迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「っ…ここは?」
切れた意識が繋がり硬い地面の感触に倒れていたことを理解した俺は起き上がりあたりを見回すが、光の届かない暗闇の中で何が何だかわからない状態にあった。
「…だめだ、暗すぎる。
明かりは…」
状況を把握するためとりあえずとデュエルディスクのモニター機能をライト代わりに展開させる。
「……此処がミクトランなのか?」
周りを確認したが、洞窟の中らしい岩に囲まれた場所であった事を理解し、同時にディスクにセットされたカードが数枚しか入っていないことに気づく。
「カードは!?
姫様は何処だ!?」
這いつくばって探してみるがカードは1枚たりとも見つからない。
「サイドデッキも数枚だけ…」
殆どのカードが消えており、胸に穴が空いたような孤独感に襲われる。
「何が残っているんだ?」
味方が居ないという不安から逃れるため残ったカードを確かめるが、それらは全てバトルシティでアンティルールで手に入れたカードばかりであった。
「モンスターカードはレインさんに貰った数枚と遊戯君の【デーモンの召喚】だけか」
対オシリスを見据え魔法や罠などばかりを回収していたせいでモンスターカードは悲惨なことになっている。
その上、それらを合わせても十数枚程度でデッキとしての体裁さえ取れていない。
「…っ! 【ドリアード】は!?」
双六殿から譲って貰った【ドリアード】は残っているかと懐を探ると彼女は残っていてくれた。
「一応全部デッキに入れておこう」
カードの枚数が足りないからデュエルは出来ないが、デッキに何もないと余計不安になるため安定剤としてドリアードを含めた残っているカードをデッキにセットする。
そうして改めて周囲を見るも、モニターの光ではランタンよりも頼りなく足元が見える程度。
だが、無いよりマシと光を頼りに暗闇の中を探索する。
「空気は濁っていないから地上ないし空気が循環している場所に繋がっているはずなんだが…」
念のためハンカチで口を覆い壁に手を当てながら進んでいくが、立って歩ける程度の狭い道は終わりが見えず光景に変化がないため時間感覚がおかしくなり始めてきた。
「まだ5分…」
20分ぐらいかと経ったか?と起動しておいたタイマーを確認してかなり感覚がズレできた事に危機感を抱き、しかし動かなければますますまずくなると俺は道なりに歩き続ける。
暗闇の中、微かな灯りだけ唯一の縁として歩き続け、やがて光景に変化が現れた。
「道が傾いている?」
微かだが足元が緩く傾斜をし始め、気が狂う前に変化が現れたことに安堵しながら緩い下り坂を進み続けると、突然道が広くなり触れていた手の感覚も無くなる。
「……何も見えない。
相当広いなこれは」
モニターの薄明かりを翳すも何かが視界にさえ入らない。
一先ず壁に手を着き足元を照らすようにディスクを下向きにしながら注意深く探索を続ける。
触れている手の感覚から壁は緩やかな曲線を描いております、ホールのような地形かもしれないと思ったところで右側が段差のようになっていることに気付く。
「階段か?」
見通す先は変わらぬ闇。
このまま壁沿いに歩くか段差を下ってみるかの選択肢に俺は降りてみようと足を踏み出す。
「崩れる様子はないな」
靴底で滑りが無いか慎重に確かめつつ足元が崩れても逃げれるようバランスを意識しながら一段一段慎重に降りていく。
そうして段差がなくなり再び地面が広がる場所に辿り着く。
「うん? 何かあるな?」
床にほんの僅かに闇に陰影が付いたのに気付き、石ころかもしれないが一応確認しようとそれを拾い上げてみる。
「ッッッ!!??」
軽石のように硬くて軽いとモニターの光を当て、その正体に気付いた俺は本能的に上がりそうになった悲鳴を強引に噛み砕く。
(骨だ!!??
それも、犬猫より大きな人間大の腕か足の骨だ!!??)
思わず取り落としカラカラと硬い音を立てて転がるその音を横にバクバクと激しく脈打つ心臓を抑えようと左胸に手を押しつけながら恐怖で滅茶苦茶に荒振る思考を無理矢理思考させる。
(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!
此処が本当にミクトランなら人間の骨があるのは当然だ!!
ミクトランは死した人間の骨が集められていてケツアルコアトルは滅んだ人間を蘇らせる為にミクトランから人間の骨をミクトランテクトリの目を掻い潜り盗んでいる!!
その際にケツアルコアトルは骨を落として折ったから蘇った人間は統一性を持たず身体に差異を持つようになったんだ!!
だからあの骨は此処で殺されて放置された死体の物じゃない!!
この場所に俺を殺そうとするものは居ないしクルヌギアスが無事を保証してくれているだろうが!!)
