迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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ごめん。
クリスマス特別編は遅刻したよ。


【番外編】三賢者は贈り物を考え直す

 「しちゅじぃ…」

 

 し◯し◯ピカ◯ュウみたいな顔で萎れて机に寄りかかる姫様にお労しい…と全く思う余裕はない。

 

「姫様。そんなふうに萎れてないでさっさと書類にサインをお願いします」

 

 俺の手には一抱えもある書類の山。

 隣のアリアスも同じ高さの書類の山。

 そして姫様の背後には天井間際まで積み重なった書類の山。山。山。

 世は当に年末。

 

 地獄の年末決済の時期である。

 

 割と知られてないし本人さえたまに忘れているが姫様は【白銀の迷宮城】を首都としてかなりの領地を持つ領主である。

 首都と言っても『サンアバロン』の分け技を中心とした森に勝手に住み着いた昆虫族やら植物族やらがメインなので税も現物がちょっぴりで、主だった収入は領地境界線付近の村以上町以下の辺鄙な宿場街からの細々とした租税が領地としての主な収入だったので確認の書類数枚で終わっていた。

 それでどうやって姫様の垂れ流す莫大な浪費を賄っていられたのかというと、迷宮城には尽きぬ財がありそこから引っ張ってきていたのだ。

 だが、今年になり息子経由で【ZEXAL次元】を繋ぐ次元門が設置されその門を中心に都市が建設され急激に発展する事になった。

 その結果急激に増えた領民手続き関連が山となって姫様に雪崩込んでいるのだ。

 そしてそれを後回しとほっぽらかした結果、年末決済と重なり今に至る。

 

「だってぇ…もう二日も寝ないで頑張ってるのに全然減らないのよ?」

「こうなるからデジタル化しましょうと提案したのに、ネット回線を繋ぐ中継機を建てたくないって拒否ったのは姫様ですよ?」

「絶対嫌!! パラボナアンテナなんてセンスが無い物を私の美しい城に設置させるなんて絶対嫌よ!!」

「だったら諦めて作業を続けて下さい。

 喚いていてもクリスマスは待ってくれませんよ?

 今年もパーティーやるなら後4日で全部片付けないと今年はクリスマス無しになりますが?

 子供達とクリスマスパーティーやりたいんでしょう?」

「ぐぬぬ…」

 

 悔しそうに唸りながら「やってやるわよ!!」と吠え齧りつく勢いでペンを走らせ始める姫様。

 

「ではサインが終わった書類を処理してきます」

 

 そう言って決済が完了した書類の山を抱え部屋を出る。

 

「凝らずにただ書くだけにすればあの三倍は速く片付くんですけどね…」

 

 「サインだとしても私手ずから書くのだからこれは芸術!

 一つたりとも手を抜くのも同じにするのもあり得ないのよ!!」

 

 等と宣い無駄に凝ったサインを書こうとした結果ネタ切れを起こして積もりに積もり、ああして書類の山が地獄と成り果てた。

 まあ、そんなポンで自爆する姫様も可愛らしいので本当に駄目なら俺なりアリアスなりが代筆すれば事足りる。

 それで本当に大丈夫なのかと聞かれれば、領主が目を通したという事実確認のためにサインが必要なだけで業務自体はアリアスが代行という形で一括して采配と管理を成しているから運営的にみると領主はアリアスになるから問題ないという。

 以前『ラビュリンス』を企業に例えたが、経営形態はアリアスが総理大臣で姫様は御上の席に当たる。

 そして俺はというと、暴力装置扱いだから敢えて言うなら防衛大臣か?

 それにしても今年になって急に領主の仕事もちゃんとやると言い出したのだろうか?

 

 ※以下、裏話

 

「お母様。お母様はニートなのですか?」

「違うわよ!! 私は城の女主人! お姫様なの!!」

「ですが経営は全てアリアスとお父様がなされてますよね?

