迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
おのれ年末進行… おのれデスマァ…
明日香達の挺身を受け赤馬零王の下へと急ぐ中、遊勝は先程の素良の発言が真実かを零児に問うた。
「零児君。
さっきの話だが零王はどうして柚子君の命を奪おうとしているんだい?」
「赤馬零王は『アークエリア・プロジェクト』を隠れ蓑にもう一つの計画『リバイバル・ゼロ』という計画を進めています。
その計画こそが奴の真の目的であり、その成就のために柊柚子と彼女と同じ顔の四人の少女が必要なのです」
「……」
友と信じた男の凶行。
その一端に触れ榊遊勝の顔に苦いものが過ぎる。
「零児君。その計画に遊矢は…」
遊勝の問いが終わるより先に『アカデミア』の生徒たちが現れ彼等により包囲網が形成された。
「くっ!?」
あまりに数が多いと焦る零児に反し一人がデュエルディスクを構えぬまま告げる。
「プロフェッサーから二人をお連れするよう言われました」
その言葉に訝しむ零児だが誰一人ディスクを展開しない様子から嘘ではないと判断し一応の警戒を解く。
そうして案内されるままに連れられた先に謁見の間のような作りの最奥に座する赤馬零王が待っていた。
「久しぶりだな赤馬零王」
遊勝は先ずは自分からと言葉を向ける。
「君程の天才が何故この様な愚かな事を計画したのだ」
「愚かな事…」
この四つに分かたれた次元を本当の世界と生きる遊勝からは当然だろうなと思いながら赤馬零王は遊勝の言葉に耳を傾ける。
「理想郷を創るなどという美麗の下に四つの次元を戦争に巻き込むなどどうしてだ?」
そう言いながら遊勝は展開したデュエルディスクにカードを
セットし実体化させる。
「君は無から有を生み出させる大天才。
このリアルソリッドビジョンも君がゼロから生み出した」
喚び出された小鳥たちは楽しそうに囀り歌うのを眺めながら遊勝は語る。
「この質量を持つリアルソリッドビジョンが無ければアクションデュエルは誕生することは無く、私のエンタメデュエルも誕生することは無かった。
あの日の出会いが私の運命を変えたのだ」
喚び出した小鳥達を消し懐かしげに遊勝は語る。
「君の成果が世界を変えた。
その事を今でも感謝している。
だからこそ改めて問う。
何故だ零王。それ程の大天才である君が、何故他次元を侵略するなどという愚かな真似を」
「私は天才ではない」
遊勝の言葉を頭振り赤馬零王はその言葉を否定する。
「リアルソリッドビジョンも既にあった技術を再現したに過ぎないのだ」
「既にあった?
だが、アレは君が開発した」
「既にあったのだよ。
高度に発達した『一つの世界』には」
「『一つの世界』?」
「……」
その言葉に零児の眉が微かに動いた。
その理由に気づかぬまま、赤馬零王は語り始める。
かつて高度に発展した一つの世界が存在し、その世界ではリアルソリッドビジョンが日常生活に馴染むほどに普及していた事を。
その世界で赤馬零王は自らの野心のためにリアルソリッドビジョンをデュエルモンスターズに適応させ実体化させる事を思いつきその実現の為に研究し、研究の最中に実態化させたモンスターには動態反応や体温といった質感以上の反応が確認され、そこから『カードの魂』という古い伝承を頭に過ぎらせながらも戯言と切り捨てながら続けられたその試みは成功し赤馬零王は名声を得た。
そうして新たなステージへと上がったデュエルモンスターズが賑わう中、一人の少年が注目を集め出しだと語る。
「その者の名は『ズァーク』」
「っ!」
「ズァーク…」
零児の反応に気付く様子もなく赤馬零王は続ける。
カードの声が聞こえるという奇妙な事を口にするズァークはリアルソリッドビジョンの一般化したデュエルにおいて目覚ましい成長と活躍を見せ、やがて最高峰のデュエリストに名を連ねていった。
