迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
ジェネクス・コントローラーこと『コンちゃん』(姫様命名)を連れて自由都市を宛もなくぶらつく。
「それで、姫様は何をお探しになられているんだ?」
探すにしても目的の物が分からなければどうしようもないと訊ねると、ジェネクス・コントローラーは両手をワタワタさせた。
「もしかして明確な指示は出てない?」
流石に姫様でもそれは無いと訊いてみるが、しかし返ってきたのは首肯であった。
『なんかいい感じの、私に相応しい物を献上しなさい』
……姫様なら言いそうだな。
無茶振り喰らったジェネクス・コントローラーを憐れみつつ、俺は姫様の好きな物を思い出してみる。
甘い菓子、貴金属、刀剣、(コン&ペア含む)可愛い生き物、罠、トランプ、【ラビュリンス】と相性の良いDMのカード…
一部おかしいものも含まれているが、精霊界かつ姫様が悪魔族であるので一応許容範囲内だろう。
そう考えると姫様の感性は男が思う、普通の女の子の範囲で収まっているように思う。
それと同時に美しい事も好まれている。
外見的なものは当然だが、それ以上に自身を貫く『義』に連なる精神的な美しさをより好んでおり、ジェネクス・コントローラーもその友を愛する想いを美しいと思ったから庇護に加えられた。
「ちなみに予算は?」
俺が出しても構わない。
ぶっちゃけ、今日までのファイトマネーで総資産は地球換算で億を突破しており、手持ちのカードも含めれば一生働かなくても生活可能な稼ぎは既に叩き出し終わっている。
とはいえ姫様に仕えることが楽しいので姫様に暇を貰って隠遁生活をする気は全く無いが。
そう尋ねるもジェネクス・コントローラーは首を横に振る。
「そうか。じゃあ今回は俺が出しておくから次回からはちゃんとお小遣いを貰ってから来なさい」
渡し忘れたらしい姫様に苦笑しつつ、俺は姫様が好みそうな宝飾店や魔道具店などを梯子していく。
「このびっくり箱とかどうだ?
中が二重底になっていて、プレゼントとサプライズを同時に出来るそうだぞ?」
ギミックとしてクリボーが飛び出す箱を見せてみるが、お気に召さなかったらしくこれにも首を横に振る。
「ふむ。中々難しいな」
姫様が喜びそうかつジェネクス・コントローラーが適当だと思うような品物はなかなか見つからない。
「ハスキーさんは…って、またいない」
アドバイスを貰おうと振り向くが、しかし姿は無い。
先程もそうだが、話し掛けようとするとタイミングを見計らったように姿を消してしまうのだ。
もしかして嫌われているのか?
しかし普段の様子からそんな素振りは見えないし、気に障るような何かをした覚えもない。
まあ、プロ意識でそんな気配を微塵も見せていないだけかもしれないが、そもそもそんな相手に食事に誘われたら適当な理由を持ち出して断っていたはずだから嫌われているという事は無いとは思う。
それに、距離を取るタイミング的に俺とジェネクス・コントローラーを二人っきりにしようという意図の方がまだ納得が行くのだが、何故にそんな真似をしているのかさっぱり解らない。
もしかしてオッサン☓ロボ萌え?
流石にニッチ過ぎる。無いわ。
「ん?」
思考が明後日の方向に向き始めた所でジェネクス・コントローラーが裾を引っ張って何かをアピールし始めた。
「どうしたコン。
何か気になるものがあったか?」
抱え上げて商品棚に近付けてみると、百合の花を描いた切子細工が施された花瓶を示す。
「それを姫様にプレゼントするのか?」
確認してみると首を横に振る。
「じゃあ…ペアにか?」
欲しがっているようだが姫様宛ではないと答えるコンに尋ねてみるとジェネクス・コントローラーはコクンと首を縦に振った。
「そうか。
じゃあ、それは絶対に買わないとな」
花瓶を手に取ろうとすると、今度はそれを止めようとするように袖を掴んだ。
「買わないのか?」
返事は首を縦に振って示す。
(買うけど俺が買うのは駄目?)
