迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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というわけで若者は知らないだろう昔のリアルカード事情を少しばかり



俺の昔話と新しいデッキ

 実のところ、私がドリアードに実際に手を触れたのは精霊界に来てからなんですよ。

 

 ええ。姫様も知っての通り私は精霊界と繋がっている人間界とは別の次元の人間界の者です。

 

 私がドリアードを知ったのは、大体25年ほど前の事でした。

 

 こちらと違いDMが登場したのもその頃です。

 

 当時DMは販売促進作品のファンアイテム程度の認識で、市場流通も今ほど盛んではなく販路も限られていました。

 

 自分もその販路促進作品にのめり込んでいた一人で、少ない小遣いを注ぎ込み販売元が発売したカタログを買ってカードを調べた際にドリアードを見付けたのです。

 

 で、一目惚れしたんですよ。

 

 どうしました? なんでもない…? そうですか。

 

 それで、なんとか入手したいと手に入れる方法を調べて、不可能と知り打ちのめされたんです。

 

 いえ、希少価値ではなく販売方法に原因があったんですね。

 

 当時はカードパック以外にもガチャガチャという機械でも販売していたんですが…ガチャガチャがなにかって?

 あー……ビンゴマシーンGOGOみたいにお金を入れると中のカードを売ってくれる機械です。

 

 話を戻しますが、ドリアードの入っているパックはそのガチャガチャでしか入手出来ず、その時は田舎に住んでいたのでドリアードが入ったガチャガチャに出会うことすら出来ない状態だったんです。

 

 そうしてドリアードを入手する機会はないまま時間は過ぎ、生活の変化もあって私はDMから一度離れたんですよ。

 

 どうして、ですか?

 

 これも以前お話しましたが、私の居た世界ではDMはどれ程に人気を博していても『遊び』の範疇に留まっていたんです。

 

 人間界の様に市民ナンバーにデッキの登録の必要はありませんし、勝敗が株価を変動させる事もありません。

 神のカードや地縛神の力を得たカードもありませんし精霊なんてものは設定の中にだけ有る幻想。

 何より人間界のソリッドビジョンシステムが存在しません。

 

 あくまで『遊び』。

 

 世界大会が開かれ優勝しようとその賞金で生活が賄える者は居るかどうか。

 

 そんな訳で私は社会人として生きるためにDMから離れたんです。

 

 ええ。ですが私は戻って来ました。

 

 契機はインターネット、サイバース族などが住まう世界ですが、そこでDMがプレイできるようになったのが理由です。

 

 大量のカードを管理し品質が落ちる心配をしながら置き場に困ることもなく、対戦相手を一々探して時間を合わせる必要もない。

 

 そうやって生活の合間にもDMをプレイできる環境が整ったから帰ってこれたんです。

 

 ドリアードをエースカードにした理由ですか?

 

 …理由は2つ、ですね。

 

 一つは自分がへそ曲がりだということ。

 

 強いから環境デッキを、勝ちたいから高Tierカードで固めるなんてのが嫌なんです。

 好きなカードを使って、出来れば勝ちたい。

 

 そんな思いでドリアードや霊使いばかり使ってましたね。

 

 まあ、負けが込みすぎて特殊召喚墓地メタデッキなんてのも時折使う時もありますが、私は勝ちより愉しみを優先していたんです。

 

 まあ、環境デッキを回していると仕事をしている気分になって嫌気が差すってのもありますけどね。

 

 もう一つは、やはり帰ってきたからには昔手に入れたくて仕方無かったけど、手を伸ばす機会さえ無かった無念を晴らしたいって気持ちがやっぱりあるからなんでしょうね。

 

「って、姫様?」

 

 語り終えた途端姫様は部屋を飛び出してしまった。

 

「……やっぱりつまらなかったよな」

 

 二十年以上溜めた懐古を減らしたいって気持ちでエースカードに選んだなんて、若い娘にしたら気持ち悪いと思われて当然だろう。

 

 さて、この先どう顔を合わせたもん…バダンッ!!!!

 

「…姫様?」

 

 走っていたらしく肩で息をしながら扉を蹴破る勢いで部屋に戻ってきた姫様は、無言でベッドに近付くと、1デッキ分はあるカードの束をボスンと音を起てながらシーツの上に置いた。

 

「作って」

「はい?」

「このカードたちを使って貴方のデッキを作りなさいと言っているの!!」

 

 と、何故か顔を真っ赤にして姫様は大声でそう命じた。

 

「作るのは構いませんが、何を…!?」

 

 勢いに押されてカードをひっくり返すと、【迷宮城の白銀姫】が視界に飛び込んできた。 

 

 このカードを持っているのはこの世界で唯一人姫様のみ。

 

 アリアス達もデッキは【ラビュリンス】ではあるが、鎧姫はおろか【白銀の城のラビュリンス】さえ入っておらず【白銀の城の魔神像(ラビュリンス・デーモン)】と【白銀の城の執事アリアス】をメインのエースカードとしてデッキを構築している。

 

 まさか自分のデッキを使えというのか?

