迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
デッキの相性等を加味したとしても目に余る程に酷いデュエルだった。
リトルナイトが【S-Force チェイス】を【ペンデュラム・ターン】で指定した【精霊炉】を指定して手札に戻させていれば、それでもう赤馬零王は【スピリット・バリア】とサラマンダー・コアをセットするぐらいしか出来ずリトルナイトは妨害をするまでもなくもっと容易にリーサルを取れていた。
つまるところ赤馬零王は手心を加えられてなお一ターンキルを躱せない程度のデュエリストだと証明したのだ。
「まだだ…まだ、私は、レイを…」
「この期に及び敗者の責務さえ背負えぬとは…」
現実を突きつければまだ曇りも晴れるかとリトルナイトの慈悲さえ理解せず見苦しく立ち上がろうとする赤馬零王にリトルナイトが腰の刀へと手を伸ばす。
「いい加減にしろ赤馬零王!!
貴様が計画を止めればズァークは復活しない!!
貴様さえ娘を諦めれば全て終わるんだ!!」
「黙れ!!」
零児君の言葉に赤馬零王が叫んだ瞬間、凄まじい地響きが響き渡る。
「ぐぁぁぁああああああっ!!」
「遊矢!!??」
その衝撃が走った直後、遊矢君が苦しそうに胸を抑え叫び壁を砕きながら二体のモンスターが縺れ合うようにこの部屋へと飛び込んできた。
「あれは、【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】と【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!!??
まさかユーリとユーゴ君が戦っているのか!?」
地面へと押し付けられたクリアウイングがスターヴヴェノムの牙に喉笛を噛み砕かれ鮮血のように光の粒子を撒き散らしながら消滅する。
「あはははははははははははは!!」
狂ったような笑い声を響かせながら歪んだ笑みを浮かべ破壊された壁の向こうからユーリの姿が現れた。
「ミィつけたぁ!
声がするんだよ!君と一つになれってさぁ!!」
瘴気とも言えるほどの濃密なデュエルエナジーを撒き散らしながらユーリが遊矢君へ視線を定める。
「うぅぅぁぁぁぁ!! すベテをぉ…ひとツニぃ゙ぃ゙!!」
苦悶に顔を歪めながら遊矢君の口から遊矢君ではない言葉が漏れ出し、その目が紅く魔性を孕んだ光を強くしていく。
「いかん! ズァークの覚醒まで最早時間は無い!!」
遊矢君の様子に気を取られ赤馬零王はその隙にホログラムモニターを開いていた。
「『アークエリア・プロジェクト』の稼働準備はどうなっている!」
『間もなく開始を「今すぐ開始しろ!!」りょ、了解!!』
「貴様!!??」
デュエルの勝敗を無視した赤馬零王に怒りを爆発させたリトルナイトが斬りかかるが、しかし刀は透明な壁に弾かれ赤馬零王に届かなかった。
「小賢しい真似を!!」
怒号を放つリトルナイトの前でカプセルに閉じ込められていた柚子さんに異変が起きる。
「何これ…!?」
柚子さんの身体が光に包まれその存在が急激に薄くなっていく。
「嫌、助けて遊矢!!」
「柚子!!!!」
ズァークの覚醒に苦しみながらも必死に手を伸ばす遊矢君の前で柚子さんが光の粒子となって消えてしまった。
「ゆ……ず……?
嘘だ…柚子…柚子…」
目の前で消え去った柚子さんに遊矢君の心が急激に摩耗し崩れ去ろうとしているのが嗅覚を起こすまでもなく理解できてしまった。
「柚子ーーーーーーーーーーーー!!!!」
「零王!!」
魂を引き裂かれたような息子の慟哭に榊遊勝が初めて憎しみの感情を剥き出しにして赤馬零王へと叫ぶ。
「私は成さねばならないのだ!!
