迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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ちょっとニュースのショックが大きく書く手が暫し止まっておりました。


姫様の中で俺は相当脆弱らしい。

 俺のデッキに新たに【ラビュリンス】が加わり数日がたったある日、静養を続ける俺に『騎士』が面会しに来た。

 

「傷を完治させるアテが見付かった」

 

 実のところ、俺の怪我はどうしようもないレベルの重症であり、回復のエキスパート【アロマ】【サンアバロン】といった回復に一家言あるモンスター達や懐古厨ぐらいしか知らないだろう『天使の生き血』といった回復アイテムでも後遺症を取り除けないほどだった。

 

 素直に義肢に変えたほうが早いし無難だと言われたが、姫様はそれに猛反対。

 

 『騎士』も傷を治すのは誓約した事だと納得せず、日常の一部となっていた城への襲撃も控えて完治させる可能性が高い『治療の神ディアン・ケト』を探してあちこち走り回っていた。

 

 神なのだから天に居るのではと思ったが、聞いたところディアン・ケトは婚活のために天界を出奔しているらしい。

 

 自分は聞き齧り程度にしか知らないが、ラッシュデュエルという遊戯王の最新版でディアン・ケトが若返った姿で新規カードになっているらしく、この世界の彼女の時間軸はそちらに合わされているようだ。

 

 神様が婚活ってどういうことなの?

 

 もし元の世界に帰るような事があればラッシュデュエルについて調べておこうと頭の片隅に留めていると姫様が『騎士』に問う。

 

「それで、ディアン・ケトはどこに居るのかしら?」

 

 以前より棘を含んだ姫様の態度を気にした様子もなく『騎士』は答える。

 

「ディアン・ケトはまだ見付かっていない。

 代わりに腕のたつ魔法使いは見付かった」

「『アロマ』でさえ匙を投げた傷を治せると?」

「見せる価値はあると思う」

 

 いつもと変わらない饅頭頭を思い出させる抑揚の殆ど無い声でそう嘯く『騎士』。

 

「そう。それで、その魔法使いは何処に居るのかしら?」

 

 連れて来なさいと促す姫様に『騎士』は首を振る。

 

「ちょっと事情があって来る事は出来ないらしい。

 だから、こちらから行く必要がある」

「今の執事を外に出せと?」

 

 怒りを滲ませる姫様。

 しかし『騎士』は必要ならと変わらず言う。

 

「私は構いませんよ」

「駄目よ。魔法で表面的な痛みは感じていないでしょうけど、貴方が絶対安静なのは変わらないのよ!」

 

 後遺症はあるものの日常生活に大きな障りは無くとも、姫様は駄目だと我儘を言う。

 

 それが自分の身を案じてのものである事に確かに喜びを感じながら俺は姫様に言う。

 

「姫様。元を正せば私にも責任があります。

 それに、最近運動不足気味で腹回りが気になりだしたので、リハビリがてら少し散歩に出ると思って頂けないでしょうか?」

「でも…でもぉ……」

 

 言いたい事を理解してくれたようだが、しかし納得出来ないと唸る姫様を横に俺は『騎士』に問う。

 

「『騎士』殿。

 件の御仁の下に向かうのはどの程度かかりますか?」

「場所が特殊だから移動陣を使った直接転移は出来ないが、往復合わせても3日で済む距離だ」

「3日もお世話しなかったら執事が飢え死んじゃうじゃない!!」

「姫様。一応一人暮らしの経験ぐらいありますので流石にソレはないです」

 

 まるでケージで飼っているハムスターみたいな扱いに流石に物申させてもらう。

 怪我をしてからというもの姫様は俺に対し過保護気味になってしまっている。

 自分達と違い『死者蘇生』が効かず、一度死んだら終わりということを強く感じてしまった事に臆病になっているのだろう。

 暫くすれば落ち着くだろうと思っていたが、今の反応を見るにここいらで軽くショック療法を試したほうがいい気がしてきた。

 

 そういう意味でも城を留守にするのはいい機会かもしれない。

 

 どう姫様を説得しようかと頭を悩ませていると、軽いノックの音と共にアリアスが部屋にやってきた。

 

「失礼します。

 姫様。火急の件です」

 

 そう言うと姫様の耳元に顔を寄せ、俺達に聞かさないよう耳打ちした。

 

「っ!? 分かったわ。至急支度を始めなさい」

「畏まりました」

 

 驚いた様子の姫様はアリアスにそう言ってから俺達に顔を向ける。

 

「急な客人がいらっしゃるみたいなの。

 執事。貴方は『騎士』と一緒に件の御仁の下に向かいなさい」

「宜しいのですか?」

「ええ。執事にはまだ関わるには少し早い理由があるの。

 だから、席を外すついでに傷を完全に癒やしてきなさい」

 

 そう言うと立ち上がり『騎士』を見据える。

 

「執事を頼むわね」

「ん。任された」

 

 どうやら『騎士』の方は事情を把握しているらしく阿吽の呼吸で了解を済ませた。

 

「姫様。執事の旅支度の荷物の用意が整いました」

「姫様〜。執事用に設えておいた外套とブーツをお持ちしました」

 

 良すぎる手際にどうしてと問う間もなくアリアーヌとアリアンナの手で旅支度を整えられ、あっという間に正面ホールへと運ばれていく。

 

「後、これも忘れちゃ駄目よ」

 

 と姫様は【霊使い】【ドリアード】【ラビュリンス】のそれぞれのデッキが入ったケースを持たせそのまま締め出すように扉を閉じてしまった。

 

「それじゃあ行こうか」

 

 あまりに急すぎて固まる俺を促しながら転移魔法の書かれたスクロールを広げる『騎士』。

 

 …あの、今回ばかりは本気で分からないので誰か説明して欲しい。

 

「先に言っておくけど姫が教えていないなら私から語ることはしないよ」

「……」

 

 機先を封じる『騎士』の言葉に出かけていた質問を引っ込め、俺はもう一つの質問を投げ掛けた。

 

「ならば、せめてどこの誰のもとに向かうのかは教えていただきたい」

「それなら構わないよ」

 

 転移魔法を発動しながら『騎士』は言った。

 

「行き先は【魔法族の里】。

 目的の相手は【ブラック・マジシャン】だよ」

 

 まさかのビッグネームに驚くと同時に、俺はとても大きな疑問に襲われた。

 

「ブラック・マジシャンって、攻撃魔法のエキスパートじゃなかったっけ?」

 




次回は魔法族の里で色々出会います。
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