迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
アリアス「うん? ちょっと不味いかな?」
姫様「どうしたのアリアス?」
アリアス「いえ。試験前に下調べするのはグレーだから注意するようにって言うのを忘れていまして」
アリアス「試験官が施錠しているから執事くんがやらかす可能性は低いけど、これは裏からサポートしてあげたほうが良さそうだね」
アリアーヌ「中姉さまがすっごい良い笑顔してる」
アリアンナ「また何か悪巧みをしているようね」
執事が実技(?)を開始した頃、校長室では校長とアリアスの教師でもある教頭は対面に座る人物の態度に頭痛が痛いと言いたくなる気持ちを堪えていた。
「何度も言っているだろうが!
私の息子を通常科ではなくデュエル科に編入しろと!」
「ですから先ほどから申しているように、彼の成績は規定を満たしていないため編入は認められません」
癇癪気味にそう嘯く男、『トリノ・カラアーゲ』に校長は決定は覆らないとそう返す。
カラアーゲ家は初代が学園の理念に賛同し設立の際に後援に名乗り出た古くからの付き合いがある名家であるが先代から後を継いだトリノは家名を傘に着る小物であり、そのどうしようもなさを察していた先代が自身の亡き後に家名を貶めぬよう信を預ける家令達に託したのだが、トリノは先代から仕える者達を悉く追い出しその息子共々放蕩三昧を繰り返していた。
そうして今度は息子に箔を付けさせようと学園が誇る優秀な生徒だけが入れるデュエル専門の学科への編入を申し込んだのだが、息子はその試験に落ちたためトリノは自ら編入させるよう口利きをしにきたのだ。
「我がカラアーゲ家が学園にどれだけ貢献してきたか忘れたのか!!」
「勿論先代までに受けた厚意は一つたりとも忘れては居ません。
ですが、それを嵩に厚遇で持て成すことを要望するのがカラアーゲ家の考えだと?」
「貢献に対し対価を支払うのは当然だろうが!!」
話にならない。
カラアーゲ家が代々学園を援助してきたのは若い芽が埋もれたまま腐っていくのを憂いての事であり、そうして才を芽吹かせ学園を巣立った者達の中にはカラアーゲ家へと自ら望んで仕えた者も少なくない。
そうして優秀な人材を得たカラアーゲ家がより繁栄し、双方は理想的な関係を維持していた。
「失礼します!」
恩厚い歴代当主たちには悪いがここでカラアーゲ家とは関係を切ってしまうべきだろうと校長が結論に至った所で一人の教員が慌てた様子で学長室へと飛び込んできた。
「なんだ貴様は!? 今大事な話をしているんだぞ!!」
「まあ、待って下さい。
これ程焦っているには相当の問題である筈。
君は確か……」
喚くトリノを嗜め入ってきた教員の顔を見た教頭は彼がアリアスの部下の試験を担当するはずだった教員であることに気付き、凄まじい勢いで胃酸を吐き出し始めた胃のムカつきを堪えつつ理由を問い質した。
「どうしたのかね?」
「それが…」
彼の話によると、施錠されていた筈の試験会場の鍵が開けれており、室内には僅かに荒らされた形跡と試験用に用意しておいたデッキが無くなっていたという。
「無くなっていた物はデッキ以外に有りましたか?」
「いえ。物色された痕跡はありましたがイミテーションの宝石やアクセサリー等の中に紛失した物はありませんでした」
「そうですか…」
状況のちぐはぐさに教頭は思考を走らせる。
(泥棒…にしてはデッキを盗んだ意味が分からない。
あのデッキは学園に入学した生徒に授業で使うよう無償で提供しているデッキ。
エクストラデッキは少し高いカードも入っていますがそれでも盗むほどの価値はない。
となると…)
「それはそうとして、彼はどうしていますか?」
「それが、試験開始時間を過ぎても現れていません」
「なるほど」
(状況だけ見ると彼が不法侵入してデッキを盗み逃走した。
