでの戦いの事を言っているのに気付く。
「ああ、奴等についても伝えて置かなければなりませんね」
「奴等って?」
「自称『オレイカルコスの神』の協力者よ」
と、反省を促す為に『私は執事の魔力を無駄遣いしました』と書いたプラカードを首から下げさせられた姫様(ジャージ姿)が口を挟む。
「姫様。シリアスにならないから先に着替えて来てください」
「黙りなさい執事」
ゾッ、とする殺意が姫様から僅かに漏れ、笑える姿が気にならなくなる程の怖気を抱かせる。
「リースと
これは確定事項よ」
「だ、誰なんですか?」
海馬でさえ恐怖に抑えきれない震えが起きる中、怯えながら獏良君がそう問いを口にする。
「私の可愛い下僕である執事の腕を切り落とした一味よ。
貴方達からすれば、私達同様の敵サイドのイレギュラーと言っていいわね」
そう簡潔に説明すると、姫様は俺の肩に指を這わす。
「良い?執事。
私は貴方のカードの精霊で貴方の姫じゃないけれど、貴方の姫と想いは共有しているわ。
だからこそ貴方を傷付け殺そうとした奴等は何があろうと絶対に赦さない。
恐怖で魂を微塵に砕き、大地を灰にする暴力を以て肉片一つ残さず燼滅し尽くしてやるわ。
その為に貴方の下僕達はみんな我慢しているのを忘れないように」
そう言い残し、怜悧な眼差しのまま部屋を出ていく。
「…ぶはぁ〜!?
なんだ今の!?」
恐怖に縛られ呼吸さえ出来なかったらしい本田君が荒く息を繰り返しながらそう尋ねた。
「うん。すごい怖かった。
神のカードの怖さとは違う、もっとこう、身近な怖さって感じだった」
姫様の殺気に当てられ震えを我慢しながらそう漏らす言葉に俺は告げる。
「すみません。
私に付いてきてくれている精霊達は少し過保護が過ぎまして」
「過保護っていうか…」
何か言いたげな様子で言葉を飲み込んだ城之内君を尻目に遊戯君が尋ねる。
「それで、貴方を襲撃したリースとマクシムスというのは誰なんですか」
「どちらも精霊界の存在です。
大神祇官は仮面を被る法衣姿の長身の怪人。
リースは後で説明しますが若い女性の姿の機械人形です。
大神祇官は私と同じ次元の者で、リースは私が彼女の悲願を阻んだことで恨みを買った相手です。
はっきり言いますが、どちらも救おうなんて微塵も思わない外道ですよ」
そう前置き、俺はまず大神祇官について語る。
「マクシムスの正式名称は【
「それだけ聞くと少し可哀想かも」
そう優しさを口にする遊戯君に、そんな慈悲は必要ないと真実を告げる。
「奴はドラグマの全国民を贄として犠牲にする計画を百年以上掛けて積み重ねてきた悪党です。
加えて現時点で『聖女』と祀り上げた665人もの強い力を持った女性の魂を簒奪しその手中に確保しているはずです」
アルバスはまだ来ていないそうだが、エクレシアとフルルドリスは居るからシナリオ開始直前位の状態だった筈。
「酷い…」
「なんて野郎だ!」
義憤に燃える声を横に俺は続ける。
「奴は元の世界に帰りたいと言っていましたが、帰したところで悲劇が幕を開けるだけです。
そんなものは
「当然だな!
そんなクソ野郎はこの世界にだってのさばらせやしないぜ!!」
そう捲し立てる城之内君に若いなぁと思いつつ、俺はもう一人について語る。
「リースは【星遺物】と呼ばれる『星の力』を我が物としようと画策していた邪悪です。
彼女の計画により文明が一度滅ぶほどの犠牲を出しています」
「文明が滅んだって…?」
あまりのスケールに理解が追いついていない彼等にどう説明したかと考えたところでエクストラデッキからアストラムが顕現する。
「アストラム?」
「マスターの話は本当だ。
リースは俺達を利用し、『星の力』を得ようとした」
「貴様は監視カメラに映っていた奴だな?」
「ああ」
海馬の確認に頷くとアストラムの言葉を引き継ぎ俺はかつての行いを口にする。
「リースとは次元の歪みにより私が住む世界に転移してしまったアウラム達…在りし日のアストラム達を保護した際に関わったのです」
「この人の過去?
つまり、それって未来を変えたんですか!?」
これまでの方針とは真逆の行いを成していたという事実に緊張が過る中、それを破するためにアストラムが言う。
「マスターを非難しないでくれ。
マスターは知っていたんだ。
俺達がリースに利用され、その果てにどんな結末を辿ったのか」
「結末…」
悲壮感を伺わせるアストラムに想像を絶する経験をしたのだと察し言葉を控える遊戯君達にアストラムは語る。
「リースの奸計と執念は俺達に絶望を齎した。
そして俺は、リースの奸計を防ごうとしたイヴが、大切だった幼馴染の女の子を目の前で自殺させられたんだ」
「「「「「……っ!?」」」」」
言葉にする事を躊躇う壮絶な経験を聞かされ誰もが絶句してしまう。
「アストラム。もういい。
それ以上はお前が言う必要はない」
その後に待ち受けたさらなる悲劇と絶望まで当事者に語らせるのは酷が過ぎると俺はアストラムを下がらせる。
「最終的に彼等はリースの野望を挫き世界を救った。
だけど、その代償はあまりにも報いが無さ過ぎた。
だからあの時俺は彼等が元の世界に帰る前に彼等の一人に可能性を託したんだ」
「それが上手くいった結果、計画を破綻させられたリースは貴方に復讐をしようとしているんですね?」
「ええ。生きたまま四肢をバラバラにでもするつもりだったんでしょうが、アストラム達が助けに入ってくれたお蔭で腕の一本も失わずに済みました」
「そう、だったんですか…」
過る思い沈黙の中、海馬はどうでもよさそうに尋ねた。
「それで、貴様は奴等に勝てるのだろうな?」
空気を読まない問いは、しかし今の暗い雰囲気に合ってはありがたく思えた。
「周りの被害を顧みない殺し合いに持ち込めれば確実にやれるでしょう。
ですが、デュエルになった場合勝率は3割程度です」
一切を隠さず正直に告げた。
若干海馬がマイルドですが、アメルダ戦を経ているので地味に弱ってるからです。