迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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勢いがある内に行くぞー!


俺は姫様を愛している(4)

「なんだよこれは…

 ドリアードにオシリス?

 こんな巫山戯た浪漫コンボなんか実戦で完成するはずないだろうが!!??」

 

 成功したのは自分が手札事故を起こした故の偶然だと雨風に濡れながら喚く複野に『執事』は何の反応も返さず只々とデュエルを続ける。

 

「ばとる…フェ…いず。

 どりあ…ど、こうげ…き…」

 

 『執事』の命に【精霊術師(エレメンタルマスター )ドリアード】の周りを踊る神の属性を含めた7色の光球が複野に向けて突き出した片腕に沿って螺旋を描き極彩色の砲撃となって放たれる。

 

「ぎゃあああああああああ!!」8000→3300

 

 砲撃が直撃した複野は立っていることもままならず「痛い痛い」と泣き叫ぶ。

 

「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!??腕がぁ!!??脚がぁ!!??身体中全部痛い゙い゙い゙い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!??

 なんでぇえ!!??なんでこんなに痛いんだよぉ!!??」

 

 トラックに撥ねられたような凄まじい激痛にゴロゴロ転がりながら複野は泣き叫ぶ。

 リアルソリッドビジョンではなかろうと本物の神の力を加えた精霊による本気の怒りの込められた攻撃は物理的な痛みを齎した。

 そもそも精霊界でライフポイントが4000に設定されているのは原作アニメの都合などではない。

 ライフポイントとは文字通り命そのもの。

 それを奪い合うのだからその果てにあるのは敗者の死。

 しかしデュエルの度に片方が死んでいてはゲームとして破綻してしまう。

 故に一万以上のダメージが確実な死を齎すこれまでの結果を元に安全を十分に確保できるラインとして敗者に罰を齎す『闇のゲーム』でもなければそう簡単には死なないようライフポイントは4000を標準に設定しているのだ。

 ならばその安全ラインの2倍にまでライフポイントの上限を引き上げればどうなるか。

 それは答えるまでもないだろう。

 

「た…ん、えん…ど」

 

 のたうち回る複野にそう言って『執事』は沈黙する。

 

「ハァハァハァ…。

 僕の…ターン…ドロー」

 

 痛みに鼻水まで垂らしながら、しかし迫る時間制限に複野は痛みを我慢してデッキトップを引く。

 

「……なんで今来るんだよぉ」 

 

 引いてきたのは、【白銀の城のラビュリンス】。

 アリアスの効果で喚び出しても効果が使えるカードもない今の状況では永続的に攻撃力を下げる【オシリスの天空竜】がフィールドにいる以上一ターンの壁にもならない。

 

「ターンエンド…」

 

 惨めな気分でドロー・ゴーを告げる複野。

 同時に効果によりオシリスが消え、再び『執事』が動き出す。

 

「おれ…のた…ん。

 ドロ…すたん…ばい…めいん…。

 まほう…ごうよく…できん…まんな…つぼ…はつ…どう」

 

【強欲で金満な壺】

通常魔法(準制限カード)※MDでは制限カード

(1):自分メインフェイズ1開始時に、

自分のEXデッキの裏側のカード3枚か6枚をランダムに裏側で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

「ろくまい…じょがい…にまい…どろー。

 まほう…ない…としょ…っと…はつ…どう」

 

【ナイト・ショット】

通常魔法

(1):相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

セットされたそのカードを破壊する。

このカードの発動に対して相手は対象のカードを発動できない。

 

 何処からか狙撃が放たれ福野の伏せた【レッド・リブート】が吹き飛ぶ。

 

「くぅっ!?」

 

 【ハーピィの羽根箒】なら【抹殺の指名者】で防げたと悔しがる姿に構わず『執事』はバトルフェイズに移行しようとする。

 

「カードを、せっと、ばとる…ふぇいず…」

「待て!!その前に手札の【白銀の城の執事(ラビュリンス・バトラー)アリアス】の効果を発動!!

 アリアスを墓地に送り【白銀の城のラビュリンス】を守備表示で特殊召喚だ!!」

 

 複野が叫び、フィールドに斧を盾に構える姫様がフィールドに降り立つ。

 

「ひぃめ…ざまぁ…!?」

 

 彼女が自分にとって何であったかさえ思い出せなくても、それでも焦がれた彼女の姿に『執事』は動かなくなってしまった。

 

「…ひ、ひひ、なんだよ?

