迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
アンチノミーの話と言いながら登場まで行きませんでした。
アリアスからスクロールを受け取った翌日。
俺は再びダルクを召喚して話をしていた。
「マスター。貴方はやはり人を辞めるつもりなのか?」
「何れはな。
悪魔になりたい訳じゃ無いが、だからって人間でいることに固執もしていないし必要に迫られれば俺は使うだろうな」
「そうか」
どこか寂しそうに見える様子でダルクは俺に言う。
「マスター。確かめたい事があるから転生のスクロールを見せてもらえないか?」
「ああ。ダルクなら壊すような事もしないだろうし構わないぞ」
「ちゃんとそこは弁えているよ」
スクロールを渡すとダルクは開いて中を改めていく。
そしてすぐに眉を顰めてスクロールをテーブルに置いた。
「…やっぱりか」
「なにか問題があったのか?」
「ああ。術式の一部に使い魔の契約術式が織り込まれている。
これをこのまま使っていたら、マスターはラビュリンスの主の使い魔にさせられていたぞ」
アリアスが一枚噛んで姫様に入れ知恵したのだろう。
「因みに他に何か書いてあるのか?」
「えっと…強制権が発動する命令の一覧が書かれているな。
『姫様の角磨き』『姫様の髪洗い』『姫様の武具の手入れ』『姫様の子守唄』『姫様のマッサージ』『場内の設備管理』『魔神像の油差し』『毎日の靴磨き』『アリアスの髪梳き』『確定申告』『煙突掃除』『花壇の雑草抜き』他にもまだまだ…奴隷以下じゃないか!?」
「それ姫様以外は多分絶対選ばないからって全員でやりたくない仕事片っ端から書いただけだと思うぞ」
見え透いた地雷だから踏むわけ無いから好き勝手書いてしまおうと悪乗りして書き連ねるアリアス達の姿がありありと想像出来て微笑ましい気分になる。
「それ以外におかしい点はあるか?」
「いや、他に気になる物は『姫様とお昼寝の添い寝』『三食おやつは姫様と同伴』とか使い魔に命じるような内容には思えない命令以外は特に不当な内容は無さそうだ」
「なら使う時が来たらその前に余計な文句は全部削除すれば問題ないな」
そう言うとダルクは不満そうに目を細める。
「
「朝5時起床深夜2時就寝週6日のブラック企業最底辺とどっちがマシだろうな?」
「……」
今の環境に対して不満が少ない最大の理由を言葉にすると、ダルクは憐憫の情で満ち溢れた瞳を向けてきた。
「兎に角だ。
使う前に俺達で改変するからこのまま使おうだなんて考えないでくれ。
それと、転生したいと言うなら悪魔族だけじゃなくて天使族や魔法使い族だって選択肢にあるという事を覚えておいてくれ」
「ああ。別の選択肢もあるとしっかりと考慮してから選ぶよ」
「そうしてくれ」
そこで話は終わりと俺はダルクを喚んだ理由を告げる。
「それはそれとして、暫くデュエルの予定も無いし外に出たいって奴が居たら『召喚』しようと思っているんだが希望者は居るか?」
「ほぼ全員出たがっているぞ。
マスターと話をしたい奴だけじゃなくてや単に普段飲まない酒が飲みたいなんて理由で出たがっているのもいるけれど、マスターが『召喚』してくれるのをみんな期待しているよ」
「そうなのか…」
とはいえ一度に全員は無理なので、ダルクと相談してローテーションを決めることにした。
「じゃあ、こんな感じかな」
「大丈夫だろう。
それじゃあ俺は一旦下がるぞ」
「ああ。何度も悪いな」
「構わないさ」
そう言ってダルクは顕現を解除した。
「さて、やるかな」
庭に移動し、俺はエクストラデッキからカードを並べる。
「来い。【ペンテスタッグ】【レイダーズ・ナイト】【I:Pマスカレーナ】!」
呼び掛けに人の背丈ほどの全長もあるクワガタを模したデジタルライズなモンスターと機械仕掛けの馬とバイクを駆る二人が顕現する。
「こうして見えるのは初めてだなマスター」
「最初に私を呼ぶなんていい趣味してるねマスターちゃん」
馬を降りて儀礼的な挨拶をするレイダーズ・ナイトと軽いノリでウインクを送るマスカレーナ。
三人を選んだ理由は出番は多いが直接の活躍は少なく中継役や補佐としての使用が多いので労ろうという理由である。
「いつも助かっているよ。ありがとう。
今日は三人に希望があれば可能な限り応えようと思っているんだが、何か要望はあるか?」
「はいはーい!!
私、ハスキーの入れたお茶とお菓子食べたい!」
「そんなことでいいのか?
なんだったら【ヌーベルズ】のレストランのコース料理でも構わないが?」
「いいのいいの!
エリアちゃん達からすっごく美味しかったって聞いてたから食べて見たかったの!」
「そうか。じゃあ、ハスキーさんにお願いしようか。
レイダーズ・ナイトはなにか無いか?」
「私は特に。
ですが、いい機会なので相棒を庭に放しても宜しいですか?」
「それぐらいなら全く問題ないぞ」
「感謝を」
妙に固く感じるが、本人がそう在りたいものを無理に捻じ曲げる必要もないかと俺はずっと黙り続けているペンテスタッグに視線を向ける…が、
「あれ? どこ行った?」
いつの間にかペンテスタッグは姿を消していた。
「マスターちゃん。ペンテスタッグならあそこに居るよ」
マスカレーナが指差す先には庭の片隅に大きく育った木が生えており、ペンテスタッグはその幹に張り付いていた。
「なにしてんだろ?」
「本物の木にしがみついてみたかった…とかかな?」
本人が満足なら構わないのだが、ペンテスタッグに気が付いたうらら達が興味深そうに足元に集まっている。
「宛ら『夏休みの一コマ』って感じだな」
「私インドア派の都会育ちだからよく分かんない」
マスカレーナの返しに地味にダメージを負いつつ、とりあえずペンテスタッグは放置して三人で屋敷に引き返した。