迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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今更な話ですが、現在の執事の手持ちに精霊は殆ど居ません。

手元には喚び出すのは洒落で済まない一部だけを残して息子の勉強のために貸し与えたからです。

なので相棒も頼れる部下も嫁の分霊も手元には居ないという…。


神は死んでも悪魔は嗤う(5)

「俺は…」

 

 視線はカードに注がれ続けたままカイトは何かを振り切るように言葉を紡ごうとするが、しかし口から意味を成す言葉は出て来ない。

 もう少し揺さぶらねばならない様だ。

 

「何を迷うのですか?

 貴方の怒りは誰かに恥じるものではありません。

 裁かれるべき悪に天誅を!

 貴方の憎悪に正しき応報を!

 善因善果。貴方が耐えてきたこれまでが今から報いを得る時です!!

 さあ!この力を手に『融合次元』に貴方の怒りを知らしめなさい!!」

「俺の…怒り…」

「愛する家族を奪われた痛みは同じ痛みを相手に与えねば癒やされない!

 奪いなさい怒りのままに!壊しなさい憎しみのままに!

 誰も貴方を止める権利はない!何故なら、貴方の望みこそ正しき義、即ち『正義』なのだから!」

「俺の望み…正しき義…?」

 

 その言葉にカイトはカードから視線を外し、焦点を結ばぬ瞳で虚空を見上げ、そして瞳が像を結ぶや否や伸ばした手を強く拳に握り直して()を睨んだ。

 

「俺の願いを勝手に決めつけるな!!」

 

 カイトは激情を露わにしながら、しかし全くと言っていい程()に敵意を向けずに声を張り上げる。

 

「俺の望みはハートランドシティから、父が作ったこの街から『アカデミア』を一人たりとも逃す事なく追い払う事だ!!」

 

 そう喝破するカイトに()は内心で花丸を与えながら、しかしと邪な感情を煽るように嘯く。

 

「自らの復讐心より父の偉業を守る方が君にとっては重大だと。

 成程。成程。確かにそう決めていたのであればそれ程の怒りと憎しみを抱えてなお君が未だ『エクシーズ次元』に留まり続けているのも納得出来ますよ。

 ですが、だからこそ私は君を楽にしたい。

 なので敢えて現実を口にしましょう。

 既にハートランドシティは()()()()()

 都市機能はとうに失われインフラが死に絶えたこの都市は既に夢の跡と言わざるを得ない。

 だからこそ君もこの街を諦め、自らの憎悪の儘に復讐の徒となりその慚愧を晴らすべきです!」

「黙れ!! ハートランドシティはまだ終わってなどいない!!

 この街にはまだ俺がいる!!

 俺は必ずたとえ生涯を費やそうと絶対にハートランドシティをかつての素晴らしい街へと蘇らせてみせる!!」

 

 その目には怒りと憎しみ、そしてそれを遥かに凌駕する決意の光が宿っていた。

 それは人間だけが持つ魂の輝きが溢れ出たもの。

 人ならざるものが思わず手を伸ばしてしまうこの世で最も美しい命の煌めき。

 

 憎しみは消えずともその輝きを取り戻したカイトに俺は演技を終えるためやれやれと態とらしく肩を竦める。

 

「取り付く島もないとは正にこの事ですね。

 君の覚悟は理解しました。

 なれば私も手を引きましょう」

 

 そうデュエルモードをオフにしてフィールドのモンスター達を送還し拘束していた『アカデミア』の兵を解放する。

 

「彼等はどうしますか?

 生き残りの鬱憤晴らしに差し上げて凌遅刑にでもしてしまいますか?」

「これ以上街を汚すような事を口にするな。

 ディスクを取り上げてから拘束して沙汰は後で考える」

「畏まりました。

 手伝ってもらえますか黒咲君?」

 

 陰で様子を伺っていた彼等にそう呼び掛けると警戒しながら全員が姿を現した。

 

「白銀、貴様…」

「言いたいことは彼等を拘束してからにしましょう。

 なあに、時間にはまだ猶予がありますからね」

 

 そう言って倒れている『アカデミア』の兵士からデュエルディスクを外していくと不承不承という様子ながらも拘束を手伝ってくれた。

 間もなく『アカデミア』の兵士達は纏めて縛りあげられ、一息着いた所で最初に零児君が俺に問いかけた。

 

「先程貴殿は過激な発言をしていたが、本当に出来るのか?」

「次元を滅ぼすことですか?

