迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「随分探す羽目になったよ?」
水路の片隅に背を預け蹲る執事に『アリアス』は嘯きながら歩み寄る。
「だけどまあ、これで君も…」
と、そこで『アリアス』は執事が目と耳と鼻から血を流しながら死んでいたことに気づく。
それが『毒』による死を迎えた姿である事が『アリアス』には容易に理解出来た。
瞳孔は完全に開いており心音も止まっているため死んでいるのは間違いない。
「おかしいな? 毒は塗ってなかったはずなんだけど…?」
覚えの無い死に様に訝しんだ『アリアス』は、そこで
「アハハハハハハハハ!!
なんて無様で滑稽な末路だ!?
まさか【御隠居の猛毒薬】の
助かろうとした挙句の自滅であったと理解した『アリアス』は堪らないとげらげら品性も投げ捨て笑い狂う。
「ああなんて勿体ない!
きっとその時の君の顔は自らの愚かしさに素晴らしい顔をしてくれていただろうに!
それを見逃しただなんて実に勿体ない!!」
愚かで惨めで馬鹿らしい最期だと嘲り笑い続け、ひとしきり笑った後で『アリアス』は大鎌を召喚し携える。
「そんな君をもっと素敵に飾り付けてあげようじゃないか。
バラバラに切り刻み腐らないようにしてからオーナメントの代わりに飾り付けて今年のクリスマスを彩らせて上げるよ!」
吐き気を催す邪悪な行いを嬉々として語りながら執事の元へと歩み寄る『アリアス』。
「さあ何処から切り落とそうか?
腕かな? 足かな? いやいや最初はやはり首だろう!!」
手の届く直ぐ側まで歩み寄った『アリアス』が大鎌を振り上げた刹那、執事の死体が跳ねるように飛び起きるとそのまま大口を開いて『アリアス』の喉笛へと喰らいついた。
「がぁっ!!??」
死んだふりをしていた?
あり得ない。
演技で人間が瞳孔を操作出来る筈もないし、そもそも心臓が停止していたのだ。
それに噛み付いた執事の顎の力は『アリアス』の首の皮を突き破り肉にまで到達して頚椎をギシギシと軋ませている。
例え瀕死に際しリミッターが外れていたとしても只人の身体能力でアリアスの身体に傷を与える事は不可能。
「『アンデット化』したのか!?
馬鹿な!? 幾らなんでも早過ぎ…」
道理が合わないと驚愕する『アリアス』だが、執事の引き裂かれた服の胸元から
「『エルドリクシル』!!??
黄金郷の根幹たる至宝をなぜお前…」
問いを最後まで口にする前に、バキリと音を起て『アリアス』の頸椎が噛み砕かれ真相を理解し得ぬまま『アリアス』の意識は断絶した。
〜〜〜〜
だらりと力無く四肢を投げ出した『アリアス』の首から口を離した『執事』は、倒れ魔力へと霧散していく『アリアス』を一瞥する様子もなく足を引きずりながらゆっくりと歩き出す。
「ひぃめ…ざまぁ……」
その目には意志の光は無い。
『アリアス』を倒すため、執事は自ら毒を呷り自らの命を『エルドリクシル』の贄に捧げた。
今の彼は脳に焼き付いたかつての情景と思いを寄る辺に蠢く
胸元に突き立てたれた『エルドリクシル』の怨念を燃料として動き続ける死霊と化した『執事』はやがて階段を登り、城内へと戻ってきた。
「ひぃ…めぇざ…まぁ…」
言葉とは言えない呻きを漏らしながら『執事』は記録に成り下がった情報のままに姫の自室に到着する。
部屋の中は戦闘の痕跡が色濃く荒れ果てているが『執事』は頓着した様子もなく彼女がいつも座していたテーブルへと近付き、覚束ない様子で引き出しに手をかける。
引き出しの中には姫様が遊ぶために使っていたカードや玩具が詰まっており、『執事』はその中から姫様が使っていた【ラビュリンス】の意匠が施されたデュエルディスクを引きずり出すと左腕に取り付ける。
しかしデュエルディスクにデッキはセットされておらず、『執事』は他の引き出しを開けていくとシンプルな赤いデッキケースと【ラビュリンス】の意匠が盛り込まれた二つのデッキケースが見付かる。
『執事』は【ラビュリンス】のデッキケースを開けるがそこにカードは入っていない。
次いで赤いデッキケースを開けると、そこには40 枚のカードが入っていた。
「ひめぇざまぁ…」
『執事』はそのカードをデッキとしてセットすると姫様の部屋を出て再び足を引きずり彷徨い出す。
