迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「俺の…せいだ…」
蚊帳の外で見せられていたから解ってしまう。
大神祇官が死者蘇生をスルーした瞬間、遊戯君は勝てていた。
そのままカグヤとクィーンズ・ナイトで攻撃していれば大神祇官のライフは消し飛んでいた。
先に伏せたカードは罠なんかじゃない。
シラユキを封殺するための【墓穴の指名者】だったんだ。
だが、それは外野にいたから解せたこと。
フィールドに立っていた遊戯君に理解出来る状況ではなかった。
そうさせたのは…俺だ。
俺が不要なまでに警告を促し、中途半端に傾向と対策を告げたせいで遊戯君は判断を誤りあまりにも致命的な敗北を刻ませてしまった。
その報いと言うしかない光景が、目の前で開始される。
「なにが…!?」
デュエルの決着に呼応するように結界が輝きを増し、破壊輪の衝撃でライフを失い膝を着いた遊戯君が異様に警戒する中で喜悦を抑えきれない声で大神祇官が嘯いた。
『これぞ『オレイカルコスの結界』の真の恩寵の形!!
力なき者の心の闇を取り除き、その魂を神の供物と捧げる栄誉を賜えるのです!』
大神祇官が語り終えた直後光はさらに強くなり遊戯君へと襲い掛かった。
「遊戯君!!」
その光に飲み込まれる刹那、【千年パズル】が光を放ち遊戯君の「相棒!!」という叫びが耳朶を叩いた。
そして、光と共に結界は消失し呆然と膝をつく遊戯君と大神祇官だけが残されていた。
「相棒…?」
呆然と、そう漏らす言葉に俺は遊戯君が身代わりとなった事を嫌でも理解してしまった。
『ご安心下さい『名もなきファラオ』殿。
召し上げられた魂はこの様に』
と、武藤遊戯が描かれたカードを見せつけた。
「お前ぇえええええ!!」
燃え盛る赫怒に視界が真っ赤に染まり、コイツを確実に殺すためにどれほど犠牲を払っても構うかと禁忌とする精霊ニビルを【召喚】しようとデッキに手を伸ばした俺を、大神祇官は何故か不思議そうに首を傾げた。
『如何なさりましたかな?
「っっ〜!!」
その言葉にガツン!と殴られたような衝撃で俺は声を出せなくなる。
そして、俺はその言葉を即座に否定しなければならなかったのだと思い知る。
「どういう、事なんだ…?」
かすれた声で遊戯君、いや、アテムが俺に問いかける。
「知っていたのか?
俺がドーマに敗れ、相棒を失う事を…」
その顔には、裏切られた者の悲哀が刻まれていた。
「っ…言えるわけが…!」
「どうしてだ!!」
両手で胸ぐらを掴みアテムは憎しみさえ感じられる怒りを目に宿しながら俺を問い質す。
漸く理解した。
大神祇官の目的は遊戯君じゃない。
遊戯君達から
怒りながらも、それでも俺と遊戯君とのデュエルでの姿を信じたいと荒れ狂う感情を俺にぶつけるアテムに、俺は自分の愚かしさを自覚した。
(俺は…
武藤遊戯なら大丈夫。
『名もなきファラオ』なら、アテムなら必ず最後までやり遂げる。
そう信じ、そう祈りを身勝手に押し付けていた。
その期待に押し潰された者を知っていたにも関わらずだ。
どうして忘れていたんだ。
武藤遊戯も、アテムも、超常的な力があろうと、神懸ったデュエリストの才があろうと、彼はまだ
世界の危機なんて拘る必要なんか無い。
そんな責務を負わせる必要なんか無い。
そう、あるべきだったんだ。
なのに俺は、【遊戯王】という作品に目を焼かれ、彼等を自分達とは違う存在なのだと自分勝手に盲信し、自分と同じただの人間であることを忘れ去っていた。
あまりにも身勝手で愚かな自分が情けない。
ズァークを追い詰めたあの次元の身勝手な連中と俺は、何も変わらなかったんだ。
「遊戯君、いや…」
もう沢山だと、俺は歴史を破壊する覚悟で全てを語ろうと口を開き、アテム君の背後で喜悦を浮かべ大鎌を振るうリースの姿を見てしまった。
今からでは間に合わない。
「遊戯君!!」
「マスター!!」
死なせはしまいと彼だけは守り切ると身体を引き寄せ自分を盾にするべくその切っ先へと身を翻した俺は、刃と俺の間へ飛び込み俺を突き飛ばして身代わりとなったダルクの姿を見た。
「ダルク!!」
「ちぃっ!? 精霊風情が邪魔をするな!!」
醜悪に顔を歪め吐き捨てたリースに対し五色の魔力弾が瀑布の様に襲い掛かった。
「よくもダルク君を!!」
「ぜってぇ許さねえ!!」
ライナとヒータが赫怒を声に乗せリースが近付けぬよう牽制する。
「前に出過ぎよヒータ!
