迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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死神は嗤う狂宴の舞(13)

「俺の…ターン…」

 

 今にも死にそうな顔でデッキトップへと手を伸ばす遊矢君だが、その手はカードを引く様子もなく石のように固まってしまった。

 その痛々しさに今すぐ駆け寄り無理矢理にでもデュエルを中断させてやりたい。

 だが、今それをすれば遊矢君は本当に壊れてしまう。

 今遊矢君の心を救える者が居るとするなら柚子さんだけだ。

 それがわかっているから権現坂君達も辛そうな顔で耐え続けている。

 今俺に出来ることは何かを考え、そして俺は口を開いた。

 

「遊矢君、先程私は君に言いましたね。

 『憧れは理解から最も遠い感情』だと」

「……」

 

 反応は無い。

 聞こえているか分からないが、それでも伝えねばならないと俺は告げる。

 

「そう言った理由は、憧憬や羨望という感情には多かれ少なかれ相手に対する隔意が含まれてしまうからです。

 彼は自分とは違う。

 自分はあんなふうにはなれない。

 そんな隔たりを感じる感情が諦めの感情を生み理解しようという気持ちを妨げてしまうからです。

 ですが、憧れることはなにも悪いものばかりではありません。

 憧憬は人にとって導きの光となり得ます。

 暗闇の中で輝く星や月の光のように、人生という先の見えない暗闇の中で自らが進みたい道を照らし迷わぬ為の道標となるでしょう。

 ですが照らされた道を歩くのは貴方自身だ。

 大事なのは憧れ見上げるだけでなく憧れを糧に目指して手を伸ばし前に進むことです。

 憧れて見上げるだけなのが悪いのであって、憧れを追い続ける限りいつか自分がその憧れたものとは違う何かになろうと、それこそが君自身が歩んだ道となるのです」

「前に…進む…」

 

 そうして僅かに光を宿した瞳で俺を見た遊矢君は俺に尋ねた。

 

「白銀さん。貴方にもそんな人が居るんですか?」

「勿論ですよ。私がデュエリストになりたいと思えたのも彼等のデュエルを見たからこそでした。

 とはいえ社会で生きるために一度はデュエリストの道を諦めデュエルから遠ざかりもしましたが、それでも今はこうしてデュエルで食って生きています」

「そう、ですか…」

「私が見届けた『榊遊矢』は確かに己の道を見出し歩んでいきました。

 ですが、その彼の隣にはいつも柚子さんが居ました。

 『次元戦争』で離れ離れになる事も戦争に関わることもなく大人になった『榊遊矢』と君は既に多く隔たってしまっているから君が私の知る『榊遊矢』のようになれるとは言い切れません。

 ですが、私の知る『榊遊矢』と君は同じものを抱いている筈です」

「同じもの?」

「柚子さんへの愛ですよ」

「あ…」

 

 流石に声に出すのは恥ずかしかったのか遊矢君は顔を赤らめて固まる。

 

「彼はずっと頑張っていました。

 柚子さんに映る自分が誰よりも格好良く見えていて欲しいと、自身のエンタメデュエルが彼女に笑顔を与えるようにと見ていて恥ずかしくなるぐらい必死に頑張っていました」

「柚子……柚子!!」

 

 柚子さんの名前を呼びながら遊矢君が胸を握りしめ哀切のままに叫ぶ。

 

「柚子に会いたい!!

 会いたいんだよ!!

 1秒でも早く、柚子が居ないと俺はもう自分が誰なのかさえわからないんだ!!」

 

 そう叫ぶ傍らでユート君も『瑠璃!!』と抑えていた激情に泣きながら苦しんでいる。

 十分ほどで漸く泣き止んだ遊矢君に俺は問う。

 

「遊矢君。行けますか?」

 

 その問いに、僅かだが活力を取り戻した顔で遊矢君が応える。

 

「……はい!」

 

 赤く腫れぼった目元のままぎこちなくでも笑顔を浮かべ、柚子さんへの想いを頼りに必死に踏ん張る姿に心配する気持ちを押し留め俺は促した。

 

「さあ、今の君が出来る限りのエンタメデュエルを見せてください」

「わかりました。

 それでは暫しお付き合い願います」

 

 そう前置くと遊矢君は両手を大きく振るって仰々しく宣った。

 

「レディース&ジェントルメン!

 お恥ずかしい所を多く晒して参りましたが、これより榊遊矢によるエンタメデュエルの真髄をご披露させていただきます!

 と、その前に今の状況がどうなっていたか忘れてしまった方もおりますでしょうから少しばかりおさらいしていきましょう」

 

 そう言うと遊矢君はフィールドを注目するように腕を前に出した。

 

「私が挑ませて頂いております『白銀ユウタ』氏。

 彼の巧妙なる手腕により私は現在非常に苦しい状況に立たされております。

 私のフィールドには五体のモンスターが居りますが、セットされた二体のモンスターをリバースしなければ攻撃することは叶いません。

 ならば表側表示にすればいい?