という可能性もなくもないですが、『迷宮の案内人』のリングネームで自由都市のアリーナ最強の名を恣にしたデュエリストである彼が態々盗むようなカードは一枚も入っていないからそれはあり得ない。
となると、まさか…)
脳裏にアリアスの邪悪な笑みが過ぎり反射的に水の要らないタブレットタイプの胃薬を口の中に放り込んだ。
「教頭?」
「気にするな。
それより手の空いている者に受験者を探すよう…」
碌でもないことが始まる予感にそう口にした教頭だが、しかしそれは遅きに失した。
「失礼します」
答え合わせを成すように静かに怒気を纏う執事が校長室へと入ってきた。
「少しばかりお伺いしたい事がありますのでお時間を頂きますよ」
入ってきた彼は右手に頭に大きなバンソーコーを貼り付けた【ジェネクス・コントローラー】を抱え、左手には漫画調の巨大なたんこぶを生やした小太りの少年の首根っこを引き摺っていた。
「り、リシャール!!??」
目に入れても痛くない可愛い息子の無残(笑)な姿にトリノが悲鳴を上げ、下手人であろう反抗したら殺すと言わんばかりに殺意をまとう執事に怒号を向ける。
「貴様!! 私の息子に何をしてくれた!!??」
「貴様がこの糞餓鬼の親か。
よくもまあこんな糞餓鬼に育てたもんだなぁ?」
完全にブチギレている事がありありと見える執事はぞんざいにリシャールを掴んでいる手を離して地面に転がしトリノに嘯く。
「なんだと!!??
何処の馬の骨とも知らぬ貴様がカラアーゲ家に楯突くか!!??」
「唐揚げ?知らねえよんな木っ端。
第一俺は鶏唐より竜田揚げ派だ」
「なぁ…!?」
名家のプライドを一蹴され顔を真っ赤にして怒り狂いながらトリノは執事を指差し叫んだ。
「デュエルだ!!
カラアーゲ家に楯突いた事を後悔させてやる!!」
なんでそこでデュエル? と思うだろうが割といつもの事なのでとっくに慣れた執事は「上等」だとデュエルディスクを取り出す。
「同じ子を持つ親として少しばかり教育してやるよ」
「後悔するのは貴様だ。
貴様はこれから絶望を味わうのだからな!」
自信満々にそう嘯くとトリノは思いも寄らない名を口にした。
「貴様が戦うのはかつて自由都市で二百戦無敗の前人未到の領域に到達した最強のデュエリスト、『迷宮の案内人』なのだからな!」
「…ん? んん??」
まるで『迷宮の案内人』が自分の部下にいる様な口振りに執事の沸いた思考も困惑で冷える。
そんな執事の様子を怯んだと見たトリノは気を大きくしながら『迷宮の案内人』を呼び付ける。
「入って来い!『迷宮の案内人』!」
トリノの呼び掛けを受け校長室に入ってきた者にトリノ以外が呆気にとられた。
「なんでございましょうか旦那様?」
その男はパツパツに張ったビジネススーツを着苦しそうに着込こんだ北◯の拳に出て来そうなモヒカン頭のグラサン男だった。
しかもスーツには棘付き肩パッドが付けられている。
((((お前のような『迷宮の案内人』が居るか!!))))
雑なコスプレにも満たない姿に内心で総ツッコミが入るが気付きもしないトリノは癇癪気味に『迷宮の案内人』()に命じる。
「この男を叩き潰してしまえ!」
「かしこまりました」
デュエリストじゃなくてデュエリスト(物量)かと警戒する執事を後目にデュエルスペースとして使えるだけの広さを確保した廊下に移動した『迷宮の案内人』()は顔付きに似合う下卑た笑みを執事に向ける。
「運が無いなオッサン?
今から土下座して命乞いをするならデュエルは無しにしてやってもいいんだぜ?」
「…いえ。構いませんよ」
「強がるなよ。
さっきから顔は強張って手が震えてるぜ?」
それは笑いを堪えているからだよ。
そう言いたい気持ちをぐっと堪え執事はデッキを構えつつ考える。
(俺を騙るぐらいだから相手のデッキは【霊使い】だろうか?
