迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「お疲れさん。
相手が悪かったな」
ふっ飛ばされ目を回し倒れた姫島に最後まで礼儀を忘れず一礼してから戻ってきたブルーノを労う。
なんでか負けた事を労るようなコメントになってしまったが、今回ばかりはそう言うしか無かった。
「ありがとう執事君。
悪いけど少し外すよ」
「ああ。ゆっくりで構わないからな」
その心情を察し俺がそう言うとブルーノは「……うん」とだけ答え出口へと消えていった。
「辛い思いをさせてしまったな」
「こればかりはどうしようもあるまい」
まさか常識と良識と礼節を全部母親の腹の中に置き忘れたタイプのクソガキだったのは予想外にも程があった。
俺も以前その手の手合いに袋叩きにされカードを奪われた経験があるからベクトルは違えどカードとデュエルに敬意を払えない相手に対する不快感はよく理解出来た。
「次の対戦者は前に出るノーネ!」
クロノス先生の呼び掛けに険しい顔つきを見せながら中央へと向かう迫水を確認し俺はよしと気を引き締める。
「じゃあ、行くか」
「いや。俺が先に行こう」
ズァークを悪魔呼ばわりしたことを後悔させてからブチのめしてやると内心意気込みそう言って前に出ようとした俺をギルスが遮った。
「どうした?」
「お前は奴とやれ」
そうこちらに恨めしげな視線を向ける複野を指す。
「奴はどうやら俺達全員ではなくお前だけに用があるようだ。
露払いは俺に任せておけ」
「……分かった」
何があってあんな視線を向けられるのかさっぱり身に覚えが無いのだが、ギルスがそう言うからには相応の因縁があるのだろう。
「双方礼なノーネ!」
「宜しくお願いします」
「ああ。宜しく頼む」
先程と変わり至極真っ当に双方が礼をしてからデュエルディスクを展開し最初の五枚を手札に加える。
「デュエル開「待って下さい!」どうしましたシニョール迫水?」
宣言を遮ったクロノス先生に答えず、迫水は険しい顔で訳の分からないの事を口にした。
「どうして貴方達はあんな酷い真似をした彼に何も言わないんですか?」
〜〜〜〜
あまりにも意味がわからない台詞に本気で困惑を覚えながらギルスは問い返した。
「……悪いがお前が言っている意味が理解出来ないな」
ブルーノがライフポイントを一撃で削りきったことを指しているはずもあるまいとそう尋ねるギルスだが、迫水は「なんでですか!?」と声を荒げる。
「姫島さんは確かに悪い事をしていたけれど、何も気絶する程の攻撃を加える必要は無かったはずだ!」
「……本気で言っているのか?」
ブルーノのワンショット・キルはやり過ぎだと嘯く言葉にギルスはいっそ可笑しささえ覚えてしまう。
ある程度知識が有るならばブルーノがどれほど手加減していたか、それが当然に理解出来た筈だ。
オーバー・ドラグナーの墓地からの特殊召喚に体数制限は無く、ブルーノがその気であればスター・ガーディアンだけでなくその他のモンスターを一緒にフィールドに戻し更なるシンクロ召喚を重ねてフィールドを制圧する事も出来た。
しかしブルーノはそれを良しとせず、相手に与える苦痛を最小限に抑えようとスター・ガーディアンのみを呼び戻し必要最低限の展開に留めオーバーキルにならないようジャストキルで済ませた。
それ程の慈悲を見せた事をやり過ぎだとそう言う言葉が間違いだと思いたかったギルスだが、迫水は「当然です!」と曇りない目で宣った。
「……」
アウラムとイヴが結ばれ人としての生を幸福に終えた後も世界が悪意に呑まれぬよう人の身を捨て長い時を見守ってきたギルスはその最中に欲望から愚かな選択を選び世界を脅かす者と何人も出会ってきたし、自らの愚劣さに気付かず愚行を繰り返す者も何人も見てきた。
そんな経緯から人間への過剰な期待を捨てたギルスをして、これ程に愚かしい人間はそうは居なかったと言い切れるほどに迫水は愚かしい台詞を至極真面目に口にした。
「ならば問うが、あの女がやった数々の非礼はどうしてくれる?」
「話を逸らさないで下さい!