 確かにその通りですが、そう簡単な話では終わりません。

 伏せられたモンスターは白銀氏より送られたモンスター。

 強壮にして緻密なタクティクスを奮う彼が放ったのだからきっと恐ろしい効果が潜んでいるでしょう。

 それでは私の運命は如何ようになるのか、先ずはデッキに教えてもらいましょう!

 ドロー!」

 

 カードを引きそれを見た遊矢君の笑みに力が宿る。

 

「これはいいカードです。

 さて、メインフェイズを開始したいと思いますが、その前に白銀氏は相手ターンにも手札や墓地からカードを使う事が出来るデュエリストなので確認しておかねば失礼というもの。

 白銀さん。メインフェイズまでに使う効果はありますか?」

「いいえ。今の私に今現在使える効果はありません」

「畏まりました。それではメインフェイズを始めましょう。

 私は先ず、白銀氏が送られたリバースモンスターを反転召喚致します」

 

 遊矢君の宣言にフィールドの宝箱が開き中からデフォルメされた悪魔が飛び出してきた。

 

「【ミミグル・デーモン】のリバース効果は…

 自身の手札を一枚捨て、相手は一枚ドロー!?

 これは非常に手厳しい効果ですね!」

『そうだろうそうだろう!

 宝に目が眩んだ間抜けには良い薬だわい!』

 

 デーモンの効果に驚く遊矢君に気を良くしたマスターが呵呵と笑いながらそう嘯く。

 

「では私は一枚引かせてもらいますね。

 そしてそうですね…」

『吾輩が選ぶぞ!!』

 

 そうしてドローしたのは【ミミグル・フェアリー】か。

 次のターンがあれば使おうかと考えつつ遊矢君がさり気なく混ぜ合わせたカードを選ぼうとしたらマスターが更に自己主張した。

 

「まあ、遊矢君がそれで良ければ構いませんが」

「ええ。問題ありませんよ。

 ではこの三枚の中から一枚を選んで下さい」

 

 そう三枚の手札を前に出す遊矢君にマスターは『ムムム…』と唸りながら迷う。

 

『右を、いや、左か?

 そう思わせて実は真ん中こそ危険かもしれん…。

 ぐぬぬ、ええい!左を選ぶぞ!』

 

 二分ほど迷いまくってから漸くマスターが選ぶと遊矢君がそのカードが何であったかを公開する。

 

「ミミグル・マスターが選びましたのは【EMドロップ・ギャロップ】でございました!」

 

【EMドロップ・ギャロップ】

効果モンスター※未OCG化カード

星5/地属性/獣族/攻 800/守 1200

①:このカードがP召喚に成功した場合に発動できる。

同時にP召喚した「EM」モンスターの数だけ自分はデッキからドローする。

②:自分フィールドにこのカード以外のレベル5以上のモンスターが存在する場合、

1~4までの任意のレベルを宣言して発動できる。

このカードのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。

 

『良し!高レベルモンスターをを当ててみせたぞ!

 これで吾輩の勝ちは決まったな!』

 

 勝ちを確信するマスターの言葉に俺は異を唱えた。

 

「それはどうでしょう?」

『なんだと?』

「確かに遊矢君のアドバンス召喚を妨げられたように見えますが、ドロップ・ギャロップは判明札。

 残り二枚の手札が不明札なのだからその二枚がアドバンス召喚出来ないモンスターとは限りませんよ?」

『ムムム!?』

「それに見なさい。

 遊矢君は全く焦っていない。

 寧ろ当てねばならない三分の一を外した可能性の方が大きいと思いますね」

『なんでそう言い切れるのだ!?』

「だって、貴方から姫様がやらかした時と同じ空気が漂ってますもん」

 

 姫様が自信満々に盛大にポンをぶちかましたあの感覚をひしひしと感じるのだ。

 

『なんだとーーーーー!!??』

 

 その意味を理解したマスターが絶望に満ちた顔をするが、もう手遅れである。

 

「それでは、白銀氏の予感が正しかったか正解と行きましょう。

 私は【ミミグル・デーモン】の効果でデーモンをそちらのフィールドに移動させた後、もう一体の【ミミグル・デーモン】を反転召喚します」

 

 パカリと宝箱が開くも効果が使えずションボリ顔でデーモンがフィールドに並ぶ。

 

「次に私榊遊矢が生み出したペンデュラム召喚を披露させていただきます!」

「此処でペンデュラム召喚ですか!?」

 

 デーモンを処理するのではなく残す選択に何をしてくるのか期待をしつつ遊矢君の頭上へと視線を向ける。

 

「揺れろ魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!現れろ俺のモンスター!

