迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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俺は姫様と伴に在る(2)

 『姫』からの逃走を果たした『アリアス』は罠を警戒しながらなんとか複野の元へと帰還を果たした。

 

「マスター。申し訳ありません。

 【ラビュリンス】は手に入りましたが想定外のイレギュラーが発生しました」

「イレギュラーって、僕たちはこれからどうなるんだよ!?」

 

 今まで一度たりとも見せなかった『アリアス』の必死な様子に只事ではない危険を理解し声を荒げる複野に『アリアス』は嘯く。

 

「ここも安全とはいい切れません。

 今すぐ城を脱します。

 迷宮城の姫が私達の手にある以上彼らも容易な真似は出来ないはず」

「わかった」

 

 複野の目的である【ラビュリンス】は手に入ったのだ。

 欲の皮を突っ張れば死より恐ろしい対価を払う羽目になる。

 

「すぐに出立を…」

 

 ガランガラン

 

 『アリアス』が立ち上がった直後、城に侵入者が訪れた事を伝える鐘の音が鳴り響き、次いで城中に『姫』の声が響き渡った。

 

『聞こえているわね『アリアス』?

 聞こえ無かったのならそのまま死になさい。

 今から貴女達二人は私の『おもてなし』を受けるのよ。

 解っていると思うけど、私が『おもてなし』を饗すと決めたのだから貴女達は私の許可無しに城の外に出る事は出来ないわ。

 それを踏まえ、今回の貴女達の勝利条件は鐘塔の大広間に辿り着く事。

 そこで貴女の主人が私の可愛い下僕をデュエルで打ち破れば城から出してあげるわ。

 その時は特別に、下僕を降した褒美として貴女が奪ったデッキも進呈してあげましょう。

 最後に、あまり待つ気はないから二時間以内に鐘塔に辿り着けなかったら執事の不戦勝として貴女達二人を城の贄にするからそのつもりでいるよう』

 

 そう締め括り『姫』からの通達は一方的に終わった。

 

「アリアス…今のって…?」

「もう一人の姫により我々は迷宮城の明確な『敵』として認識されたということです」

「そんな!?」

 

 無情な応えに複野は反射的に窓に取り付き開こうとするが窓には鍵はかかっていないのにガタガタと揺れるだけで開きはしない。

 

「クソッ!!」

 

 サイドテーブルの水差しを掴んで窓ガラスに叩きつけるが、水差しが砕けるがガラスにはヒビ一つ入らなかった。

 

「なんで壊れないんだよ!?

 アリアス!!どうにかならないのかよ!?」

「無理ですマスター。

 『おもてなし』の対象に選ばれた者が主が決めた『ルール』を破る事を迷宮城は許しません。

 『おもてなし』には『闇のゲーム』と同等の強度と強制力が発生します。

 故に『おもてなし』の開催が成された以上、私達は二時間以内に鐘塔に辿り着きデュエルに勝つ以外生きて城を脱することは叶いません」

「そんな…」

「ここから鐘塔までは通常なら三十分と掛かりません。

 ですが道中には姫様が敷かれた罠が待ち受けているでしょう。

 それらをくぐり抜け無事に到達するために要するだろう時間は…およそ1時間」

「1時間…」

 

 それはつまり、1時間は死の危険と隣り合わなければならないという意味でもある。

 そのうえで鐘塔で待ち受けているだろう執事とのデュエルに勝たなければ二人に明日はない。

 

「姫様が制限時間を2時間としたのはデッキを調整する猶予のためでしょう。

 マスター、時間がありません。

 すぐにデッキの確認をなさって下さい」

「で、でも…」

「ご安心下さいマスター」

 

 困惑と恐怖で吶る複野を『アリアス』はギュッと抱きしめ耳元で囁く。

 

「私に策がございます。

 鐘塔に辿り着きさえすれば()()()()()()()()()()()

 ですから今はデッキの事だけを考えて下さい」

「あ、ありあす…」

 