レイを蘇らせズァークを封じた四枚のカードを復活させねば、ズァークを倒すにはそれしか方法は無いのだ!!」
そう言うと部屋の構造が可動し壁を挟んで俺達と赤馬零王は切り離されていく。
「待ちやがれ!!」
義憤も建前も全て捨て奴だけは死んでも殺すと死ぬ覚悟で残る魔力を絞り出し【クシャトリラ・アライズハート】を【召喚】しようとしたが、その前に遊矢君から放たれたデュエルエナジーの衝撃波に押し流され壁に叩き付けられた。
「ぐぅっ!?」
「主殿!?」
「俺はいい! 先に遊矢君だ!!」
そう俺が示す先では遊矢君がユーリと共鳴しているところだった。
「全てを一つに…」
「世界を破壊ぃ…」
ズァークの狂気に触れ完全に暴走状態に入った二人が統合してしまえば復活したズァークもまた破壊の権化として顕現するだろう。
「永続罠カード発動!【衝撃の拘束剣】!!」
赤馬零王と遊矢君のどちらを優先すべきか迷った直後、突如榊遊勝がデュエルディスクを起動しカードを発動した。
発動した効果は赤い刃となって遊矢君へと飛び、そのまま遊矢君を巻き込んで壁へと突き刺さると遊矢君を拘束した。
「がぁぁぁあああ!!??」
統合を邪魔され怒り狂い叫ぶ遊矢君。
榊遊勝の英断によって今すぐズァークが暴走する一先ずの最悪は避けたが、代わりにドス黒い怒りを湛えたユーリが榊遊勝を睨む。
「なんで邪魔するのさぁ?」
「息子を悪魔になどさせはしない!」
「息子? ふぅん?」
その言葉にユーリが不快感以外の興味の籠った視線を向ける中、榊遊勝は俺に向けて問いを口にした。
「教えてくれ。私には息子が産まれた時の記憶が無いのだ。
妻が遊矢を身籠った時に何と声を掛けたのか、産まれてきた遊矢に初めて抱いた時に何を想ったのか、私は何一つ覚えていないのだ」
「……」
そう苦しそうに父としての不安と恐怖を口にする榊遊勝に俺は先走る感情を抑え全てを言い切るのを待つ。
「私は今日まで遊矢を愛し導けるよう努力していたつもりだった!
だが、世界の真実を、そして息子と思っていた子の前世と過去を聞き疑念を抱いてしまったのだ!
私は、息子と愛していた存在にただ利用されていただけではないのかと。
息子と信じ育てていたものは悪魔ではないのかと!」
「違う!!」
魂にから湧き上がる『赤馬レイ』への怒りを燃やしながら同じ父として榊遊勝に俺は伝える。
「貴方が遊矢君を任されたのはズァークの意思ではない!
赤馬レイが、あの男の娘が貴方に託したんだ!」
「零王の娘が私に!?」
「そうだ!
赤馬レイは貴方なら今度こそズァークが狂わないよう導けると信じたから貴方の息子として生まれ変わらせたんだ!
何故なら貴方が成し遂げた『誰もが笑顔になるデュエル』こそズァークが目指したデュエリストとしての姿、彼の原初の目標そのものだったからだ!!」
「ズァークの目指した姿が、私だと…?」
「そうだ!だから利用したと言うなら赤馬レイが貴方を利用した!
だがそれは悪意からじゃない。ズァークが忘れた光のデュエルを教え導ける先駆者として側に居て欲しかったからだ!」
「っ!!??」
赤馬零王は本当に余計な事しかしていなかった。
榊遊勝が遊矢君を正しく導いていれば遊矢君を通してズァークは最初の願いを取り戻し正しく光のデュエルを抱いたまま大人になれた。
遊矢君だけじゃない。
ユート君も、ユーゴ君も、ユーリも其々の形で光のデュエルを忘れないまま大人となってズァークの狂気を晴らしていたのだ。
俺が再会したズァークは、そう俺に四人の人生を記憶として受け継ぎ人としての姿を取り戻したと語ったのだから。
「息子を信じてやってくれ榊遊勝!
前世なんか関係ない!その子は、榊遊矢は榊遊勝の息子だ!」
この次元で俺と榊遊勝との関わりはついさっき始まったばかりで信用なんて築けている筈がない。
だからこそ俺は本気でそう言うしか無い。
「……そうか」
俺の答えに榊遊勝は穏やかに微笑むとユーリに向けてデュエルディスクを起動した。
「何、オジサン?
僕とデュエルするの?」
「ああ。君を止めないと遊矢が遊矢でなくなってしまうからね」
「へぇ~?」
無邪気な邪悪さを顔に浮かべユーリもまたデュエルディスクを起動する。
「父さん!!」
「見ていろ遊矢!お前に見せたかった私のエンタメデュエルを!
白銀殿!」
そうユーリを見据えたまま俺に言う。
「友を、いや、赤馬零王を止めてくれ!」
「……分かりました。
行くぞリトルナイト!」
「承知!!」
それがどんな末路に至るか予想してなおそう言う榊遊勝の意を汲み、俺は赤馬零王が居るだろう場所へとリトルナイトと共に走り出す。
「父親を目の前でカードにしたらどんな顔をするか考えただけで面白そうだね」
「させはしないよ!
そして、私のデュエルで君も笑顔にしてみせよう!」
「「デュエル!!」」
背後で父親として『エンタメデュエル』の最高峰としての意地を載せた声が響いた。
この後遊矢サイドは原作ルート通ってズァークが覚醒します。
次回、赤馬零王処刑。