迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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今更ですがアニメと違い零児はシンクロ次元で遊矢達と一緒に飛ばされて零羅は柚子と融合次元に飛ばされてます。



悪魔は嗤う人の業(1)

「…なあ遊矢」

 

 瓦礫の上に座り手に握った程よく焼かれた肉と野菜の刺さった串を眺めながら沢渡シンゴはどうしてこうなったのかと問いを口にした。

 

「なんで俺達、バーベキューしなきゃなんないんだ?」

「じゃあ止めるか?」

 

 焼きたての肉を頬張り答える遊矢に沢渡は「出来るわけ無いだろうが」と吐き捨てる。

 

「逃げたら白銀にブチのめされるだろうが」

 

 襲撃してきた『アカデミア』を単身壊滅させた白銀は遊矢達に何を言うでもなく唐突に四十人前はあるだろう大量の食材を実体化させ、遊矢達に命令した。

 

「私に言いたいことがあるならまず貴方達は腹を割って話し合ってからにしてください。

 素面だと難しいでしょうからバーベキューセットと監視と火の管理と焼く係を置いていきます。

 私が『アカデミア』の基地を制圧して戻ってくるまでに最低でも榊遊勝関連については持ち得る情報程度は全員で共有し終えておきなさい」

 

 そう言って【クシャトリラ・アライズハート】と【ティアラメンツ・カレイドハート】を率い自らは【召喚】した【天霆號(ネガロギア)アーゼウス】に乗り込みエド・フェニックスを引き連れこの場を去ってしまった。

 そうして現在、遊矢達は白銀が【召喚】した【マナドゥム・プライムハート】を護衛に【ヴィサス=サンサーラ】と【スケアクロー・ライトハート】が焼いたバーベキューの串が並ぶ皿を囲んでいた。

 

「だが、白銀が言わんとすることも分からなくは無い」

 

 食材に罪はなしと串から外した玉ねぎを飲み込んだ権現坂は言う。

 少し焦げが入っているが、その苦味もバーベキューの醍醐味だろう。

 

「俺達はランサーズというチームで活動しているつもりだったが、思い返してみればチームと言うには余りにもその場その場を自分の考えで動いてばかりだった。

 奴には俺達が仲間であるとは到底見えなかったのだろうな」

 

 デュエルを通じて白銀の人となりに触れ、権現坂は彼がデュエルを通して互いを知り友誼を交わすための共通言語としてデュエルモンスターズを愛し手札事故でさえ「こんな事もあると」平然と受け入れていた。

 対して自分達は如何様であったか?

 デュエルを自らを主張し押し付ける道具としか考えていなかったのではないか?

 

「俺は遊矢と柚子の為にここまで来た。

 『シンクロ次元』でのこれまでで『ランサーズ』の仲間を少なからず信用しているつもりだ。

 だが、赤馬零児も黒咲隼も信頼に足るかと聞かれれば真にそうだとは俺には言いきれん」

 

 誰かが口火を切らねばならないと考え権現坂は自ら腹の中を曝け出した。

 

「特に貴様だ赤馬零児。

 お前は何故今まで榊遊勝の事を知っていながら黙っていた?」

「…それを話すには三年前のあの日のさらに前。赤馬零王が『スタンダード次元』から姿を消した頃から話す必要がある」

 

 そう言って零児は用意されたジュースで唇を湿らせ語り始めた。

 突如消息を絶った赤馬零王。

 その行方を捜していた零児はレオ・コーポレーション内に隠されていた次元跳躍装置を見つけ偶然起動させてしまいそうして『融合次元』に迷い込んだ事。

 そこで『アカデミア』から脱走しようとしていたセレナを助けるも赤馬零王に捕まり無理矢理『スタンダード次元』に返された事。

 その際に赤馬零王が『次元戦争』を起こそうと企んでいることを知り、それを阻むため赤馬零王が残した次元跳躍装置を用いた侵攻部隊『ランサーズ』の計画を立て、そのリーダーに榊遊勝へと白羽の矢を立てた事までを語った。

 

「父さんをランサーズに!?」

「だが、榊遊勝は私の要請を断り単身『融合次元』へと次元跳躍を試み、そしてそのまま消息を絶った」

「っ!?」

 

 敬愛する父までも戦争に駆り出そうとした零児に怒りを抱いた遊矢だが、しかし次いで放たれた言葉に二の句を失ってしまった。

 

「ならなんでアンタは榊遊勝とストロング石島の王座決定戦を中止にしなかった?