 お父様達がお忙しい中お母様は何もなされずにソファーでゆったりお過ごしに…。

 もしかして『ラビュリンス』の主はお飾りなのですか?」

「そんな訳無いわよ!! 私だってちゃんと領主のお仕事します出来ますやりますわよ!!」

 

 娘の無自覚な煽りを喰らってやる気になったのは誰も知らないという。

 

 ※裏話終了

 

「父様」

 

 執務室で業務を進めていると息子が入ってきた。

 

「どうしました?」

「その、明日の事ですが父様はお忙しそうなので本当に大丈夫なのかと心配になりました」

 

 そう躊躇いがちに言う息子に俺は苦笑を零す。

 

「大丈夫ですよ。

 貴方は明日を楽しみに待っていなさい」

 

 姫様へのクリスマスプレゼントを選ぶのを手伝って欲しいと頼まれ明日三人で街へと出る予定だったのだが、デスマーチを目の当たりにして不安に思ったのだろう。

 

「ですが…」

「子供のお願いを叶えるのは親の楽しみですよ。

 その為に今頑張っているんですから安心なさい」

「…分かりました」

 

 そう言ってやると安心したように息子は部屋を出ていく。

 それを見送り、俺はよしと気合を入れる。

 

「これより全力でお父さんを実行する!」

 

 敢えてトンチキ発言をする事で自分を追い込み、姫様の背後の山にも引けを取らない書類の海へと立ち向かうのだった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 そうして日が昇り翌日。

 俺は貫徹までして死ぬ気で今日の分までを含めた書類のノルマを片付け、息子達を連れ三人で街へと繰り出していた。

 

「参考までにお伺いするのですが、お父様はもうクリスマスプレゼントはお決まりになられているのですか?」

「ええ。以前から頼まれていた魔力コアとして的確なサイズの『バリアライト』が手に入ったのでそちらを渡す予定ですよ」

 

 【ZEXAL次元】の『バリアン世界』でのみ採取出来る超高魔力結晶『バリアライト』。

 某世界の『トロニウム』程ではないがサイズから考えて比率が完全に狂っているとしか言えないレベルのエネルギーを内包しており、これを加工し魔力コアとすれば既存の同サイズ魔力コアの三倍の出力は保証される。

 これまでは【教導国家ドラグマ】に発生する『ホール』から稀に発見されるだけで市場に出回る事はほぼ無かったのだが、現在は『バリアン世界』の希少輸出品として時折取引されている。

 とはいえ姫様が希望するサイズの『バリアライト』鉱石は『バリアン世界』でも中々産出されないため『お兄ちゃん会』所属の神代凌牙君経由で件の大型鉱石をオークションに流すと情報を頂きアリアスに会計を願い無事に競り落とした。

 当然ながらかなりの出費となったがそれでも姫様の一回の浪費額に比べればまだマシというのだから、姫様の金銭感覚と城の財産とはどうなっているのか改めて不思議に思う。

 

「君達は渡したいものは何か思いついていますか?」

「私はもう決まっておりますわ!!」

 

 ビシッと天を指差し娘が自慢げに嘯く。

 

「ブルーノ様がお仕事を為さられておられる古物店で、いい感じに呪詛が溜まりまくった呪いの出刃包丁を見付けたのでそちらをお送り致す所存ですわ!」

 

 確かそれ、ディアベルゼの鑑定で「痴情の縺れから恋人を刺し殺した者の手から手を転々と渡り歩いた恋人殺し」って結果が出て厳重に封印処置されてたはずなんだが?

 というか姫様にそれを渡すって、姫様に俺を刺し殺させるつもりなんだろうか?

 

「却下です。

 せめて呪物にするなら棘のある椅子程度にしておきなさい」

「なんでですか!!??」

 

 悪魔の感性としては褒められても人間的感性からしたらそんな由来のある代物を母親に渡すのは喧嘩を売っているようにしか思えん。

 

「むぅ…。でしたら自分用に考えていた【ギミック・パペット−ブラッディ・ドール】にしておきますわ」

「ナイトメアやカトル・スクリームよりは女子向けとはいえ【ファーニマル】ではなく【ギミック・パペット】を選ぶ辺りが姉様ですよね」

「え!? お兄様はジャイアント・キラーをすごく可愛いと思わないのですか!?」

「ジャイアント・キラーは可愛い云々よりファンサービスが過ぎるから遠慮したい」

「なんですかそれ?」

 

 表情からは解し切れない言葉に訝しむ娘に対し息子は皮肉げにふふと笑う。

 

「悪魔族的にも参考になる対戦相手に向けた残酷ショータイムだよ。

 それをより殺戮に寄せたのが父様の【ギミック・パペット】だね」

 

 私が【ギミック・パペット】を回す時は【RUM-アージェント・カオス・フォース】使い回してワンキル狙いますからねぇ。

 

「お父様の極限まで研ぎ澄まされた殺意をマイルドに魅せを意識したプレイングでしょうか?

