迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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エピローグです。


約束を果たしに行こう

 精霊界への帰還を果たした俺はパンドラ達との会話も後と置き去り即座に迷宮城へと真っ直ぐ向かった。

 

 正直言う。

 ブラック勤務再来の恐怖に俺は混乱していたんだ。

 そのせいで姫様のご機嫌取りをするという方法について手段を選ぶ暇もないと錯乱して真っ先に思い付いた方法を施行するという暴挙に走ってしまった。

 

「姫様は今日もお美しいですね」

「え? ふぇ? ひゃわぁっ!?」

「絹よりも滑らかな御肌は最上級のベルベットでさえ足元にも及ばぬ触れるだけで至宝の悦楽を指に感じさせていただけます。

 艷やかな御髪は指を通せば絹糸の束など麻糸と変わらぬと実感する程に指の合間を擦り抜けて心地よい香りまで堪能させて頂ける至上の宝。

 如何な宝石さえ屑石と成り果てる御身の瞳の美しさは見ているだけで魂を献上したく思います。

 角の造形は自然が生み出す汎ゆる造形美を陳腐化させる…」

 

 不躾にも姫様の頭と言わず髪から角から頰からセクハラと言われて殺されても仕方ない場所を滅茶苦茶に撫でて兎に角思い付く限りの姫様の美点を挙げるという、冷静に思い返せば従者として身の程知らずにも程がある無礼を働いてしまった。

 その結果、

 

「ふにぁぁああああああ……」

 

 そんな真似を仕出かしたせいで姫様が憤慨で顔を真っ赤にされて卒倒してしまった。

 そんな姫様を担架で運んでいくアリアンナ達を横目にヤレヤレと肩を竦めながらアリアスが俺に尋ねた。

 

「一体どうしたんだい?

 急に戻ってくるなり姫様を構い倒して気絶させるなんて君らしくもない。

 もしかして、頭にニビルでも当たったのかな?」

 

 失礼な事を言うアリアスに俺は隠す必要は無いと理由を答えた。

 

「姫様を放ったらかしといたらブラック企業に転職させられるって友人から警告を食らったんだよ」

「ブラック企業に転職?

 よく分からないけど【ラビュリンス】(我々)も勤務形態は中々ブラックだとは思うけど?」

「まさか」

 

 アリアスの小粋なジョークに俺は鼻で嗤ってしまう。

 

「本物のブラックは人格否定とパワーハラスメントで精神崩壊させて自殺の選択肢さえ考えなくさせてからが教育の始まりだよ」

「……中々人間界も闇が深いね」

 

 ドン引きした様子でそう絞り出したアリアスは話を変えようと話題を振った。

 

「それはそれとして、今回も中々大変だったみたいだね?」

「ああ。腕を切り落とされたり麻酔無しで歯を引き抜かれたり魔力が切れた状態で無理矢理【召喚】したツケで内臓がひっくり返りかけたりと何度も死にかけたよ」

「ちょっとそれ詳しく」

 

 ガシリと両腕を掴んで俺を逃さないようにアリアスが拘束した。

 

「アリアスさん?」

「君が意図しない別次元に跳ばされたという大問題は当然だけど、そのせいで命の危機に瀕したというのは全くもって聞き流していい話じゃないんだよ?

 内容如何に依ってはブラック・マジシャン等への制裁もより手厳しくしないといけないんだからね?」

「ちょっ!?

 マハード達は被害者だろうが!?」

「それは考慮する必要はない。

 君は常々感じていた以上に自覚が足りないようだから、今から君が【ラビュリンス】にとって決して軽んじられていい存在では無いという事実をきちんと理解させてあげようじゃないか」

 

 そう、ニタリと(悪魔族なんだが)悪魔じみた笑みを浮かべるアリアス。

 

「え? ええ?」

「安心し給えよ。

 肉体的に痛めつけるなんてナンセンスな行為はしないよ。

 君が【ラビュリンス】(姫様)の為以外に命を賭けることが如何に愚かしいかそれを理解させるだけさ」

「ま、まずは落ち着こうアリアスさん?」

「私は冷静だよ。

 さあ、姫様が起きるまであまり時間もないだろうし詰め込んでいくよ」

「」

 

 これ絶対アカンやつだ。

 そう感じて必死に抵抗するも、抵抗虚しく俺はアリアスに引きずられていくのであった。

 その先で受けた内容は『魅惑のはちみつ授業』なんて甘いものなんかあるはずもなく、敢えて例えるなら『進◯の巨人』か『支配◯悪魔』を彷彿とさせる洗脳教育であり、正気に戻るまでの数日間「姫様はお美しい」以外の発言が出来なくなっていたらしいほど苛烈な代物だった事は記しておく。

 

 そんな無意識に記憶を封じるレベルの黒歴史を刻んで数日後、俺はマハードとマナの二人に連れられエジプトの冥界に足を運んでいた。

 

 曰く、

 

「今回の件で我が身命を捧げしファラオが御身に言葉を賜らせたいと仰せになられた」

 

 とのことらしい。

  

