迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
執事が【
「緊急伝令!!」
リトルナイトが追い付いたのは榊遊勝との合流のため『アカデミア』の入り口に到着したタイミングであった。
「誰だお前!?」
「某は白銀ユウタに仕えし精霊の【S:Pリトルナイト】に御座る。
某の事より艦内に保護していた柊柚子殿を赤馬零王により奪取されました」
「柚子が!!??」
信じがたい報告に動揺を走らせる遊矢達にリトルナイトはそう至った経緯を語る。
「赤馬零王は紫雲院素良殿のディスクの座標から柚子殿の座標を捕捉し【強制転移】を用いて拐かしました」
「そんな…」
その言葉に素良は酷く衝撃を受け膝を着く。
「僕のせいで柚子が、ごめん遊矢…ごめんよ…」
「素良が悪いんじゃない! 悪いのは全部赤馬零王だ!」
「そうだぞ素良! 嘆くより柚子を取り戻すのが先決だ!」
「遊矢、権ちゃん…」
遊矢達の言葉に一度は挫けた気持ちを持ち直した瞬間、リトルナイトの鋭い声が響いた。
「っ!? 上から来ます!!」
「「「「「っ!!??」」」」」
リトルナイトがそう告げた次の瞬間、頭上から赤い光の網が遊矢達目掛け振り注ぐ。
「素良!!」
遊矢が咄嗟に素良を突き飛ばし網の範囲から逃がす。
「遊矢!!」
「遊矢殿!!」
「俺達の事はいい!!
それより父さん達にパラサイト・フュージョナーの事を伝えてくれ!!」
網に絡め取られた遊矢はリトルナイトに支えられる素良にそう叫びながらそのまま運ばれていく。
「無念!同じ忍びとして気づかねばならなかったのに…。
リトルナイト殿!零児殿を頼み申す!」
「…承知!」
連行された先で遊矢達が『カード化』されようと白銀が蘇らせられるとリトルナイトは素良を抱え『アカデミア』内部へと駆ける。
「居た!」
そして間もなく『天上院明日香』に支えられた榊遊勝と赤馬零児を見付け彼らの前で素良を降ろす。
「敵!?」
「いや、少し様子が違うようだ」
接近する二人に警戒した明日香を遊勝は留める。
「榊遊勝殿とお見受けするが間違いないか?」
「ああ。君は?」
「某は【乱破小夜丸】改め【S:Pリトルナイト】。
白銀ユウタの使いの者に御座る」
白銀の名を聞き零児は彼女が味方であると確信し捕捉する。
「彼女は信用して大丈夫です。
それより何故『アカデミア』の紫雲院素良と一緒に?」
「僕は『アカデミア』と手を切ったんだよ。
攫われた柚子の命を使って完成する『アークエリア・プロジェクト』をぶっ壊すためにね」
「柚子君の命だって!?」
遊矢と幼馴染の少女の命を犠牲にすると聞かされ遊勝の顔に驚愕が浮かぶ。
「それより黒崎は何処!?
今の瑠璃はドクトルの支配下にあるんだ!
早くそれを伝えないと!!」
「…黒崎は途中で出会ったユーゴと二手に分かれ攫われた二人を救出に向かった」
「なれば某が伝えに参ります。
二人はどちらに?」
「左右の離れた塔に其々監禁されていると」
「承知した。
某はこれにて」
そう言い残しリトルナイトは一人走り出す。
「零児君。彼の話はどういうことなんだい?
なぜその事を私に言わなかったのだね?」
「彼女を此方で確保している限り安全だから必要が無いと思い言わずにいました。
それよりも彼が側に居てどうやって」
「そこの裏切り者君のお陰だよ」
そう言いながらカツカツと足音を立てユーリが姿を現した。
「遊矢? いや、似ているがこれは…?」
「彼はユーリ。ユーゴと同じく『融合次元』に存在する榊遊矢と同じ顔の少年です」
口の端を歪める笑みを浮かべながらユーリは嘯く。
「プロフェッサーは君に感謝していたよ。
君が『アカデミア』を裏切ったお陰で探していた4人を漸く全員手元に集められたってさ」
「お前…」
銜えた飴玉を噛み砕き怒りに震える素良を嘲笑しながらユーリはデュエルディスクを展開する。
「せっかくだから全員僕と遊んでよ。
あのオジサンとは戦えなくて結構苛ついてるからさ」
「させない!」
ディスクを展開したその瞬間明日香がユーリに体当たりをして遊勝達から引き離す。
「素良!」
「っ!? そうか!」
明日香の意図を察し素良が逃走者を阻む鉄柵を降下させるレバーを操作してユーリとを阻む。
「明日香君!」
「貴方はプロフェッサーを!
ユーリは私が此処で引き留めます!」
「っ、…済まない」
零児に支えられながら柵の奥へと向かう遊勝を見送りユーリはつまらなそうに言う。
「どうして皆僕の邪魔ばかりするかなぁ?」
「お前、分かってるのかよ?
