迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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今回はちょっと予定を変えて外部の反応となります。


悪魔は龍と踊る(10)

「なんだこれは…?」

 

 零児には目の前で広がる光景が理解出来なかった。

 

「我のターン!ドロー!」

 

 紫雲院素良が、黒咲隼が、権現坂昇が、沢渡シンゴが、そして自分が必死に戦いその牙城を崩そうと躍起になっても一切揺るがす事が叶わなかったズァークに対し、白銀ユウタはただ一人で同じ地平に立ちズァークと真っ向から拮抗している。

 

「あ、知らなかったは気に入らないので言っておきますが、【サイコ・エンド・パニッシャー】は私のライフポイントが貴方より少ない時完全耐性を得ますので【覇王眷竜ダークリベリオン】で処理しようとしたら自爆しますよ」

「我を差し置き完全耐性などと調子に乗りおって!

 だが追い詰められねば発動しない効果ばかりとは、弱った鼠ほど必死に足掻くものか」

「ええ。追い詰めすぎてサイコ・エンドの攻撃力が8000を超えるなんて事になったら【覇王龍ズァーク】が健在でもデュエルに必要なライフポイントが先に消し飛んでしまいますよ」

「その前に貴様が敗北する!

 我が負けることなどあり得ないのだからな!

 だが、我の完全な勝利には今暫くの猶予を待たねばならぬようだ。

 我はカードを伏せてターンエンド!」

「私のターン。ドローフェイズ。ドロー。

 スタンバイフェイズ。メインフェイズ。

 此方も暫し待たねばならないようですので全てのフェイズを放棄してエンドフェイズに入ります」

「ほう? バトルフェイズに入り【覇王眷竜ダークリベリオン】を攻撃すれば我のライフポイントを大幅に削れたというのに勝利を取り逃がすのか?」

「確かに好機を逃すのは痛いのですが、その伏せカードがすごく嫌な予感がしたんですよ。

 【業炎のバリア−ファイアー・フォース】だったりしたら六双丸も破壊されますし、何もせずに盤面を維持する方が今は丸いと判断させてもらいました」

「臆病風に吹かれたか?」

「恐怖とは生物の生きたいという願いの叫びです。

 過敏になるのは頂けませんが、無衣にし過ぎるのもまた危険ですよ」

「口が回るものだな。

 執事と名乗っていたが本職は道化ではないのか?」

「……強ち否定出来ませんね」

 

 主の私見とは裏腹なスラップスティックコメディな日常の【ラビュリンス】の日々を思い出し執事は曖昧に笑う。

 

「ならばその予感の正体を教えてやろう!

 伏せカード発動!永続罠カード【覇王乱舞】!」

 

【覇王乱舞】※アニメ効果

永続罠

①:自分フィールドに「覇王」モンスターが存在する場合、

相手バトルフェイズに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。

その相手モンスターは攻撃しなければならない。

対象のモンスターが既にこのターンに戦闘を行っている場合、

そのモンスターはもう1度だけ攻撃しなければならない。

②:1ターンに1度、自分の「覇王」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、

または自分フィールドの「覇王」カードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した場合にこの効果を発動できる。

その「覇王」モンスター及び「覇王」カードはその戦闘・効果では破壊されない。

③:相手バトルフェイズに、魔法&罠ゾーンの表側表示のこのカードを墓地へ送って発動できる。

このターンに攻撃していない相手モンスターは攻撃しなければならない。

その場合の攻撃対象はこのカードのコントローラーが選択する。

 

「命拾いしたな?

 貴様が欲を搔いてバトルフェイズに入っていれば、貴様の【軌跡の魔術師】はダークリベリオンに自爆し我ではなく貴様のライフポイントが尽きていたのだ!

 そしてこれにより我のフィールドのカード全てに耐性が与えられた事で我のフィールドは更に強固となった!」

「乱舞も【覇王】カテゴリーなので耐性を得ていると。

 確かに欲を搔いていたら危険が過ぎたようですね。

 それではターンを譲ります」

「我のターン!ドロー!」

 

 次元が違う。

 今のターン自分であったらどうしていた?