 

 他のカードを改めてみるも、やはり【ラビュリンス】に関するカードと相性の良い罠カードばかりである。

 

「本当に宜しいのですか?」

「当たり前よ!!」

 

 と、何が琴線に触れたのか自棄にも見える勢いで姫様は嘯く。

 

「そもそもの話からして、貴方は私の下僕なのに【ラビュリンス】デッキを持っていない事が間違っていたのよ!!

 貴方には!!特別に!!貴方だけに!!この私を!!使う権利を!!あげるわ!!

 だ、か、ら、今すぐデッキを作りなさい!!」

 

 俺が気後れしているのにも気付かず、姫様は喚き散らしているようにしか見えない剣幕で許しという名の命令を降す。

 

 【ラビュリンス】を組むのに問題はない。

 

 勝つ必要がある場合は【ラビュリンス】か【蟲惑魔】を使っていたので回し方も分かっている。

 

 だが、本当に姫様を使っていいのか?

 

「……それとも、やっぱりドリアードの方が良いの?」

 

 躊躇していると、何故か姫様が萎れて泣きそうになりながらそう訊いてくる。

 

「そうではありません。

 お許しを戴いたとはいえ、やはり姫様を使う事に躊躇を抱いてしまったのです」

「そんな必要ないわよ!!

 貴方は私のは、伴侶なんだから使うぐらいなんてこと無いのよ!!

 むしろ使いなさい!!

 貴方の手腕を以て私を最強無敵の超絶美人であることを精霊界中に知らしめるのよ!!

 オーホホホ!!」

 

 は? ……配下?

 

 立場の辺りで妙に口籠られたが、とにかく【ラビュリンス】を作るのは確定なのだろう。

 

 漸くいつもの姫様らしい様子を見せてくれた事に内心ホッとしつつ、俺は早速カードの選別を頭の中で開始する。

 

「……そうだ」

 

 そこでふと、【ドリアード】【霊使い】と一緒に最初から持っていたカードの事を思い出した。

 

 かなり強いカードでラビュリンスとの相性もかなり良い。

 というか、使うなら専用構築するかラビュリンスに組み込むんじゃなきゃまともに使えたもんじゃないカードなので、使うなら今だろう。

 

「姫様。ラビュリンスに組み込みたいカードがあるので恐れながら引き出しから赤いデッキケースを持って来て頂いても構いませんか?」

「ええ。よろしくてよ!」

 

 嬉々とした態度で赤いデッキケースを持ってきた姫様からケースを受け取り、中に入れていた3枚のカードを広げる。

 

「………ねぇ執事。

 本当に()()をラビュリンスに組み込む気なの?」

 

 珍しく本気で怯えた様子でそう問い掛ける姫様に俺はええ。と頷く。

 

「『向こう』では割りと見る組み合わせでしたよ。

 要求する枚数もこれで事足りますから調整も楽ですし」

「……貴方の居た世界って、やっぱり怖いわ」

 

 そう引き気味に言う姫様に、理解こそ出来るが価値観が違うよなぁと改めて感じた。

 




執事は自分の発言の重みを全く理解してません。

昔好きだったカードが強くリメイクしてたからエースカードにしたんだよ程度に語ってますが、カードのイラストの人物が実在し、自分の語った言葉がどう受け止められるか分かってません。

まあ、いまだに好意を言葉に出来ない姫様にも問題はありますけどね。

























 部屋から飛び出した姫は胸を締め付ける感情に我慢できず目茶苦茶に走った。

 彼は昔使えなかったから選んだと言っていたが、それを嘘だと思い知らされた。

 ならばあの時、ドリアードが『騎士』に敗れた時あんな顔をしたの?

 そう問い質したくて、しかしその答えを聞くのが怖くて逃げ出してしまった。

「嘘つき」

 ずっと好きだったんだんでしょう?

 ずっとずっと逢いたくて、でも叶わなくて、それでも忘れられなくて、そして漸く想いが叶ったドリアードを倒されたからあんな顔をしたのでしょう、と、そう聞いて肯定されるのが怖かった。

「嫌」

 渡したくない。

「嫌」

 誰にも渡さない。

「絶対に嫌!!」

 執事は私のものだ!!

「負けない。
 私は、貴女にだけは絶対に負けない!!」

 いつの間にか正面に立っていた【精霊神后ドリアード】に【白銀の城のラビュリンス】は宣言する。

「悔しいけれど、今は貴女が彼の1番である事を認めます。
 ですが、最後に彼の隣に立つのはこの私よ!!」

 指を突きつけ宣言する姫にドリアードは何も語らず静かに消えていった。

「ふん! せいぜい高みから見物してなさい!」

 宣戦布告を済ませた姫は早速一手目を打つことに決める。

「そのためにはそうね、先ずエースカードを私に塗り替えてやるわ」

 心を奪うなら先ずはデッキから染め上げてやると、姫は自室に置いてあるデッキを取りに走り出した。
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