 お兄様のご様子から使い手のパフォーマンスも込みと言う感じですかね?」

「うん。彼の邪悪っぷりは本当に交じり気なしの人間か疑ったよ」

「そこまで言いますか」

 

 純正悪魔族に同族認定って、それはもう吐き気を催す邪悪なのでは?

 いや、息子は俺と同じく人間寄りの感性だから普通に下衆なだけかもしれないな。

 

 後日、実際に面会して対戦し「これは疑ってもしゃあない」と思うなどと思いもしないのだった。

 

「彼女のセンスはさて置くとして貴方は姫様へのプレゼントの候補はありますか?」

「それが全く。

 僕如きの拙い手作り品なんて芸術家であるお母様に渡すのは侮辱と取られても仕方ないですが、かと言って僕の美的センスで母様を納得させられる品を見極められるとは思えないんです」

「小難しく考えすぎですよ。

 姫様は貴方が真剣に選んだのなら余程でない限り怒って捨てるような真似はしません」

「そうでしょうか?」

 

 むしろ姫様の納得いく品を考えなきゃならない俺の方が大変なのだ。 

 今回は『バリアライト』があるからどうにかやり過ごせたが、来年を考えたら今から既に頭が痛い。

 

「じゃあ、一分の一スケールの母様のフィギュアなんてどうですか?」

「それは止めておきましょう」

 

 若干俺がトラウマになってるので全力で回避させてもらう。

 それにそんな物を見せられたら「私はもっと美しいわよ!!」とキレてまた自分で自分の人形を作りかねない。

 

「おーい!! 迷!!」

 

 と、不意に息子を呼ぶ元気な声が響き渡る。

 

「この声は遊馬!?」

 

 そちらを見ると嬉しそうな様子で手を振る『九十九遊馬』と『観月小鳥』の二人が立っているのが見受けられた。

 せっかくだからと二人のもとに向うと息子は嬉しそうに話しかけた。

 

「久しぶりだね遊馬!小鳥さん!

 今日は二人でデートかい?」

「「デート!?」」

 

 息子の問いに二人が顔を真っ赤にして慌てふためく。

 

「そ、そんなんじゃないよ!?

 冬休みの機会に精霊界を観て回ろうってだけだよ!」

「そそそうだぜ! それに俺達だけじゃなくてアストラルも居るからな!」

『呼んだか遊馬?』

 

 遊馬君の胸のペンダントが光り中から半透明の精神体が現れる。

 

「アストラル!

 いつ再会したの!?」

『久しぶりだな迷。

 遊馬とは再び脅威に晒された『アストラル世界』の危機を救ってもらってからまた一緒に居るようにしている』

「そうですか」

 

 アストラルの答えに息子が懐かしさと嬉しさの混ざった笑みを浮かべる。

 

「ところでそっちの女の子は?」

「始めまして。

 私は迷の双子の『白銀宮』と申します。

 お兄様が懇意にして頂いたと伺っております。

 どうぞこれからもお兄様と友誼を続けていただければ幸いです」

 

 瀟洒な一礼と共に貴族らしい挨拶をする娘に小鳥さんが慌てて頭を下げる。

 

「い、いえ。こちらこそ迷君には沢山お世話になりましたのでこちらこそ宜しくお願いします。

 あ、私は『観月小鳥』です」

「ふふ。ご丁寧にありがとうございます小鳥さん」

「ほら遊馬もちゃんと挨拶しなきゃ!」

「悪い小鳥。

 俺は『九十九遊馬』!迷の友達だ!」

 

 完全に猫を被る娘にあたふたする小鳥さんと対照的に快活に自己紹介をした遊馬君が息子に言う。

 

「そういや迷。

 姉ちゃんが居るって聞いてたけど今日は一緒じゃねえのか?」

「姉様ならそこにいるよ?」

「「え???」」

 

 そう娘を差す息子に二人が頭の上にハテナマークを乱発する。

 

「色々理由がありまして、二人は両方が両方を兄姉と呼んでいるんですよ」

「それって大丈夫なんですか?」

 

