迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
パチパチと熱で膨張した水蒸気により小枝が爆ぜる音を立てながら焚火が文明の光の届かない暗闇の中に光を齎す。
此処はメキシコの人の手の届かぬジャングルの深い奥。
カードの精霊に誘われるまま俺は当てもなく森を彷徨い既に2日ほどが経過した。
「アテム君達は今頃ティマイオスと邂逅を終えた頃だろうか?」
思い返すのは別れる前の会話。
〜〜〜〜
「俺は、アンタが分からない」
そうアテム君は俺に言った。
「アンタが俺を
「俺は、君を…」
そうだろう。
思い返してみれば俺は馬鹿らしくなるほどに
だから俺は、俺がアテム君をどう見ていたか正直に答えた。
「俺は君をヒーローだと思っていた」
「……」
「闇の仕置人。
悪を成す者に【闇のゲーム】の裁きを下すダークヒーロー。
俺は君をそう見ていた」
「俺はそんなこと」
「
アテム君の否定する声に被せるように俺は口にする。
「君が【闇のゲーム】を用いて罰した相手は
君はいつだって
アテムは武藤遊戯の味方であって、正義の味方なんかじゃない。
最初の頃など中にはどっちが悪党なのか分からないような惨たらしい内容さえあった。
それなのに俺達はアテム君は正義の味方なのだと勝手に持ち上げ、正義のために戦う英雄なのだと理想像を作りそれに当てはめて彼はヒーローだと思い込んだ。
「君はヒーローなんかじゃない。
降り掛かる理不尽に真っ直ぐ抗っていただけの子供だったんだ」
彼等は特別なんかじゃない。
住んでいる街の治安が狂っていただけの、ゲームでワイワイ燥ぎエロ本を回し読みして馬鹿話に興じるどこにでも居る学生達だった。
「そんな事も忘れて俺は、君に自分の中にある英雄像を押し付けそうあるべきだと思い込んでいたんだ」
だから、ごめんなさい。
君達への憧れを押し付けてごめんなさい。
自分の愚かさを悔い、真っ直ぐ頭を下げる。
「……」
アテム君は何も言わない。
ただ、俺を見ていることだけは解る。
「これから、どうするつもりなんだ?」
「遊戯君を取り戻す。
どんな結末になろうとだ」
「未来に帰るのを諦めるのか?」
「諦めたくはない。
だけど、友人を裏切り見捨てるのはそれ以前の話だ」
例えこのまま帰れたとしても姫様は本気で怒り俺を叱るだろう。
そして城から叩き出して助けてくるまで帰ってくるなと命じ門を閉めてしまうだろう。
姫様はそういうお方だ。
だから俺は彼女に惚れたんだ。
「信じてくれとは言わない。
だから、これは人質として君に預かって欲しい」
そう言い、俺は顔を上げて【白銀の城のラビュリンス】と【憑依装着-ダルク】の二枚を差し出す。
「……本気なんだな?」
「そんな覚悟で渡せるカードじゃない」
レアリティ云々など関係ない、心を預けるお方の形代と信を預ける相棒の依代を差し出す俺の決意表明にアテム君も俺の決意を生半可な覚悟ではないと理解したのかその口元が僅かに緩んだ。
「分かった。
だが、俺は相棒と違ってアンタを完全には信じていない。
だからアンタの提案に乗ってコイツは預からせてもらうぜ」
そう言ってアテム君はダルクだけを差し出した手から引き抜いた。
「アンタの姫様はじゃじゃ馬が過ぎるからな。
こいつだけを預からせてもらうぜ」
「……君がそう言うのであれば」
本当に俺はばかだ。
こんなに優しい少年を傷つけて大丈夫だなんてどうかしていた。
「それと、一つ訂正してもらうぜ。
相棒を助け出すのはアンタじゃない。
アンタも含めた【俺達】だ。
いいな?」
「…ありがとうございます」
信じられないと口にしながら、それでも仲間の中に
記憶なんて無くても彼は立派に王様だとその懐の深さに俺はただ頭を下げさせてもらった。
〜〜〜〜
その後、双六殿に経緯を話しアーサー・ホプキンス氏との橋渡しを願ってから俺は彼らと別れサイバードラゴン・インフィニティを駆り単身メキシコの未踏の森へと足を踏み入れた。
「姫様。マシュマロが焼けましたよ」
「でかしたわアリアス!
