迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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エピローグなんですが、ちょっと初期構成からやりたい事が増えたため前後編に分けます。


悪魔は龍と踊る(18)

「どうして? 私はただ、ズァークに幸せになって欲しいだけなのに…」

 

 【クリスタルクリアウイング・オーバー・シンクロ・ドラゴン】のとどめを受けた【白翼の魔術師】は起き上がることもせずうわ言のようにそう漏らし身体の端から崩れ始める。

 

「【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】!?」

「術者無しに実体化出来たのはその意思が強固だったからだ。

 だが、【儀式】に敗れたことでその意思を崩され肉体が維持出来なくなっているんだよ。

 【儀式】の敗北によりクリアウイングはもう二度とカードのモンスターとして以外の実体化に関わる一切を禁じられる。

 ズァーク、これが最期になる。声をかけてやってくれ」

 

 そう言って俺が下がるとズァークは頷き【白翼の魔術師】の側へと向かった。

 

「【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】」

「ねえ、私じゃ駄目なの?

 私では貴方を幸せには出来ないの?」

 

 ズァークに呼び掛けられ、【白翼の魔術師】は涙を零しながらそう問いかけた。

 

「それは違う。

 我は、俺はもう十分幸せを得られたんだ」

 

 覇王の仮面を外しズァークは彼自身の言葉で【白翼の魔術師】に告げる。

 

「俺はお前達と共に戦えてずっと幸せだったんだ。

 【オッドアイズ・ドラゴン】と【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】と【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】と、そして【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】と共にフィールドを駆け抜けた日々が何より幸福だったんだ」

「だけど、貴方は!」

「【覇王】になる道を選んだのは俺自身だ。

 お前達を含めあの時だって俺自身を案じ止まるよう言ってくれる者はいた。

 だけどその声を振り払って【覇王】になる事を選んだのは俺自身なんだよ【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】。

 だから、この結末を受け入れなきゃならないんだ」

「嫌よ…貴方はまだ、貴方のままでもっと幸せに…」

 

 最後まで言い終えるのを待てず【白翼の魔術師】の身体が崩れ去り彼女が居た場所には【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】と【クリスタルクリアウイング・オーバー・シンクロ・ドラゴン】の二枚だけが残されていた。

 

「ホント、馬鹿な奴だよね?

 ズァークが自分が決めたことを曲げた事は、一度だって無かったのに…」

 

 茶化すような言葉を悼むように口にする【紫毒の魔術師】の言葉を肯定するように目を伏せる【虹彩の魔術師】と【黒牙の魔術師】。

 

「ありがとう【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】。

 これからはユーゴの道を示してやってくれ」

 

 そう伝えてデッキに戻すとズァークは三人にも感謝を口にした。

 

「お前達もこれまでの働きに心からの感謝を。

 お前達と戦えた事が何よりも幸福だった。

 ありがとう」

 

 そう述べたズァークを【虹彩の魔術師】が訂正する。

 

「終わりじゃない。

 ズァーク。お前は四人の人間となってこれからもデュエルを続けるんだ。

 だからこれからも俺達はお前と共に在り続ける」

「そうだ。

 幾度生まれ変わろうと我等の忠誠は変わらずズァーク、お前に捧げ続ける」

「だからもっともっと楽しもう。

 それと、今度は負けないよ【オッドアイズ・ドラゴン】?」

 

 挑発的に口許を歪める【紫毒の魔術師】に水を向けられ毅然と言い放つ【虹彩の魔術師】。

 

「今の俺は【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】だ。

 嘗てのように好きにはさせないし、これからも貴様だけには負けん」

「へぇ~? 言うじゃないか」

 

 そこにこのままでは喧嘩が始まると【黒牙の魔術師】が執り成しを試みる。

 

「そこ迄にしておけ。

 ズァークとの最後の別れだぞ? そちらに集中しろ」

「何お前が仕切ってるのさ?

 エクシーズ素材頼りの使い切り効果のくせに」

 

 本人からしたら軽いジャブのつもりだろう挑発に【黒牙の魔術師】の腕にビキビキと血管が浮き出す。

 

「…素材の縛りで闇属性が無ければ場にさえ出れない貴様が言ってくれる」

「面白い事を言うじゃないか」

 

 帰ってきた煽りに【紫毒の魔術師】がニィッと凶暴な三日月を口許に浮かべる。

 

「いい加減にしろ!

 二人とも無駄に挑発するな!」

「「手札事故要因は黙って(ろ)(て)!!」」

「ペンデュラムになった今の俺は初動も出来るわ!!」

 

 二人から煽られぶちギレ叫ぶ【虹彩の魔術師】。

 

「僕はお前がリーダー気取ってるのが前々から気に入らなかったんだよ!

 攻撃しか能のない脳筋の分際で何を【四天】の代表気取りでいるんだよ!」

「【融合】が無ければエクストラデッキで引き籠ってる貴様に言われたくない!!