 動かないならターンエンドでいいんだな!?」

 

 突然動かなくなった『執事』に複野は思いもがけない助かる可能性に引きつった笑いを零すのに気付かずそう問い掛ける。

 

「ひめ、さま…」

 

 虚ろに「姫様」と呼び続ける『執事』にデュエルディスクが複野へとターンの移行を告げた。

 

「僕のターン!ドロー!

 ちっ!? ターンエンドだ!」

 

 引いてきた【白銀の城の狂時計(ラビュリンス・クックロック)】に舌打ちしてターンエンドを告げる。

 

「さあ早くカードを引け!

 じゃなきゃ僕にターンが回らないだろうが!!」

 

 フィールドの【白銀の城のラビュリンス】がいる限り自分は安全だという気持ちで気が大きくなっている複野がそう喚く。

 

『執事』

 

 唐突にこれまでどれだけフィールドで騒がしくしても言葉を発してこなかった【白銀の城のラビュリンス】が執事へと語り掛けた。

 

「ひぃめ…さま…」

『執事。私を攻撃しなさい。

 これは命令よ』

「はぁっ!?」

 

 姫が斧を投げ捨てドリアードに対し身を晒す。

 

「なんで表示形式が変わっているんだ!?」

 

 突然の出来事にデュエルディスクを見た複野は、モンスターゾーンの【白銀の城のラビュリンス】がいつの間にか攻撃表示に変更されていた事に気付く。

 

「僕は表示形式を変えてな…」

 

 守備表示に戻そうとカードに触れようとした複野の手が殴られた様に弾かれた。

 

「ギャア!?」

 

 弾かれたショックで悲鳴を上げる複野。

 しかし姫は一切取り合わず今度はドリアードに問い掛ける。

 

『ドリアード。執事はまだ大丈夫なのよね?』

 

 その問い掛けにドリアードは涙を零し首を振った。

 

『たった今、彼の裡の本体が力尽きました。

 彼はもう…』

『……そう』

 

 その言葉を聞き、姫は僅かに目を閉じてから『執事』へと語りかける。

 

『なんて愚かな下僕なのかしら。

 私が貴方を愛していると言ってもこれっぽっちも自分を大事にしないなんて。

 だけど仕方ないのよね。

 だから、来なさい。

 貴方の最期の忠義を主として受け止めてあげるわ』

 

 そう抱擁を求めるように両腕を広げる姫に『執事』はついに動き出した。

 胸に埋め込んだ『エリドリクリシル』の輝きが黒から白に変わり、辛うじて意味が分かる音の羅列が明確に意味を持つ言葉へと変わっていく。

 

「ドロー。すたんバイ。メイン。

 ふせカード、発動」

 

 開かれたカードは、再び神を呼び覚ます号令。

 

「罠カード【蘇りし天空神】発動!!」

 

【蘇りし天空神】

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、

その発動と効果は無効化されない。

(1):自分の墓地から「オシリスの天空竜」1体を選んで特殊召喚する。

その後、お互いはそれぞれ手札が6枚になるようにデッキからドローする。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。

自分のデッキ・墓地から「死者蘇生」1枚を選んでデッキの一番上に置く。

自分の墓地に幻神獣族モンスターが存在する場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。

 

「もう一度だけでいい!力を貸してくれオシリス!

 墓地から【オシリスの天空竜】特殊召喚!!」

 

 風が荒れ狂い吹き込む風に目を開けることさえ辛くなる中、幾条もの雷が降り注ぎ再び天よりオシリスが舞い戻る。

 

「【蘇り天空神】の追加効果!

 お互いに手札が6枚になるようにドローする!」

 

 そう叫び『執事』はデッキトップから五枚引く。

 

「え? あ、なんで…」

 

 再び死の恐怖が舞い戻った事を理解した複野が助かるために五枚を引くも、そのカードの内容に言葉を失う。

 

【ウェルカム・ラビュリンス】

【ウェルカム・ラビュリンス】

【ビッグウェルカム・ラビュリンス】

【ビッグウェルカム・ラビュリンス】

【ビッグウェルカム・ラビュリンス】

 

 お前はここで死ねと言わんばかりに待ち望んだカード達が出迎える悪夢の光景に複野は反射的にアリアスから貰った『カード化』された姫様を取り出し叫んだ。

 

「僕に攻撃したらお前の姫を殺すぞ!!」

 

 人として超えてはいけないラインを死にたくないからとついに超えた複野だが、しかし『執事』は聞く耳を持たなかった。

 

「バトルフェイズ。

 【精霊術師(エレメンタルマスター )ドリアード】で【白銀の城のラビュリンス】を攻撃!