 言うまでもなくサイコエンドの耐性にうつつを抜かしバトルフェイズへと入って【覇王乱舞】に絡め取られ自滅していた。

 白銀ユウタの強さの本質はカードパワー云々ではない。

 知識と経験を下地にした危機管理能力だ。

 最悪を常に考え、その最悪が起きる前提で盤面を操作しリカバリーするために必要なリソースを確保するよう立ち回り、相手にもそれを強要させるよう盤面を作る。

 

「これが白銀の言う『現代遊戯王』なのか?」

 

 自分達では理解の及ばない次元の戦いに零児は世界の危機さえ忘れ、このデュエルがどう結末を迎えるのか()()()()()()()()その行く末を見守るのだった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

【ハートランドシティ】

 

 『Dr.フェイカー』が設計し、中心部に街の名前と同じにする巨大アミューズメントパーク『ハートランド』を擁し自動掃除ロボットが常に清掃をする事で街は清潔を保ち管理されたインフラにより理想的な街として完成した未来都市。

 その川辺りで一人の少年が膝を抱え僅かな憂いを伺わせながら遠くを眺めていた。

 

「僕は一体何をしていたんだろう…」

 

 思い返すのはつい先日決着の着いた一つの事件について。

 

 この次元に存在する二つ世界、より高次の次元へと到達するために魂のランクアップを目指す『アストラル世界』とランクアップするために不要なものとして『アストラル世界』から切り離された『ドン・サウザンド』により生み出されたカオスを体現する『バリアン世界』によるこの次元全ての運命を賭けた戦いにおいて、彼、『白銀(まよい)』は友とする『九十九遊馬』と共に世界の崩壊を防ぐために戦い、そして最後の最後において自らの理由から遊馬と敵対し、そして敗れた。

 自らが築いた友との友誼に泥を掛け如何なる誹りを受ける覚悟を抱いて願った望みは、しかしその後アストラルの選択により叶ってしまったため遊馬への申し訳なさからこれからどうするべきなのか分からなくなってしまったのだ。

 

「姉様じゃあるまいし、何事もなかった態度で友人面するなんて厚顔無恥な真似は出来ないよ…」

「相変わらずクソ真面目だな」

 

 双子の姉からは「お父様以上に生真面目過ぎる」と批判された自らの気質故に一度の謝罪程度では自らを放免に出来ずそうごちる迷に向けて罵倒とも聞こえる感想が投げられ、そちらを向くとそこには髪を外側に跳ねさせた目付きの悪い少年が立っていた。

 

「聞き覚えがある声だと思ったら『ナッシュ』でしたか」

「この姿の時にはその名は止めろ」

 

 『バリアン七皇』のリーダーとしての名を呼ばれ『神代凌牙』はそう拒否した。

 

「何か僕に話があるのですか?」

「いや? シケた面しているから笑ってやろうと思ってな」

 

 そう口の端を上げる凌牙に迷は僅かに目を細める。

 

「貴方も同じ穴の狢では?」

「だからだよ」

 

 そう迷の隣に立つと凌牙は言う。

 

「あの馬鹿を相手に気負うなんて無駄な事は止めておけ。

 散々裏切ったベクターでさえ諦めずに、最終的に奴自身に折れさせたぐらいの大バカ野郎だ。

 どうせお前との対立だってアリアが帰ってきてよかったぐらいにしか考えてねえぞ」

「…そう、でしょうね」

 

 善性を振り切り過ぎている遊馬のことだ。

 凌牙の言う通り自分の決意と覚悟さえ「家族のためだったからいいさ!」ととっくに許しているだろう。

 

「だからといってそれで「ハイお終い」で終れるのですか?」

「だからクソ真面目なんだよ。

 それに報いたきゃ今度はお前が助けてやればいい。

 その方が奴にとっちゃ何よりの報酬だろうよ」

 

 肩を竦めてそう言う凌牙に迷はクスリと笑う。

 

「確かに。遊馬にとってはそれで十分なのでしょうね」

 

 そう言うと迷は凌牙に礼を述べる。

 

「ありがとうございます凌牙。

 貴方のお陰で少しだけ楽になりました」

「知らねえよ。

 まあ、そのシケた面を見なくて済むようになるならこっちとしても願ったりだ」

 

 そう踵を返す凌牙の不器用な優しさに顔を綻ばせた迷は、直後に発生した異様な『振動』に顔を引き締める。

 

「今のは…物理的な振動じゃない?

