迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

3 / 255
今回はデュエル回といったな。

すみませんそこまで行きませんでした。


俺が姫様に仕えている理由(2)

 少女の悲鳴が響くや否や、それまでの静寂が嘘だったかのように凄まじい騒音が鳴り響いた。

 

 吊るされたシャンデリアが一人でに揺れ動き装飾や鎖をジャラジャラと掻き鳴らす。

 

 扉は風も無いのに何度も開いては閉じてを繰り返しバタンバタンと叩き付ける。

 

 暖炉から突如火の手が上がり激しく炎を吹き鳴らす。

 

 他にも大小様々な家具が独りでに暴れ其々が起てる耳障りな騒音は然し、不思議と調和しまるで一つの楽団のようにおどろおどろしい騒がしくもそれでいて荘厳さまで感じさせる不可思議な演奏会を開始した。

 

「ひっ…!?」

 

 少女の絶叫と家具達の騒音に漸く動けるようになった俺は、先ずは弁明をと口にするより先に背筋を駆け抜けた唐突な死の気配に思わず尻餅を着いてしまう。

 

 ガギガギガギンッ!!

 

 直後に俺が立っていた場所に三つの金属が振り下ろされていた。

 

「あはっ! 私達の連携が避けれるんだぁ?」

 

 一人はポールアクスを軽々振り回す小柄なメイド服の少女。

 

「仕留めたと思ったのですが意外ですね」

 

 一人はクロッ◯タワーの鋏男が持っていたような巨大なハサミを携えたメイド服の少女。

 

「姫様。ご無事でしょうか?」

 

 最後に身の丈ほどもある大鎌を手に姫様と呼んだ少女を身で隠した執事服の少女。

 

 三人共よく似た容姿をしており、姉妹か三つ子なのだろうか。

 

「アリアンナ、アリアーヌ、アリアス!」

 

 裸の少女が3人の名前を呼び、それによって俺はやっと自分が何処にいたのか理解が出来た。

 

「『白銀の城ラビュリンス』…」

 

 【ラビュリンス】

 

 遊戯王の数あるテーマの中の一つで通常罠を主軸に多彩な効果で相手を追い詰める上位クラスの中にも使い手の多い凶悪テーマの一つ。

 

 そうして俺は意図せず痴漢を働いてしまった相手が『白銀城の迷宮姫』であることに漸く思い至ることが出来た。

 

「私に発情するそのケダモノを殺しなさい!」

「」

 

 弁明しようにも自分が何を口にしたのか覚えているせいで言い訳の余地が無くなっていた。

 

「承知しました。

 すぐに切り捨てて湖の魚の餌にしてしまいます」

 

 代表してアリアスがそう宣い得物を構えた3人に向け、俺は反射的にこの状況で助かるかもしれない可能性に賭けるしか無いと左腕のデュエルディスクを見せつけながら叫んだ。

 

「せめて殺すならデュエルで殺してくれ!!」

 

 そう頼むと喧嘩すらろくに経験のない俺にさえわかるほどに空気が変わった。

 

「貴様…デュエリストだったのか?」

 

 流石遊戯王ワールド!!

 

 めちゃくちゃな要望に本気で反応する様子に可怪しさを感じつつ、それを表に出さないよう気を付けながら如何にも神妙な態度で頷いた。

 

「姫様に無礼を働いたことは事実だ。

 だが、死ぬならせめてデュエリストとして闘いの中で死なせてほしい」

「面白いわ」

 

 俺の要求に迷宮姫がタオルで体を隠した姿で俺の前に出てきた。

 

「楽な死を拒否してわざわざ私の『おもてなし』を受けて苦痛と恐怖を味わいながら死にたいなんて、とても面白いことを言うのね?」

 

 そう口にする迷宮姫の顔には美しさと残虐さを孕んだ嗜虐の笑みが浮かんでいる。

 それに対し俺は内心ガクブルしている恐れを抑え込んで不敵に見えるよう努力しながら笑い返す。

 

「ああ。人生最期の『おもてなし』がどんなものか、全力で()()()()()()()()

 

 その言葉に迷宮姫は歯が見えるほど笑みを深めてみせた。

 

「アリアス! 私のデッキを持ってきなさい!!」

「姫様。その前にお着替えと身嗜みを調えるのが先かと」

 