 『エレメント・バニッシュ』!!」

 

 『執事』の言葉に従いその身を晒す姫にドリアードは七色の光を収束させる。

 

『気に入らないけど貴女の献身は認めるわ。

 彼を守った事感謝するわ。ありがとう』

 

 そう言い残し姫は極光の中に飲み込まれ溶けていった。

 

「クソクソクソクソクソクソクソ!!

 どいつもこいつも僕をバカにしやがって!!

 僕が本当は出来ないとバカにしてるんだろ!!??

 僕は本気だ臆病者の弱虫なんかじゃないんだ!!」3300→1500

 

 誰もが自分をいない者のように扱う事に自棄を起こした複野はその手に持った姫を封じたカードを破り捨てた。

 

「見ろ!!僕はやったぞ!!

 やれば出来るんだ!!

 アハハハハハハハハハ!!」

 

 人質は生きているからこそ意味がある。

 自分が嫌厭され続ける事に耐えられなくなり暴走した複野に対し『執事』は告げる。

 

「頼む。ヤツを消してくれ」

 

 『執事』の頼みに応えいまだ笑い狂う複野へと【オシリスの天空竜】は口腔を開き、雷光を纏う波動を解き放った。

 

 閃光と轟音が複野を飲み込み焼き尽くす。

 悲鳴さえ上げる権利も与えられず複野は焼き尽くされ、ブレスを放ち終えた後には破り捨てられた姫のカードとデュエルディスクだけが残されていた。

 

「姫様…」

 

 役目を終えオシリスの天空竜が姿を消すのも見ず『執事』はそれらを拾い上げそっと抱きしめる。

 

「ご安心下さい。

 貴女を決して失わせたりなど致しません」

 

 姫のデュエルディスクを外し取り戻したデュエルディスクを装着し直すと『執事』は姫のカードをデュエルディスクにセットする。

 

「俺の全てを差し出してやる。

 過去も、未来も、存在全部差し出すからどうか姫様を頼む」

 

 今の彼は燃え残った灰も同じ。

 魂を守り続けたドリアードの最後の力で辛うじて生前の姿を維持しているだけの燃え殻。

 

 故に何もかもを失う事に恐れなんて無かった。

 

 執事の願いに応えデュエルディスクが、【創星神 sophia(ソピア)】と【創星神 tierra(ティエラ)】の神核がその力を解き放った。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 ガランガランと鐘が鳴り響く。

 

「来たわね『騎士』!

 さあ今日こそ私の『おもてなし』の前に敗北を喫するのよ!!

 オーホホホ!!」

 

 『騎士』の来訪を告げる鐘の音に姫が意気揚々と高笑いを上げる。

 

「アリアス!食客達の準備は出来ているのよね?」

 

 姫の問い掛けにアリアスは慇懃に「勿論です」と答える。

 

「ブルーノ殿とギルス殿、双方共に配置についておりますよ」

「ならいいわ!

 さあ来なさい!

 万全にして完璧な…」

 

 と、不意に姫の言葉が止まる。

 

「如何致しましたか姫様?」

「ねえ、アリアス。

 あの二人ってなんで私の城に来たんだっけ?」

 

 そう首を傾げる姫の問いにアリアスは理由を語る。

 

「ブルーノ殿は修理してもらった恩を返したいからと申し出られ、ギルス殿は次元の歪みで元の世界から渡ってしまった事故の際に保護したのが縁ですよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()がお忘れですか?」

「……そう、だったわね?」

 

 なにか、とても大事な何かが欠けている気がするのだが、しかし姫には()()()()()()()()()()

 

「まあいいわ!

 今日という今日こそ因縁を終わらせるわよ!!」

 

 そう息巻く姫様に従い『騎士』を迎え撃つため動き出す【ラビュリンス】。

 今日もドッタンバッタン大騒ぎ。

 この騒がしい日常はそう簡単には終わらない。




かくして彼の物語は終わりを迎えました。

これまでのご愛好誠にありがとうございました。




















































記録終了。

レイン恵よりZONEへ進言。
今件は『イリアステル』の未来改変のサンプルに有用と思われるケースと判断。
介入を要望。
了解。 
時間遡行後、介入を開始します。
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