 主催者権限で延期にするぐらいは出来ただろうが?」

 

 そうしていれば『スタンダード次元』での榊遊勝の評価ももっとマシなままになっていたのではないかという問いに零児は頭痛を抑えるように頭に手をやりながら答える。

 

「榊遊勝が次元跳躍を試みたのは試合前日だ。

 いくら開催者の立場があろうが中止にするには時間が足りなかった。

 それに榊遊勝が本当に赤馬零王を説得し帰還する可能性もあったんだ。

 レオ・コーポレーションの社長として、動かないという選択をするしかなかったんだよ!」

 

 あの頃の苦悩を口にする苛立たしさから口調が荒くなる零児に赤馬零児も見えない所で多くの苦悩にさらされていたのだと知りこの件について責め立てる言葉が消えていく。

 

「しかしいくら経とうと榊遊勝は『スタンダード次元』に帰ってくることはなかった。

 次元跳躍に失敗し次元の狭間へと飲まれて消えたか、或いは『融合次元』に辿り着けたが赤馬零王の説得に失敗して消されたのか。

 もしかしたら赤馬零王に賛同し奴と組み『アカデミア』の仲間となってしまった可能性だってあり得た。

 私は最悪に備え『ランサーズ』構想を再構築し次元戦争に対抗するため『LDS』の基礎能力を更に高めるために考えうる手段を用意して戦力を整えた。

 …だが、実戦を経て生き残ったのは私が用意した戦力は一人残らず敗北し、君達榊遊矢世代のP召喚に適応した一部の者達だけが『アカデミア』に対抗出来た。

 だからこそ私は君達を戦力として引き入れるためにどんな手段もを使うことにした。

 榊遊勝の二の前にならぬよう協力ではなく従わざるを得ない状況に追い込み自陣から離れないように力尽くで引き入れたんだ」

 

 そう一旦言葉を切ると零児は遊矢に頭を下げた。

 

「ずっと怖かったんだ。

 榊遊勝の意志を継ぐ君もまた父と同じ選択を選んでしまうかもしれないと思ったら、私は君に対しあんな酷い態度で強要を強いることしか出来なかったんだ。

 すまない。本当にすまなかった」

「零児…」

 

 これまでの傲慢さが失敗を経て追い詰められた末の行動であったのだと知った遊矢は、父は逃げ出した臆病者ではなかったという真実への喜びと暴走とさえいえる無謀により多くに迷惑を掛けていたという事実への申し訳なさでなんと声をかけて良いか分からず何も言えなくなる。

 

「そういや黒咲。

 お前榊遊勝が三年前に『エクシーズ次元』に居たって言ってなかったか?」

 

 空気に耐えかねた沢渡が話題を変えようとして黒咲へと水を向ける。

 

「…ああ。

 その話もしておく必要があるな」

 

 そう言ってバトンを渡された黒咲は三年前に現れた異邦人について語り出す。

 

「榊遊勝が『エクシーズ次元』に現れたのは三年前。

 榊遊勝は『融合次元』の侵攻を予見していたかのように汎ゆる技術を俺達に伝え多くのデュエリストにデュエルは笑顔を齎すものだと学ばせていた。

 赤馬零児の話からするに『融合次元』への移動に失敗して『エクシーズ次元』に来てしまったのだろうな」

「じゃあ、今は…」

「分からない。

 『アカデミア』の侵攻が始まり榊遊勝も戦っていたのは間違いないが、しかしその後は行方を晦まして消息不明だ。

 『アカデミア』に敗北しカード化されたのか、或いは…」

「そんな…」

 

 父が生きて次元戦争に賛同しているような事は無かった事実を知れた喜びは、しかし生死不明という最悪の可能性により塗り潰され再び遊矢の心が曇っていく。

 

「なんだお前ら?

 全然食べてないじゃないか?」

 

 そんな重苦しい空気を気にしたふうもなく新たな串を運んできた【スケアクロー・ライトハート】が真ん中の皿の上に乗せて山を作る。

 

「お前達ぐらいの人間は食べ盛りなんだろ?