さぁ執事!口を開けなさい!
アーンよ!アーン!」
人がシリアスやってんだから空気読んでくださいよ…。
「何をやってるんですか?」
「え? キャンプではこうやって薪の前でマシュマロ焼くんでしょ?」
確かにレジャーならそうかも知れないけどさぁ。
「それよりアーン!」
「…あーん」
精霊でもフリーダムは変わらないなぁと呆れつつ差し出されたマシュマロを口に放り込む。
「君の考えは何となく察せるけどね、碌な準備もしないで自然に踏み込む君の迂闊さはちょっと笑えないよ?」
「ぐっ!?」
アリアスの指摘に俺は喉から息が出なくなる。
うん。正にその通りでした。
格好つけてメキシコまでかっ飛んできた俺は密入国かつ文無し故に食料も水も用意出来ないままジャングルに入って一両日中迷いまくった挙句、飢えと渇きで弱った所を野生のジャガーのご飯になりかけたのは完全に自然を舐めた俺が悪い。
そんな世界の危機と関係ない所でくたばりかけたもんだから、姫様がジャージ姿で顕現し「ここ私のキャンプ地とするわ!!」と領地宣言してあれよあれよという間に人の手の届かぬ密林の奥地が快適なキャンピングエリアへと変貌したのであった。
「ねぇ執事。
あの人形の小娘が言っていた未来で従えていたカードって何なのかしら?」
「それがさっぱり思い当たらずに居るんですよ」
焚火を眺めるのに飽きたのか姫様がそう質問されたので俺は貰ったカードをためつすがめつ眺めてみるが、やはり何らかの繋がりは全く見えない。
「種族も属性も背景もレベルもバラバラ。
強いて挙げれば登場が古いという以外の共通点は何もないですよね?」
「ああ。
後は…」
もう使う奴はいない、とは流石に口には出来ない。
「しかもメキシコと何の繋がりが有るってんだか…」
ZONEから【赤き竜】の対という説明を受けたが、ここまで来ると思い当たるのはそのモチーフとなったマヤ・アステカ神話ぐらいになってしまう。
「赤き竜は主神『ケツアルコアトル』とした場合、その次は対立神の『テスカトリポカ』のはずなんだが…」
若かりし頃に神話オタに走った事があるので多少その辺りにも覚えはある。
だが、地下の冥府の王となるとその権能の持ち主は『ミクトランテクトリ』となり、逸話から対立こそすれケツアルコアトルの対とまでは言わない。
まあ、神話はあくまでモチーフだから赤き竜の対がミクトランテクトリを下地とするカードなんだと言われたら納得するしかない。
「そろそろ寝ましょう。
流石にこれ以上時間を掛けるのはまずい。
場合によっては…」
「え? ミクトランにすぐ行きたかったの?」
姫様達の顕現を解きテントに入るため火を消そうとしたところで、いつの間にか顕現していた【
「どういう意味だクルヌギアス?」
唐突過ぎる言葉に驚く俺にクルヌギアスは吃りながら答える。
「え、えと、ミクトランの入り口は、ネルガルの足元に広がってるから、ネルガルが逝きたいなら、すぐ逝けるよ?」
「足元?」
じゃあなに? 俺は入り口の前で2日もうろちょろしてたってのか?
というかクルヌギアスはなんで俺をマスターとかではなくネルガル呼びするのだろうか?*1
「それは先に教えて欲しかった…」
「ごごごごめん!だだけど、ネルガルのやってたのは無意味じゃないから!