 ええ、まあ、流石に次元ごととなると楽ではありませんが、人類文明ぐらいならやろうと思えばさほど難しくはありませんので」

 

 そう言って俺は【原始生命態ニビル】をカードケースから引き抜いて見せる。

 

「例えばこのニビルは一切の加減なく呼び出せば惑星単位の大災害を引き起こし百年単位で終わらない冬を開始させられますよ。

 今の時代の人類には百年の氷河期は越えられないでしょうね」

「っ!?」

「他にも惑星単位での破壊を可能とするカードは何枚か持っていますので、それらを解き放てばそれなりに労力は掛かりますが次元一つ位は滅亡させられます。

 勿論おいそれと使ったりはしませんよ? する意味がありませんから」

 

 言うまでもなくそこまでの規模でやるなら自前で賄えきれないほどのデュエルエナジーが必要なので前準備なしに【召喚】は出来はしないが、『出来ない』と『やらない』では天と地ほど違う。

 

「貴様はこの世界をどうするつもりだ!?」

「どうもしませんよ。

 私は招かれざる異邦人。

 カイト君が憎しみを晴らしたいというならお手伝いするつもりでしたが、その意志がないというなら何もしません。

 クソハゲは別ですけどね」

「何故、それ程までに父を憎む!?

 一体貴殿と父の間に何があったと言うんだ!?」

 

 個人的な恨みは事態解決のために寝る間もないドブラック勤務を強要された事だが、流石にそれを言うのは零児君が可哀想になるので言うつもりの無かったある次元の終演の真実を語ろう……。

 

「その前にですが、一人招かれざる客人が居るようですね」

 

 【無限地獄サンアバルーン】をディスクから外し、デッキケースに手を持っていきながら俺は気配の先を向く。

 

「隠れていないで出てきたらどうですか?

 それとも『アカデミア』では騙し討ちのやり方しか教わらなかったのでしょうか?」

 

 俺の言葉に敵襲が起きたのだと理解した一同が緊張を過ぎらせる中、ローブで全身を隠した人物が姿を見せた。

 

「貴様達か。ボク達『アカデミア』に未だ抗う者達は」

 

 …この声、『石◯彰』?

 

「その言い様、貴様も『アカデミア』か!?」

 

 推定『アカデミア』の兵士を前に黒咲君とカイト君が真っ先にデュエルディスクを構える。

 

「待ちなさい」

 

 静止を呼び掛けると、何故か全員が悍け立つ様に背を震わせ慌てて()へと振り向いた。

 

「申し訳ありませんが、少しばかり確かめたい事が出来ました。

 ここは私に譲ってもらいますよ」

 

 なんでそんな顔を強張らせているのか不思議に思いながら()は彼らの横を抜けて前に立つ。

 

「初めましてと言っておきましょう。

 お名前をお伺いしても宜しいですか?」

「貴様に名乗る必要は無い」

「…そうですか」

 

 メタ的に別のキャラを彼の声優が担当していただけであるなら、まあ、そんな事もあるかで済む。

 だがもしも、俺の予想通りだと中々に殺意が抑えられなくなりそうだ。

 

「ならばそのフードぐらいは外したらどうですか?

 それとも容姿にコンプレックスがあるとか?

 でしたら構いませんが」

「……いいだろう」

 

 挑発に男がローブを脱ぎ捨てる。

 そして露わになった正体が俺にとって耐え難い怒りを齎した。

 

(やはり『エド・フェニックス』だったか…)

 

 『遊城十代』が主役のアニメ第二弾の登場人物であり、俺が関わった『融合次元』では『アカデミア』に参加せずプロデュエリストとして活躍していたのだが、どうやらこの世界では『アカデミア』に与していたらしい。

 十代と並んで大好きだったキャラが狂言に惑わされ、悪逆を働いている姿を見せ付けられるのは中々にキツイものがあるな。

 

「……どうやらクソハゲを本気で潰すだけの理由がまた一つ増えたみたいだな」

「どういう意味だ?」

「別に。私が昔、貴方とよく似たプロデュエリストのファンだったという、貴方には関係のない話ですよ」

 

 俺が好きだったのは十代の仲間のエド・フェニックスだ。

 コイツではない。

 俺は『カード化』したデッキケースの一つを解放し、『オシリスレッド』の意匠が施されたデッキケースからカードを抜き取りディスクにセットする。

 

(『彼等』を戦争に関わらせるのは気が引けるが、こいつには『彼等』をぶつけなければ俺の()()()()()()()()()

 だから悪い。借りるぞ、十代!)

 

 俺がデュエルディスクを起動するとエドも『アカデミア』のデュエルディスクを起動する。

 

「「デュエル!!」」

 

 手番は『後攻』。

 

「ボクのターン!

 手札から魔法カード【融合】を発動!」

「こちらからチェーンはありません」

 

 いつものように発動効果は無いと宣言するとエド・フェニックスは「ほう?」と感心したように漏らした。

 

「貴様、プロデュエリストか?」

「少し前に現役は引退しましたけどね。

 今はさる御方にお仕えする一介の執事です」

「そうか。

 ボクは手札の【D-HERO(デステニーヒーロー )ディスクガイ】と【D-HERO(デステニーヒーロー )ドリームガイ】の二体をセメタリーに送り融合召喚!