 お前らと違いデッキで控える俺はいざとなれば手札コストにもなれるんだ!!」

「リリース二体のアドバンス召喚をしなければ出て来れない貴様が粋がるな。

 お前らと違い俺はモンスターが場に二体いれば一ターン目から場に出れる!」

「はぁっ!?

 お前だってレベル4が二体居なきゃどうやっても出てこれないだろうが!!

 その点僕は使われやすい闇属性モンスターなら【超融合】で相手を処理しつつ出て来て殺られても敵は道連れにしてきちんと仕事を果たし切れるんだからね!!」

「道連れに出来るのは特殊召喚された奴だけだろうが。

 その点俺はペンデュラムになった事でアドバンス召喚する手間すら無くなり何度でも蘇る事が出来るようになった!

 つまり俺が最強なんだよ!」

「【死者蘇生】で帰ってこれないデメリットを無視してよくもまあ」

「初動も出来るって言ってたけどスケール4は中途半端過ぎるよね?

 それに効果もあの悪魔の使っていた稀代の決闘者を見るに普通に上位互換がいっぱいいるみたいだし?」

「言わせておけば貴様ら!!??」

 

 ギャーギャーワーワーと喧しくヒートアップしていく三人にズァークはどうしていいかわからずオロオロしてしまう。

 

「ど、どうしたらいいんだ…?」

「戯れてるだけですから気が済むまでやらせておきなさい。

 本気で喧嘩をする気なら初手でブレスが飛び交うのがドラゴンの喧嘩ですよ」

 

 幼体ならまだマシだが、ドラゴンとはプライドに鱗が生えたような生き物であり序列というものには非常に敏感なのだ。

 そうでなくてもカードの精霊は強ければ強いほど使い手の『エースカード(最強)』の称号は自分こそ相応しいと当然のように考えておりそう扱われないと機嫌を損ねてしまう。

 俺の場合は俺にとってアークリベリオンが最強と明言した上でアークリベリオン自身がディアハ(リアルファイト)で格付けしているためその辺りの力関係は平穏無事を保っている。

 姫様? 嫁と言っとけば事実なので大人しくなるよ。

 

「それに、ああして騒いでいるのは彼等なりに考えた結果でしょう」

「何をだ?」

「貴方との最後の別れが寂しいものにならないよう、少しでも笑えるよう考えて馬鹿をやっているのだと思いますよ」

 

 そう示す先で喧嘩は更に過熱していた。

 

「そもそも貴様だけなんでレベルも攻撃力も高いんだ!!

 エクシーズモンスターの【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】はともかく【四天】なんだからレベルと攻撃力は合わせろよ!!」

「ハァ? 何? 嫉妬? 嫉妬なんですかぁ?

 貫通ダメージ二倍の地味で無くても大差ない自分の能力が惨めでそんなふうに言っちゃうの?」

「ブチ殺す。【覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン】となった俺の炎で焼き尽くしてやるよ!!

 手を貸せ【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!!」

「俺に命令するな!

 第一、エクシーズは俺の力だ!!

 やりたければ貴様一人の粗末な力で何とかしてみせろ!!」

「予定変更だ!!先ずは手前からブチ殺してエクシーズも俺の力にしてやるよ!!」

「やってみろ一番早くズァークのカードになったことしか取り柄のないロートルが!!」

「最古参舐めんなぁ!!」

 

 武器なんか捨てて掛かってこいとばかりにガチギレの顔で取っ組み合いを始める野郎三人衆。

 

「その割には本気で喧嘩をしているようにしか見えないんだが?」

「そこはまあ、彼等はドラゴンですからプロレスでも負けたくないんでしょう。

 とはいえ流石に燥ぐのもそろそろ止めていただきましょうか」

 

 そう言って俺はクリアウイングから回収した魔力で【覇王天龍オッドアイズ・アークレイ・ドラゴン】を全長4メートル程度の最小サイズで【召喚】する。

 

「そこまで。

 仲良き事は美しいですしズァークを不安にさせないよう馬鹿をやるのも悪くないですし膝を突き合わせて腹の中をぶち撒けるのも時には必要ですが、限度というものを少しは弁えなさい。

 まだやりたいというなら彼にも参加してもらいますよ?」

「「「……今回はこの辺りで終わりにさせて頂きます」」」

 

 身内の恥を晒しまくる三体に明らかに不機嫌さを醸し出してグルグル喉を鳴らしている【覇王天龍オッドアイズ・アークレイ・ドラゴン】に三人が脂汗を流して醜い争いを終える。

 

「さあ、そろそろ世界を元に戻しましょう。

 零児君。少し頼みたいことがあるので一緒に来てもらえますか?」

「分かった」

「俺達はどうするんだよ?」

「出来れば此処で遊矢君達を迎えてあげてください」

「沢渡。ここは彼等に任せよう」

 

