迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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診察回です。

繋ぎ回なので短めです。


どうやら俺はデュエルから逃げられないらしい

「成程。原因が判ったぞ」

 

 傷跡を確認し幾つかの問診を挟んだ後、ブラック・マジシャンはさも当然とばかりにそう言った。

 

「結論から言うと貴様の傷は完全に完治している」

「然し乍ら現に現れている後遺症はどうしてだ?」

 

 俺に変わって『騎士』がそう訊ねると、ブラック・マジシャンはフンと鼻を鳴らす。

 

「治っているのは()()()で、いや、正確に言うなら後遺症が発生した理由は()()()()()()()()()()()だ」

「どういう事ですか?」

 

 治療方法に問題があったのだと語るブラック・マジシャンは陶器のコップを持ち出すと徐ろに水を注ぎ入れた。

 

「このコップが貴様の身体だとしよう。

 貴様はこの状態のコップが壊れたとして、元に戻せと言われたらどうする?」

「無理ですね。

 新しいコップと水を用意します」

「コップだけでも直せと言われたら?」

「どうにかは出来ると思いますよ」

 

 陶器のカップなら接着剤でくっつけてやればなんとかなるかもしれない。

 

「だが、精霊界の魔法なら中身の水ごとコップを元の状態に戻せてしまう」

「そう…」

 

 ですねと言いかけた所で、ブラック・マジシャンが言わんとすることがなんとなく見えた気がした。

 

()()()()()()()()()()()()()と無意識に認識しているということですか?」

「正確に言うなら『魂』が()()()()()()()()()()()()()()()()と思い込んでいるんだろう」

「どうしてそのような事になっているのですか?」

「お前が自分で言っただろう?

 水が入ったコップが壊れたら元には戻せないと。

 人間界の貴様の身体は魔法による治癒を受け入れたが、魂がそれを受け入れられていない。

 起きる筈のないことが実際に起きたことで魂と肉体に齟齬が発生していることが貴様の後遺症の正体だ」

「どうしてそのような事に?」

「端的に言うなら魔力、貴様達がデュエルエナジーとも呼ぶそれが原因だ。

 貴様がどういった経緯を辿って精霊界に来たかは知らんが、貴様の魂から魔力をほとんど感じられない。

 おそらく貴様はデュエルとはほぼ無縁に生きてきたんじゃないか?」

「仰る通りです」

 

 遊戯王から一度引退して復帰するまでに十年以上。

 やっていた時期とて頭まで浸かるようなものではなく、小遣いに余裕があればパックに手を伸ばしてデッキを弄り対戦相手と都合が合えば週に数回やる程度だった。

 

「それが急に魔力の濃い世界に移動した事で齟齬が起き始め、急激に魔力を体内に取り込む事で決定的な不具合が発生したんだ」

 

 そう締め括るブラック・マジシャンに自分なりに噛み砕いた認識を口にする。

 

「つまり、私はいきなり船上生活を始めたために船酔いを起こした、或いは高い山を急激に駆け抜けて高山病を患った状態であると思って宜しいのですか?」

「そう考えて間違いない。

 時間を掛けて魂と肉体に魔力を馴染ませていけていれば魔力を使った回復を受けても後遺症は起きなかっただろうな」

 

 つまりデュエルが足りなかったらこうなっていると。

 

「では放置して問題ないのですね?」

「いや。貴様は早急に魂と肉体のズレを直すべきだろう。

 こんな症例は見たこと無いが、その滅茶苦茶な魔力の流れを放置すれば致命的な破綻が起きるかもしれん」

 

 思った以上に大事だった。

 

「ズレを直すにはどうすれば良いのですか?」

「大した準備は必要ない。

 貴様の魂を魔力に順応させてやれば自ずと正しい流れに回帰するはずだ。

 具体的な方法だが、魂と肉体が魔力に馴染むまでひたすらデュエルを続けろ」

 

 う〜ん。カードゲームの世界だなぁ…。

 

「言っておくが私は相手をしないぞ。

 魔力を多く使う実験を始めなければならないから余計な魔力の消費は避けたいのでな」

 

 それは残念。

 

 おそらく精霊界で【ブラック・マジシャン】テーマと戦えるのは当人だけだろうが、どうせ数をこなされなばならないなら【ブラック・マジシャン】とも久しぶりに戦いたいと思ったのだが。

 

「数を熟すなら自由都市に向かう事を勧める。

 あそこにもアリーナが有るから相手には困らんだろう。

 逆にエンディミオンは止めておけ。

 下手に目立てば徴兵されて戦争の手駒にされる可能性もあるだろう」

「ありがとうございました」

 

 あっぶねぇ…。

 

 デュエルの相手に事欠かない居場所と言われ真っ先に大都市のエンディミオンを想像していたから、警告されなければ何も考えずに向かってトラブルになっていた可能性もあった。

 

「そうだ、個人的にお尋ねしたい事があるんです」

「なんだ?」

 

 折角なので、兼ねてよりの疑問について尋ねてみる。

 

「『白銀の城ラビリンス』について御存知ですか?」

「多少はな。ソイツがご執心の姫君と隠された宝が眠っていると言う程度だが」

「その宝の正体については?」

「知らん」

 

 ブラック・マジシャンはぴしゃりと言い切る。

 

「噂では世界を支配出来る兵器だの願いを叶える至宝だの様々な憶測が飛び交いそれを付け狙う勢力もいる様だが、少なくとも俺に興味はない」

 

 自分もその程度は知っている。

 一度だけ姫様やアリアスに尋ねてみたことが有るが、姫様は知らないと言いアリアスからは答えられないと言われた。

 

 おそらく以前に言っていた『契約』に関わる何かなのだろう。

 

「そうですか。ありがとうございました」

「一つ警告しておく。

 『好奇心は猫を殺す』。

 貴様が何を考えているか興味は無いが、あまり余計な事はしないほうがいい」

 

 誰が好き好んで遊戯王世界の破滅フラグを踏みに行くものか。

 

「ええ。重々承知してますよ。

 それで、謝礼の方は如何しましょう?」

「いらん。貴様の事例はそれなりに興味深いモノだった。

 サンプルとして指の一本も置いていくなら貰い受けるが?」

「遠慮させて頂きますね」

 

 ヤベェ。目がマジだよ。

 

「ふん。ならばさっさと帰れ」

 

 そう言われ半ば追い出されるように俺と『騎士』はブラック・マジシャンの家を出た。 




というわけで執事はデュエル三昧(強制)になりました。

執事のいる次元では絶賛魔法史が開催中。

とはいえ直接関わらせはしませんけどね。

次回は一旦戻るかデュエル三昧にするか。
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