迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
開闢の光が世界を照らし、その光が全てを覆い隠すのをやめた時、開かれた視界の先には輝く太陽と青空が何処までも広がる光景が広がっていた。
大地には背の低い芝が萌え広がり、そこに『榊遊矢』をはじめとした八人の少年少女が輪になって安らかな顔で眠っていた。
「……何故だ?」
遊矢達に気付いた零児が駆け寄ろうと一歩踏み出そうとしたその時、あり得るはずのない声が耳朶を叩き反射的にそちらを振り向いた。
「何故、俺とレイはまだ生きているんだ…?」
そこには両手に視線を落とし困惑するズァークと赤馬レイの姿があった。
遊矢達とズァークが別個に存在するあり得ない事態に零児は声も出ないほど驚愕し固まってしまう。
「どうやらうまく行ったみたいですね」
理解を遥かに超える事態に混乱する三人を他所に、白銀ユウタは穏やかにそう言いながら二つの『創星神の神核』をデュエルディスクへと封じる作業を行なっていた。
「どういう事だ白銀!?
一体何が起きているんだ!!??」
この状況を説明出来るのは彼を置いて他にいないと混乱するまま零児は声を荒げ問い質す。
「安心してください零児君。
少しだけ形は変わってしまいましたが、世界は無事四つの次元から成り立つ世界の姿を取り戻しましたよ」
「ならば何故俺とレイはまだこの世界に居るんだ!?」
「彼等から願われたのですよ」
そう空から振ってくる
「【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】。
【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】。
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】。
【クリアウイング・シンクロ・ドラゴン】。
そして、【アストログラフ・マジシャン】と【クロノグラフ・マジシャン】より依頼を頂きました。
『対価を差し出すから我等の力を使いズァークと四人を其々一人の人間にして欲しい』と。
幸いにもズァークと【覇王龍ズァーク】が分かたれた状態にあったため世界の再生と遊矢君達の復活を並行してズァークを生まれ変わらせる事が出来ました。
まあそれでも若干足りない部分はありましたが、その分は【覇王天龍オッドアイズ・アークレイ・ドラゴン】から頂くことで補う事が出来ました。
これは【覇王天龍オッドアイズ・アークレイ・ドラゴン】自身も望んだので気にしないで下さいね」
いけしゃあしゃあととんでもない事を嘯く白銀に三人は言葉を失う。
「なら、私まで生まれ変わらせたのはどうしてなの?」
辛うじてそう問いを絞り出したレイに白銀はニッコリ笑う。
「理由は三つです。
ズァークは人に戻れるのに貴女だけ消えるのは気に入らなかったから。
そして遊矢君達はパートナーを取り戻したのにズァークだけレイさんが居なくなるというのは納得いかないから。
そして最後に」
そう一旦切り、白銀の笑いがとても邪悪なものになる。
「世界を破壊してでも取り戻そうとした娘を、世界を直した上で取り戻してやることが赤馬零王に対するこの世で最も絶望を与える嫌がらせになると思ったからですよ」
「「「……」」」
あまりにも邪悪過ぎる顔と理由にさっき迄の良い雰囲気が一気に台無しになった。
と、邪悪にくつくつと嗤っていた白銀が不意に嗤いを下げ真面目な顔で零児に言う。
「零児君。
出来れば君に二人の事を任せていいですか?」
「それは…それぐらいならなんとかしよう」
「ありがとうございます」
ズァークとレイの身元を預かることを了承した零児に感謝を述べた白銀にズァークが気になっていたことを尋ねる。
「ところでなんだが、モンスター達が出した報酬とはなんだ?」
「これですよ」
そう言って白銀はこの世界の【覇王龍ズァーク】を見せる。
「世界の再生のために内包した力は全て使い果たしてしまいましたので精霊が宿るのはしばらく先ですが、ただのデュエルでなら使用する事は可能です。
世界で唯一つ【融合】【シンクロ】【エクシーズ】【ペンデュラム】の4つのカテゴリーを内包するこのカードを頂けるとの事でしたので、デュエリストとして是が非でも欲しいと思い張り切らせて頂きました」
デュエルモンスターズの歴史の中でペンデュラム以外の複合モンスターはついぞ現れておらず、統合召喚により生み出されたオリジナルの【覇王龍ズァーク】は正に世界で唯一のモンスター。
デュエリストとして喉から手が出るほど欲しいカードである事は間違いない。
「それとも、これは自分の力だとおっしゃいますか?」
「いや。俺にはもうそれは必要ない。
レイと一緒に一からモンスター達と歩いていくよ」
試すようにそう口にする白銀に陰りなく真っ直ぐズァークは答えた。
ズァークの宣言に若干顔を赤らめつつ、今度はレイが問いを放つ。
「父はどうなりました?」
「再生された世界の何処かに居るはずですよ。
完全に終わらせたドクトルと違い、再起するチャンスは与えてありますから」
『盲目の罪宝マクシマス』はあくまで幻影。
罪宝の魔力を打ち払うだけの意志の力があれば振り払えるが、執事はそこに仕掛けを施していた。
「貴方達の交際を心の底から認め祝う事が出来るようになれば術は自然と解けるよう術に細工をしておきました。
まあ、出来なければ一生貴方達のイチャイチャシーンを見せ続けられるんですけどね」
幻影のネタストックは遊矢達の人生四人分だ。
百年あっても絶対に終わらない。
「あ、勿論年齢指定が入るような幻影はありせんよ。
親子三人で仲良く川の字に並んで寝るぐらいです」
「それでも私のほうが恥ずかしいわよ!!??」
幻影とはいえ自分の妄想を父に見せ続けていると言われレイが真っ赤になって叫ぶ。
「それに世界は再生しても復興はこれからです。
その責を背負う罰も赤馬零王にはありますから殺したりはしませんよ」
白銀が成したのは崩れた境界線を引き直し四つの次元として整地し直すところまで。
壊れた街や傷付いた心はこれから何とかしなければならないのだ。
「そうだな…奴が地獄に堕ちるのはこれからだ」
一人では逝かん。貴様も道連れだ。
目と鼻の先で手ぐすね引いて待ち受けるデスマーチへの生贄が増えたと零児は冷たい笑いを口許に浮かべる。
「さて、話すべき事は全て話し終えましたか?
