迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
俺の手札は無く、フィールドには何も無い。
対して相手のフィールドには城を背に立つ姫様が従者を従え堂々と立たれている。
まるで皮肉の様だなんて、そんな後ろ向きな思いを抱きながら姫様達が消えゆくのを見届けた後、俺は倒れた複野へと手を差し出す。
「いいデュエルでした。
ありがとうございます」
真剣に戦い全力を尽くしたからこそ相手に礼儀を払うのが
「こちらこそ、ありがとうございました」
悔しそうで、だけど憑き物が落ちたしっかりした顔でそう口にすると複野はデュエルディスクを外し俺に差し出す。
「約束だから、ちゃんと返すよ」
そう『カード化』された姫様達と共に差し出された【ラビュリンス】を俺は受け取る。
「確かに」
漸く取り戻せた安堵感に浸るのは後と俺は問う。
「これからどうするつもりだ?」
「今は何も思い付かないけど、色々考えてみようと思う」
「…そうか。
来てくれ【サイバードラゴン・インフィニティ】」
その答えを聞き俺は外で待機してくれている【サイバードラゴン・インフィニティ】に呼び掛ける。
「自由都市まで彼を送り届けてくれ」
『キュオォォン!』
「勝者として告げる。
金輪際【
それをもって赦免とする」
唯一人残った【ラビュリンス】の者としてそう複野に命じると、複野は神妙に頷いてから【サイバードラゴン・インフィニティ】の背に乗り込み迷宮城を後にした。
そして一人きりとなり俺は壁を背に床に座り込んだ。
「……少し、疲れたな」
賑やかさを失った迷宮城は、酷く寂しい場所に感じた。
「少しだけ休もう。
姫様が帰ってくるまでにやらなければならないことも沢山あるんだ。
だから…今は…」
急に降り掛かってきた眠気に抗えず、俺はそのまま眠りに落ちてしまった。
〜〜〜〜
『観測開始より24時間が経過。
これまでの観測に依る呼称『迷宮城の執事見習い』の生存時間を更新しました。
以上の結果から未来改編の達成を判断し介入を終了。
引き続き観測の継続に移行します』
『ご苦労でしたレイン』
次元の狭間とも違うどの時間軸とも交わらぬ世界にて『ZONE』は一人得難い結果に久しく忘れていた感情の揺らめきを憶えていた。
『『ゼロ・リバース』による人類滅亡の回避は必ずや成し遂げねばなりません。
だからこそ、この検証結果は私に意義のある可能性を齎してくれました』
これまで『ZONE』は
しかし、その幾多の試みは悉く失敗に終わり、最早『ゼロ・リバース』を発生させるモーメントそのものの抹消という根本的な破綻を選ぶ事しか許されないまでに追い込まれていた。
だが、『迷宮城の執事見習い』というイレギュラーとの干渉と彼の運命の改変という
『
既に失敗して廃棄したアプローチでしたが、まさかこの様な形で成功に必要なファクターを発見するとは思いませんでした』
『ゼロ・リバース』が発生すれば人類が滅ぶ。
これまでの検証結果は双方を紐付いた一連の結果としてのみ生じてきたためにそれらを切り離して改編することは叶わないと諦めていた。
だが、ここに来て新たな可能性を『ZONE』は見出したのだ。
『
元よりのプランにサブとして加えるのにこれ以上都合の良い計画はそうありません』
最早手を尽くすことの叶わない滅亡した未来ごと自分を切り捨てることで未来へのレールを切り替える。
絶対に成さねばならないと、たとえどれだけの非道に手を染めても完遂せねばならないと考えていたが、このサブプランを組み込めるのなら『ZONE』は
『ZONE』は生命活動さえ機械が代行している死人なのだと己を定義している。
それが完全に死するだけで世界が救え託す未来が生れるなら
『ですが、だからこそ、私は全力で戦わねばならない』
態と手を抜き負けて救えるような世界なら『ZONE』はとうに幾百回世界を滅亡から救えていた。
それを身を以て知るからこそ、『ZONE』は全力で
『【
【
最後の人類となり私が喪ってしまったそれらを持つ今の貴方だからこそ、