 と、至極当然のツッコミにより、とりあえず死を免れることは出来た。

 

 

 〜〜〜〜

 

 

「姫様の準備が整うまで此方でお待ち下さい」

 

 その後、迷宮姫の準備に時間が掛かる間ただ待たせるのも品がないという迷宮姫の言葉によりゲストルームに案内された。

 

「室内から出ることはお止めしませんが安全を保証しかねますので部屋から出ないことをお勧めします」

 

 ゲストルームに案内してくれたアリアーヌは最後に「それでは何かあればテーブルのベルを鳴らしてください」と言い残し部屋を出ていった。

 

「こ、怖かった…」

 

 緊張の糸が切れ、床に座り込んで今更襲ってきた恐怖に身を震わせる。

 

「どうしよう」

 

 おそらく迷宮姫が使うのは【ラビュリンス】であるのはほぼ確実だろう。

 

 問題は()()()()()()()()だ。

 

 俺が思う【ラビュリンス】の最大の強みは()()()()()()事だ。

 

 墓地肥やしのエキスパート【ティアラメンツ】と混ぜてもよし。

 

 展開力を強化するために【烙印】や【ビーステッド】を入れてもいい。

 

 方向性が同じ【蟲惑魔】や【バージェストマ】で多彩さを伸ばしていくのも面白い。

 

 何ならシナジーは高くないが【ブラックマジシャン】や【ブルーアイズ】のサポートに回すという選択肢もある。

 

 実際に対戦したプレイヤーの中には【ダイノルフィア】や【幻影騎士団(ファントムナイツ)】を混ぜていたプレイヤーも居たぐらいに選択肢が多く、「自分だけの迷宮を創ろう」のキャッチコピーを使えるぐらいに選べる間口が広いのは【ラビュリンス】の強みだろう。

 

「ドリアードじゃ厳しいよな…」

 

 絶対勝てないとは言わないが、初動で事故りやすい今のデッキでは勝ち目が薄いのは否定できない。

 

 せめて差し替え用のカードが1枚でも無いかと所持品を確認してみる。

 

 持っているのは財布にメモ帳とボールペンに()()()()()()()()()()()2()()

 

「なんで今まで気付かなかったんだよ!!??」

 

 デュエルディスクといいまるで()()()()()()()()()()()()と言わんばかりの絶妙なタイミングでの登場に思わず突っ込むが当然反応はない。

 

「とにかく確認しないと」

 

 この2つのデッキもドリアード同様に自分がMDで作成して使用していたデッキならばラビュリンスメタというか魔法罠メタのデッキが入っている可能性も十分あり得る。

 

 不安と期待が混ざり合った気持ちで先ずは青い方のデッキケースを開けてみる。

 

「これは…【霊使い】か」

 

 それはドリアードを引こうと回したパックにピックアップされていたテーマで、全属性をカバーすることからドリアードを召喚するのに行けるかと最初期に組んだデッキだった。

 

 しかし、バランスは良くとも魔境たる多くの環境デッキ相手では善戦するのも稀であり、最終的に【アレイスター】と【壊獣】と【妖精伝記(フェアリーテイル)】がない混ぜになった最早霊使いとは呼べないかなりごちゃついたデッキに成り果ててしまった。

 

「使えそうなカードはかなり有るな」

 

 当然ラビュリンスに勝てるような状態ではないが、ブラッシュアップしてやれば一芸特化のドリアードよりは可能性があるだろう。

 

「もう一つのは…3枚だけか」

 

 赤い方のデッキケースを開いてみるが此方にはデッキは入っておらず、中にあるカードは確かに強力だが今回使えるようなカードではない。

 

「となると、今回は【霊使い】でやるしか無いな」

 

 間違えて【ドリアードデッキ】で対戦なんてことにならないようデュエルディスクからデッキを抜き、赤いケースに入れてから【霊使い】を解体する。

 

「ガメシエルは入れておこう」

 

 先手が取れるとは限らないし、先攻を奪われ【迷宮城の白銀姫(レディ・オブ・ラビュリンス)】が初手で立てられたら伏せカード次第ではそこで完全に詰んでしまう。

 

「墓穴とうららはガン積み確定で…他はどうするか」

 