 地球ならあり得ない状況に思わず尋ねただろう小鳥さんにええと答える。

 

「特に問題はありませんし双子ですから無理矢理どちらを上にしても軋轢が生じるだけですから、どちらを上とするか本人達が決着を付けるまでは好きにさせています」

「そうなんですか…」

 

 そう言うと一応の納得した様子の小鳥さん。

 と、そこで遊馬君が迷に提案する。

 

「なあ迷!久しぶりに会ったんだからデュエルしようぜ!」

「そうしたいんだけど、今日は母様へのクリスマスプレゼントを買う用事がまだ終わってないんだ。

 だから、デュエルは買い物が終わってからにしたいな」

「えぇ!? でも、母ちゃんへのプレゼントならしょうがねえな!!」

 

 理由を聞いてあっさり引き下がる遊馬君に息子が懐に手をやりながら尋ねる。

 

「そう言えば一馬さん達は今年は帰ってくるのかい?」

「ああ!!父ちゃんも母ちゃんも皆一緒にクリスマスパーティーやるんだぜ!!」

「…そうですか。それは良かった」

 

 ほんの一瞬だけ止まり、懐から手を抜いて我が事のように喜びながら息子はそう言う。

 そういえば招待状を何枚か欲しがっていたが、彼に渡すつもりだったのか。

 ここは父として少しお節介を焼いてみるか。

 

「遊馬君。

 クリスマスに私の家でパーティーをやるのですが、宜しければ君達ご家族全員をご招待しても宜しいですか?」

「父様!?」

「良ければ小鳥さんとそのご家族も一緒に招かせて頂きますがどうでしょう?」

「良いんですか?」

「勿論です。

 息子が懇意にして頂いたお礼と思い受け取って頂けたら幸いです」

 

 戸惑う小鳥さんに対し遊馬君は嬉しそうに跳ねた。

 

「よっしゃあ! 小鳥!すぐに帰って姉ちゃん達に伝えてこようぜ!」

「あ、待って下さい遊馬、来てくれるならこれを持ってきて!」

 

 そう言って息子が慌てて隠し持っていた招待状を二人に渡す。

 

「その招待状があれば安全に城まで行けるから絶対無くさないでね!

 なんならアストラルがもってて」

『分かった。遊馬の代わりに私が保管しよう』

「無くしたりしねえよ!」

『どうだか? 以前も似たような紛失をした事があると記憶しているが?』

「今度こそ大丈夫だよ! じゃあな迷!クリスマスパーティー楽しみにしてるぜ!!」

 

 そう言って真っ直ぐ走り出す遊馬君と「ありがとうございます」と一礼して急いで追いかける小鳥さんを見送る。

 

「中々元気な子ですね」

 

 少々落ち着きの無さも気になるが、あの年頃ならまだ愛嬌の範囲だ。

 

「父様。ありがとうございます」

「礼はいりませんよ。父として息子を喜ばせたいと思うのは当然ですから」

 

 そう言うと息子は何も言わず再び頭を下げる。

 

「さて、こうなると遊馬君達にも何か考えなければなりませんね。

 難易度が跳ね上がりましたが覚悟は宜しいですか?」

「当然です!

 …って、あれ?姉様?」

 

 そういえば全く話に絡んでこなかったなと思い辺りを見回すと、やや離れたベンチに座る誰かへ突撃している姿を見つけた。

 

「見つけましたわ遊作様!!」

 

 そのままダイビングジャンプで飛びかかる娘だが、優作と呼ばれた彼はすっと立ち上がり娘を回避する。

 そして目標に避けられた娘は派手にベンチへと頭から突っ込みそのままギャグみたいにベンチごと吹っ飛んだ。

 

「なんで妻の抱擁を避けるんですか遊作様!!」

「認めた覚えは無い。

 それに俺もお前も未成年だ」

「法など愛の前では障害足り得ませんわ!

 さあ、今日という今日こそ私の夫として城に来るのです!!」

「断る。俺はアイを探しに『精霊界』に来たんだ」

「問題無用!貴方の人生は私が頂きますわ!!」

 

 ………。

 

「どうします父様?」

「とりあえず謝罪からですかね」

 

 アグレッシブに阿呆を晒す娘に頭を痛めつつ、今日はまだ長くなるなぁとそう思うのだった。




次回は再び血腥くなります。
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