 時化た顔してないで食え」

「食えって…」

 

 山になった串はどう見ても十人前はある。

 いくら若いと言っても流石に食べきれる量ではない。

 

「今更なんだがお前は…」

「【スケアクロー・ライトハート】だ。

 スケアクローでもライトハートでも構わないがお前呼ばわりされる謂れはないぞ」

 

 零児の問いにデフォルメされた顔に不快感を見せて抗議するライトハートに改めて問い掛ける。

 

「すまなかった。

 【スケアクロー・ライトハート】、君達はリアルソリッドビジョンで実体化しているのか?」

 

 自分達が呼び出すモンスター達とはあまりにも異質な姿にそう問うとライトハートは「違うぞ」と否定した。

 

「俺達は執事に【召喚】された精霊だ。

 お前達はリアルソリッドビジョンという技術で科学的に擬似的な実体をモンスターに与えるが、執事はデュエルエナジーで俺達のオリジナルに近い肉体を構築しているんだよ」

「精霊? デュエルエナジー?」

「カードには須らく精霊が宿っている。

 お前達は知らないみたいだが、古い時代の力の強い精霊使い(デュエリスト)はデュエルエナジーを使ってモンスターを使役していたんだよ。

 お前達は見たはずだぞ?

 本物の精霊使い(デュエリスト)が使役する精霊(モンスター)が戦場を蹂躙する様子を」

 

 そう言われ遊矢達は恐ろしいとしか思えない怒気を孕んだ白銀が百体を超えるモンスター達をたった四体で蹂躙し尽くしたことを思い出した。

 

「執事は上げ底込みとはいえ古い時代から続く技術を継承した本物の精霊使い(デュエリスト)だ。

 俺達精霊がオリジナルから劣化しているとしてガワだけの人形程度ならアレぐらい出来て当然だ」

「アレで劣化しているというのか!?」

 

 一方的な蹂躙を見せつけられ、更にその先があると言われ言葉を失う一同にライトハートは鼻を鳴らす。

 

「当然だ。

 俺達のオリジナルは次元そのものを破壊し再生させ時間すら操作する化け物を超えた存在に対して世界の存亡を賭けて死に物狂いで戦った神話の存在だ。

 その存在を顕現させようとしても執事の扱えるデュエルエナジー程度ではせいぜい3割程度が関の山だ」

「ライトハート。あまり話しすぎるのも良くない」

 

 そう自慢げに語っていたライトハートを【ヴィサス=サンサーラ】が制止する。

 

「お? そっちは終わったみたいだな?」

「ああ。用意された分は全部焼いて配って来た」

「配る?」

 

 と、そこで漸く捕虜にした『アカデミア』にもバーベキューが振る舞われていた事に気付いた。

 

「なんでアイツラにまで食わせてるんだよ!?」

「執事は君達だけに振る舞えとは言わなかったし、君達だけであの食材を処理しきれたのか?」

「それは…」

「アイツにとっちゃ戦う力を奪った時点でお前達もアイツラも若い子供に違いないだろうさ」

「だが、奴らは『エクシーズ次元』の、俺達の仲間をカードにして」

「それを言うならお前だって『LDS』の先生達をカードにしていたじゃねえか」

「それは!」

「やめておけ!

 今更言った所で取り返しのつかない事には変わりないだろうが!」

 

 黒咲と沢渡の口論が始まる空気を悟った権現坂の言葉に不満そうにしながらも二人は座り直す。

 

「兎に角、俺が知る榊遊勝についてはそれだけだ。

 カードにされたにしろ一部が言うように逃げ出したにしろ今どこに居るかは知らない」

「…父さん」

 

 無事を知れてすぐにまた途切れてしまった父の安否に遊矢は【スマイル・ワールド】を眺め気を紛らわせる。

 

「それはそうとして、先程から言っている執事とは白銀の事か?」

「ん? そうだぞ。

 アイツの本当の呼び名は【白銀の城の側仕え(ラビュリンス・アテンダント)『執事』】。

 本当の名前を知ってるのは【ラビュリンス】の女主人だけらしいぜ」

「【白銀の城の側仕え(ラビュリンス・アテンダント)『執事』】…?

 まるでモンスターの名前みたいだな」

「まあ…と、帰ってきたみたいだな」

 

 高周波を響かせながらアーゼウスが近付いてきたのに気付いたライトハートは話を切り上げる。

 

「本人が知らない所であまり喋っても困るだろうから、知りたかったら直接聞いたほうがいい」

 

 そうヴィサスが締め括り、着地したアーゼウスが膝を着いて降着姿勢を取ると執事が一人だけ降りてきた。

 

「お待たせしました。

 基地の制圧は完了したので君達に報告しに戻ってきました」 

 




ヴィサスがバーベキューの焼き係をしているのは本人に了承得たからです。

ヴィサス曰く、「こういう役回りは初めてだけど楽しいとはこんな気持ちなのか?」と割と気に入った様子。

ところでアレンの処遇どうしよう?←
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