 ペンデュラム召喚!【EMフラットラット】!」

 

【EMフラットラット】

効果モンスター※未OCG化カード

レベル5/地属性/獣族/攻撃力500/守備力1500

①:モンスターが召喚・特殊召喚された時、そのモンスターを対象として発動できる。

その対象のモンスターのレベルはこのカードと同じになる。

②:フィールドのモンスターの攻撃力が変化した時にこのカードをリリースして発動できる。

そのモンスター1体の攻撃力を元々の数値に戻す。

 

 ペンデュラムの軌跡が生み出した門より麺棒の上に立つコック帽を被る可愛らしいハムスターがフィールドに現れた。

 

『レベル5モンスターをペンデュラム召喚しただと?』

「そして私は父から頂いたこのカードを発動します!

 魔法カード発動!【スマイル・ワールド】!」

 

【スマイル・ワールド】

通常魔法

(1):フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、

フィールドのモンスターの数×100アップする。

 

 発動した魔法カードから放たれた波動を受けフィールドのモンスター立ちが急に笑顔になった。

 

『な、なんだ!?

 吾輩の顔が笑顔で固定されてしまったぞ!?』

「成程!そんな方法で超えてきましたか!!」

 

 効果で笑わされたマスターが混乱するのも気にならないぐらい俺は()()()()()に笑いが堪えきれなくなっていた。

 

「【スマイル・ワールド】の効果によりフィールドのモンスターの攻撃力は現在のフィールドのモンスターの数×100ポイント上昇します。

 よってフィールド全てのモンスターの攻撃力は700ポイントアップ!

 そしてその瞬間【EMフラットラット】の効果を発動!

 自身をリリースする事でフィールドの攻撃力が変動したモンスターの攻撃力を元々の数値に戻します!

 私が選択するのは白銀氏のフィールドに移動した【ミミグル・デーモン】です!」

 

 フラットラットが乗っている麺棒の上で激しく駆けるとその体が光に変わりデーモンへと降り注ぐ。

 

『む、無駄だ!?

 デーモンの攻撃力を下げても【ミミグル・ダンジョン】の効果は』

「いえ。フラットラットが変動させるのは『元々の数値に』です。

 【ミミグル・ダンジョン】はあくまで加算効果。

 フラットラットの効果の変動対象に含まれます」

『し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??』

 

 ダンジョンの加護を剥ぎ取られ攻撃力が0になったデーモンにマスターが絶叫する。

 

『おいどうにかならんのか!?

 今引いたカードは!?』

「いや、どうにもなりませんよ」

『そ、そうだ!アクションカードならワンチャン…』

「この期に及んで見苦しい。

 そんなだから部下から塩対応されるんですよ?」

『嫌だ嫌だ!

 他の奴らはきっちり勝っているのに吾輩だけ黒星なんて納得いかん!!??』

 

 【スプライト】達も黒星付いているしなにより自分の意思で手札事故を起こした挙句にこの言い様である。

 姫様なら喚き散らして不貞腐れるが、敗者の責は自分にあると飲み込む……いや、俺の構築が悪いと散々言いまくるわあのアホ姫は。

 

「お見事です遊矢君。

 さあ、私は逃げも隠れもしません。

 来なさい!」

「それではバトルに参ります!

 【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】で【ミミグル・デーモン】に攻撃!『螺旋のストライク・バースト』!!」

 

 雑コラみたいに顔に笑い顔が貼り付けられたオッドアイズがブレスを放ちデーモンを焼き払う。

 

「そして【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】の効果を発動!

 戦闘ダメージを二倍にします!『リアクション・フォース』!!」

 

 オッドアイズの体の宝玉一際強く輝き威力が膨れ上がり俺に襲い掛かる。

 

「ぐぅぅぅっ!?」4000→−2400

 

 リアルダメージを切っていなければ大怪我もあり得た衝撃に耐え、戦闘終了の表示が浮かぶのを横目に遊矢君へ笑いかけながら俺は告げた。

 

「おめでとうございます遊矢君。

 中々楽しませてもらいましたよ」




という訳で遊矢君は勝っちゃいました。

正直遊矢を勝たせるかは最後まで悩みましたが、今回はメンタル回復を優先して勝たせる方向にしました。

そしてお気づきの方もいるかもしれませんが、遊矢のメンタル回復を優先し過ぎて執事は最悪の時限爆弾に火をつけてます。

ドクトルとパラサイト・フュージョナーの事は忘れてませんが同時に赤馬零王が父親を名乗るならその選択は流石にしないと思ったからというのも理由です。

まあ、つまり、一欠片程度残っていた執事の慈悲も燃え尽きます。
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