 時空が揺れたのか!?」

「何か分かるのか?」

 

 同じく異変を感じた凌牙の問いに迷はいいえと口にする。

 

「原因は分かりません。

 ただ、この次元そのものに異変が生じた可能性が…」

「迷!アレを見ろ!!」

 

 推察を口にしていた迷に発生した異変の正体を見付けた凌牙が見るよう促す。

 

「何だアレは!?」

 

 空にオーロラのような光の歪みが生まれ、その歪みがスクリーンのように何処かの光景を映し出そうとしていた。

 

「シャーク!! 迷!!」

「遊馬!? それに小鳥さんも!?」

 

 背後から大声で呼び掛けつつ此方へと駆け寄る『九十九遊馬』と『観月小鳥』に迷はその名を呼び返す。

 

「二人はどうしてここに?」

「近くを歩いていたら空の異変が見えて、そうしたら二人の姿が見えたから何かわかるんじゃないかと思ったの」

「もしかしてまた『アストラル世界』がピンチかもしれないんだ!

 迷! 何か分からないか!?」

 

 経緯を語る小鳥と別離を迎えた半身の安否を心配する遊馬に迷は正直に語る。

 

「ごめん。次元の揺らぎが原因だということまでは分かるんだけど何が原因なのかまではまだ…」

「映像が映し出されたぞ!」

 

 凌牙の声に三人も空のスクリーンへと視線を向ける。

 空には見たことも無い空間の中に巨大なドラゴンが映し出されていた。

 

「あれは…【覇王龍ズァーク】!?」

「知っているのか?」

「ええ。『融合』『シンクロ』『エクシーズ』『ペンデュラム』という四つの特殊召喚により召喚出来る特定のドラゴン族モンスター四体を素材として融合召喚出来る超大型モンスターです」

「シンクロって、迷君が【ラビュリンス】で出してきていたカオスアンヘルみたいな召喚方法だよね?」

「ええ。ですが何故ズァークが?」

「っ!? ズァークとやらの前に誰か居るぞ!?」

 

 最初に気付いた凌牙が示す先には燕尾服を着る銀髪の悪魔がデュエルディスクを構え、モンスターを従えズァークと対峙しているのが見えた。

 その後姿を迷は知っていた。

 

「父…様…?」

 

 迷の口から溢れた言葉に三人が驚愕する。

 

「父ちゃん!?」

「あの、人? 人が迷君のお父さんなの!?」

「そうです!

 でもなんで【ラビュリンス】のお姿に戻っておられるんだ…!?」

 

 「翼や角を出しっぱなしにしていると落ち着かない」と普段から人間化を解かずに暮らしていた父が悪魔としての姿を顕にしている。

 故にこれがただ事では無いのだと迷は確信した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

【LINK VRAINS】

 

 ネットワーク技術の発展によりデュエルの舞台を現実から現実と遜色ない電子世界へと移行した【DEN CITY】。

 その街の広場で1台のキッチンカーが店舗を広げていた。

 

「ホットドッグとオレンジジュースをお願いしますわ」

 

 そう店頭で注文をしたのは銀色のゴシックに身を包んだ銀髪の若い少女。

 毳々しい派手な装いなのに何故か落ち着きと調和を感じさせる不思議な感覚を抱かせる、後5年もすれば絶世の美女へと瀬立だろうと思わせる少女の注文に店主は返事をしながら声を掛ける。

 

「また来たのかい(みやこ)ちゃん?」

 

 顔見知りである店主の草薙にそう返され『白銀宮』は意外そうな顔で「あら?」と口にする。

 

「折角私自ら貴方の生活を豊かにする一助になってあげようというのにその態度なのかしら?」

「お目当ての遊作ならいないぜ?」

 

 目的はそっちだろう? と暗に言われた宮はがっくりと肩を落とす。

 