僕はブルーノさんについて話しているんです!」
「……いっそ感動したぞ」
愚かしさにも才能が必要だが、ここまでくれば愚者の天才だと一周回った称賛を抱きながらギルスはその問いに言い切る。
「ブルーノは成すべきを成しただけだ。
避難される謂れはない」
「…貴方達は間違っている!」
「ならば貴様は自らのやっている事が絶対に正しいと?
デュエルで負かした相手からカードを奪うその蛮行が正義だと言うつもりか?」
そう尋ねると迫水は窮した様子で苦い顔で嘯いた。
「確かに僕達が全て正しいなんて言えない。
だけど、世界を救うためには仕方ないんだ」
いきなりスケールアップした内容にツッコミはまだ早いなと静観するギルスに迫水は自己陶酔している自覚のないまま続きを発する。
「姫島さんと複野君の僕達三人はこの世界の人間ではありません。
誰が僕達をこの世界に喚んだのか分からないけれど、それはこの世界を滅ぼそうと企む覇王ズァークという魔王を討つために違いないんだ!」
「……」
自身の願望を歪んだ形で投影させた身勝手な妄想に呆れを感じるギルスだが、背後で友人の内に荒ぶる怒気が殺意に変換される前に沈めておこうと口を開く。
「つまり貴様はそのズァークを倒す為にカードを狩り集めていると。そういう事か?」
「そうです」
「なら無意味だ」
理解を得たと喜びかけた迫水の顔が水を掛けるギルスの言葉に強張る。
「確かにこの世界にはズァークと呼ばれる存在が封じられている事は事実だ。
だが、そのズァークは既に世界をどうこうしようなどと考えてはいない」
「何を根拠にそんな事が言えるんですか!?」
「後ろで控えている俺の友がズァークとデュエルを通じて彼の者の嘆きを全て受け止め、ズァークに世界に仇成す事無く眠る事を選ばせたからだ」
「なん…だって…?」
「だから貴様が望むような英雄譚など」
存在しないと続けようとしたギルスはしかし迫水から放たれた言葉に続きを失した。
「まさか、貴方達がズァークの仲間だったなんて!?」
「……」
「嘘で僕達を騙し利用しようとしても無駄だ!
僕は絶対に諦めはしない!」
あくまで自身は主人公であり、その道行きを遮るものは自分の敵であると姿勢を変えない迫水にギルスは矯正する気を失せさせた。
「お前がそう思うなら勝手にするがいい。
俺は俺のやるべき事を成すだけだ」
これ以上こいつに喋らせ続けたら友人がブチ切れて【アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】辺りを【召喚】して暴れさせかねないと判断し会話を打ち切ってデュエルディスクを起動する。
「僕は貴方を倒し必ずズァークを討つ!!」
「お前が何を大志とするか関係ない。
俺が成すことは変わらない」
先攻を得たギルスは最初の手札五枚を手にハッキリと宣言する。
「これより全力でお兄ちゃんを遂行する!!」
「デュエ…え?」
あまりにも意表を突く宣言にさしもの迫水も陶酔から覚め呆気にとられる前でギルスは情け容赦ないプレイングを執行していく。
「俺は手札から【ホルスの栄光-イムセティ】の効果を発動!!
このカードと手札を一枚墓地に送りデッキから【王の棺】をサーチしてから1枚ドローする!!」
【ホルスの栄光-イムセティ】
効果モンスター
星8/闇属性/魔法使い族/攻3000/守1800
このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに「王の棺」が存在する場合、このカードは墓地から特殊召喚できる。
(2):このカードを含む手札を2枚墓地へ送って発動できる。
デッキから「王の棺」1枚を手札に加える。
その後、自分は1枚ドローできる。
(3):このカードがモンスターゾーンに存在する状態で、
自分フィールドの他のカードが相手の効果でフィールドから離れた場合に発動できる。
フィールドのカード1枚を墓地へ送る。
「チェーンはあるか?」
「え? あ、ありません…?」
しどろもどろにそう返した迫水の言葉に複野は「終わった」とこの試合が終了したことを確信した。
ギルスは【ホルスオルフェゴール】なんですけど、イムセティ通ったら【キスキルスプライトガエル】に返し切るポテンシャル無いと思うんでナレ死でいい気がしてきた。