迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
コイツが出てきた理由は後書きにて。
倒れたズァークに対し、俺は手を差し伸べながら尋ねる。
「立てますか?」
「何故だ?」
虚空を眺めながらズァークは問いを口にする。
「我は貴様に負けた。
何故敗者に手を差し伸べるのだ?」
何を馬鹿なことを言っているんだか。
いや、彼の現役時代はそれが普通だったのか。
「良いデュエルが出来た相手には敬意を払うのは当然です。
マナー無きゲームにあるのは衰退ですよ」
そう言うとズァークは自虐的な笑いを溢した。
「ゲームか。
貴様にとってデュエルとは何処までもゲームなのだな」
「そうですよ。偶に命やら世界の命運やらが掛かる物騒さはありますが、『デュエルモンスターズ』は何処まで行こうとゲームです。
そして貴方はゲームの対戦した相手です。
だから私は何度でも貴方に言いますよ。
『対戦ありがとうございました』とね」
「ふふ…おかしな奴だ。
貴様に負けた事は業腹だが、存外この悔しさが妙に心地よい。
我はこれを忘れていたのだな」
「我の完敗だ」とズァークは立ち上がり俺に言う。
「さあ、勝者の責務を果たせ。
我を討ち、世界を元に戻すがいい」
「しませんよ。貴方を殺すなんて」
「だが、我が居る限り世界は分断されたままだ!!
貴様達はそれでいいと言うのか!?」
「四つの次元に別れた世界は既にその形を以て成立しています。
赤馬零王の計画はこの世界の安定を崩しただけの害悪であり、四つの次元に別れた元の形に戻す事が我々の為すべき回帰と考えます。
零児君。間違いないですね?」
俺達のやり取りを伺っていた零児君に確認を取ると零児君はそれで正しいと頷いた。
「ああ。 最初の形がどうであろうと今この世界は四つの次元により成り立っている。
我々が目指すのは『次元戦争』の終結とこの混乱の早期解決だ。
白銀、この状態を改善する手段はあるのか?」
「次元を成り立たせていた四人の少女を再び四人に分断すれば再び安定する筈です。
ただ、私がやるとなると四人を取り戻すまでならともかく、世界までとなれば相当量のデュエルエナジーが必要になります」
「具体的な試算はあるか?」
「我を使えばいい」
突然ズァークがそう名乗り出た。
「元より我の統合を分割しようとした結果世界は四つに別れたのだ。
ならば我を使えば貴様になら可能であろう」
「出来ないとは言いません。
貴方の存在を核とし復活する前の四人の少年を世界の基点とすることでそれぞれの世界を再構成することは理論上可能です」
赤馬レイは『エン・シリーズ』を使い大地のエネルギーを用いて結果的にそれを成した。
今回は既に下地が出来ているので分割されるズァークが抵抗しないならより少ないデュエルエナジーでそれが可能だろう。
「ならばやるがいい。
望まれたのならそれに応えるのが我だ。
敗者の責務として、世界を戻すその務めを果たそう」
「それは『ユルサナイ』何?」
突如ズァークのデュエルディスクから膨大なデュエルエナジーが溢れ、1枚のカードが宙へと舞った。
「【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】!?」
驚愕するズァークに応えることなくカードから溢れた負のデュエルエナジーが形を成し【白翼の魔術師】へと姿を変える。
「許さない。
漸くまた一つになれたズァークと再び離れ離れにさせようとするなんて、絶対に許さない」
その目は淀み狂気の光が湛えられていた。
「ズァークは私のモノだ。
誰にも奪わせたりなんかしない!!」
そう叫んだ直後、【白翼の魔術師】を中心に風が荒れ狂い鎌鼬が発生して周囲を斬り刻んだ。
「止めよ【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】!?」
「危ない!!??」
静止しようと前に出ようとしたズァークを庇い【レインボー・ライフ】を起動してその攻撃を受け止める。
「一体何が起きているんだよ白銀!!??」
建築物を盾に鎌鼬から身を守る沢渡君の悲鳴に俺は思い当る理由を告げた。
「精霊の暴走です!!
【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】は再びズァークと切り離されることに耐えられず武力行使に打って出たんです!!」
これに似た経験があった。
俺が悪魔族へと転生した後、姫様への求婚を受けてもらって事で改めて(?)結婚式を挙げることになり、俺に対し密かに一線を越えた感情を抱いていた【
その際は『騎士』でも「ちょっと勝てる気がしない」と言わせるほど完全にキレたカリスマモードの姫様によりクルヌギアスが打ち倒され収束に至った。
後日、デュエル友の冥府神『ミクトランテクートリ』から「この前地上に何処かの死者の領域が浮上しようとしていたけど、また『冥界の王』が復活しようとしたのかい?」と聞かれ、自分が原因で後一歩で生と死の境界線が狂う大惨事になっていたと知り冷や汗を掻いたものだ。
「どうにか出来んのか!?」
「暴走した精霊の対処法は二つ!