でしたら私もそろそろお暇させて頂こうと思います」
「遊矢達に何も言わなくていいのか?」
このまま去ろうとする白銀にそう問い掛ける言葉に白銀は笑って嘯く。
「此度の私はあくまで
エピローグを迎えたこの世界にいつまでも留まる理由はありません。
それに遊矢君に伝える事は既に伝え終えてます。
これ以上言葉を重ねても蛇足になるばかりですよ。
何より、漸く探していた息子達の足取りを掴めたのです。
早く逢いにいきたいんですよ」
そう言って白銀は【覇王天龍オッドアイズ・アークレイ・ドラゴン】を【召喚】し、その背を借りてゆっくりと地上を離れていく。
「待て! まだ一つ答えていないぞ!
お前は世界は完全に戻ったわけじゃないと言った!
一体何が変わったんだ!」
アークレイの背に乗り離れていく白銀に届くよう声を大にする零児に確かに言い忘れていたと白銀は答える。
「再生された世界の根幹は『融合』『シンクロ』『エクシーズ』『ペンデュラム』。
よってこれまで『スタンダード次元』と名称していた次元は『ペンデュラム次元』と呼ぶべき世界に変わりました。
下地が変わっただけなので他の次元同様特別な変化はありませんよ」
そう最後の質問に答えた白銀はそこで眠りから覚め空に飛び立とうとするアークレイを見上げていた遊矢達に気付き最期に全員に向けて宣うことにした。
「この先にシナリオなんてありません!
故にここからは自らが選び考え歩み続けなければなりません!
そんな君達に私から願うことは唯一つ!
『ルールを守って楽しいデュエル』!
それを胸に刻んで自らが望む大人になれるよう頑張って下さい!」
長ったらしいエールなどくどいだけと、白銀は大人から子供達への願いをそう纏めて告げるとアークレイの背にのり次元から立ち去った。
〜〜〜〜
「やれやれ…。
今回も酷い目に遭いましたね」
次元と次元を分けるどの色にも見えてどの色とも言えな次元の狭間の世界を進みながら俺はそう今回の世界への感想を口にした。
『その割には楽しそうだったな』
と、次元の狭間を翔ぶアークレイがそう俺に語りかける。
「それはそうさ。
違う世界の別人とはいえ、もう二度と逢えない筈の旅立った友人と再会出来たんだ。
そして彼等の苦労を少しでも楽にしてやれたと思えば、これぐらいの負債を背負う価値は十分さ」
『……そうだな』
苦笑を溢しているようにそう言うアークレイに俺も問う。
「アークレイこそ世界を再生するのに大分力を使ったが良かったのか?」
『当然だ。
世界は違えどズァークを救う為の戦いだった。
そして怒りと憎しみではなく期待と興奮を背負ってズァークと対峙できた。
今回のデュエルでは十分な働きは叶わなかったが、俺がズァークから継承した力を差し出す理由としては十分な理由だ』
「そうだな」
そう言って俺は報酬として手に入れた【覇王龍ズァーク】を眺める。
「さて、これをどう活かそうか。
広範囲に対応するために外した【覇王眷竜】や【覇王】モンスターも入れてみたいし、また随分様変わりしそうだな」
『楽しそうだな?』
「当然さ。デュエリストのデッキに完成は存在しない。
無限に続く進化にどうデッキを育てていくか、それを考えるのに時間は無限にあっても足りないからな」
そう言って俺はカードをしまい前を向く。
「だけど今は迷と宮を迎えに行くのが先だ。
行こうアークレイ!」
『良かろう。ズァークに託された俺の力で貴様の願いを叶えよう!』
彼等の世界への想いを終え、俺は俺の大事なものを取り戻すためアークレイと共に次元の先へと飛翔し続けた。
もしかしたらこの世界はデュエルリンクスのアークファイブに繋がるかもしれません。
次回はまたドッタンバッタン愉快なラビュリンスに戻ります。