それが出来ないというのなら、モーメントと共に未来の礎として私と共に滅んでください『不動遊星』』
異なる次元の
持つことすら諦めたほんの小さな『希望』を再び胸に抱き、『ZONE』は人類を救う為に動き始めるのだった
〜〜〜〜
「起きてください。
そんな所で寝ていたら風邪を引いてしまいますよ」
そう呼び掛ける声に、俺は水の底から浮き上がるような感覚と共に目を覚ました。
「……ん」
硬い床に寝転んでいたせいで身体のあちこちが悲鳴をあげているが、それを歳だからと無視して俺は声を掛けてきた相手に視線を向ける。
「君は…」
光輝を衣に纏い光を溶かしたような金の髪を背に流す女性を俺はよく知っていた。
「【
問い掛けるとドリアードは口元を綻ばせた。
「こうしてお話するのは初めてになりますね。
改めて私は【
貴方をこの世界に招いた張本人です」
そう、彼女は全てが自らが始めた事だと口にした。
「……」
何を言うべきか言葉が見つからない。
感謝なのか、怒りなのか、それとも猜疑なのか。
どれもがあって、どれもが違うと俺は正解が分からないまま問いを口にした。
「聞いてもいいか?」
「私に答えられることなら」
「なら、俺は
ずっと疑問だった。
俺と他の転移者達には決定的な違いがあった。
それは、デッキ。
他の者達に比べ、俺のデッキは余りにも
これまで関わってきた同郷の転移者達のデッキはテーマ毎の強さに差はあってもそのテーマはほぼ統一された状態であり複野達も最初期は【キマイラ】【スプライト】【相剣】のほぼ純構成プラス汎用数枚程度であったのに、俺のデッキは【霊使い】も【ドリアード】もMDで使っていた時のままメインカードの名前を冠しているだけの実質闇鍋状態であった。
自分を転移させた何者かがサービスした可能性は確かに無くもない。
だが、それなら何故に
それらを含めての特典だというなら、何故
俺以外の誰一人として精霊を宿したカードは持っていないのなら、必然的におかしいのは俺の方となる。
そうした疑問が募る中で【教導の大神祇官】が気になる事を俺に告げた。
俺のデュエルディスクは【
「だから俺はこう考えたんだ。
俺が手にした特典は全て
君は何らかの理由により創星神の神核を使わざるを得なくなった。
だけど神核のエネルギーはその願いを叶えるには余りにも過剰が過ぎた。
だから少しでも多く神核の力を分散しようとして俺の使っていたカードを実体化し精霊を宿らせた。
なんの為に?
そう考えた時に俺は気付いたんだ。
俺には
現実世界の俺の最後の記憶は、一秒でも早く寝ようと階段を登りながら家の鍵を取り出すためにポケットを探ろうとした所で終わっている。
そして気が付けば持っていた鞄も携帯もなく荷物はメモ帳なんかの小物とデュエルディスクだけという状態だった。
「あの瞬間俺は階段から足を滑らせたりなんかして死んだんだろう。
そして怪我と過労でくたばった俺を君は助けようとして創星神の神核を用いてしまった。
穴だらけで推理どころか推察とも言えない代物だがどうかな?」
そう言うとドリアードは悪戯を咎められた幼子のような顔で「はい」と全てを認めた。
「私は【双星神 a-vida】より預けられた【星遺物】、二体の【創星神】の神核を用いて貴方の死を無かったことにしました。
ですが、神核の力は人を生き返らせるのにはあまりにも過ぎたものでした。
生き返らせた貴方を人のままに変質させぬようにするために貴方が口にした通りの行いを為しました。
そして、それでも足りず貴方をこの世界に呼び込むことになってしまいました」
総ては自身が端を切ったのだと告げて、ドリアードは刑に服す罪人のように俺の言葉を待った。
「ありがとう」
だから俺が言うべきは感謝の言葉だった。
「君が自身の役割を放棄してまで俺を助けようとしてくれて本当に嬉しかった。ありがとう」
そう言うとドリアードは何故か俯いて泣き始めた。
「感謝なんて…私は、私のせいで貴方は何度も傷付いた。