望みを叶えるかぶちのめして頭を冷やさせるかのどちらかです!」
「じゃあ早くやってくれ!?」
「その為には【レインボー・ライフ】を切らなきゃならないんですが、それをやったら全員が膾切りにされてしまいますよ!!」
ズァークを撃破した俺を優先的に狙うのを利用し俺が盾になることで攻撃の殆どを受け止めているから誰も死なずに済んでいるが、それを止めたら間違いなく死人が出る。
「クリアウイングの目的は我なのだろう!?
なら我が再びクリアウイングと統合し覇王龍となれば!」
「それこそ最悪を招く!
今の奴は『捧げる』のではなく『奪う』方に向いている!
ここでクリアウイングを取り込めば覇王龍の主導権は向こうに持っていかれる!!
そうなればもうディアハで存在ごと消し去る以外に方法は無くなり回帰手段を失った次元そのものが崩壊するぞ!!」
こうしている間にも【レインボー・ライフ】がもうすぐ切れる。
ゲームではないのでライフポイントで強引に耐えようなんて考えたら再び貼り直す間にバラバラ死体にされるのは避けられない。
『いい加減にしろクリアウイング!!』
【治療の神ディアン・ケト】で切断に耐えられるか考えた直後、そう声が響きズァークのデッキから三枚のカードが独りでに飛び出しそれぞれを核に形を成した【虹彩の魔術師】【黒牙の魔術師】【紫毒の魔術師】の三人の魔術師が【白翼の魔術師】へと三方向から其々の獲物を振り被り襲いかかる。
「何故私の邪魔をする【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!!」
俺へと集中させていた攻撃を止め、【白翼の魔術師】が自分を中心とした衝撃波を巻き起こし三人を吹き飛ばす。
「今だ!!」
この好機を逃したらチャンスは無いと俺はデュエルディスクを操作し内臓されている『デュエルアンカー』を【白翼の魔術師】へと放った。
「しまった!!??」
『対象のデュエルディスクにアクセス。
『強制デュエルモード』を執行します』
即座にデッキを入れ替え俺は告げる。
「これでもう直接攻撃は使用出来ない!!
実力行使をしようとすれば精霊の理に背いたとして存在が消滅するぞ!!」
「人に寄生しないと生きていけない矮小な悪魔如きがぁ…」
端正な顔を怒りで歪め、視線だけで射殺されかねないほどの殺意を俺に向ける。
「もう止めるんだ【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】!
我は罪を贖うべきなのだ!!」
「貴方に何の罪も存在しない!!」
悲嘆に涙を零し【白翼の魔術師】は憎しみと悲嘆に満ちた叫びを溢す。
「貴方はただデュエルが好きだっただけ!
なのに貴方を理解しなかった周りが貴方を目茶苦茶にした!
貴方にひどい事をさせた世界こそ全部壊れて無くなってしまうべきなの!!」
「【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】…」
「貴方達だってそうでしょう!?
あの世界の全てを壊し尽くしたかったのは貴方達だって同じでしょうが!!」
獲物を構え油断なく様子を伺う三人に
「ああ。そうだとも!」
【虹彩の魔術師】の姿を取る【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】が【白翼の魔術師】の言葉を肯定する。
「俺達はあの世界を、ズァークを壊した者達を一人たりとて許したりはしない」
【黒牙の魔術師】の姿を取る【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】が尽きぬ怨嗟を言葉にする。
「あの女が邪魔しなければ嬲り、壊し、喰らいつくし滅びるまで壊し尽くしてやったさ!!」
【紫毒の魔術師】の姿を取る【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】がかつての無念を吐き捨てる。
「そうよ!! だから今度こそ私達はズァークを虐めるこの世界を破壊するのよ!!」
「そんなものはもう存在しない!!」
憎悪を肯定する彼等の言葉に今度こそと嘯いた【白翼の魔術師】の言葉を【虹彩の魔術師】が否定した。
「あの日、赤馬レイにより統合された我等を引き裂いた対価として世界は再編された。
そうして嘗ての世界は、我々が復讐を果たすべき者は誰もいなくなったんだ!」
「そうだ。俺達の復讐はもう終わったんだ。
我々は四つの次元に分断され、そうして生まれ変わったズァークを今度こそ守ると俺は誓った!」
「ズァークが再び蘇った事は本当に嬉しかったよ?