 押し付けられた服越しにも容易に感じる柔らかさと体温に複野は顔を真っ赤にして思考が吹っ飛ぶ。

 

「落ち着かれましたか?」

「はぃぃ…」

 

 茹だりながらそう答える複野に『アリアス』は蠱惑的に笑い嘯く。

 

「無事に城を脱しましたら()()を致しましょう」

「   」

 

 『アリアス』の魔性に魅了され、複野は童貞特有の妄想力を爆発させパクパクと言葉も出せなくなりながら気恥ずかしさからデッキへと逃げる。

 その様子を可愛らしいと感じながら『アリアス』は鐘塔がある方向へと顔を向け邪悪な笑みを浮かべる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 少々薄汚くはありますが、ご容赦願いましょう)

 

 『アリアス』には今回のルールが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が思いついていた。

 それ自体を『アリアス』をして控えるべき手段とさえ思うが、マスターを守る為だからと一切迷いはない。

 

 邪悪に捻れた愛を掲げ陰惨に嗤う『アリアス』。

 それに気づかぬまま複野は生きたいという欲求に従い執事の【ラビュリンス】から不要と思うカードを排するのだった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 そして、『姫』の宣言より間もなく二時間が経過しようとする頃、鐘塔で二人執事と『姫』は静かにその時を待っていた。

 

「……来たわね」

 

 バンッ!! と蹴破る勢いで扉が開かれ、傷だらけの『アリアス』と『アリアス』に護られた無傷の複野が鐘塔へと辿り着いた。

 

「あらあら? 普段に比べて突貫工事だったから杜撰な片手落ちの『おもてなし』しか出来なかったのだけれど、ちゃんと引っ掛かってくれたみたいね?」

 

 『アリアス』の負傷具合にころころ笑い『姫』は誂う。

 

「ええ。流石姫様と幾度も心胆寒からしめる思いをさせていただきましたよ」

 

 何度も言うが姫様の敷いた『おもてなし』は非常に緻密かつ殺意の極みともいうべき代物であり、毎回無傷でRTAを敢行する『騎士』が異常なのであって罷り間違ったとしても常人が攻略出来るような代物ではない。

 例えるならノーデス縛りされたiw〇naを初見でクリアするのと変わらないレベルの難行であり本来なら理論上は可能で終わる話なのだ。

 『おもてなし』をより凶悪にする生きた家具達や配置を変える従僕が不在のため普段より難易度は控えめでこそあったが、それでもマスターを無傷で到着させた『アリアス』はスタンディングオベーションを受けるに値する偉業を成し遂げたのだ。

 

「ならよかったわ。

 ウォームアップは十分みたいだし、そろそろ決着を着けてしまいましょう」

 

 「執事」と呼び掛ける『姫』に執事は前に出ることで応える。

 

「すでに準備は整っています」

 

 一般普及しているデュエルアカデミアモデルをベースに執事の為だけに姫自らがデザインを起こした彼専用のデュエルディスクを見せつけるように執事は展開し構える。

 

「マスター」

「うん…」

 

 勝たねば命はない。

 此処に到るまでに幾度も命を脅かされる危機を経験し、その度に我が身を顧みず身を挺して守り続けた『アリアス』に応えるためデュエルディスクを構えた。

 

「姫様もデッキも全て返してもらいますよ」

「僕は負けられない」

 

 毅然と言い放つ複野の目に、以前と違う確かな意地を見た執事は「ほう?」と感心した。

 

(何が彼を変えたのかは分からないが、これなら相手の手札事故でワンサイドは絶対起こり得ないな)

 

 今の彼にならカードに宿る精霊達は味方をしなくても敵に回るほどの拒絶はしないだろうと覚悟を新たに気を引き締める。

 

「ならば口上は無意味。

 此処からはカードに全て委ねるだけだ」

 

 そう執事が宣い同時にデッキトップを五枚手札に加える。

 

「「デュエル!!」」

 

 戦いの開幕を告げる言葉の直後、鐘塔に鮮血の華が咲いた。




次回、運命とデュエル。
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