 マハードの忠誠を誓うファラオって十中十で『名もなきファラオ』ことアテムだよな。

 とはいえ自分が関わった彼と同一人物ではないという想定で行くのが無難だろう。

 デュエルディスクからカードを外し、ディスクも腕から外して懐にしまい俺はテレビで見た事あるような石造りの神殿の中をブラック・マジシャン・ガールの先導に従い進んでいく。

 

「確認なのですが、マナさん。

 儀礼の際には膝は右膝と両膝のどちらを着けばいいんですか?」

 

 エジプトのファラオへの儀礼は知らないのでヨーロッパの儀礼に倣おうと考えたのだが、冥界に降ったファラオはオシリスに列する神となるはずだから両膝が適当だとは思うものの、その辺りはやはり当人に確認しておくべきだろうと尋ねると彼女は困った様子で答えた。

 

「王様はそういうのはあまり好きじゃないから普通でいいよ?」

「そうは参りませんよ。

 客分として招かれたからには相応の礼儀を払わねば主への嘲りに繋がります。

 貴女も自分の態度が悪いのは師匠が悪いと言われるのは嫌でしょう?」

「うぅ…確かに私を槍玉に挙げてお師匠サマを悪く言われるのは嫌かも」

 

 理解したようで肩を落としたマナは「右膝のほうで大丈夫なはず」と若干不安になる答えをくれた。

 そうこうしていると廊下が終わり壁際でトランペットやハープなどの楽器を奏でる黒い猫の被り物をした者達が控え、マハードが横に控える王座と両脇に槍を手に黒い犬の被り物を着けた兵士が列する広間へと通された。

 

「ファラオ。お客様をお連れ致しました」

 

 敬々しくそう告げるとマナは俺から離れマハードの横に向かう。

 王座に『彼』が座しているのを僅かに確認して俺は顔を見ないよう努めながら右膝を立てて傅き、アリアスと練習した口上を口にする。

 

「冥界を支配する神【オシリス】より権威を預かる天空の神【ホルス】の化身である【冥界のファラオ】。

 この度は冥界に太陽の光を齎す貴殿の招待にあずかることを深く感謝いたします」

 

 ここで指すオシリスとホルスはDMや精霊界の神ではなく古代エジプトで正しく信仰を受けていた【エジプト神話】の神々だ。

 ミクトランテクートリの例から分かる通りこの世界では神は実在しておりカードとは別個に考えなければ不況を買う羽目になりかねない。

 古代のファラオとは神の化身であり自らを太陽神【ラー】或いは天空神【ホルス】のどちらかを名乗っていたのが通例であり、マハードに生前彼が太陽神【ラー】と天空神【ホルス】のどちらに準えていたか確認しておいた。

 

「王よりお言葉を賜りました。

 『言葉を交えることを赦す。膝を立て面を上げよ』」

 

 堂に入った態度でマナが王の言葉を代弁して伝え俺は着いた膝を上げて立ち上がると改めて顔を上げて【冥界のファラオ】を見る。

 

(当然君ですよね)

 

 熱帯に多い色素の濃い浅黒い肌。

 星型に五方へと伸ばされた神。

 鋭い視線は猛禽類のようにその力強さを思わせる眼。

 【武藤遊戯】と瓜二つの顔立ちでありながら間違いなく別人だと理解させられる堂々とした姿で王座に座す【冥界のファラオ】に俺は心からの笑みを浮かべた。

 

「始めまして『ファラオ・アテム』。

 貴方と相見えたことを改めて光栄に思います」

「いや。()()()()だぜ。『迷宮の案内人』」

 

 俺が改めてそう口にすると、アテムは愉快そうに頬を釣り上げた。 

 

「……まさか?」

「俺達の時間と案内人の時間はちゃんと繋がっていたぜ」

 

 そう嘯くアテムの言葉に俺は漏れそうになる笑い声を必死に抑える。

 

「なんとまあ、それは、嬉しい事ですね」

 

 果たせないと思っていた約束は、そんなことは無かったのだと知れて俺は言葉にできない嬉しさで満ちていく。

 

「再会の喜びを言葉で語り合うのも悪くないが、俺達(デュエリスト)ならこちら(デュエル)で語り合わないか?」

 

 そういうとアテムはデュエルディスクを装着した腕を俺に見せつけた。

 

「ええ。確かに私達なら万の言葉を尽くすより正しく理解し合えますね」

 

 俺もデュエルディスクを装着し、様子見は無しとデッキケースから【ラビュリンス】を装填する。

 

「こうして貴方とデュエル出来るなんて夢のようですよ」

「それはどうしてだ?」

 

 試すように口の端を上げてとうアテムに俺は想いを込めて言葉を乗せる。

 

「私も、いや、『俺』も貴方の格好良さに憧れてカードを握った一人だからだよ」

 

 既に5枚の手札を手にするアテムに対抗するように俺もデッキトップを引き戦闘態勢を整える。

 そして俺達はただ一人のデュエリストとして高らかに宣言した。

 

「「デュエル!!」」




アテムはラー神と習合したアテン神が名前の由来ですが、原作の記憶の旅編でセトと血縁だった所からセト神の甥であることを理由にアテム=ホルスの説を採用しています。

次回はIF天外か日常の予定です。
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