迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
カチャカチャと駆動音を発てデュエルディスクが待機形態へと変形する音を聞きながら俺は異常な程に重い身体に違和感を感じていた。
(なんだこの疲労感は? スキドレ張って殴り合いに持ち込んだ【クシャトリラ】相手に十ターン以上粘り続けた時以上じゃないか)
ほんの僅かな引きの差一つで崩れるような綱渡りではあったが、しかし内容そのものを顧みる限りそこまでの疲労感を受けるような内容では無かった。
「見事だった。
これ程昂るデュエルは久しぶりだった」
スカルライダーは満足そうに俺に言うとデッキからカードを一枚抜いて台座の上に置き来た道を引き返していった。
「さあ次のデュエルはどうなるか?
果たしてチャレンジャーは
MCの聞き捨てならない言葉に俺は反射的に声を上げていた。
「どういうことだ!!??」
「んん?」
俺の詰問に何故か会場は戸惑いというより不可解という感じのどよめきが起きる。
「どうやら君は何も知らずに『試練』に挑んだみたいだね?」
そう言ったのは鳥の羽で派手に飾り付けた冠を被る髑髏の首飾りを提げた濃い肌の男性だった。
「貴方は…?」
「僕かい?
僕は
「『ミクトランテクートリ』…」
死者の国ミクトラン。
その支配者であると彼はそう嘯いた。
「さて、唐突に聞こえるだろうけど僕は公平が好きだ。
だから君が何も知らないままというのは気に入らない。
だから改めて君に尋ねよう。
君は僕が課す『試練』を受けるかい?」
どちらでもよさそうに、しかし受けてくれたら楽しいと言いたげに友好さは感じない笑みを浮かべてそう問い掛ける。
「受けないと言ったら?」
「ならば君が入ってきた穴を引き返して反対に進めば地上だからそのまま帰りなさい。
君が死後の世界に来るのはまだ先だし
ただし、
「……まさか」
対価という言葉に俺はある可能性が過る。
「……貴方が姫様達を奪ったのか?」
お前と口にしそうになる感情を抑えつけなるべく穏やかにそう確認を問う。
「君はシャーマンだろう?
故にミクトランの掟に従い取り上げさせてもらったよ」
「っっ!!??」
ギリィッッ!!と、自分でも驚くほど激しい歯軋りを鳴らしながら、それでも俺は怒りを吐き出さないよう必死に堪える。
「ふむ? 成る程。知らないんだね?
君は生きたまま冥界に下る禁忌を犯している。
その自覚はあるかい?」
「……」
古今東西遍く神話に於いて人は生きたまま死者の国に渡る事は過ちと描かれている。
「ミクトランに降る者は血と肉を脱ぎ骨のみの身体にならねばならない。
そして四年の月日を費やしその骨を宝石へと磨きあげねばならないんだが、君はそれらを経ずに此処に来た。
なればこそその代わりに君の武器を捧げるぐらいしなければ
「………」
「とはいえだ。
シャーマンにとって精霊は武器であると同時に伴侶であり戦友であり我が子にも等しい代えがたいものであるのも承知している。
だからこそ君に僕は『試練』を課す事にした」
そう宣うとミクトランテクートリは俺に告げる。
「君が成すべき『試練』はこの地に流れ着いた精霊達が満足するまで彼等を奮い、相対することを望む者達と猛き戦を執り行う事。
何、ケツアルコアトルなら兎も角、君は久方ぶりの客人だから全てに勝てなんて不可能な無理難題を吹っ掛けるつもりは無いよ。
大体百戦も戦えば彼等も満足するだろう。
それを完遂した暁には君の精霊達を一人として欠けさせず君に返そう」
「百戦…だって?」
たった一戦しただけでこんなに疲弊したデュエルを更に百回…。
「さっきも言ったが嫌なら帰ればいい。
この地は生者には「
姫様を取り戻すための条件がこの紙束で
疲労はきついが、給料しか得られるものがないブラック勤務に比べれば姫様への奉仕と思えばなんてことは無い。
「ああ、カードを入れ替えていいか?
さっきのデュエルで幾ばくか差し替えたいカードがあったんだよ」
「う、うん?
台座に用意したカードなら好きに入れ替えていいけど…?」
当てが外れた様子をみせるミクトランテクートリを横に俺は【モウヤンのカレー】他何枚か必要性が薄いカードを抜いて台座に残したカードと差し替える。
と、スカルライダーが置いていったカードに気付き尋ねる。
【スケープ・ゴースト】
リバース・チューナー・効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0
(1):このカードがリバースした場合に発動できる。
自分フィールドに「黒羊トークン」(アンデット族・闇・星1・攻/守0)を任意の数だけ特殊召喚する。
「これは使っても良いのか?」
「使いたいなら構わないよ」
許可を得たので遠慮なく使わせてもらう。
シンクロモンスターは無いから万全の仕事はさせられないが、戦闘破壊されてもリリース要員を最大四体残せるから戦術は広がる。
「さあ、やろうか!