このままプロフェッサーの好きにさせたらセレナも死ぬんだぞ!!
それでいいのかよユーリ!!」
素良の知るユーリは『アークエリア・プロジェクト』への賛同や『アカデミア』の思想教育とは全く関係なく素で人をカードにする事を楽しむぶっちぎりのイカれ野郎だが、セレナに絡まれている時だけは普通の子供のような態度を見せるのを知っていた。
だというのに、
「へぇ? でもまあ、本人が望んでいるなら別にいいんじゃない?」
「なっ…」
「そんな事より優等生ちゃんとは一度やってみたかったんだよね。
どうせだから面白い物を持ってきたんだ」
まるで顔も名前も知らない誰かを語るように言い切るユーリに明日香も怒りを剥き出しにする。
「巫山戯ないで!
人の命をなんだと思ってるの!?」
「僕のデュエルの邪魔をしたセレナなんかもうどうでもいいよ。
それよりほら、早くデュエルしようよ!」
「今のセレナは正気じゃないんだ!!
頭の中に虫を植え付けられて操られているんだぞ!!」
「あ、そうなの? それはご愁傷さまだね」
「ユーリぃ…」
本人の意思すらないと聞かされてさえ興味の欠片も見せないユーリに怒りを超え殺意さえ抱き始める素良に明日香は語り掛ける。
「無駄よ。彼に何を言っても通じないわ。
彼を止めるにはデュエルで勝つしかないわ」
「出来るといいね?
優等生ちゃんが貰うはずだったデッキだから、もしかしたら望み通りに行くかも知れないよ」
「減らず口を…」
挑発的にデッキを見せ付けるユーリに怒りを抱きながらも彼を止めるには勝つ以外方法は無い。
デッキトップ五枚を手札に加え明日香とユーリは同時に宣言する。
「「デュエル!!」」
〜〜〜〜
囚われた遊矢達はその後、『アカデミア』地下施設へと運ばれリアルソリッドビジョンを利用した演習場にて『BB』と交戦。
その過程で自責に駆られた月影の犠牲を払いつつも『BB』を撃破し、遊矢は負傷の激しい権現坂達を残して一人攫われた少女が居るというのは場所へと向かっていた。
『この先に四人の内誰かが…』
それが探し求めていた瑠璃だとしても彼女がパラサイト・フュージョナーに寄生されているかもしれないと思うと悔しさと怒りでユートの感情が荒れ狂う。
「…行こう」
瑠璃かリンのどちらかを確保すれば柚子を失う可能性はぐんと下がる。
その過程でパラサイト・フュージョナーに寄生させられたとしても必ずドクトルを始末して柚子を取り戻す。
無自覚に覇王の暗い殺意に染まりながらも遊矢は希望を繋ぐため扉を開き中に入る。
「ここは、研究所なのか?」
用途の分からない巨大な水槽や機械が並ぶ不気味な施設を進みながら遊矢は不意に足音を耳にした。
「貴方は…」
「柚子、いや、君は」
『瑠璃!!』
柚子と見間違え、髪の色や服装からすぐに別人だと気付いた遊矢の横で本当に喜べるのかと複雑な表情でユートが叫んだ。
「君は瑠璃で間違いないよな?」
「ユート…じゃない?」
「俺は榊遊矢。ユートの仲間だ。
君を助けに来たんだ」
若干訝しんだ様子ながらユートの仲間だと言う言葉を信じた様子で瑠璃は遊矢に言う。
「私を…。
そうだ、兄さんが大変なの!
だけど私一人じゃ運べなくて」
「黒咲が!? 分かった。案内してくれ」
「こっちよ!」と先導する瑠璃の背を追いながら遊矢は小さくユートに問う。
「どう思う?」
『俺の知っている瑠璃そのままだ。
だが、』
セレナも豹変する寸前まで疑いようが無いぐらい遊矢が知るそのままだった。
それを考えてしまえば彼女がパラサイト・フュージョナーに寄生されていないとは安易に決めつけられない。
そして、その望まぬ可能性は不意に立ち止まりこちらに振り向きながらデュエルディスクを構える瑠璃の姿という形で現実となった。
「デュエルよ榊遊矢!」
その顔には悪意に満ちた愉悦が浮かんでおり、その姿に悲しみと怒りがユートの胸を掻き毟る。
「クソッ! やっぱりパラサイト・フュージョナーが寄生していたのか!?」
『おのれ『アカデミア』!!
許さないぞドクトル!! 赤馬零王!!』
覇王の片鱗を浮かばせ吠えるユート。
突如、遊矢の胸のペンデュラムが強く輝き遊矢の身体がユートへと変わり遊矢が精神体へと置き換わった。
『これは!?』
「ユート!!??」
突然現れたユートに驚く瑠璃に向け、ユートは怒りを剥き出しにしたまま吠える。
「必ず救い出してやるぞ瑠璃!!」
次回、嗤う悪魔。