迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「これは…」
一縷の望みを抱いて城に戻ってきた俺の前に広がる光景は、それを嘲笑うように破壊に満ちていた。
「下手人は百人以上ってとこかな?
死体が無いことから肉体を持たないゴーストか天使辺りだろう」
「随分余裕だな」
冷徹に状況を判断する『騎士』に、若干の苛立ちを覚えつい言葉が粗くなってしまった。
「焦ってもどうにもならないよ。
それどころか焦って動いた結果、姫達を追い詰めるかもしれない」
「……そう、だな」
感情はそれを飲み込みきれないが、しかし『騎士』の言葉の正しさを理解出来る。
一呼吸挟み、俺は『騎士』に尋ねる。
「一緒に来ますか?」
「いや、」
槍を手に『騎士』は城門を背にする。
「こっちの相手が必要そうだ。
中に入るのは任せるよ」
構える『騎士』の先には様々な色の光の塊と、それを先導する黄色い翼を携えた甲冑姿の少女が槍を手に『騎士』と対峙していた。
「【極星天グルヴェイグ】だったか…?」
確か最近MDに新規カードが導入した【極星】のカテゴリーのリンクモンスターだったはず。
【極星】について俺は幾度か対戦したぐらいで殆ど情報がない。
エースがシンクロモンスターだったから5D's位に実装したのだろうが、その頃は丁度学業と部活にバイトと忙しく遊戯王の熱も下がり殆ど見ていないのだ。
だからこそ理由がわからない。
寡聞にして俺は両者に関連があるなんて聞いたこともないし、精霊界に来てからもそれは同じ。
ならばモチーフ関連かと言えば極星の各カードに使用されている名前から分かる通り極星のモチーフは北欧神話で、ラビュリンスの大元はギリシャのクレタ島の迷宮ラビリンスでありその原典はギリシャ神話であるため神話的な繋がりもない
クソッ、こんな風に困るぐらいならマスターガイド買い漁って読み込んどくべきだったか?
「早く行きなよ。
そこで見ていても帰ってきた意味はないよ」
本人にそのつもりは無いのだろうが、言い方というものがあるのではないか?
「それにさ、私も結構苛ついてるんだよね。
折角の姫の『おもてなし』を横から割って入った挙げ句こんなに滅茶苦茶にしたコイツラにはさ。
だから、巻き込まれても責任は取らないよ?」
言うやいなや、『騎士』の背が何倍にも巨大化したような威圧感を放ち始める。
「分かりました。
そちらはお願いします」
「ん」
短い返事と共に『騎士』が地を蹴りグルヴェイグと槍を合わせるのを尻目に俺は城門を駆け抜けエントランスホールに飛び込む。
「やはりここもか」
以前アークリベリオンが暴れた際よりも凄惨な破壊現場に悲しみと、それ以上の怒りを抱きながらエントランスホールを駆け抜ける。
目指すは最上部の鐘塔に続く廊下がある大広間。
理由は姫様が『騎士』の『おもてなし』を行う際に待ち構える場所であるから、仮に居なかったとしても何らかの情報があると考えたからだ。
それに戦闘の痕跡も大広間に向かう道の方がより激しく、どうやら下手人達も大広間に向かったように見える。
途中で破壊され物言わぬ残骸となった『白銀の城の狂時計』や『白銀の城の竜飾灯』等の同僚の姿に心を痛め、同時に『騎士』は彼らを破壊はしてもこのような無体にはしていなかったのだと改めて思い知る。
「許せないな」
器物である彼等でさえこれ程の怒りに襲われているのだ。
もしこれがアリアス達であったら俺はどれ程に怒り狂うのか。
万が一姫様にもしもの事があれば俺は…
「っ!? 落ち着け俺!」
勝手な妄想で暴走しかけた自分の頭に理性を叩き付け平静を戻させる。
深呼吸をして荒れた気持ちを鎮め、改めて鐘塔へと走り出すとやがて上の方から戦闘音と思しき音が耳に入ってきた。
「姫様!!」
一度は鎮まった激情を再度燃やしながら俺は大広間へと飛び込んだ。
「執事!? 貴方どうして戻ってきたの!!??」
悲鳴にも聞こえる姫様の詰問は、しかしその傷だらけのお顔を見た俺の頭には全く入ってこなかった。
砕けた鎧と折れた剣を握る姫様。
壁を背に凭れるように意識を失ったアリアス。
互いを庇うように折り重なって倒れるアリアーヌとアリアンナ。
ぶちぶちぶちと頭の中で切れてはいけないナニカがスタック単位で引き千切れる音を他人事の様に聞きながら、俺は主達に危害を加えた相手に視線を向ける。
「どこに隠れていたのかと思っていたが、進退窮まって漸く姿を見せたか」
そう俺に水を向ける相手の名を俺は口にする。
「『極神聖帝オーディン』ですか」
「やはり知っているか」
城を襲ったのが【極星】テーマのモンスターであるから可能性は高いと踏んでいたが、まさかその最高神が自ら出張っていたというのは些かならず驚いた。
「今すぐ逃げなさい!!
奴は貴方を狙って「姫様」」
非常に聞き捨てならない台詞を口にする姫様を遮り、俺はニッコリと笑い掛ける。
「
ですので、少しお下がりになっていて下さい」
「え、ええ。わかりました」
何故か半泣きでそう応じてくれた姫様を優しく避けてオーディンと会話が届く位置にまで歩み寄る。
「失礼ながら私は所要に付き城を留守にさせていただいておりまして、何故にこのような事態に至ったのか把握致しかねております。
なので、無作法を承知でお尋ねいたしますが斯様な振る舞いの理由をお聞かせ願えますでしょうか?」
不思議と勝手に動く口に任せてそう理由を訊ねると、オーディンはふむ。と口にしてから言葉を発した。
「成程のう。ここに至るまで出て来ぬから余程の臆病者かと落胆しておったが、そもそも居らぬとあったなら致し方もあるまいか」
頭の奥で更に2、3スタックのナニかがぶち切れたが、気付いた様子もなくオーディンは嘯く。
「その様子ならお主にも話は通っておらぬ様だな?
ならば改めて直接お主に命じよう。
お主に儂の従士になる資格を与える。
儂のもとに来ることを許そう」
「……理由をお聞きしても宜しいですか?」
「お主も知っておろう?
今地上では神に至らんとする『召喚師アレイスター』を擁し真理を解き明かさんとする『魔導』と世界の覇権を握らんとする『エンディミオン』が相争っている事をな」
いや、知らねえよ。
警戒してた外で世界崩壊のフラグがとっくに立ってたとか嘘だろお前。
やっぱり遊戯王世界は地獄じゃねえか。
「故に儂は備える事にした。
力ある者を集め世界の狂いを正す『エインヘリャル』を結成しようとな。
その一人としてお主も加えようというのだ。
だが、その小娘は送った使者を送り返しお主に話すら訊かせぬようにしておったよう故に、儂自ら赴いたという次第だ」
「……左様でしたか」
全く、姫様はそんな
だとしたら『お話』は長めにしなければならないな。
「話は理解できたな?」
「ええ。確りと」
「ならば解りきっておるがお主の口から直接聞こう。
儂のもとに降れ」
従うと微塵も疑っていない様子で傲慢に命じるオーディンに対し、俺は
「お断りします」
次回はデュエル回になるんですが、また姫様の時見たくなるかも