あまり悠長にしていられない理由もあるんでな」
「良かろう!次の戦を始めよ!」
ミクトランテクートリの言葉に会場が再び活気立ち、俺の前にデュエルディスクを装着した下半身が鹿のケンタウルスが現れる。
……居たっけあんなモンスター?
「さぁ気を取り直し次の対戦者の【ソリテュード】登場だ!」
ごめん。本気で思い出せない。
そんな戸惑いは表に出さないよう気を付けつつ俺はデッキトップを引きデュエルの火蓋を切る。
「「デュエル!!」」
そして、時は現在へと針を進める。
「ドローフェイズ。ドロー。
スタンバイフェイズ。メインフェイズ。
…ふっ、お前にこのデッキの最強コンボを見せてやるぜ!」
「何!?」
「俺は手札から【人造人間7号】を攻撃表示で通常召喚!」
【人造人間7号】
効果モンスター
星2/闇属性/機械族/攻 500/守 400
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。
「更に【月鏡の盾】を【人造人間7号】に装備してバトルフェイズに移行!」
「ちょっ!?それはズルい!!」
「フハハハは! 悔しければ【サイクロン】を持ってこい!
【人造人間7号】でダイレクトアタック!!」
継ぎ接ぎされた人形が頭部から引き出されたエネルギーを放射する。
「くぅっ!?」3700→3200
「カードをセットしターンエンド!
これが!放置は出来ないけど除去するのに使用するリソースが絶対に割に合わない最強コンボだ!(但し現代遊戯王なら展開の合間のついでで容易に処理可能)
さあ!じわじわ追い詰められたくなければ無駄にリソースを吐き出してこい!!」
「くっ…!?
私のターン!ドロー!
魔法カード【魔法除去】発動!」
「おい馬鹿やめろ!?」
「誰が止めるもんですか!
【月鏡の盾】を選択して破壊!」
「リクルートに必要な自傷ダメージがキツい!!」1700→1200
「更にモンスターを生贄に捧げて手札から【サキュバスナイト】を生贄召喚!」
【サキュバス・ナイト】
通常モンスター
星5/闇属性/戦士族/攻1650/守1300
魔法を唱え、相手を血祭りにあげる悪魔の魔法戦士。
「チェーンは無い!」
「バトルフェイズ!
【サキュバスナイト】で【人造人間7号】に攻撃!!」
「いやマジで洒落にならん!!??」1200→50
「ターンエンド!!」
「俺のターン!ドローフェイズ。ドロー。
スタンバイフェイズ。メインフェイズ。
前のターンで仕留められなかった事を後悔しろ!
手札から【女王の影武者】を通常召喚!」
【女王の影武者】
効果モンスター
星1/地属性/戦士族/攻 350/守 300
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。
「またなの!!??」
「フハハハ!!
そして当然今引いてきた【月鏡の盾】を装備してバトルフェイズ!!
さあ行くがいい!!
ゲームボーイ版であんまり役に立たないとかフレーバーテキストを書かれた恨みを此処で晴らしてこい!!」
テンションがおかしくなっている使い手の言葉通り若干荒々しく手にした刃を投げ付ける【女王の影武者】。
「私は関係ないでしょうが!!??」3200→2850
「ターンエンドだ!!
来いよ!今なら【火の粉】一枚で俺は殺せるぞ!!」
「くぅっ!? バーンカードは入ってないのよ!!
私のターン!ドロー!」
なんなんだこいつは?
奴の戦っていた環境からして使う事さえ苦痛に感じるだろう弱いカード達を全力で回し、必死に勝ち星を重ねていくシャーマンの姿にミクトランテクートリは困惑を強めていた。
地上にもう自分達の居場所は無いと流れ着いてきた数多の精霊達。
そんな彼等によりこの寒くて暗い世界に活気が生まれ、自分でも忘れていた寂しさは薄れていった。
だからそんな彼等に少しでも恩返しがしたいと無礼なシャーマンへの嫌がらせも兼ねてぎりぎり逃げ出さないような無茶な『試練』を課してやったというのに、シャーマンは嫌な顔どころか笑いながらデッキのカードを奮い負け星にさえ笑いを絶やさず次へ次へと進んでいく。
そんなシャーマンの姿に精霊達は歓喜し一進一退のデュエルを笑い楽しんでいる。
「……いいなぁ」
ふと過る寂しさにそう声が漏れる。
地上の事なんて興味は無かった。
時折訪れる死者を迎えその骨を丁重に扱うだけの日々。
それに疑問を抱いたことも不満に思ったことも無かった。
骨だけとなった死者に語る口はなく神話には記されている彼の配偶神や配下も彼の傍らには居らず、語る相手のいない日々に寂しさを抱かずにはいられなかった。
その寂しさを慰めてくれた精霊達と本当の意味で楽しみを共有出来ていない事に彼は寂しさを感じていた。
「王様!」
「んん?なんだい?」
「王様もデュエルしようよ」
「僕がかい?」
「うん」
ミクトランテクートリに倣い骨を被る精霊の言葉にしかし彼は唸る。
「だけどカードが無いよ?」
「作ればいいんじゃん。
王様なら自分の精霊を宿したカードを作れるでしょ?」
「作る?