そして、デュエルの最中に起きた事件が全てを変えた。
ズァークの対戦相手が実態化したモンスターにより重傷を負うという痛ましい事故が発生したのだ。
そんな事故に対し観客は…彼を称賛した。
命懸けのスリリングなデュエルを観客は求め、ズァークはそれに応え他のデュエリストもまた彼に続き『一つの世界』のデュエルは苛烈さを増していった。
「そしてその日は来た。
最早立ち向かう者さえ居なくなったな最強のデュエリストとなったズァークは自らの凶暴性のままに観客を煽り、リアルソリッドビジョンで実体化させた四体のドラゴン達を暴れさせ破壊の限りを尽くすばかりか、自らが使役する四体のドラゴンと一つとなって世界を破壊ようとしたのだ」
「なんという…」
「まさか…」
あまりにも荒唐無稽な話であるはずなのに、それを語る赤馬零王の切実な語り草に遊勝はそれが真実なのかも知れないと思ってしまった。
「そうして世界が破滅へと向かう中、私は」
「ズァークの統合を分断するために大地の力を宿した四枚のカードを生み出した」
その続きを口にした零児に赤馬零王は驚愕のあまり立ち上がる。
「零児! それを何処で!?」
「ズァークを悪魔にしたその責任を取るためそのカードの力を使うために貴様は自らを犠牲にしようとしたが、しかし別の者がその力を解放してズァークを分断した。
その者の名は『赤馬レイ』。
『一つの世界』に存在した貴様の実の娘だ」
レイの名までを口にする零児に零王は喉から声が出なくなる。
「零児君。君は何処でそれを知ったのだい?」
「私がこの話を聞かされたのは『エクシーズ次元』でのことです。
その者の名は『白銀ユウタ』。
我々に力を貸してくれている協力者です」
「白銀ユウタ。リトルナイトが主人と言っていた人か?」
「そうです。
彼はこの四つの次元のどの次元の者でもありません。
彼はカードに宿る魂が生まれる世界の住人なのです」
「カードの魂が」
「生まれる世界」
想像だにもしていなかった白銀の出自に二人は言葉を失う。
「彼は言いました。
自分はこの次元とは別の四つの次元で赤馬零王が『エクシーズ次元』への侵攻を開始した直後に関わり、赤馬零王の野望を挫いたと」
「馬鹿な!!??」
デュエルモンスターズのカードの魂が生まれる世界というだけでも信じられないのに、あろうことが並行世界において自分の悲願が手折られたという言葉に赤馬零王は激昂した。
「私がレイを諦めただと!?
そんな事がある筈が無い!!」
「そう思いたければ勝手にするがいい。
奴はレイの分かたれた四人とズァークが分かたれた四人が其々の人生を歩み人として幸福を得た未来を俺に見せた。
その中には共に席を並べるセレナとユーリの姿もあったぞ」
「あり得ない…そんな…馬鹿げた事が…」
「零王…」
あまりに動転する姿に遊勝は何を言うべきか言葉に迷う。
そんな中、突如けたたましいサイレンが響き渡る。
「何事だ!?」
『海洋に隔離した奴へと投入したモンスターが全滅しました!』
「なんだと!?」
白銀を逃げ場のない海へと追い出し多くの水棲モンスターだけでなく『アカデミア』近海の海流への被害さえ容認して投入した【雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーン】までもが倒されたと聞き赤馬零王は絶句する。
『更にそこから全長100メートルを超える巨大人型兵器が浮上し『アカデミア』へと接近してきています!』
新たなウインドウが開き巨大な【
「アレは白銀が使役するモンスターだ!」
「あんなものまで彼は使いこなすというのか…?」
戦闘の結果か片腕を失い大きく損壊した様子ながら凄まじい速度で海上を駆けるカオスナイトの姿に遊勝は感嘆の意を漏らす。
「これで分かっただろう赤馬零王。
貴様の野望は此処で潰えるんだ」
「…認めん」
零児の言葉に赤馬零王は絞り出すように吠えた。
「私は決して諦めない!!
