迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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サクッと決着。
それと『スタンダード次元』でリアルファイトが見逃されていた理由を自分なりに考え盛ってみますた。


難しいからこそ頑張らないといけないんだよ。

 それは正に『地獄』であった。

 

 相手を無残に引き裂く刃と撃たれれば挽肉になる事を避けられない重火器を手に二体の悪魔狩りは得物をいつ振り下ろそうかと凶暴に嗤っている。

 怪盗然とした出で立ちの美丈夫はその手に未来を書き換える力を弄びながらその機会を油断なく伺っている。

 巨大な鋼の機竜は翼を畳み主に顔を擦り付け甘えるような仕草をしているが、一度動けと命じられれば相手を丸呑みにしてやろうとその牙を研ぎ続けている。

 その中心に杖を手にした少年が立ち、暗い瞳でこれから始まる処刑を無感動に眺めていた。

 

 それら一体でも勝鬨を殺すに足る強力なモンスター達の殺気が勝鬨を打ちのめし抗おうという意志を飲み込んで心がへし折れる。

 

「俺の、ターン。ドロー」

 

 引いてきたのは【強欲で貪欲な壺】。

 正に欲しいカードだった。

 手札が増えれば逆転に手が届くかもしれない。

 

 だけど相手はそれを許さない。

 

「スタンバイフェイズに入るならリダンの効果が発動する。

 デッキトップをエクシーズ素材に加えるから公開しろ」

 

 慈悲の欠片も伺わせない残酷な宣言に抗う権利もなくデッキトップを公開する。

 

 【沼地の魔獣王】

 

 優秀な融合素材だが、それが手の中から消え執事のフィールドで冷たい笑顔を浮かべる美丈夫の手の中でひらひらと弄ばれていた。

 

「メインフェイズ…」

 

手札を改めて見る。

【アサルト・アーマー】

【増援】

【強欲で貪欲な壺】

【回避】

 

 いつものデュエルなら巻き返すのに十分な手札だ。

 しかし今発動してもそれらは全て執事のフィールドのカードに無効にされ使うだけ無駄に終わるだろう。

 何も出来ない。

 何かをする事は許されない。

 アクションカードをセットしバーンダメージを無効化するカードを掴んだとしても自分のターンに死ぬか相手のターンに死ぬかの違いしか無い。

 そもそも望むアクションカードを拾えた所で発動させてもらえないのだから何も変えられない。

 させてもらえる事はただ一つ。

 

 ターンエンドと宣言し自分から死を迎えること。

 

「お前は、何のためにデュエルをやっているんだ?」

 

 屈辱さえ贅沢に思える状況で勝鬨はどこまでも冷徹で氷の様な怒りを構えながら、なのに不気味な程に敵意を向けてこない執事にそう問いを放った。

 

「……」

 

 問いに執事は目を閉じ、数秒の間を開けて言葉を発した。

 

「『ルールを守って楽しくデュエル』」

「…何?」

「俺が掲げるただ一つの決まりだ」

 

 執事は嘯く。

 

「だがそれは難しい事だ。

 襲い掛かる誘発と妨害の嵐にやりたい事は殆ど妨げられ完成するのは理想と掛け離れた妥協に満ちた寂しい盤面。

 そんななけなしの盤面は相手のターンに踏み荒らされ滅茶苦茶に壊され禿山のような荒野の前で相手の並べる絶望的な縦列をただ眺めるだけ。

 そんなのが当たり前の世界で楽しいと思えるほうが難しい」

 

 どんな当たり前だと思い、しかし執事の盤面を見渡せば正に言う通りの状況だった。

 

「『誘発握っていないほうが悪い』。

『効果を把握せず止めにいかなかったほうが悪い』。

 それが俺が『精霊界』に来る前の世界でデュエリストが最初に学ぶ言葉だった。

 そんなことばかりがまかり通るゲームだけど、俺はそれでもデュエルモンスターズが好きだ。

 思い通りにいくほうが稀で、勝てるほうが珍しくなってもデュエルから離れたくないんだよ。

 だからせめて、勝つにしろ負けるにしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()だけは心掛けている」

「……」

「どんなに強いデッキも、ワクワクするような面白い展開を見せられても、それを振るう担い手の態度が悪ければ得られた感想は『凄いデッキだったけと対戦相手の態度が酷くて最低の気分にさせられた』になってしまう。

 そんな気持ちを相手にさせたくはない。

 だから俺は礼儀を払いデュエルの内容以外で相手が不快にならないよう努めて、デュエルを終えた後に『対戦ありがとうございました』と互いに言い合えるような態度を心掛けている」

 

 そう語り終えた後、会場は異様な程静まり返っていた。

 自分の言葉が少しでもいい影響を、遊矢の裡に眠る『彼』が穏やかになれればいいなと思いながら執事は続きを促した。

 

「まだお前のターンだ。

 メインフェイズに何かあるか?」

「……」

 

 勝鬨は少し間を置き「ターンエンド」と告げた。

 

「エンドフェイズにデーモン・イーターの効果を発動。

 ラクリモーサを破壊し自身を特殊召喚する。

 破壊されたラクリモーサの効果を発動。

 墓地のサロス=ナンナをデッキに戻し1200ポイントのダメージを与える」

 