彼が望むままに暴れるのはすごく楽しくて気持ちよかったさ。
だけどさぁ、ズァーク自身がもう眠りたいというならそれに付き合うのが精霊のやるべきことじゃないかなぁ?」
憎しみは晴れてなどいない。
それでも三人は新たな世界で生きていた四人の少年を主として新たにする事を受け入れていた。
そしてその上で世界の為に終わる事をクリアウイング以外は納得していた。
「巫山戯ないで!!
新しい世界? 新しい生?
私達の主はズァークだけ!!
ズァーク以外に私を所持するなんて認めない!!」
ズァークだけを求めたクリアウイングとズァークの生まれ変わりを認めた三人の間で断絶が起きていた。
「【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】…何故、そこまで…」
献身を超え狂信を伺わせるクリアウイングに戸惑いを浮かばせるズァークに俺は答えを教えてやる。
「それは貴方を愛したからですよ。
従う精霊としてではなく、伴侶として共に在りたいと願ったから彼女は抵抗しているんです」
「我を、愛している?」
思いもかけない答えに困惑するズァークに【白翼の魔術師】が羞恥と怒りで顔を赤くしながら怒鳴った。
「止めろ!!私の心を暴こうとするな悪魔め!!??」
「嫌に決まっているでしょう?
ベストならずともベターエンドが見えた所で卓袱台返しを仕掛けた女に何で配慮してやる必要があるんですか。
ふふ。本当に滑稽ですね。
だから赤馬レイに負けるんですよ」
「キサマぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
醜い嫉妬心までぶち撒けられ完全に怒り狂いその形相の凄まじさに他の男達がドン引きする。
「え? レイは我を好きだったのか!?」
「今更そこからなのか!?」
素でびっくりするズァークに俺ではなく零児君がツッコミの声を上げる。
「いや、我を封じたのは父のためとばかり…」
「それもありましたが、それ以上に四人に分かれてまで貴方の隣に寄り添おうだなんて好きな男相手でもないと出来ませんよ」
「そう…なのか…?」
こいつの恋愛偏差値は十代以下かよ。
「認めない。認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!!
ズァークに相応しいのは私だけだ!!
赤馬レイも!! リンも!! ズァークになんか相応しい女じゃない!!」
嫉妬心で完全にキレ散らかす【白翼の魔術師】に「女って怖ぇ…」と沢渡君が小さく溢す。
「殺してやるわ『精霊使い』!!
微塵に刻んで血の一滴まで切り刻んでやる!!」
デュエルディスクを構え殺意を宣う【白翼の魔術師】に俺は牙を剥いて嗤う。
「来なさい堕ちた精霊。
その慕情ごと食い散らして差し上げますよ」
「一度勝ったぐらいで調子に乗るなぁぁぁあ!!」
デュエル前の煽り合いに面白いぐらい怒り狂い喚く【白翼の魔術師】に、これが最後のデュエルになるなと確信しながら宣言した。
「「デュエル!!」」
一気見して思ったんですよ。
クリアウイングって、徹頭徹尾ズァーク復活しに動いてたんじゃねえかって。
第一話でリンの所にって願うユーゴを無視して向かった先はユートの場所でその後も登場は大体ユートと戦うよう誘導してるし、ユートが遊矢と融合したら今度はユーリを狙いに行ったように見えました。
ここから考察したのはクリアウイングがユートと戦わせたかったのは効果の相性が最悪なダークリベリオンを真っ先に潰して引き込みたかったからじゃないかって事です。
だけどダークリベリオンはオッドアイズと合流を選び遊矢とユートが先に統合。
オッドアイズは効果が弱くても二体一は分が悪いから後回しにしてスターヴを狙いに目的変更。
だけど柚子が居るせいでその計画も遅々として進まず最終的にスターヴに負け、最終的にズァークは復活したけど自分が主体になる計画は失敗したのが本編だったのかなぁと思いました。
そう思う根拠として他に、覇王眷竜もあります。
他の覇王眷竜はベースとなる各龍の能力の拡張強化なのに対しクリアウイングだけ無効効果を捨てて破壊効果全振り。
オマケにズァーク名称のシンクロ体までいるという点から、コイツだけ他と別スタンスだったんじゃないかと。
次回はラストデュエル。
使うのはどちらも【ズァーク】ではありません。