迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
「迷…?
貴方なのですか?」
一年前、突如発生した大規模次元震による時空の乱れにより行方の分からなくなった息子の声を聞き、俺はカードを引くのも忘れ顔を上げた。
「ああ…良かった。
ちゃんと、無事だったんですね」
預けた精霊達が守ってくれていると信じ必ず連れ帰ると探し続けた愛する我が子の声に、だが急にどうしてと疑問を浮かべる中更に息子の声が俺に届く。
「父様!『シャイニング・ドロー』だ!
父様は僕が信じる最強のデュエリストだ!
だから父様なら出来る!! 『シャイニング・ドロー』でカードを書き換えるんだ!!」
「カードを、書き換える?」
自身がオカルトの極みなのを差し置いて何を無茶苦茶なと感想を抱いたが、ズァークはワクワクした様子でそれを受け入れた。
「『シャイニング・ドロー』! 別次元の奇跡か!
成程。我の魂の揺らぎがペンデュラムモンスターへとカードを書き換えたのと同様の、真に強きデュエリストと絆を結んだカードだけが成し得える御業を見る日が来るとはな!
良いぞ! 貴様が何を成しカードを生み出すか見せるがいい!!」
やってみせろと言うズァークに対抗するように、デッキトップが輝きを始める。
これを引けば俺が欲しいカードが手元に来る。
それを魂で理解し、俺は
「やめろ」
絶対の拒絶。
その言葉にカードが輝くのを止める。
『父様どうして!?』
「何故だ!?
何故貴様は勝利の奇跡を拒絶する!?」
俺の行動が理解出来ないと叫ぶ息子とズァーク。
それに対し俺は、俺自身に語り掛けるように答えた。
「駄目だそれは。
それを受け入れたら、俺は、
『父様…』
「デュエルの全てだと?」
「迷。私は『シャイニング・ドロー』を否定はしません。
貴方がアリアーヌと共に行方が分からなくなって、辿り着いた地で多くの出会いがあったのでしょう。
良い出会いがあったのでしょう。
友人と呼べる者と出会えたのでしょう。
気の合わない者とも出会ったのでしょう。
もしかしたら勝たねば命どころか世界そのものを失うような大きな戦いがあったかもしれません。
そうした日々を駆け抜け、貴方は『シャイニング・ドロー』が導く奇跡を目の当たりにし、その奇跡と共に未来を掴んだのでしょう。
そうした城では決して経験することは無い得難いものを多く得た事を父として誇らしく思います。
だけど、その奇跡は私には必要ありません」
息子も、ズァークも、それを聞いていた零児君達も何も言わず俺の言葉を待っている。
「私はへそ曲がりだから思ってしまうんですよ。
都合よくカードを引けるなら、必死に考えてデッキを作っていた時間は何だったんだと。
沢山の選択肢の中から多くの状況を考え、それにどう対抗するか必死に考え、デッキの相性を考え、使いたいけれど抜かざるを得ないと悩んだ時間はなんだったんだ?
カードを自在に書き換えられるなら、カードを選ぶ必要なんてなかったんじゃないのか?
そんな事までして、それで勝てたとして俺は本当に
俺は奇跡を必要としない。
それを知っているから精霊達はデッキの順番を入れ替えることはあっても書き換わりや新たなカードを増やそうとすることはない。
「私はデュエルの全てを愛している。
パックを剥いて新たなカードと出会う喜びを。
カードを見比べ展開を考えながらデッキを作る苦悩を。
そうして完成させたデッキを使い他のデュエリストと相対する興奮を。
その果てに勝ち得た時に掴む達成感を。
そして、それでなお届かずに負けた時の悔しさを。
俺は全部を引っくるめた『デュエルモンスターズ』の全てを愛しているんだ。
だけど今俺が『シャイニング・ドロー』に手を伸ばせば敗北の悔しさを愛せなくなる。
勝ちの喜びは負けの悔しさがあるからこそ楽しいと思えるんだ。
だから迷。私は私が選びともに戦い最後まで駆け抜けると決めたこのデッキとカードを書き換えることは出来ない」
自分が自分で在り続けるためには勝ちだけではなく負けも必要だ。
「それで良いのか貴様は?
奇跡を起こさねば我に届きはしないのだぞ!?」
「それはどうかな?
俺にはまだ手が残っている。
デッキ枚数47枚の中に、この状況を覆し逆転する手段が本当に無いと思うのか?」
「……ならば見せてみろ!!