 デモンスミスがガトリングを宙に放るとガトリングは再び棺へと姿を変えながら勝鬨へとデュエルを終わらせる光が放った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!??」1100→−100

 

 デュエル終了のブザーが鳴り、モンスター達が役割は終わったと姿を消していく。

 

「……」

 

 告げることは無いなと執事は控室に戻るため背を向けると「待て」と勝鬨が起き上がりながら執事を呼び止めた。

 

「なんですか?」

「……すまなかった」

 

 それだけ言って頭を下げる勝鬨に執事は何をと言わず、振り向いてから言うべきことだけを告げた。

 

「謝罪は受け取ります。対戦ありがとうございました」

 

 そう告げて控室へと戻ると、複雑そうな顔で赤馬零児が待っていた。

 

「どうしました?

 御自身の控室に居なくて宜しいのですか?」

「すぐに貴方に言うべきことがあります」

 

 そう言うなり零児は執事に頭を下げた。

 

「私の計画が『スタンダード次元』を歪ませ貴殿に不快な思いをさせた事を謝罪します」

「……どういう事ですか?」

 

 訝しむ執事に零児は語る。

 

「父、『赤馬零王』が『次元戦争』を計画したのを知った私は父の野望を阻み『融合次元』からの侵略を防ぎ逆に侵攻する精鋭部隊を作る計画を立てました。

 しかし当時の『スタンダード次元』にはエクストラデッキを活用する技術と知識に乏しく普及率も低かった。

 このままではアクションデュエルという唯一の武器があっても『融合次元』に成す術もなく侵略されると考えた私は…」

「『梁山泊塾』などの身体技術にも目を向ける組織を優遇しデュエルに暴力を持ち込むことへの抵抗感を下げる事で対抗手段に仕立て上げようとした…ですか?」

 

 零児は何も答えず悔いるように顔を歪ませる。

 

「……誰でも楽しくデュエルができる環境にしてください。

 私から言える事はそれだけです」

 

 零児の行いは父と同じだと批難するのは簡単だ。

 だが、世界を守ろうと思い付く全てに手を出さざるを得ない状況だったのは間違いなく、手段を選んでいられるほど当時の零児に選択肢がなかったのは事実なのだ。

 時系列を考えれば赤馬零王の次元戦争の概略を知った当時の零児はまだ中学生前後。

 戦争に備え世界を守る手段をただ一人で考えろと押し付けられたそんな子供に、諸悪の根源は貴様だなんて怒りの鋒先を突き付ける事は執事には到底無理であった。

 

「全力を、いや、生涯を賭けてでも成し遂げます」

「覚悟は大事ですがそれではいけません。

 『誰でも』の中に零児くんも入っていなければ意味がありません。

 お互いに勝ち上がれば君と私は対戦することになります。

 その時は、全力を奮い()()()()()()()

 

 そう言外に赦しの言葉を伝える執事に零児は瞠目し、改めて頭を下げた。

 

「それでは試合が近いので失礼します」

 

 そう言って退室していく零児を見送り、一人になると執事は徐に口を開いた。

 

「見てたんだろアリアス?」

 

 そう問うと「まあね」と言いながらアリアスが姿を現した。

 

「言っとくが零児君にも『梁山泊塾』にも報復は無しだぞ?」

「何も無しにはその要求は聞き入れられないよ?

 姫様の作品に傷を入れ執事君に怪我をさせたんだから、それなりの理由が無ければ手は引けないね」

 

 既に報復の準備は進んでいるのだろう。

 笑顔の奥に凄味と邪悪さを滲ませるアリアスに執事はため息を吐く。

 

「子供の必死な足掻きが生んだ失敗に本気でキレ散らかすなんて大人気なさすぎる。

 俺達には時間はたっぷりあるんだ。報復するにしてもこの世界が努力する人間達を顧みず()()()()()()()()()()()にならないと決まってからでも遅くはない」

 

 アリアスから見れば甘過ぎる判断だが、しかし執事の言う事に一理はある。

 

「本当に君は。

 なら、眼鏡を直す姫様の機嫌もしっかり直してくれ給えよ?」

「当然だ。

 なんなら本気で第三子を作るつもりで可愛がって差し上げるさ」

 

 それを試みる前に姫様がいっぱいいっぱいになって通信切れ()なさるだろうなぁと思いながらアリアスは曖昧な顔で「まあ、頑張ってくれ給え」と心にもない応援をする。

 

「それにだ」

「それに?」

「ハゲに嫌がらせをする素晴らしいネタが転がり込んできたんだ。

 全力で使わないと勿体ない」

「君も中々に悪魔らしさが板についたようだね」

 

 のたうち回るだろう赤馬零王の姿を想像して邪悪に嗤う執事にアリアスは実に愉快そうに嗤うのだった。




次回はこのまま舞綱チャンピオンシップを続けるか、或いは結果は想像に任せて他のエピソードにしようか…

アニメ見たせいでこの世界でのアルエク(砂糖マシマシ)な話書きたい欲が高まってるし…迷う。
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