ウィン!エリア!弾幕でヒータのフォローを!マスターに絶対に近づけないで!!」
アウス達がリースを遠ざけてくれている間に俺は血まみれで倒れ伏すダルクを抱き上げ叱った。
「無茶をし過ぎだ…」
「マスターに、言われたくない台詞だな…」
胸を大きく切られた姿はもう長くないと嫌でも理解させられる。
「心配するな。
俺達は、カードの精霊だ。
少し時間は、掛かるが、しばらく休めば、また逢える」
痛いだろう。
苦しいだろう。
なのに、ダルクはその素振りをなるべく見せないようにしながら俺にそう語りかける。
そして、惨劇に立ち尽くすアテムへと顔を向ける。
「『名もなきファラオ』。
貴方がマスターを、疑うのは、当然だ。
だけど、これだけは、信じてくれ」
肉体が死に近付くのを理解させるようにダルクの体が魔力となり解けていく。
「信じる…何を?」
「マスターは、武藤遊戯と、『名もなきファラオ』と、その仲間達とが、歩んだ足跡を、愛している。
貴方達が居たから、マスターは、デュエリストに、なったんだ。
だから、俺達は、ドリアード様は…」
最後まで言い終える前にダルクの身体から力が抜け、その重ささえ魔力に解け消えてしまった。
「……ダルク」
解けて消えたダルクの残滓を確かめるように手を握るも俺の手には何の感触も有りはしない。
「……遊戯君。
君には俺を殴る権利が有り、俺はその責務から逃げる気はありません。
ただ、少しだけ待っていて下さい」
「……」
立ち上がる俺にアテムは何も言わず、ただじっと俺のことを見ている。
見極めようと…いや、もう俺は
今は眼の前の奴等にだけ意識を集中する。
「不愉快な顔。
部下を殺されてそんな顔が出来るなんてやっぱり貴方は悪魔なのね」
「俺は人間だ。
まだ、な」
ごうごうと燃え盛るリースへの怒りに蓋をして、疑念をリースに向けて口にする。
「ダルクの索敵にお前は引っ掛からなかった。
答えて貰おう。何処で何をしていた?」
「あら?貴方、私のストーカーだったのかしら?」
「ゴキブリが逃げたら薬を撒いとかないといけないからな。
ああ、ゴキブリじゃなくて妖精気取りの蛾だったか?
尤も、単体でも出張要員にもなれる未界域産の蛾と比べてお前は一人じゃ全く役に立たねえけどな」
「アハハハ!
戦って勝てないからって健気ねぇ」
煽る俺にリースが生身なら血管が浮き出てそうな良い笑顔を浮かべる。
『それはそうとリース殿。
貴方は海馬殿の元へと向かった筈ですが目的は果たせたのですか?』
聞き捨てならない台詞を吐いた大神祇官に、リースは忌々しそうに吐き捨てる。
「失敗したわ。
『オレイカルコスの結界』を引く前に自爆特攻されて逃げられたのよ」
と、何かに気づいたようにリースが愉悦を浮かばせながら俺に顔を向ける。
「折角だから貴方にも紹介しておくわ。
私の可愛いペット達をねぇ」
そう告げた直後、パタパタと羽ばたく音を起てて小さな三羽の小鳥が仲良くリースの肩に乗った。
その小鳥に、青いキョウアジサシによく似たその鳥に俺は襲い来る怖気で顔が強張るのを隠しきれない。
「【ふわんだりぃず】…だと……?」
「可愛らしいと思わない?