貴様の矜持が、奇跡を否定した貴様に何が成せるのか我に示してみせろ!!」
そう必死な様子で宣うズァークに俺は嘯く。
「ええ。魅せてやりますよ。
それと、迷がこのデュエルを観ているなら貴女も観ているんでしょう宮。
貴女への仕置きは姫様も待ち侘びているので震えて待ってなさい」
『なんでお兄様と扱いが違いすぎるんですか!!??』
「やはり貴女も見ていましたね。
失踪した息子と脱走した娘で扱いが変わるのは当然です。
必ず捕まえますから首を洗って待っていなさい」
『私の安否確認も真剣に喜んでくださいな!!』
ギャーギャー喚くアホ娘を無視してズァークと対峙する。
「…良いのか?
こんな間抜けが今生のやり取りと成りかねないが」
「いいんですよ。
今日も愉快なラビュリンス。
それがいつもの日常でしたから」
姫様のポンを思い出させてくれた娘の奇行に感謝と仕置の感情を抱きつつ、俺はデッキトップに手を添える。
「それでは【復烙印】の効果によりドローします。
ドロー。スタンバイフェイズ。メインフェイズ」
いつも通りにカードを引き抜き、そして引いてきたカードを確認した俺は思わず吹き出してしまった。
「ふっ、今の私に相応しいカードが来ましたよ。
私が引いたのは【おろかな埋葬】です」
奇跡を拒否した愚か者にはそれで十分だと言いたげな一枚にズァークも口の端を上げる。
「何とも寓意的な事だな」
「ええ。ですが
「……何!?」
奇跡なんかなくても求めたカードは引けていたという俺にズァークの顔に険が過ぎる。
「遊矢君ではありませんが、ここは派手にやらねば勿体ない!!
故に魅せましょう!!私がお贈りする最高のエンタメデュエルを!!
私は引いてきた【おろかな埋葬】を発動!!
デッキからモンスターカードを一枚選び墓地に送ります!
この効果にチェーンはありませんね?」
「ああ!我にそれは止められん!
貴様が何を落とすか示してみせろ!!」
「言われずとも!!」
デッキから抜き出したカードをよく見えるよう翳し、この瞬間から始まる衝撃の幕明けを宣言した。
「私がデッキから墓地に送るのは【オシリスの天空竜】!!」
【オシリスの天空竜】
効果モンスター
星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?
このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。
(1):このカードの召喚は無効化されない。
(2):このカードの召喚成功時にお互いはカードの効果を発動できない。
(3):このカードの攻撃力・守備力は、自分の手札の数×1000アップする。
(4):相手フィールドにモンスターが攻撃表示で召喚・特殊召喚される度に発動する。
そのモンスターの攻撃力は2000ダウンする。
0になった場合そのモンスターを破壊する。
(5):このカードが特殊召喚されている場合、エンドフェイズに発動する。
このカードを墓地へ送る。
「【神のカード】!!?? まさか本当に実在したのか!!??」
遊戯王関連の次元ならばどの次元に於いても『レジェンド・オブ・デュエリスト』と共にこの世から姿を消したとされる三枚の伝説の中の伝説のカード。
その中の一枚を俺が持っていたという事態にズァークでさえ只々驚愕する以外の反応を返せなかった
「勿論本物です。とはいえこれは神が地上で威光を振り翳しすぎないようにオリジナルの『神のカード』からデチューンされたカードですが、だからこそ下賜された私にも扱えるのです!
そしてオシリスが墓地にある時、このカードが発動出来る!
伏せカード発動!罠カード【蘇りし天空神】!!
墓地から【オシリスの天空竜】を特殊召喚します!!」
【蘇りし天空神】
通常罠
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、
その発動と効果は無効化されない。
(1):自分の墓地から「オシリスの天空竜」1体を選んで特殊召喚する。
その後、お互いはそれぞれ手札が6枚になるようにデッキからドローする。
(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。
自分のデッキ・墓地から「死者蘇生」1枚を選んでデッキの一番上に置く。
自分の墓地に幻神獣族モンスターが存在する場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。
「本当に、本当に来るのか神が!!??」
「この効果は誰にも止めることは出来ない!!
さあ、貴方が見えるに相応しい敵がここに居ます!!
