迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
と言っても今回はまだ殺りませんが。
「困ったな。枚数が減らない」
俺は広げたカードを前に唸ってしまう。
「【デモンスミス】は強力だから使いたいが、そうすると50枚超えるんだよな…」
今考えている構築はアリーナ用のデチューンではなく【ティアラメンツクシャトリラ】や【深淵烙印】といった現代遊戯王環境に対抗する本気構築である。
「おそらくは【スプライト】や【斬機】みたいな強い縛りを要求するテーマ以外なら
デッキから好きなカード一枚を何でも落とせる【永遠の淑女ベアトリーチェ】はランク6なのでレベル6が簡単に並ぶ【深淵】以外だと呼び方に工夫がいるカードだが、【デモンスミス】は召喚権を使わずにレベル6を二体並べやすく、そうなると墓地で効果を発揮するカードが多彩な【ティアラメンツ】は勿論墓地活用が多い【ラビュリンス】にも是非採用したい。
エクストラを制限するドラパニは使いづらくなるから外れるが、デモンスミスは関連種族が全て悪魔族なので【ウェルカム・ラビュリンス】の制限も擦り抜けられるし、モンスターがフィールドに並びやすいからクルヌギアやアポロウーサの召喚も容易になり防御策も立てやすく安定性は格段に向上するだろう。
だが、そうなると【魔を刻むデモンスミス】と光属性で【
そして今現在、誘発と汎用罠を抜き対応力を捨てて限界まで削った特化構築型に組んだ【ラビュリンス】に【デモンスミス】を組み合わせた総数は42枚と、環境を相手に【次元障壁】等のメタカードや誘発を抜いてまともなデュエルが出来るわけがないからそれらも追加せねばならず、そうなるとデッキは当然分厚くなってしまう。
「逆張りして60枚構築にしてみるか?」
そちらなら【トランザクション・ロールバック】や【神の宣告】の複数採用も余裕だから【ワナ・ビー】のような相性は良いけど採用は躊躇っていたカードも投入出来るようになる。
しかし、対応力が上がる代わりに誘発不在等の初動事故率は洒落にならなくなるのが容易に見えるのでどうしても躊躇してしまう。
「旦那様。お客様が参られました」
机上で悩み続けるより一旦は組んでみようとファイルに向かったところでハスキーさんがそう声をかけた。
しかし来客の予定は無かったはずだ。
「客人ですか?
どなたですか?」
「【遊城十代】様です。
ご相談があるとの事で客間の方でお待ち頂いております」
「分かりました。
すぐに向かいます」
デュエルの誘いなら分かるが相談となると珍しいなと思いつつ応接間に向かうと、十代ともう一人知っている人物が待っていた。
「久しぶりだな十代。
それとそちらの方は『クロノス・デ・メディチ』教諭ですよね?」
金髪おかっぱの髪型に紫のルージュを引いた厚い唇の顔が濃い男性と、非常に特徴的な様相の人物にそう確認を取る。
「はじめましてなノーネ。シニョール。
この度は時間を頂き感謝するノーネ」
差し出された手を取りながら内心感激しつつ朗らかに挨拶を交わす。
『クロノス・デ・メディチ』。
【遊戯王GX】に登場するアカデミアの教頭であり、初期は遊戯王等の子供を主役にする作品によく居る『子供の敵として立ちはだかる嫌な大人』という立ち位置であったが、話が進むに連れて教師としての誇りと熱意をフューチャーされるようになってからは人気を博した人物である。
勿論自分も大好きだ。
「それで、クロノス教諭を連れてきたのはどうしてなんだ?」
「私がシニョール十代に頼んだノーネ」
そう言うとクロノス教諭は精霊界に赴いた理由を語り始めた。
何でも『融合次元』の『アカデミア』にて相手にアンティの同意無くデュエル後にレアカードを強奪する『賭けデュエル』という不法行為が水面下で発生していたのが最近発覚し、その胴元を追い詰め糺すためにデュエルをしたのだがクロノス他協力者を含め誰一人として彼等に勝てず逆にカードを奪われてしまったそうだ。
「よほど卓越したデュエリストの様ですね…」
下に見られがちだがクロノス教諭の腕前はアニメキャラの中でも上澄みも上澄みであり、シナリオの都合で十代が勝ってるだけとも評されるぐらいデッキパワーも高くタクティクスも本物だ。
「ああ。クロノス先生だけじゃなく俺やユーリもそいつらに負けちまったんだ」
「十代とユーリがか?」
歴代主人公の中で十代は作中何度も敗北を喫してはいたが、しかし大事なものを賭けた戦いで負けるような奴じゃない。
「ごめん執事さん。折角執事さんに貰った【スピリット・オブ・ユベル】を取られちまった」
「それは…」
悔しそうに顔を歪める十代に下手な慰めの言葉も出ず、同時におそらくはスターヴヴェノムかアナコンダを奪われただろうユーリへの心配も募る。
「彼等はシニョール十代のカードからを見て、その最初の持ち主であるシニョールとのデュエルを要求しているノーネ」
「私と、ですか?」
「その要求を受けるなら『アカデミア』で『賭けデュエル』の一切を取りやめると言っているノーネ」
つまり、そいつ等は環境クラスのカードを求め、それを持っているだろう俺に狙いを定めたのか。
「……分かりました。
元より私が協力を要請した問題から起きた事態です。
事態の収束に協力させて下さい」
「助かるノーネ!