謎掛けみたいな状況に大してない人間関係の某を思い出し、コレかなと思う理由を口にしてみる。
「ペアへのプレゼントだから自分で買いたいのか?」
問いにジェネクス・コントローラーはコクンと頷いた。
何だこの可愛い生き物(機械)は?
そのいじらしさに萌えとはこういうものかと納得しつつ、俺は財布から【現金】のカードを何枚か抜く。
「そういえばコン。この前うららたちの面倒見てくれたお礼がまだだったよな?」
そう俺はカードを握らせる。
「その時の礼を今渡しておく。
タイミングは少しおかしく思うだろうが、臨時ボーナスと思って受け取ってくれないか?」
『……』
ジェネクス・コントローラーの視線が何度か俺とカードの間を往復してから『ありがとう』と言うように大きく頭を下げる。
そのまま花瓶を手渡してやると花瓶を大事そうに抱えながらレジに向かった。
その様子に言葉にするには難しい温かさを覚えるのと同時に、ギルスに助言した時と同様、本当にこれで良かったのか少しだけ不安に思う。
俺が何を言わずとも星遺物世界は救われる。
素直にコン達を引き渡してやれば端末世界からワームは駆逐される。
そうして力を振るわなければ【魔導】も【エンディミオン】も俺を軍を派遣するほどの脅威とみなさず、来年には引退する自由都市の1デュエリストのままでいられた。
それはきっと
だけど俺は以前よりもずっと我儘になってしまった。
イヴとイムドゥークの隣にアウラムとギルスも共に並んで欲しいと、なんならガラテアや悠久の時を使命に捧げたジャック・ナイツにももっと報われた救いがあって欲しいと願ってしまった。
死さえも奪われ、
それはきっと
俺がずっと恐れ避けようとしてきた
だが、
破滅を怖がり、惨劇に怯えて眼の前の変えられるかもしれない悲劇を見逃す事が賢いというなら、俺は馬鹿でいい。
そうでなければ姫様の【白銀の城のラビュリンス】の従者に能う資格は無い。
そう【カイバーマン】と【ATM】の2人とのデュエルを通して思わせられたのだ。
どこまで行こうと俺はカードの力に頼るしか無いのだから、その必要があるなら迷わず頼ろうと決めた。
故に二軍を相手に手持ちの最大火力を誇示し、不干渉を続ける限りどちらにも力を揮わないと約束した。
だからもしもこの先、俺がやったことが原因となって良くないことが起きるというなら、その相手に向けてこう言ってやる。
おい、デュエルしろよ。
ってな。
「会計は終わったか?」
郵送サービスに預けたらしく無手で戻ってきたジェネクス・コントローラーと共に店を出ると、店頭の謎のトーテムを眺めていたハスキーを見付ける。
「そちらに居たんですか?」
「ああ、すみません。
ちょっとこの部分が気になってつい眺めてしまいました」
そう指を差す所にはデフォルメされた【ドヨン@イグニスター】が彫られており、よく見ると【イグニスター】が縦に詰み並ぶように掘られているトーテムだった。
「中々いい趣味ですね」
「可愛いですよね」
まあ、南米とかのトーテムとかよりは可愛いと理解できる範囲ではある。
使われるとアホみたいにリンクしまくってくれるからそういう意味では好きじゃないけど。
「じゃあ、そろそろ昼にしましょうか」
太陽も頂点に近付いており、腹の具合もそろそろ空腹を訴えてきそうだと俺はハスキーにそう促し食事へと向かった。
因みに今の執事は大分弾けてます。
具体的にはヘルカイザー覚醒ぐらい。
なんで、トラブルはゴメンなのは変わりませんが、火の粉が降ってきたら消化器ぶち撒けるぐらい派手に仕返しします。