記憶のマヤ・アステカ神話のミクトランの情報を頭の中で垂れ流しにして恐怖に逃げそうな思考を無理矢理平常へと引き戻させようと頭を回し続ける。
「っ!! ハァハァハァ…」
心臓は早鐘を打ち膝はガクガクと震えているが、少なくとも恐慌のまま兎に角ここから逃げようという恐怖は律せるようになった俺は、先程落としてしまった骨をもう一度確かめるため辺りを見回す。
「……うん。大丈夫だ。
この骨には付着物なんかは残っていない」
漫画程度の知識だが放置された死体の骨は腐肉の痕跡なんかが付着して汚くなるらしいが、この骨は洗浄されたように綺麗な状態で傷らしい傷も俺が落とした際に着いたものぐらいしか無い。
「と言うことは、此処はミクトランに入ってきた死者の遺骨が保管されている場所なのか?」
だとしたら長居するのも良くないだろう。
丁重に持っていた骨を床に置き、引き返そうと俺は顔を上げたところで気付く。
「あそこにも骨が…それに続いている?」
僅かな陰影だが、まるで道標のように骨らしき影が等間隔で並べられているのが分かった。
「偶然…?」
罠の可能性もある。
しかし、今の俺にはこのまま引き返して再び薄明かりだけを頼りに当てもなく彷徨う以外の他の選択肢は無い。
「……行こう」
何方が怖いかと考え、何の頼りもないより変化を俺は選び骨を道標としては進む。
そうして幾つかの骨を見付けて進んだ先に、俺は台座のようにぽつんと置かれた石の台とそこに散らばるカードを見付けた。
「姫様!!」
思わず飛びつきその内の1枚を捲ってみるが、そのカードは俺のものではなかった。
「【ボアソルジャー】とか懐かしいな」
【ボアソルジャー】
効果モンスター
星4/地属性/獣戦士族/攻2000/守 500
召喚された場合、このカードを破壊する。
相手が1体でもモンスターをコントロールしていた場合、
攻撃力は1000ポイントダウンする。
よっぽど上手く構築せねばゴミとしか言えないカードにそうごちり他のカードも見てみるが、どれも扱いに困るカードばかりであった。
「【チェンジ・スライム】に【謎の手】に【コピックス】……。
うん。ちょっとこれは…」
低ランクエクシーズか【リング・スパイダー】でもあればまだ使う選択肢があるかもしれないが、少なくとも単体毎の運用は検討にさえ上らないだろう。
然しだ…。
「遺品かもしれないが、少しだけ借りさせてもらいます」
デュエリストとしての体裁を取らねばこの先どうなるかも分からないので致し方なくこの中のカードを借りることにする。
「召喚可能な融合カードは…【炎の騎士キラー】と【フレイム・ゴースト】に【フュージョニスト】だけか」
他にもあるはあるが、ここにある数十枚の中に融合素材は入っておらず、ドラパニも無くなっているし融合素材代替効果持ちのモンスターも無いためマジで隙間を埋めるぐらいにしか役には立たない。
何をしているんだろうと思わなくもないが、同時に自分の正気を確かめる意味でもデッキを作るのを止められない。
そうして一先ずデッキの体を成した紙束を完成させディスクにセットし、どれぐらい時間が経っただろうかとタイマーを確認すると、起動してから既に三時間ほどが過ぎていた。
「結構掛かったな」
しかしそれも致し方ない。
カードの大半は先ず採用を見送られるようなカードばかりで、完成したのも実に…うん。としか言えないものだ。
例えるなら、スターターデッキを買えなかった子供が同じ値段分の色んな初期のブースターパックを買って寄せ集めたよりはマシと云うぐらいだ。
或いはゲームボーイ版【遊戯王DM1】の本田君や杏子には安定して勝てるが表遊戯辺りから安定せず孔雀舞ぐらいになると八割負けるだろうぐらいの弱さと言えば理解されるか?
「さて、色々落ち着いたし探索を…」
残ったカードは丁寧に纏めこの場を後にするため再び骨の道標を探そうと振り向いた瞬間、突然周囲に炎が灯り闇が遠ざけられ始める。
「何が!?」
そうして今自分が居る場所を視認できるようになり、俺は今どこに立っているのか漸く理解した。
自分が立っていたのはすり鉢状に形成されたホールの中心であり、全体像は自由都市のアリーナ、或いはローマのコロッセオのようなステージになっていたのだ。
そうして周りを見回すと観客席に相当する場所には骸骨を被り物とする何者かがいつの間にか集まっており、雰囲気は地獄の処刑場のようにも見えた。
不気味に沈黙する観客席に俺が緊張を高まらせる中、不意にホール全体に響き渡らせようという大きな声が響き渡った。
「レディース&ジェントルメーン!!
本日のパーティータイムの時間を始めるぜ!!」
その宣言らしい言葉に会場が一斉に沸き立ち凄まじい音の波動が襲い掛かる。
「パーティータイム…?」
「本日のメインデュエル!!
対戦するチャレンジャーは地上からお越しの現役デュエリスト!!
こいつはなんと精霊の加護を得たシャーマンでもあるスペシャルなファイターだ!!」
わぁああああああ!!
俺を指しているらしい言葉に歓声が熱狂を孕んで凄まじい圧を感じる中、ガシャリと硬い音が俺の耳朶に強く響いた。
「対するは!同期の【ロー・ガーディアン】や【ハングリー・バーガー】達に追いていかれて幾星霜!!
新規は諦めて仲間になろうぜ【スカルライダー】!!」
「俺は!!リメイクを!!諦めない!!
カテゴリー化してくれ早く!!
競合しないよう出来れば墓地メタで是非!!」
…あんまりな魂の叫びに涙が零れそうになる。
「って、え? デュエル?」
いきなりな展開にハッとする間にスカルライダーがデュエルディスクを構えて対峙していた。
「さあさあ!いざ開幕だ!」
「え?あ?ああ、もうどうなってんだよ!!??」
訳が分からないが逃げられる雰囲気ではないので俺は致し方なくデュエルディスクを構えて戦闘態勢を取る。
空気に流されている気しかしないが俺は表示された『先攻』の字を確認しデッキトップを五枚引く。
「「デュエル!!」」
次回はデュエル。
すっごいもっさり。