迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
時系列は本編複野戦から3年かそこらぐらいです。
姫様はポンだけど基本的に嘘は言わない。
美しくも恐ろしい悪魔が闊歩する呪われ閉ざされた【白銀の迷宮城】。
等と銘打っていはいるが、それは以前までの話である。
というのも以前までは城主である【白銀の城のラビュリンス】の敷いた数々の罠により入るは地獄、出るは屍という様相であったのだが、俺の婿入りに当たり俺が罠にはまったら大変だと考えた姫様により『騎士』専用ルート以外の罠は全て撤去するようにした結果現在の迷宮城は城の一部を観光資源化出来るほどに安全な場所と化し地域の名物とまでなっていた。
自分がやった結果なのに姫様はいたく納得し難い様子だったが、一般客用のルートに自分の作品を置くことで芸術家としての腕の良さを知らしめ称賛を得る機会が出来たと不承不承気味だが現状に納得頂いている。
まあ、元より姫様のお部屋は一番日当たりがいい場所にあったり画材や絵の具が湿気て黴が生えるからと城全体の風通しが良かったりと悪魔らしい城とは言い難い(命の保証以外は)人間にも快適な環境だったので今更だろうとは思う。
「さて、今日は特に何も無いですし久方ぶりにギルスのところへ…」「ギャアアアアアアアアア」「姫様!!??」
生命を脅かされた者が叫放つ悲鳴に俺は【
「ご無事ですか姫様!!??」
到着するとそこには破壊された部屋の真ん中でバスタオル一枚の格好で蹲る姫様の姿があった。
急いで駆け寄ると顔は青褪め震えているが、ぱっと見た限り外傷の類はない。
「大丈夫だ。
俺が此処に居る」
様子からおそらく野生のGを目撃して暴れただけだろうと当たりを付けつつ優しく声をかけ宥める。
「しちゅじぃ…」
俺の姿を見た姫様は目尻に涙を浮かべながら俺に縋りつき、よほど怖かったのだろうそのまま小さく漏らす。
「……ったの」
「はい?」
「わたし、さんきろもふとったの…」
この世の終わりを迎えたような顔で終焉を告げるようそう語る姫様に、漸く到着したアリアス達の足音を聞きながら俺は思った。
いやまあ、当然だわな。
『騎士』が来ない日は日がな一日ソファーでコロコロ。
仕事も基本アリアスが気を利かせて回した書類を何枚かサインを書くだけ。
それでいて3食しっかりおやつは3回。
人間だったらとっくの昔にブタを通り越して生活習慣病の歩行困難な肥満者である。
そんな生活をしていて病気にもならず体重増加が3キロで済んでいるのだから悪魔族様々と言うべきだろう。
「わたしどうしたらいいの…?」
「痩せなさい」
どうやら今日も『ラビュリンス』は平常運転のようだ。
〜〜〜〜
「ダイエットよ!!
私の黄金比の肉体が失われた世界の損失を取り戻すためにダイエットをするわ!!」
そんな訳で家令一同を集めた緊急会議が開始された。
「まずアリアス!」
「はっ!
姫様の体重増加という恐るべき事態を前に私は始めに食事制限と運動による長期的視点での健康的回復を推挙します!」
なんか、『ミミグル』との戦争の時より緊張感が溢れてるんだが…
「意見具申を失礼します。
中姉様。姫様の性格から長期計画は破綻する可能性があり得るため、より短期的に体重を減量するほうが望ましいと思います」
アリアンナが戦略会議でもしてんかと言いたくなるような言い回しをしているけどさ、あのこれ、ダイエットの話だよね?
姫様の脂肪は【極神】並の脅威かなにかなの?
「執事は何があるかしら?」
「普通に食事とおやつの量を控えてちゃんと運動するべきでは?」
「執事。姫様が規則正しいダイエットが出来ると本気で思ってる?