来たれ【オシリスの天空竜】!!」
俺の呼び掛けに肥沃な大地を象徴する長大な赤い身をくねらせながら時空の海を我がものとして泳ぐ赤き天の支配者がフィールドへと舞い降りた。
「これが【オシリスの天空竜】…」
【覇王龍ズァーク】をも越える巨体を前に、その威容を目にしたズァークは感動で言葉を失う。
「【蘇りし天空神】の効果により【オシリスの天空竜】の召喚後、互いは手札が六枚になるようドローする!!」
「だ、だが我の効果により全て破壊する!!
【オシリスの天空竜】の効果は我も知っている!!
手札を破壊すれば神とて我をどうとすることは叶わない!!」
オシリスの力の源である俺の手札を破壊しようとするズァークがその効果を発動した。
「その効果にチェーンして手札から速攻魔法【超電導波サンダーフォース】を発動!!」
【超電導波サンダーフォース】
速攻魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
このカードの発動と効果は無効化されない。
(1):自分フィールドに元々のカード名が「オシリスの天空竜」となるモンスターが存在する場合に発動できる。
相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。
このカードを自分メインフェイズに発動した場合、さらに以下の効果を適用できる。
●この効果で破壊され相手の墓地へ送られたモンスターの数だけ、自分はデッキからドローする。
このターン、自分はモンスター1体でしか攻撃できない。
「無駄だ!!我の効果と【覇王眷竜オッドアイズ】の効果により我のフィールドのモンスターは破壊耐性を得ている!!
無駄打ちに終わるだけだ!!」
「いいや。
それはこのカードの効果を止められたら言ってもらおう!!
サンダーフォースにチェーンして手札から更に速攻魔法【禁じられた一滴】を発動!!
オシリスとサンダーフォースをリリースし、お前とオッドアイズの効果をこのターンの間無効にする!!
この時リリースしたカードの種類と同じ種類のカードは使用出来ない!!
つまり、罠カード以外ではお前にこの効果は止められないんだよ!!」
【禁じられた一滴】
速攻魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、
このカードの発動に対して、相手はこのカードを発動するために
墓地へ送ったカードと元々の種類(モンスター・魔法・罠)が同じカードの効果を発動できない。
(1):自分の手札・フィールドから他のカードを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。
その数だけ相手フィールドの効果モンスターを選ぶ。
そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が半分になり、効果は無効化される。
「馬鹿な!!?? 我が、破壊されぬはずの我が打ち砕かれるというのか!!??」
「覇王を打ち砕けオシリス!!」
自らを贄としてズァークの力を奪い去り首だけを残したオシリスが、大きく開いた二つの口腔に生み出した雷のブレスを解き放なちズァークのフィールドを薙ぎ払う!!
「おのれぇぇぇぇぇええええ!!??」
その身を焼き砕かれ本体である肉体を切離した【覇王龍ズァーク】がブレスに飲み込まれ遂にフィールドから消えた。
「そして自身のメインフェイズに発動した時、破壊し墓地に送ったモンスターの数だけ俺はドローする!
破壊したモンスターは四体!!だが、ペンデュラムモンスターは墓地に送られないためドローは無い」
「だが、破壊された【覇王龍ズァーク】は正規召喚扱いで特殊召喚していたからペンデュラム召喚が可能だ!!
我の手札には貴様がドローさせた事で【覇王門零】と【覇王門無限】が再び手札に入った!!
我はまだ終わりはしない!!??」
まだ終わらないと必死に叫ぶズァークに向け、俺は『遊戯王プレイヤーなら一度は口にしたい台詞殿堂入り』の言葉を放った。
「それはどうかな?」
「まだ、あるというのか!?」
「【超電導波サンダーフォース】を使用したターン、私は一体のモンスターでしか攻撃出来なくなるデメリットが存在します。
よって、私はこのターンにあなたのライフポイント4000を一体のモンスターで削りきれなければ、次のターンに再び召喚された【覇王龍ズァーク】を対処する手段が無い私の敗北になります」
「ならば何故オシリスをリリースした!?」
「手札にあるのが全て魔法罠カードだからですよ。
完璧な手札というやつでした」
稀代の決闘者の効果を使うために魔法カードを割合多めにしていたツケがこのタイミングで訪れたのだ。
故に何らかの妨害が刺されるリスクを回避するためにモンスターのリリースは必要だったが、ドルイドヴルムはダイレクトアタックの際に特殊召喚するモンスター対策で切れなかったのでオシリスをリリースした。
「ならばやはり我の」
「言ったはずですよ。
それはどうかな?と。
私は墓地の【蘇りし天空神】のもう一つの効果を発動!!