そうして何処を目指しているのか本人さえ把握しないまま城内を彷徨い続ける『執事』。
空にはいつの間にか厚い雲が広がっており、ゴロゴロと雷音を響かせながら雨脚が近付いていた。
『ギュオオオオオォォォオオン!!』
不意に怪鳥の鳴き声が城外から轟いた。
待機を命じられていた【サイバードラゴン・インフィニティ】の鳴き声であり、援軍を呼びに行くタイムリミットが過ぎたことを伝えるものだったが『執事』にはあの声の正体が理解出来ず、その声に怒りと悲しみが溢れんばかりに込められていることを察することも叶わない。
【サイバードラゴン・インフィニティ】が飛び立ち空からざあざあとバケツをひっくり返したような豪雨が降り注ぐ中、『執事』は当ても知らぬままズルズルと足を引きずり廊下を歩き続ける。
そうして雨粒がガラスを叩く音をBGMにどれだけ彷徨い歩いたのだろうか。
時間を計る者もなく何を目的とするかも知れぬまま、時折「姫様」と知らない誰かを呼びながら彷徨い続けた『執事』だが、その無為な放浪は唐突に終了した。
「お前は死んだはずじゃないのか!!??」
『執事』の進む先に、いつまで経とうと戻って来ない『アリアス』に不安を抱き、水を求めて部屋を出た複野が恐怖で血の気を引かせながらそこに立っていた。
「幾らなんでも遅すぎる…?」
デッキの調整を終え、40枚に削りきった複野は『アリアス』が戻って来ない事に不安を募らせていた。
「何か食べる物を用意しているのか?
…そうだ。そうに違いない…」
「あ、水が…」
気分を落ち着けようと水差しを傾けるが恐怖を宥めるために何度も使用していたために既に空になっていた。
「う…」
『アリアス』がいつ戻るか分からないから欲しければ自分で水場まで行かねばならない。
それに、何度も水を飲んだために膀胱も訴えをあげていた。
「……トイレに行くついでに取ってこよう」
不安を少しでも和らげようと【ラビュリンス】をセットした
「水の匂い…雨が降るの『ギュオオオオオォォォオオン!!』ひあぉっ!?」
厚い雲に空が覆われた空を見あげた直後【サイバードラゴン・インフィニティ】の主を想う強い咆哮が響き渡り、複野は情けない声を上げながらしゃがみ込んだ。
「なんだよ今の鳴き声は!?
この城は一体何を飼っていたんだ!?」
正体は分からずとも生身で立ち向かっていい相手ではない事だけは理解出来た複野が怯えながら吐き捨てる。
そうして暫く蹲り続け、強い雨音以外の変化がないことを確かめた複野は本格的に危険領域に差し掛かる尿意に抗えずトイレへと駆け込んだ。
「水は厨房でいいのかな?」
『アリアス』の『生きた家具』や罠などの城内の危険は荒方止めてあるから大丈夫という言葉を信じ厨房を探して彷徨い歩く複野。
そうして水場を探して城を彷徨う複野は雨音に掻き消された足を引きずる音に気付かぬまま、ついに邂逅を果たしてしまう。
「なんで…」
焦点の定まらぬ虚ろな瞳で自分を見る『執事』に複野は恐怖に駆られるまま叫んだ。
「お前は死んだはずじゃないのか!!??」
補足ですが執事が自死したのはアリアスが自分に近付かせるためで、やらないよりは確率が上がるはずと打った部の悪い賭けでした。
自分が自滅していたらブレーキを持たないアリアスの邪悪さが油断を生み不意打ちを成功させるかもしれないと自死しました。
離れた所から燃やされたらどうする?
むしろ生きていたほうがアリアスはやりかねないから死なないとどん詰まりなのは同じですよ。
エリドリクリシルでアンデット化は確定するけど自我や意識が保てるのかについてはエルドリッチ卿ほど精神強くないからワンチャンにしか期待してませんです。
なんで、執事の策は失敗が前提でアリアスと相打ち取れたら十分。
後はギルスに姫様の復活を任せゾンビ化した自分はハスキーさんに処理してもらるところまで行ければハッピーエンドとは言えなくてもノーマルエンドにはなるだろうとか考えてます。
マジでそうなったらバッドエンドだとは微塵も考えてないクソボケですね。
因みに執事の魂は裏でドリアードが身を削りながらエリドリクリシルの侵食を防いでます。
彼女が力尽きたら執事は完全にゾンビ堕ちするので勿論バッドエンドです。
次回、デュエル。