誰よりも自由な姫様だよ?」
「そうよ! 私は食べたい時に食べて寝たい時に寝る生活を変える気はないわ!!」
本気で痩せる気あるのかこのアホ姫は。
いっそアークリベリオンに頭を引っ叩かせようかと考えた辺りでふと俺は思い至る。
「一気に体重を落とす方法なら一つありますよ」
「なによ執事ってば。
そんな楽ちんな方法があるならさっさと私に提示なさい」
「いえ。痩せるためでなく肉体改造の一環で体重が落ちるだけなのでダイエットではないとして選択肢にありませんでした」
それに楽にだ等と口が裂けても言えないような方法だし。
「体重が減るなら何でもいいわよ。
ほらほら早く教えなさい」
「分かりました。
では、まず屋敷から【ドラゴンメイド・ハスキー】を呼んでいます」
「待ち給え」
百聞は一見に如かずと屋敷へ向かおうとした俺の肩をがっしり掴みアリアスが停める。
「まさかと思うんだが執事君。
ハスキーにトレーナーを任せるつもりかい?」
「ええ。まあ。
ハスキーさん監修の『ドラゴンメイド式肉体改造術』を施行すれば、一月と経たずに私程度のデュエルマッスルが完成しますので短期的減量も可能かと」
「君は姫様を殺す気か!!??」
アリアスが見たこと無いレベルでマジの焦りを浮かべで叫ぶ。
「何を大袈裟な?
私も受講させられましたがこうして五体満足でいますよ?」
「それは君が人間かつ雇用者だから手加減しただけだ!
いいかい? ハスキーの本気のトレーニングは同胞たるドラゴン族でも正気を疑うほど常軌を逸しているんだよ!?
悪魔族の姫様相手となれば加減は必要無いと考えて姫様を殺しかねないんだからね!?」
あんまりにも必死にかつ言いたい放題嘯くアリアスなんだが…
「随分高く買ってくれてたのねアリアス?」
「っ!?」
ゾッとする程冷たい声に顔を引き攣らせそちらを振り向くアリアスの視線の先に、瀟洒な態度で氷のような冷たい目をするハスキーさんが居た。
「ハスキー? なぜ君が此処に?」
「旦那様からダイエットメニューの相談を受けて登城させて頂いていたのよ。
それよりも、貴方の中での私の認識に着いて、少しばかり
瀟洒で慇懃なのに断頭台で斧を手にしているようにしか見えないハスキーさんに、アリアスは脂汗を流しながらニッコリ笑う。
「それはまたの機会にしようか」
ビュンと音を発て転移して逃亡するアリアス。
「逃がすか」
笑顔の仮面を剥ぎ取り真顔で追うハスキー。
「これは暫く戻らないな」
「というか中姉さま死んじゃわない?」
「流石に止めは刺さないでしょう」
普段が普段だけに偶には痛い目を見ればいいと俺達は放置することにした。
「ともあれ姫様。
御自身の体調に変化はありますか?」
「特に無いわよ。
強いて言うならもっと食べなきゃって思うぐらいよ」
「でしたら無理に痩せずとも多少健康を意識するだけにしては如何ですか?
3キロと仰られましたが適正体重の範囲ですし、無理に痩せようとせずとも「嫌よ!!」」
やんわり諦めろと言ってみるが、当然姫様は強く拒絶する。
「だって、旦那様の前にいる私は誰よりも素敵でなきゃ駄目だもん…」
そう顔を赤らめそっぽ向く姫様。
……ああ、もう。この方はどうしてさっき迄のカス発言を可愛らしい我が儘にしてしまうんだか。
「そう仰られたら夫として何も言えませんね。
分かりました。
なるべく姫様に負担にならないよう減量のお手伝いをさせて頂きますので、姫様も努力して下さい」
「むぅ…。まあ、執事が一緒にやるなら少しだけ付き合ってあげるわ」
貴女がメインだとツッコめば臍を曲げるなと飲み込みそれに応じる。
「ではそのように」
こうしてい姫様の減量作戦が開始されたのだが…
デュガレス「また時間を飛ばすのか? 了解した」
「なんでまた3キロ増えてるのよ!!??」
減量開始から一月余り。
俺が同じ物を摂ることで姫様の食事は3回(ローカロリーの少なめ)おやつは一回(おからクッキー等ダイエットフード)で我慢してもらい運動までしていたにも関わらず姫様の体重は増加した。
「おかしいですね。
消費カロリーからして人間なら普通に痩せていて当然なんですが…」
「まさか姫様?」
隠れて食べてたのでは? と視線で問い質すも姫様は憤りながら否定した。
「ちゃんとダイエット頑張ってたわよ!!
