迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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そして俺は城を出ていくことになった。

 パンケーキ一枚半ほど食べさせたところで満足した姫様が再び自分でパンケーキを食べ、食べきる前にお腹がくちくなってそのまま眠りかけてしまった。

 

「全く困った姫様だ」

「その原因の一部はお前なのだが?」

「ちゃんと反省しているよ」

 

 幸せそうにだらしない顔を晒す姫様を眺めながら、姫様を起こさないよう声を抑えながらそんなやり取りをしつつアリアスは俺に訊ねる。

 

「それで、オーディンの警告はこちらでも注意を払うとして、君の後遺症の方はどうなのだ?」

「左腕の突発的な麻痺とカードの『召喚』が出来なくなったのの両方共、治ってはいないが解決策は見付かったよ」

 

 ここで言う『召喚』はカードを介した実体を伴う召喚の事だ。

 

 某運命の英霊の受肉化に近いものと言えば分かり易いだろうか?

 

 精霊界でデュエルディスクを使ったモンスター召喚もほぼ同じなのだが、デュエル中と違い『召喚』はモンスター自身が己の意志である程度の自由行動を行うことが出来るようになる。

 

 先に倣って例えるならデュエル中に行うモンスター召喚はシャドウサーヴァントの召喚。

 カードの精霊を呼び出す『召喚』はサーヴァントの正規召喚といった辺りになるだろうか。

 

 偶にアークリベリオンが『騎士』とやり合っていたのも此れによる『召喚』によって叶っていた。

 

 余談だが、『召喚』された精霊は精霊界の別にいる本人が直接喚ばれる訳ではなく神道における分霊、或いは英霊召喚のように本人と遜色ないコピーがカードの中に宿っている状態であるらしい。

 

 中には精霊界の本体が直接ラインを繋げて精霊として宿っている場合もあるそうで、おそらくアニメで出て来た精霊はそちらのタイプが多かったのだろう。

 

 姫様曰く、稀によくある自分自身のモンスターカードを召喚する際に自分が場に出るのはカードの分霊を顕わすより自分が出た方がカッコいいからとのことだが、それは姫様だけだと思う。

 

 閑話休題

 

 ともあれ、『召喚』出来るか出来ないかが精霊界でのデュエリストか否かの主な見分け方らしく、そういう意味では俺はデュエリストではない状態にある。

 

 個人的に左腕の麻痺も数分で治る程度とあってデュエルを行うのには致命的な瑕疵とはならないため放置していても構わなかったのだが、ブラック・マジシャンの警告もあって本格的な療養生活に移行しようと考えていた。

 

「見せた魔法使い曰く、魔力の流れを正常に戻すためにデュエルを大量に行う必要があるらしい。

 なんで、暫く自由都市に居を移してデュエルに集中しようかと思う」

「確かにその方が良いですね。

 客人を招き過ぎるのも問題がありますから貴方には治るまで「やだ!!」」

 

 いつの間にか目を覚ましていた姫様がリスの頬袋みたく頬を膨らませて俺を睨んでいた。

 

「せっかくかえってきたのにどっかいっちゃうなんてやだ!!」

「しかしですね」

「やだったらやなの!!」

 

 困ったな。

 どうにかならんかと頭を捻っていると、不意にアリアスが姫様に提案した。

 

「姫様、良い案を思いつきました」

「あん?」

「ええ。執事が必ずここに返ってくるよう人質を取るのです」

 

 人質って、誰のことだ?

 何を指しているのかわからない俺に対し姫様は意を得たりと楽しそうに同意する。

 

「それいい!

 しつじ! あなたのドリアードをひとじちによこしなさい!!」

 

 ああ、カードの事か。

 漸く意味を理解した俺はその要求を受け入れた。

 

「承知致しました姫様。

 それと、城を離れる間姫様から賜わった【ラビュリンス】を所持するのも「だめ!!」」

 

 一時にしろ城を出る以上【ラビュリンス】は返すのが筋であろうと言いかけ姫様は先程以上に強く遮った。

 

「しつじは【ラビュリンス】だけをつかっていればいいの!!

 ほかのおんなはいらないの!!」

 

 まるで嫉妬で病みかけた人みたいな事を言う姫様に真面目に困ってしまう。

 

 別に【ラビュリンス】一本でも構いはしない。

 

 【ラビュリンス】は環境デッキとしても高いTierを記録しているだけあって安定感も高いし展開ルートも多く使い勝手は非常に良い。

 

 難点の火力が姫様頼りだった点も、エクシーズモンスターと()()()()()でカバーされたから火力不足もあまり気にならない。

 

「わかりました。

 では、私のデッキをお預け致しますので、どうか大切に保管しておいて下さいね」

「もちろんよ!!」

「ありがとうございます。

 では、私はそろそろ作業に戻りますね」

 

 空きっ腹も満たされ、必要な情報交換と今後の方針も固まった以上この場に残る理由は無いと俺は席を立ち厨房を後にした。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 執事が厨房を去り、その足音が遠退いたのを確認した姫は、幼気な雰囲気を消し去りふっと、邪悪な笑顔を浮かべた。

 

「オーホッホッホッ!!

 とうとう執事からあの忌々しいドリアードを引き剥がす事に成功したわ!!」

 

 なんという事であろう。

 

 姫は心を守るため精神が幼児退行したままのフリをしていたのだ。

 

 全ては執事のエースモンスター【精霊神后ドリアード】を執事の手から引き剥がし、【白銀の城のラビュリンス】を真のエースにすげ替えるためである。

 

「頑固な執事だって私の強さと美しさを常にその目に焼き付け続けていれば、必ずや真に称えるべき相手が誰なのか理解できる筈よ!!

 オーホホホ!!」

 

(多分彼は姫様が正気に戻っているのに気付いていたと思いますけどね)

 

 権謀術数抜かり無しと高笑いする姫に対し笑顔でその様子を眺めるアリアスはそう声に出さず思ったが、楽しそうな姫様に水を挿すのも失礼だと黙っていることにした。

 

「さあ、こうなったらやることは一つよ!

 アリアス!」

「何で御座居ましょうか?」

「執事のデッキを収める頑丈な箱を用意しなさい!!

 勿論中はフワフワの敷物をたっぷり詰めて、擦れて傷がつかないようにするのも忘れちゃ駄目よ!!」

 

 恋のライバルなのだから『騎士』の襲来のいざこざで無くしてしまったと適当な言い訳をして捨ててしまえばいいのに、態々丁重に扱うよう指示を出す姫様にアリアスはこれでこそ姫様だと満足気に応じる。

 

「畏まりました姫様。

 職人に命じ、次元が崩壊した余波に巻き込まれても壊れない特注品を御用意致します」

「パーフェクトよアリアス!

 オーホホホ!!」

 

 来る未来に曇り無しと自画自賛しながら高笑いする姫様であったが、執事が自由都市に居を移して数日後、その計画は一気に暗雲が立ち込めることとなる。

 

「申し訳ありません姫様。

 アリーナの管理者側よりデッキが強すぎて賭けにならないからプロレス出来るデッキを用意しろと頼まれてしまいました。

 なので、【霊使い】を使う許可をください」

「なんですってーーーーーーー!!」

 




次回から自由都市編です。
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