「むぅ…、今日も居らしておいでではないのですか…」

 

 『ロスト事件』の被害者である『藤木遊作』。

 彼の在り方に興味を持った宮は一方的に遊作の協力者を自称して無理矢理仲間となり、遊作が敵視する『ハノイの騎士』との戦いに首を突っ込んでは『ロスト事件』の中核たる『イグニス』を廻る全ての勢力を引っ掻き回す台風の如く暴れ周った。

 そうして好き勝手暴れながら遊作の復讐の戦いを見届けた宮は結論を出した。

 

「この方なら私の旦那様に相応しいですわ!」

 

 その結論に本人以外の全員が「なんでそうなった!?」と異口同音で疑問を呈したのだが、母親譲りの暴走機関車である宮はどこ吹く風と熱烈なアプローチを開始した。

 

 だが、まあ、良くも悪くも母親に似た宮のアプローチは尽く失敗し現在に至る。

 

「遊作は多分、ここには戻ってこないと思うぞ」

 

 遊作と草薙を繋げていた『ロスト事件』の全容も明らかとなり、過去の清算は叶ったことで二人の関係は終了した。

 そう言う草薙に、宮は「それはどうでしょう?」と否定する。

 

「遊作様はとても寂しがり屋ですから、一度築いた繋がりをそう簡単に手放したりはいたしませんわ。

 ですから私は妻として遊作様がお帰りする日を待っているのですわ」

 

 自信満々に嘯く声が宮に草薙は「そうだといいな」と答えた。

 

「それはそれとして宮ちゃん。

 俺の生活を豊かにしてくれるってならたまにはホットドッグ代を払って欲しいんだが?」

「私のウサギちゃんの力を貸す対価としてホットドッグ食べ放題の条件を出したのはそちらでしょう?

 殿方が一度口にしたお約束を反故になさるのかしら?」

 

 そういけしゃあしゃあと宮が嘯くと『そうだそうだ!』と精霊の【M∀LICE】が自立AIのフリをして草薙を煽る。

 

「それに、絶世の美女である私が此処にいるだけで世界が華やぐのは確定的真実!

 私の美しさに惹かれてお客様もガッポガッポ!

 結果として貴方の店は繁盛するのだから何一つ嘘はありませんわ!

 その喜びをしっかり噛み締めてくださいまし!

 オーホホ!オーホホホ!!」

 

 悪役令嬢みたいな笑い声を出す宮に草薙は溜息を吐く。

 確かに宮が居る時は割かし客足は増える。

 だが、その理由は宮の美しさに惹かれではなく、『見た目は可愛いのに中身は残念なおもしれー女』に興味を惹かれたからであり、本人は自分を鑑賞される美術品と思っているが周りは動物園の奇行種パンダを眺めている気分である。

 

「やれやれ…」

 

 とはいえ遊作が居なくなって空いてしまった胸の隙間を寂しいと思わなくて済んでいるのは宮がほぼ毎日顔を出して馬鹿騒ぎをしてくれているからというのも事実。

 口に出したら調子に乗ってどんなハチャメチャを起こすか分からないから絶対に言葉にはしないが。

 

「…ん?」

 

 【LINK VRAINS】の映像を映し出していた広場のモニターが一斉にノイズが走る。

 

「……あらあら?」

 

 故障というには作為的な様子を感じた草薙は宮の顔に邪悪さを伺わせる笑みが浮かんでいるのに気づいた。

 

「宮ちゃん。もしかして」

「私ではありませんわ。

 『イグニス』がどうのなんてレベルでもありません。

 これは世界そのものの異変ですわね」

 

 人知の及ばぬ異常の始まりを、まるで劇の幕が上がるのを待ちわびる観客のように口許に三日月を浮かべる宮。

 そうしてモニターが砂嵐を吐き出すのを止めると、そこには【LINK VRAINS】とは思えない景色を映し出した。

 

 そして、

 

「なんでお父様がデュエルなさっておいでなのですか!!??」

 

 予想の遥か彼方の光景を見た宮が母親譲りの白目を剥いた絶叫を上げたのだった。




次回は急転直下。
決着に向けて天秤を一気に傾かせます。
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