このカードを除外し、デッキまたは墓地に存在する【死者蘇生】をデッキトップへ移動させます!」
「だが、それを引くのは次の、いや、手札交換カードが手元にあるのか!?」
「ありますが使う必要は無いんですよ。
この効果には続きがあります。
この効果を使用した際に墓地に神属性モンスターのみが属する【幻神獣族】モンスターが存在していた場合、私は更に一枚ドローする事が出来るんです。
そして、神属性である【オシリスの天空竜】は勿論【幻神獣族】モンスターです」
「つまり、貴様は…」
「ええ。妨害を挟まれるリスクを負わずにデッキトップへ【死者蘇生】を置きそれをドロー出来ます。
さあ、チェーンを組めない縛りはもう無くなりました。
ズァーク! 私は貴方のリーサルに手を掛けましたよ!
貴方の手札六枚の中に【オシリスの天空竜】の攻撃をとめる手段が無ければ私の勝ちだ!!」
「ぐっ……!!??」
ギリギリを歯を軋ませ悔しがるズァーク。
そうだよな。悔しくて仕方ないよな。
「手札から魔法カード【死者蘇生】を発動!!
甦れ【オシリスの天空竜】!!」
エジプトの神聖文字であるアンクの形の光が輝き、天より再び【オシリスの天空竜】が巨体をうねらせながらフィールドへと舞い降りる。
「次いで【貪欲な壺】を発動。
【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】【奇跡の魔術師】【奇跡の魔剣士】【深淵の獣バルドレイク】【I:Pマスカレーナ】の五体をデッキ、エクストラデッキに戻して二枚ドロー。
バトルフェイズに入ります。
チェーンはありますか?」
「我は…バトルフェイズに入る前に【エフェクト・ヴェーラー】を手札から捨て【オシリスの天空竜】の効果を無効にする!!」
勝負に出たか!
ヴェーラーで効果を無効にすればオシリスの攻撃力は0となるが、自らを墓地送りにする効果も次のターンまで先延ばしになる。
だがオリジナルと違いオシリスのステータス減少は攻撃力のみで守備表示で出せばモンスターをノーリスクで召喚出来る。
そのため覇王のプライドを捨てズァークを守備表示で出せば次のターン以降は再び盤面は回復する。
だがな、
「その効果にチェーンして手札から速攻魔法【墓穴の指名者】を発動!!【エフェクト・ヴェーラー】を除外してその効果を無効にする!!」
「これも止められないのか!?」
「もう無いな?
ならばバトルフェイズに入りオシリスでダイレクトアタック!!」
ズァークの手札は残り五枚。
【バトル・フェーダー】【速攻のかかし】等の攻撃中断効果をもつモンスターがズァークから来なければこれで決まりだ!!
攻撃宣言にオシリスが見せ付けるように口をゆっくりと開き、その口腔に輝く雷球を生み出した。
「認めん…我は、覇王だ!!
我に勝てと、我は望まれたのだ!!
こんな事が認められるか!!」
逃れられない敗北を前にズァークが狼狽え喚く。
「デュエルは水物。
勝って楽しい。負けて悔しい。
両方揃って初めて『ゲーム』は成り立つんです。
今回は私が勝ちました。
悔しいと思えるなら何度でもお相手しましょう。
決めろオシリス!!『超電導波サンダーフォース』!!」
俺の号令を受け、オシリスが雷球を解き放った。
「我が負ける?
負ける…漸く負けられるのか…」
攻撃がズァークに当たる直前、その顔から恐怖が消え安堵が浮かんでいた。
「うぉぉぉおおおおお!!??」4000→0
サンダーフォースを食らい派手に吹き飛び仰向けに倒れたズァークに向け、俺はいつものように告げた。
「対戦ありがとうございました」
今回使用しました【オシリス入り覇王】は純構成よりにすると【覇王】が妨害少なめかつ手札消費が厳しめなのでその辺りで一味加えたく色々考えた結果、【オシリス】混ぜたら事故率は上がるけど差し味として機能すると面白い盤面が完成すると思ったからでした。
実際遊びが多いので勝率自体は二割から三割を下回りますが、派手な展開でデュエルもエンタメしてくれるので使っていて楽しいデッキになりました。
次回は個人的にアークファイブで一番疑わしかった奴にスポットライトを当てていきます。