 余り入れ過ぎると事故要因にもなりかねないが、しかし何が出てくるか分からない以上全抜きも怖い。

 

 それに

 

「いや、考え過ぎても駄目だな」

 

 使えるカードが限られている状態であれこれ対策を考えても無意味だ。

 

 寧ろ押し潰す気概で突き詰めるぐらいしなければ勝ち目は掴めない気がする。

 

「妨害は……で、展開はこいつに任せて……」

 

 意識を集中しデッキ制作に没頭していく。

 

 昔のただ新しいカードに出会えただけで嬉しく新しいデッキを組むだけで楽しいと思えた頃のように一枚一枚を真剣に見比べ、頭の中で状況を想定しながらカードを差し替えていく。

 

「…こんなものか」

 

 そうして現状で作れる最善が完成し、丸くなっていた背中を背もたれに預ける。

 

「お茶をどうぞ」

「ありがとう」

 

 カードに障らないようテーブルに差し出されたソーサーを受け取り、紅茶の程よい苦みと温かさにリラックスしていく。

 

 カップをソーサーに戻してテーブルに置き、意を決していつの間にか傍に立っていた【白銀の城の執事アリアス】に尋ねる。

 

「いつからそこに?」

「三十分程前ですね」

 

 言われて壁の時計(おそらく監視用に配された白銀の城の狂時計(ラビュリンス・クックロック)なのであまり信用できないが)を見るとデッキ制作を開始してから2時間ほどが過ぎていた。

 

「すまない。もしかして姫様を待たせているか?」

「心配ありませんよ」

 

 待ちぼうけにさせたことを謝罪すると、アリアスは礼儀正しいというより妙に親近感を感じさせる柔和さでそう答えた。

 

「姫様は英気を高めるためお昼寝タイムに入られるそうなのでそれをお伝えするために参った次第ですから、もう暫くは大丈夫ですよ」

「えぇ?」

 

 それってどうなんだ?

 

 いや、これも死の恐怖に脅える時間を長引かせる『おもてなし』の一環なのか?

 

「姫様の可愛らしい傍若無人はいつもの事ですからお気になさらずに」

「そ、そうか…」

 

 ただの自由人なだけかよ。

 

 緊張して損した気分になりつつ、俺は念の為聞いてみる。

 

「もしかして、中身を見たか?」

 

 デッキの中身というアドバンテージを握られたら低い勝ち目は更に低くなる。

 

 警戒を隠しようもない俺にアリアスは「御安心を」と答えた。

 

「中身の一部を見たのは事実ですが、姫様にお伝えすることはしませんし、他の者達にもさせるような真似は赦しませんから」

 

 何故だと問うより先にアリアスは言う。

 

「貴方が姫様の貞節を奪おうとした暴漢であろうと、神聖なデュエルの前では全てが平等。

 故にこそ、開示されるべきはデュエルの最中で有るべきかと」

 

 その顔は真剣であり、舌先三寸で煙に巻こうとしているようには見えない。

 

「わかった」

 

 真剣勝負だからこそ情報戦もと思うが、それは彼女の美学に関わるのだろう。

 

 もしかしたらそれがこの世界の『常識』であり、勝つために環境デッキをかき集めメタを張って互いに理不尽で殴り合うOCG世界の『常識』は当て嵌めるべきではないのかもしれない。

 

「姫様が起きるまでどれぐらいだ?」

「分かりかねますが何故です?」

 

 俺は組んだデッキとは名ばかりの妨害ばかりが目立つ嫌がらせにしか見えない『カードの束』を解体する。

 

「もう少しデッキを組みたい。

 命を預ける相棒だ。最期の一戦は悔いなくやりたい」

 

 どうせ死ぬなら『デュエル』で死にたい。

 

 あの頃のようにただ『遊戯王』を()()()()()()ために俺は一枚一枚を吟味する。

 

「畏まりました。どうぞ心行くままにカードと向き合いくださいませ」

 

 アリアスの言葉を背に俺はデッキを作り続けた。

 




アリアスの好感度が微妙に高かったのは姫様の裸を見た原因が家具達のせいであった事と、デッキを真剣に作っている様子から悪人ではないのかもと判断したためです。

次回こそデュエル回。

まあ、オリ主はOCG住人なので内容は察しなんですがね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。