ネルガルがミクトランにまっすぐ行ってから帰ってこれなくなってたから、その準備が必要だから」
「どういう…ああ、『冥界下り』か」
ミクトランは死者の国であり、多くの神話でも生きたまま死者の国に赴くのは神であっても強い制約を課され、生きて帰ろうとすれば多くの対価を支払わねばならなくなる。
俺は
「ネルガルが森で過ごしたからこの土地に認めてもらったから、後はネルガルの魂の所有権を誰かに預ければ取られないで帰れるよ」
「魂の所有権?」
「ネルガルの所有権はまだ誰にも無いから、このままミクトランに行ったらネルガルが取られ…取られるなんてユルサナイ…」
なんか勝手に暴走しだしたんだけどコイツ!?
「落ち着けクルヌギアス!」
どうしたら良いかわからないからとりあえず肩を掴んで呼びかけると、クルヌギアスは顔を蕩けさせて「ネルガル〜」と甘えだした。
いやもう、ホントにこの子はよくわからんのだが?
そもそもネルガルってメソポタミア神話の太陽の暗黒面だよね?
何故にそう呼んでるのか本当にわからんのだが?
「ととととにかく、ネルガルの魂を他の冥神に預ければネルガルは安全にミクトランから帰れるよ」
「うん。とりあえずは理解した」
にしても冥神なんて当てもない…って、
「一応、確認するんだが、クルヌギアスはそれを出来るのか?」
「出来る出来ますやらせて下さい!!」
凄い勢いで食い付かれた。
「で、でも私はカードの精霊だから永久には無理なんだよね」
「いや、ミクトランから戻るまでだから大丈夫」
クルヌギアスはいざという時頼りになるカードだが、姫様を差し置いて魂を渡せるかとなればじっくり話し合う必要がある。
「う、うん。そうだよね。わかってる。
今はまだ我慢だよねバレないようにあの女を殺してあの女の魂を私が確保してるって形にしないとネルガルに嫌われちゃうもんね」
よく聞こえないが、きっと不甲斐なさを恥じているのだろう。
「じゃあ、クルヌギアス。頼む」
「うん!任せて!」
そう笑顔?を浮かべた直後、口の中に激痛が走った!
「アガッ!!??」
脳髄を掻き毟る激痛に耐えきれずのたうち回る俺を尻目に、クルヌギアスは血塗れの何かを指に摘んで恍惚で恍惚で顔を朱に染めていた。
「えへ、エヘヘへ…
ネルガルの歯だぁ…真っ白で綺麗…」
「く、くるぬぎあす…?」
いきなり何をと名を口にするとハッとした様子でクルヌギアスが焦りながら謝罪の理由を語り始めた。
「ごめんなさいネルガル!
ネルガルの魂の代わりの形代が必要だからごめんなさいミクトランが骨か心臓のどちらかが必要だからごめんなさい代わりになくしても何とかなる奥歯を貰ってごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
恐怖で顔を歪めて滅茶苦茶にごめんなさいと繰り返すホラー全開の様子に痛みさえ吹っ飛びドン引きしてしまう。
「わ、わかったからおちついてくれ。
おこってないから。な?」
とは言え麻酔無しでは歯を抜かれた痛みはそう簡単に無視できないのでバトルシティで手に入れた【ご隠居の猛毒薬】を実体化し回復薬で傷を癒す。
「エヘヘ…ネルガルは私を愛してるよ…」
本当にこの子をデッキに入れていて大丈夫だろうか?
「言いたいことは置いとくとして、これでミクトランに向かっても帰ってこれるんだな?」
「うん。
今、凄く引っかかる言い方したような?
「それで、ミクトランに行くには地面を掘れば良いのか?」
「それじゃあ無理。
ミクトランは地の底にあるけど地続きじゃないから精霊に力を借りないと無理」
その言葉に俺は漸くレインが渡したカードの意味を理解した。
「つまり、こいつらが俺をミクトランに連れて行ってくれると…」
再び取り出したカードに視線を落とした直後、
「は?」
「ネルガル!!」
『1名様ご案内〜!』
やけにテンションが高いそんな言葉を最後に俺の意識は闇に塗り潰された。
ちなみにクヌルギアスの計画は姫様が光の側すぎて陰キャ故に実行叶いません。
次回は伝説のネタシーン描きたいな