 ごねる沢渡君を権現坂君が窘め引き下がらせると俺と別れは済ませたからと顕現を解いた三体を回収したズァークと零児君の三人はアークレイの背を借りてレイの待つ新世界の繭へと向かった。

 

「到着する前に零児君に『カード化』を解除するプログラムを先に預けておきます。

 あまり気持ちよくは無いですがこれがあれば戦後処理も少しはスムーズになる筈です」

「本当に助かる…!」

 

 この先に待ち構える地獄の門を改めて幻視した零児君が縋るような声で感謝を口にした。

 そうして廃人と化した赤馬零王の横を通り過ぎ、俺達は再び精神体のままの赤馬レイの下へと辿り着く。

 

『ズァーク…本当に勝ったのね?』

「ええ。彼はもう覇王ではありません。

 これから再び世界を構築しますが少しだけ準備が必要なので話したいことがあれば今のうちに済ませておいてください」

 

 そう言って俺は『創星神の神核』の起動準備を開始する。

 

「レイ。俺は君に聞かなければならないことがある」

『…何かしら?』

「君は俺が好きなのか?」

『…………………えぇ!!??』

 

 なんかボーイミーツガールが始まりそうだが、作業が忙しいので見る余裕がない。

 

「彼等に言われたのだ。四人となった俺の隣りに居たのは俺の復活を阻止するためだけじゃないと。

 それは本当なのかレイ?」

『あう…あう…』

「どうなんだレイ!

 もしそうなら俺は君に言わないといけないことがあるんだ!」

『……そうです。

 私は、貴方が好きです』

「本当にそうだったのか…」

『そうよ!! 貴方は気付いていなかったみたいですけど、貴方がモンスターと本当に楽しそうに駆け回る姿にずっとドキドキしていたのよ!!』

「れ、レイ? 何故怒っているんだ?」

『自分の気持ちをこんな状況で言わされているのが恥ずかしいの!!

 どうして貴方はそう女の子の気持ちに疎いのよ!!』

「すまない…そういうのは慣れてなくて…」

 

 どうしよう。手を止めて最後まで見たくなるほど面白そうなんだが。 

 そんなぐだぐたした思考とは関係なく俺の手はデュエルディスクの中に組み込まれた『創星神の神核』の起動準備を完了させる。

 

「二人とも準備が整いました。

 あまり猶予はありませんよ!」

 

 そう声を張ると二人も痴話喧嘩を止めて真剣な声でズァークは語る。

 

「レイ。これだけは言わせてくれ。

 俺を止めてくれてありがとう。

 俺達は其々四人となって新たな人生を送るけど、これからも助けてくれたら有難い」

『ええ。この先もずっと四人となって貴方の側から離れないわ』

 

 そう最後の言葉を交わし二人は手を繋ぐ。

 

「ズァーク。【覇王龍ズァーク】と【四天】のカードを此方に」

「分かった。

 行け!俺の半身と僕達よ!!」

 

 ズァークの呼び掛けに【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】と【覇王龍ズァーク】の五枚が宙へと浮かび【覇王龍ズァーク】を中心に俺達三人を囲う。

 

「無色の世界よ!

 統合し覇王となりし龍を四つの天へと裂き彼等を分断せしめる新たな世界へと生まれ変われ!」

 

 デュエルディスクが変形し中から現れた二つの宝玉がデュエルエナジーと共に天へと昇っていく。

 

「世界を成す礎は四つ!

 一つは混じり合い新たな形へと生まれ出る【融合召喚】!

 一つは繋ぎ合い更なる先へと向かい行く【シンクロ召喚】!

 一つは重なり合い果てなき高みへ登り行く【エクシーズ召喚】!

 一つは揺れる魂の軌跡に未来を描く【ペンデュラム召喚】!

 これら四つを理と定め、四つが一つとなりて生まれしモノを分け隔てる事を真とし、そしてここに捧げられし二つの魂を其々の世界の形とする!!」

 

 周囲を包むデュエルエナジーの光がズァークとレイへと集まり彼等を包み込む。

 

「我は生まれくる世界を此処に寿ぐ!

 生まれくる世界に祝福あらんことを!

 そして彼らの未来に光があらん事を!!」

 

 光が強く輝きを増し目を開けているのか閉じているのかさえ分からないほど世界が光で満たされていく。

 

「さあ、世界と共に帰って来なさい!!

 君達のデュエルはまだ終わってなんかいないんですからね!!」

 

 そう二人の中に眠る彼らに呼びかけ、最期に俺は一つだけ願いを重ねた。

 

「世界を創れるのだから、子供の一人や二人救ってみなさい創星神(カミサマ)!!」




次回、アークファイブ編最終話。

デュエルスタンバイ。

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