…そりゃまあ、一回だけどうしても我慢できなくてお夜食食べちゃったのは本当だけど、でもでも一回だけだしその時だっておからクッキー一枚で我慢したのよ!!」
こういう時に嘘を言う方では無いから本当なんだろうが、だからこそ逆におかしさが増してしまった。
「……まさか、外部的な要因か?」
姫様を狙う何者かにより体重が増やされている?
「アリアス」
「その線は私も懸念して姫様を少し調べさせていただいたが、魔力が増大しているけれど魔術的な介入はされていないね」
「呪詛的な方面は?」
「迷宮城の呪いを越えて姫様をかい?
それこそあり得ないね。
それ程強力な呪詛なら疾うの昔に姫様のお身体が爆発四散なされているよ」
「怖いこと言わないでよ!!??」
アリアスの否定に姫様が白目を剥いて叫ぶが原因究明が先決なので後回しにする。
「魔力が増えても体重が変わることは無いはずだし、原因は一体『バシャン』ん?」
何かが破裂したような異音にそちらを向くと、姫様の下部が濡れて地面が水浸しになっていた。
「「「は?」」」
誰かの悪戯?
濡れているのは下腹部だけだからそれは難しい。
いや、それよりも、
「「「なん
いきなりの事態に俺達三人は声を揃えて絶叫した。
〜〜〜〜
姫様の異常事態から二時間後、俺は廊下でへたり込みギルスに説教を喰らっていた。
「友よ。混乱の果てに俺を喚んだのは兎も角、もう少し考えれば原因はすぐに分かったのではないのか?」
「勘弁してくれ…」
姫様の異変の正体、それは、『破水』だった。
つまり姫様はつい先程まで身籠られており、そうなった原因は当然俺である。
確かに姫様と寝所を一緒にして逢瀬を重ねた覚えはある。
姫様が緊張と羞恥で『通信切れ』をなされず対戦終了まで耐えたのは数十回目の挑戦の末に一回だけだが。
そしてそれ以降一度も対戦終了まで行くどころかいざと触れるだけで気絶し対戦は叶っていない。
「【一撃必殺居合ドロー】に成功してたなんて誰が気づけるんだよ?」
「体型の変化が無かったのはまだしも、食欲の増加と魔力状態の精密検査をすればすぐに気付けたはずだがな」
「知らんかったんだよ。
悪魔族の妊娠が受胎後出産直前まで身体的変化が無いなんて話はさ」
悪魔族でも普通に母体の中で成長し身体的変化が発生する種族もいるため、同族でなければまず分からないのも致命的だった。
「ともあれ今日から貴様は父親だ。
アウラムも相当苦労したし、貴様も腹を括れ」
「分かっているさ」
ギルスの説教兼エールを受け、俺は目の前の扉の向こうに想いを馳せる。
この扉の先に新たに守るべき者が待っている。
俺似か? 姫様似か? 男の子か? 女の子か?
どちらでも構わないが姫様に似てくれればいいなとは思う。
名前はどうしようと考えた所でカチャリとノブが回り出産の手伝いをしてくれたレイン恵と共にアリアスが出て来る。
「終わったよ執事君。
姫様の元に向かいたまえ」
「ああ。行ってくる」
扉の奥へと誘うアリアスに従い、新たな家族の元へ俺は向かった。
悪魔族の妊娠はオリジナル設定です。
世界観によって卵生だったり胎生だったり色々違うから仕方ないね。