まあ、出来るけど…」
その提案に、しかし彼はそんな事をしてもいいのかと迷う。
「私達も一緒にデッキに入れば王様も一緒に遊べるでしょ?
「でも、あんまり強くし過ぎると世界が使うなって言うじゃん?」
「そんなの気にしてたら面白くないよ!!
どうせだし【ライゼオル】に勝てるぐらい滅茶苦茶なやつにしちゃおう!!
そうすれば禁止カードになったって王様を忘れる奴なんか居なくなるよ!」
無邪気にそう嘯く言葉にミクトランテクートリはふっと口元を綻ばせる。
「………うん。
そうだね。
そうしよう」
「やったぁー!!
皆!! 王様が新しいカードを作るって!!
デッキに入りたい子は早いもの勝ちだよ!!」
「王様がデッキを作るって!!??」
「ちょっと待った!!
王様が使うデッキには戦士族は必須だろう!!」
「ふん!!
戦士なんて汗臭いヤツなんか王様のデッキには要らないわよ!
王様のデッキに相応しいのは魔法使い族よ!」
「いいや!悪魔族こそ重要だ!」
「水族だって入りたい!」
やんややんやと騒がしく我こそはと集まりどんなデッキにしようかと楽しそうに語り合う精霊達に、揉みくちゃにされながらもミクトランテクートリは宣言する。
「ならば皆で行こう。
種族なんて関係ない。
僕達を忘れ去った連中の横っ面を張り倒すための、地の底からの大行進を始めよう!!」
そう手を掲げるとミクトランテクートリの手の中に一組のデッキが生み出される。
「僕達はそう、【メメント】!
忘却の彼方より冥府に集いし帰還者の群れなり!!」
ミクトランテクートリの宣言に精霊達が歓声を上げ、それを見ていた執事はデッキをシャッフルさせながら尋ねる。
「次はミクトランテクートリが相手か?」
「ああ。お願いしよう。
と言っても君に使わせているカード達じゃあどんな手札事故が起きても勝てないぐらい強いカードにしちゃったけど文句は無いよね?」
一方的でも足りない蹂躙の覚悟を問われ、執事はやれやれと肩を竦める。
「そいつはゾッとしない話だがいいのか?
デュエルは初めてなんだろう?
そんな大事な一戦を
「むぅ? 確かに君の言う通りだね。
それに条件は同じであるべきだ。
だからこうしよう」
そう言うや否や、執事のデッキが輝きを放つ。
「今のは…?」
「君のカードを僕のデッキと同じ物に書き換えさせてもらったよ。
ああ、君が最初から持っていたカードは書き換えていないから安心してくれ」
「…そのようだな」
ソート機能を使い【ドリアード】と【デーモンの召喚】を確認してからデッキトップを引くと、そのカードはそれまで使っていたカードとは隔絶したパワーを実感させるカードであった。
【メメント・シーホース】
効果モンスター
星5/地属性/獣族/攻1350/守1600
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに「メメント」モンスター以外の表側表示モンスターが存在しない場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):自分メインフェイズに発動できる。
自分フィールドの「メメント」モンスター1体を破壊し、
レベルの合計が破壊したモンスターの元々のレベル以下になるように、
デッキから「メメント」モンスターを墓地へ送る(同名カードは1枚まで)。
「これで条件は同じになった。
さあ、始めよう」
「ああ。受けて立ってやるよ」
相手が初心者とはいえ効果以前にカードの配分さえ不明なデッキを握らされているのだがら到底公平と思えないが、ホストを愉しませるために絶妙な手加減を要求される接待デュエルに比べれば加減が必要ない分余程気楽なものと割り切る事にした。
そうしてミクトランテクートリがデッキトップからカードを引こうとして、不意にその手が止まる。
「どうした?」
「……全く。これから楽しくなろうという時に邪魔を入れるなんて、許されると思うのか?」
眦を釣り上げ入口を睨みつけるミクトランテクートリの姿に異変を理解した精霊達が入口から素早く離れると暗闇の奥から自己主張するように足音を発てながら大鎌を携えた人形が現れた。
紙束回している時の執事はYouTuber【凡骨突撃隊】の阿呆なノリでやっているので本気で楽しんでます。
なので精霊達も本気で楽しんでいるのが届いて超満足してます。
次回は現代遊戯王に戻ります。