レイを取り戻し今度こそあの悪魔をこの手」
最後まで言い切る前に『アカデミア』に激しい振動が走り、壁の一部が破壊され粉塵が巻き起こる。
「失礼。入室のために軽くノックしたつもりでしだが、
粉塵の中、破壊された壁の向こうからいけしゃあしゃあと嘯く声が響く。
「
私の名は白銀ユウタ。
貴様に絶望をプレゼントしに来ました」
怪我をしないよう零羅を抱えた姿で白銀がそこにいた。
「貴様が…」
自分の計画を滅茶苦茶にした怨敵を前にギリギリと歯を鳴らせる赤馬零王を見もせず白銀は零羅を地面に立たせる。
「さあ、遅くなりましたがお兄さんの所へ行きなさい」
「兄さん!」
零児が駆け出した零羅を受け止めるのを見届けてから改めて白銀は赤馬零王と対峙する。
「さて、お互いに仲良くなんてするつもりは無いでしょうし、私から一つだけ確かめたい事があります」
すぅっと目を細め低い声で白銀は問いを口にした。
「赤馬零王。
貴方はドクトルがセレナさん達にパラサイト・フュージョナーを寄生させることを許可したのですか?」
この場において今更聞く必要があるとは思えない問い。
何故それをこの場で問うのかとこの場にいる誰もが疑念をよぎらせる中、赤馬零王は白銀の放つ異様な気配に抗えず正直に答えた。
「そうだ。計画にこれ以上狂いが生じぬよう、ドクトルの提案を容認した」
「なんてこと…」
非道を自ら成したと肯定した赤馬零王へ遊勝が声を上げ、しかし言い切るより先に舌が麻痺したように止まる。
その正体は白銀の纏う気配。
まるでコールタールの様に粘り付き身を固め、ドライアイスの様に熱いと錯覚するほど冷たい、真空の様にあらゆる音を否定するかの様なただただ恐ろしい以外の感情を抱くことを許さない気配が広間を包み遊勝の口から言葉を禁じていた。
その中で零児は不意に気付いた。
(零羅が怯えていない?)
戦場で生き抜くために過敏になるほど研ぎ澄まされた観察眼を持つ零羅は指一本動かす事さえ出来ないほどの恐怖に駆られている零児達とは対照的に、何故自分達が動かなくなったのか分からない様子でじっと白銀を見ていた。
「……そうか」
たった三文字。
白銀が言葉を発した瞬間、榊遊勝は彼が漸く理解した。
(彼は、
先程までは友好的な笑みに反し煮えたぎる鉛のような激情を裡に湛えていたのが容易に察せられたのに、今の彼は底が無い孔が開いたかの様に全ての感情が消え去っていた。
きっと
「父さん!!」
「遊矢!!」
遊勝たちの背後の扉が開き傷付いたボロボロになった黒咲を抱えたリトルナイトと共に遊矢が姿を現した。
「父さん!父さん!!」
「大きくなったな遊矢…」
三年の時を経た再会に感極まり抱きつく遊矢と息子への愛おしさに白銀への不気味さも
そんな万願の喜びに浸る二人を不快感しか抱かせない笑い声が水を差した。
「ふぇふぇふぇ!
直に見てもやはりそのデュエルディスクは博物館にもレプリカしか存在しない旧時代のアンティークにしか見えない。
なのにあのデュエルディスクで実体化させたモンスターは我々のリアルソリッドビジョン以上の実体性と存在強度を実現する。
その理由がデュエルディスクにあるのか或いは使い手であるあの男にあるのか、実に興味深い!!」
そして赤馬零王の背後から厭らしい視線を白銀に向けるドクトルが姿を現した。
因みに遊勝が白銀を気にせず遊矢との再開を素直に喜べたのは白銀がとある道具を使ってるからです。
その答えは次回で。
次回、ドクトル死す(ガチ)デュエルスタンバイ。