何度も命の危機に追いやられて、貴方以外の転移者だって私がこの世界への道を開かなければこの世界に来ることは無かったのです」
「それでもだ。
君が俺をこの世界に連れてきてくれたから友人が出来た。
子供の頃に置き去りにした沢山のものともう一度出会えた。
何より、姫様と逢えたのは君のお陰だ。
確かに辛いことも嫌なことも沢山あったけれど、それ以上に俺は生きていて良かったと思える経験を沢山出来た。
だから俺は君に感謝するよ」
ハンカチで涙を拭い俺はドリアードへ感謝の言葉だけを告げる。
「……ごめんなさい。少しだけ、待ってて、ください」
ハンカチを受け取り抑えきれない感情が涙と溢れるドリアードが落ち着くまで待つ。
そうしてひとしきり泣いて気持ちが落ち着いたドリアードに改めて俺は問う。
「君は、俺にどうして欲しいんだ?」
「私の望みは貴方の生が幸多くあることです。
その道行きの中で貴方が人である事を辞めるとしても貴方がそう望んだのであれば私はそれを否定しません」
「なら、君に願いはないのか?」
知らない所で多く助けて貰った彼女に何か返せるものはないかと問うと、ドリアードは少しだけ困った様に眉を寄せた。
「無いことはありません。
でも、貴方にはそれを叶えることは出来ませんから」
「何故だ?」
言うまでも無いと言いたげなドリアードに俺が問いを重ねると、ドリアードは俺に手を差し伸べた。
「私の願い。私だけの願いは、貴方を独り占めしたい。
姫の手を振り解いて私を妻に娶ってくれますか?」
その問いに、俺の答えは…
「ごめんなさい。
俺は姫様を愛しているんだ。
だから、君と一緒には行けない」
「ええ。分かっています」
少しだけ残念そうにしながら、だけど心から嬉しそうにドリアードは綺麗な笑顔を俺に向けた。
「きちんと断ってくれてありがとう。
これで私の未練も終わりました」
そう背を向ける彼女に俺は問い掛けた。
「待ってくれ! 君はどうしてそこまで俺に」
「駄目ですよ」
振り向かずドリアードは言う。
「過去の女との思い出に拘っていたら、貴方の大事な人が拗ねてしまいます。
それと、私を選んでくれなかった酷い人には教えてあげません」
そう言って、ドリアードは溶けるように消えてしまった。
「……」
そうして再び一人きりとなり、俺は思わず漏らしてしまった。
「今更モテ期到来とか、勘弁してくれよ…」
こっちはもう四十路目の前なんだぞ?
人生で初めて自分に告白してきた相手を振るなんて、それも相手が初恋で恩人の女の子だなんてキツすぎて吐きそうだ。
「来てくれ。ダルク」
ダルクはドリアードを慕っていたから【召喚】に応えてもらえないかもと不安だったが、そんな事もなくダルクはすぐに【召喚】された。
「どうしたマスター?」
「これから悪魔族に転生する。
手伝ってくれ」
そう言うとダルクは全部察したのか少しだけ残念そうに溜息を吐いた。
「分かった。
姫に並び立つに相応しい立派な悪魔に転生させよう」
「ありがとう」
信を預ける相棒に感謝を述べ、俺は人間としての生を終えた。
ドリアードが告白したのは振られるのが分かっているからけじめを付けるためであり、間違っても空き巣狙いではありません。
なので執事がドリアードを選んでもそれはダメと執事の前から去っていました。
見様によってはドリアードが悪質に見えるかもだけど、姫様ヒロインのルートが決まってるのに浮気した執事が全面的に悪いので批難は執事にお願いします。
そしてZONEなんですが、彼はスタートの時点で手遅れな状況から開始しているのでどうやっても救うのは不可能としか思えず、負けても希望を残せると原作より希望がある状態にするのが自分の限界でした。
その代わり原作より覚悟がガンギマリした気もするけど、そこはチーム5D'sの絆の力に託させてもらいます。
それとさ、【時械神】ってどの特殊召喚も使う余地無いのがおいたわし過ぎやしませんかねぇ?
ワンチャンペンデュラムだけどスケール11以上のペンデュラムはどれも制限厳し過ぎて使う余地無いのが更に酷い。
次回は姫様ルートのエンディングという名の後日談。