私の大事なエースモンスター【古代の機械究極巨人】を取り返して欲しいノーネ!!」
割かし私情が籠もっている気もしなくもないが、そんな俗物さもクロノス先生の魅力の一端と思えばこの世界のカード事情も含め口にする必要はないだろう。
「それで、相手はどんなデッキを使うんだ?」
無いとは思うが『融合次元』だから融合テーマだろうと【ティアラメンツ】や【烙印】が使われたと言うなら、此方も誇りと容赦を捨てて【深淵世壊】を引っ張り出してくる必要まであるだろう。
そう尋ねるとクロノス先生は困惑を見せながら真剣な顔で口を開いた。
「シニョール。
負けられないのは確かですが、相手のデッキを事前に調べるのはマナーが宜しくないノーネ」
「…ああ、そうか」
彼の言葉に認識のズレと彼の真摯さを察して改めて彼に敬意を抱きながらもその言葉に反する。
「申し訳ない。
私は元々この世界の人間界とも精霊界とも違う別次元の出身で、デュエルに対して相手のデッキの情報を知れるのに把握しないで対策しないのは相手を見下し手を抜いていると見做されれていたものでしたから」
「フムム…。
文化の違いなら仕方ないノーネ」
やっぱり彼は善人だ。
ある程度人となりを知っていたとしても、認識の違いを頭から否定せずその上で折り合える点は何処かと考えられる人間はそう多くない。
「分かったノーネ。
カードを取り戻す為にも情報を渡すノーネ。
胴元は最近転校してきた【迫水雷都】【複野獣田】【姫島睦月】の三人の生徒なノーネ」
「三人ですか」
達と言っていたから二人以上は予想していたが3人となると少し困るな。
「デッキの傾向と使用テーマは分かりますか?」
「三人の使ってきたのデッキは迫水が【スプライト】というリンク召喚とエクシーズ召喚を切り札に使ってきたノーネ」
「【スプライト】!?
もしや混ぜていたのは【キスキル】ですか?それとも【ガエル】ですか!?」
「両方出てきたノーネ」
「……キツイな」
【スプライト】は妨害能力が非常に高い。
それを展開力が高くレベル2で固まっている【ガエル】や【キスキル】で補強した通称【ガエルスプライト】【キスキルスプライト】の混合となればユーリや十代が負けたのも頷ける。
「複野は【キマイラ】をエースモンスターに使っていたぜ」
「【キマイラ】か…まさかとは思うが【コーンフィールドコアトル】や【ミラーソードナイト】なんかも使ってなかったか?」
「ああ。すっげー勢いでモンスターが沢山出てきたよ」
「すぅぅぅ……ガチモンの【幻想キマイラ】かよ」
ほぼ【ラビュリンス】と変わらないデッキパワーのテーマじゃないか!?
「……よし。
最後の一人を聞こう」
「姫島は【センチュリオン】というシンクロ召喚を多用していたノーネ」
「おい待てマジかよ」
そいつだけ時代が一つ抜けてるじゃねえか!!??
「そうであって欲しくないんですが、こちらのターンに【赤き竜】を召喚して効果で【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】を喚び出したりなんかは…」
「やってたノーネ」
すごく、現代遊戯王です。ありがとうございました。
「分かりました。
詳しい日程はどうなりますか?」
久方ぶりの本気デュエルの予感に、俺は努めて平常心を保ちながらそう尋ねるのだった。
次回、死闘開幕。