戦術まで模すならエースにリンク・エクシーズを軸に置いたレベル4ないしレベル3ビート。
【憑依】系サポートや【妖精伝記】は超高額レアだから入っていても複数枚の導入しては居ないだろうからビートダウンはそこまで警戒しないでいいとして、比較的入手しやすい【レベル制限B地区】や【超古代生物の墓場】で相手の高レベルモンスターを足止めしつつアドバンテージを維持する戦術ならこのデッキならどうにか食らいつけるな)
ディスクにセットされているデッキは用意されていたデッキであり、エクストラデッキにはエクシーズのみ入っているのでレベル指定のカードはあまり刺さらない。
デッキの事もあり余裕はあれど油断はなく、最初の五枚を引き先攻を取った『迷宮の案内人』()が荒々しく宣言する。
「俺のターン!!
これが俺の『おもてなし』だ!
俺は手札から【
【
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻 500/守2000
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドに戦士族モンスターか炎属性モンスターが存在していれば発動できる。
このカードを手札から特殊召喚し、その攻撃を無効にする。
その後、フィールドのモンスター1体をエンドフェイズまで除外する。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「BK」モンスター1体を召喚できる。
(【BK】なんか一度も使ったことねえよ!!??)
首にタオルを掛け椅子とボトルを準備するセコンドの登場に本気で叫びかけたのを全力で抑え込む。
エアプにも程があると内心突っ込みつつ、それはそれとして冷徹に思考を回す。
(プロモーター初動じゃ無かったことから手札にプロモーターは無し、或いは【BK】以外の汎用エクシーズが狙いか?)
「チーフセコンドの効果で俺は手札から【
【
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1600/守 200
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
「BK アッパーカッター」以外の「BK」モンスター1体か「カウンター」カウンター罠カード1枚をデッキから手札に加える。
(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分の墓地から「BK アッパーカッター」以外の「BK」モンスター1体を特殊召喚する。
●自分の墓地から「カウンター」カウンター罠カード1枚を自分フィールドにセットする。
フィールドに降り立ちシャドーボクシングを繰り出すパフォーマンスを見せる戦士。
腕のカッターはボクサーとしてアリなのか?と思考がズレながらも召喚時効果で二体目のチーフセコンドを手札に加えた事を確かめる。
「フィールドのレベル4モンスターチーフセコンドとアッパーカッターの二体でオーバーレイ・ネットワークを構築!
来い!エクシーズ召喚!ランク4!【
【
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/炎属性/戦士族/攻2300/守 200
レベル4モンスター×2
(1):自分フィールドのカードがこのカードのみの場合、このカードは他のカードの効果を受けない。
(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
このカード以外の自分フィールドのカードを全て破壊する。
その後、このカードの攻撃力はターン終了時まで、
この効果で破壊され墓地へ送られたモンスターの数×300アップする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
光の粒子が弾けフィールドにガスボンベを背負いバーナーで武装した料理人がフィールドに降り立つ。
(成る程。戦闘破壊耐性をチーフセコンドで賄いつつ擬似的な完全耐性を立てて初手は手札を温存しつつ様子見か。
手札がいまいち故の妥協という可能性もあるが、中々クレバーじゃないか)
精霊界基準でも中々に
(とはいえ…)
手札を改め執事は内心で溜息を吐く。
【サイクロン】
【メルフィーとにらめっこ】
【メルフィー・ラビィ】
【レスキュー・ヘッジホッグ】
【リビングデッドの呼び声】
(デッキは相手ターンに動ける【メルフィー】なのに効果持ちが1枚も来ないとか完全に事故だよな)
「ターンエンドだ!」
「私のターン。ドローフェイズ。ドロー」
引いてきたのは【メルフィータイム】。
長丁場になりそうだと、そんな事を考えながら執事はフェイズ進行を口にする。
「スタンバイフェイズ。メインフェイズ。
手札から永続魔法【メルフィーとにらめっこ】を発動します」
次回で決着までいけるか?