ああ、貴方は大っ嫌いなのよねぇ?」
死にかけの鼠を甚振る猫のような絶対的弱者に向ける嘲りの笑みを浮かべるリースに、この女が俺への
リースの性悪さは兎も角【ふわんだりぃず】は本当に不味い。
環境Tierにこそ乗らないが、その展開力と制圧力は純構成でも凶悪であり、そこに【烈風帝ライザー】と【霞の谷の巨神鳥】まで入っていたら【炎王】や【スネーク・アイ】クラスでも展開次第で食い破られかねない。
当然、中途半端な状態の俺のデッキで太刀打ちできるわけもない。
『それは誠に残念です。
ですが、此方は武藤遊戯殿の魂を頂けたので成果としては十分でしょう』
そう嘯く大神祇官に俺は問う。
「お前達は『オレイカルコスの神』の正体を知っているのか?」
『勿論存じてますとも。
私の望みとはかけ離れておりますが世界の救済を願う意思は理解できますよ』
『尤も、我々としては貴方がお持ちの『神器』を頂ければすぐに暇を頂いても構いませんけれど』
「前にも言っていたな。
お前の目的は俺が持つ『神器』とやらだと」
『ええ。ええ。その通りでございます。
精霊の管理者の愛。その結晶を私達にお譲りいただけるのであれば、ダーツ殿に頼み武藤遊戯殿の魂をお返し願うようご提案させて頂きますとも』
上手い言い様をペラ回しを続ける大神祇官の言葉を無視して俺は告げる。
「ダーツに伝えろ。
遊戯君の魂は俺が行くまで丁重に扱えとな」
『…交渉の余地は無いと?』
「死が望みなら今すぐ叶えてやる」
「貴方にそれが出来ると?
『神器』の力の1割も引き出せていない貴方に?」
「知らん。俺は【迷宮の執事見習い】だ。
神の力なんてどうでもいい」
情報を引き出すだの未来を守るだのもう
俺は俺のエゴで遊戯君に苦痛を強いてアテムを泣かせた。
その罪を贖うために、これ以上情けない大人にならない為に俺は俺が取れる全ての選択肢を用いる。
「このっ…!?」
『仕方ありません。
こうも頑なでは此度はお暇を頂きましょう』
「どういうつもり?」
リースの機先を制するようにそう告げた大神祇官にリースが睨みつけるも、大神祇官は効いたふうもなく嘯く。
『彼の手の中で【原始生命態ニビル】が既に召喚態勢に入ってます。
リース殿に対処できますかな?』
「……正気なの貴方!?」
ニビルが召喚されればその余波だけで数キロ圏内が生命が生きることが不可能な地獄に変わる。
もしも地上に着弾しようものなら地殻津波が生じ、童実野町が地図から消え日本のみならず世界規模で夥しい死が積み重なる事は避けられない。
俺が本気だと理解したリースが吐き捨てる。
「無様ね。勝てないから自分諸共全部道連れにしようだなんて」
罵倒するリースだがニビルの顕現を前には引くしかないと言っているのと変わらない。
『私共は【ドーマ】の本拠地にてお待ちしております。
お気持ちが変わりましたら、いつでも私は受け入れますよ』
そう言い残し大神祇官とリースは去って行った。
奴等が去り、俺はニビルをデッキに戻してから徐ろに口を開く。
「レインさん。居るんでしょう?
ZONEから言付けはありますか?」
「ZONEから警告。
【三幻魔】も【地縛神】も解放すれば歴史が崩壊すると」
「そうですか」
奴等に対抗できる強力なカードとして封印を解く気でいたが、やはり未来に致命的な瑕疵となってしまうらしい。
「ZONEから指令。
未来に復活するカードの解放は認められない代わりに、解放されること無く未だ眠り続けたカードを使用しなさいと」
「解放されなかったカード?」
そんなテーマがあったのか?
「【赤き竜】の対、地の底にて眠る冥府の王。
彼の助力を得た貴方は彼等を下した」
「冥府の王ですか。
その方はどちらに?」
「メキシコ。
彼等が導いてくれる」
そう言って差し出されたカードは【エンジェル・魔女】【闇魔界の戦士ダークソード】【キーメイス】等、バトルシティでさえ見ることはなかった古いカード達だった。
「承知しました。
準備が整い次第向かわせてもらいます」
受け取ったカードをしまいその全てを見届けた遊戯君と相対する。
「お待たせしました」
彼に嫌われたとしても仕方のない事をしてしまった。
どんな裁きでも受け入れる、そう胸に秘めて彼の言葉を待った。
という事でアテムからの信用が失墜し、更にリースが個人的に一番苦手なデッキを持ち出してきました。
本当にさ、【ふわんだりぃず】は勘弁して欲しい。
そんな愚痴はさておき、次回は執事の強化フェイズです。
何のテーマを握るかはもう明らかだよね。