 運命を刻みし英雄よ、夢の世界の英雄よ、今一つとなりて暗黒の未来に君臨せよ!

 カモン!【D-HERO(デステニーヒーロー) ディストピアガイ】!」

 

D-HERO(デステニーヒーロー) ディストピアガイ】

融合・効果モンスター

星8/闇属性/戦士族/攻2800/守2400

「D-HERO」モンスター×2

「D-HERO ディストピアガイ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、

自分の墓地のレベル4以下の「D-HERO」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードの攻撃力が元々の攻撃力と異なる場合、

フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊し、このカードの攻撃力は元々の数値になる。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「召喚成功時にディストピアガイのエフェクト発動!!

 墓地のディスクガイを選択しその攻撃力分のダメージを与える!!」

「チェーンありませんっ!?」4000→3700

 

 ディストピアガイから放たれた波動に堪えきれず苦悶が溢れる。

 バーンは軽いが落とした素材はどちらも有用。

 誤った理想に傾倒してようとタクティクスに陰りはないらしい。

 

「ボクは更にフィールド魔法【サモンブレーカー】を発動し、カードを伏せてターンエンド」

 

【サモンブレーカー】

フィールド魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、

ターンプレイヤーがそのターン3回目の召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、

そのターンのエンドフェイズになる。

この効果はメインフェイズ1でのみ発動する。

 

 成程。エクシーズデッキには実に嫌な一枚だ。

 エクシーズ召喚はその特性上どうしても三回の特殊召喚を必要とするが、メイン1で強行すれば【サモンブレーカー】の効果でエンドフェイズに強制移行され、メイン2まで待てば盤面は広げられるが高打点モンスターを呼べても耐性や妨害の枚数次第では次の自分のターンまで生き残らせるのは難しい。

 

「私のターン。ドローフェイズ、ドロー」

 

 さて、そんな盤面に対し俺の手札は…

 

【融合】

【超融合】

【フュージョン・デステニー】

【ダーク・フュージョン】

【ダーク・コーリング】

E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネオス】

 

 死亡寸前の超絶手札事故を起こしていた。




最初はカイトの心情とか結構書いてたのですが、推敲する内に「こんなうだつくのはカイトじゃねえ!!」と解釈違いを起こして全削除からの決意マシマシガンギマリカイトの決意表明だけが残りますた…。

勿論執事もカイトが残っているのは街のためだろうと当たりをつけてましたが、その若さで抱くような悲痛な覚悟じゃねえ!!??となり、カイトの本気を確かめつつ誘惑に堕ちるなら全力でサポートするつもりで悪魔の囁きを仕掛けました。

因みに手札事故はデッキ内のDHERO達が解釈違いだとブチ切れて初手に群がろうとしたけど、んなことしたらどうしょうもない手札事故で乙ると他のHERO達が総出で抑え込んだ結果、ネオスが融合札抱えて初手に向かわねばならなくなったという裏話があったりします。

【おまけ】

とある日の一幕。

その日、屋敷に遊びに来た十代は困った様子で俺に頼みを持ってきた。

「執事さん。
 このカードを預かってて欲しいんだ」

 そう言って渡されたカードを見た俺は、十代がなんでそんな顔をしているのか理解した。

「預かるの構わないが、何故俺に?」
「本当は俺が受け止めなくちゃならないってのは分かっているんだけど、やっぱりまだ難しいみたいでさ。
 執事さんならこのカードを活かせるデッキが作れると思ったから、せっかくだから使って欲しいんだ」
「分かった。十代の気持ちの整理が着くまでこのカードを預かるよ」
「ただ、デッキを組むのにいいカードも手持ちの中にあった筈だから組んで使うのは出来なくないが、このカードを組むに辺りどうしても足りないカードがあるのがな…」
「それってやっぱり?」
「ああ。【ネオス】だ
 【アナザー・ネオス】は有るから代用は出来なくないが、ネオス抜きでこのカードを使うとなると構築難易度もさることながら俺の引きの強さでどこまで通用するか」
「それなら大丈夫だぜ!
 ネオスに相談をしたら執事さんのために新しいネオスを作ってくれるって」
「そいつは願ってもないが、いいのかネオス?」
『勿論構わないとも!
 十代の友人である君に迷惑をかけるのだ、これぐらいの甲斐性は見せないとな!』
「そうか。じゃあ、遠慮なく作らせてもらうよ【E-HERO(イービルヒーロー)】デッキをな!
 気が向いたらHERO対決しようぜ!」
「ああ!その時は全力で楽しもうな!」
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