迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
最初はこんな感じのを書くはずだったんだよな。
「うわぁぁぁ… なにこれぇ…?」
ハスキーさんの淹れた紅茶と手製の菓子を口にしたマスカレーナはその美味しさにキャラ崩壊を起こして溶けていた。
「こんな美味しい物が地上にあったなんて私は知らなかった…」
確かにハスキーさんの菓子はプロに匹敵すると言えるほどだが、マスカレーナのソレは流石にと思わされた。
「一体どんな食生活を送ってきたんだ?」
「合成食材を合成着色料と合成調味料で形成した見た目と味と栄養を再現した完全食の合成食品。
私の世界はマスターちゃんがいた世界よりもずっと人工食料技術が進んで見た目も味もほぼ変わらなくなったせいで天然食材なんて食べる必要が無くなっちゃってたし、法律やら規制やらいろんなものが厳しかったのもあって味は同じでも栄養が偏る天然食材なんて食べるのはゲテモノ食いに思われてたのよ」
「技術の進歩の良し悪しって感じだな」
「ついさっきまでは
愛おしそうに菓子を齧りながらマスカレーナは紅茶で喉を潤しほぅと息を吐く。
「この紅茶もそう。
数値化したら再現飲料の方が味も香りも栄養も高い筈なのに、コッチの方が断然美味しいって感じるわ」
「ハウスキーパーのプロフェッショナルとして大量生産品にそう簡単に遅れは取れませんわ」
メガネをクイッと動かしながらドヤッという感じでそう宣うハスキーさん。
「本体が知ったらさぞ悔しがるだろうなぁ。
今頃【R-ACE】に追い回されて碌なご飯も食べてないだろうし」
自分の事なのにニヤニヤと愉しそうに嘯くマスカレーナ。
「【R-ACE】と因縁があったのか?」
「うんにゃ。お仕事してたら目を付けられちゃっただけだよ。
まあ、後ろはちょっと見せられないようなお仕事もしてきたから自業自得ってとこだし、マスターちゃんに迷惑は掛からないから気にしなくていいよ」
「喧嘩売られたわけでもないのに俺から正義の組織に殴り込みに行かないよ」
【ライトロード】とか【S-Force】みたいに次元の壁を超えてくる連中もいるから気にしない訳にはいかないが、少なくとも進んで敵対しようとは思っていない。
「じゃあマスターちゃんの姫様を成敗するって理由で向こうがやる気になったら?」
ニヤニヤと誂っているのが丸わかりな様子で問い掛けるマスカレーナに俺は苦笑しながら答えた。
「そいつは許せないな。
そんな事になったらそいつ等の本拠地に【ウイルスカード】詰め合わせセットを手土産に訪問した後でニビルで更地にしてからグスタフでよぉく耕した跡をアーゼウスに綺麗に掃除して貰おうかな?」
「「「……」」」
ん? 何この空気。
それまで紅茶を嗜みつつ聞き専に徹していたレイダーズ・ナイトが唐突にマスカレーナを猫掴みで持ち上げると部屋の片隅に引っ張って行ってしまった。
「何故あんな見え透いた地雷を踏みに行ったマスカレーナ?」
「だって実際話してみてもダルク君達が言うみたいにヤバそうに見えなかったんだもん!?」
「戯け。見えないから地雷と云うのだ!」
「悪かったって思ってるよ!?」
何やらボソボソと聞こえないように話しているが、冗談が過ぎたと説教している様だ。
別に隠さなくてもいいと思うのだが、ナイトを冠するだけあってそういうところもしっかりしているんだな。
「たはは…。変な質問してゴメンネマスターちゃん」
テヘペロとあざとく謝罪するマスカレーナに俺は笑って許す。
「別に怒ってはいないよ。
まあ、笑い話にするにしてももう少し話題を考えたほうが良いと思うけどな」
「はーい」
本当に反省しているのか怪しい返事をするマスカレーナにため息を吐くレイダーズ・ナイト。
「…あら?」
と、ハスキーさんが不意に窓の方に視線を向ける。
「どうしましたハスキーさん?」
「いえ、ナイト殿の相棒が嘶かれたような?」
耳を澄ませてみると確かにヒヒンと馬の鳴き声が小さく聞こえてきた。
「レイダーズ・ナイト?」
「わかりません。
相棒があの様に嘶いた事は一度も無い故」
持ち主に尋ねるもレイダーズ・ナイトも困惑した様子でそう答える。
「見に行こうか。
必死さは感じないが何かあったのは間違いないようだしな」
そうして鳴き声の方へと向かってみると…
「うーん。いい子だね。
ここの汚れも拭いてあげるから大人しくしているんだよ」
アンチノミーがレイダーズ・ナイトの機械馬をすごく楽しそうに磨いている姿があった。
「私の相棒に何をしている貴様!!」
それに対しレイダーズ・ナイトは問答無用で殴り飛ばした。
「うわぁっ!?」
妙に慣れた様子でふっ飛ぶアンチノミーに殴り足りないと襲い掛かろうとするレイダーズ・ナイトを必死に押し留める。
「ストップ! 落ち着けレイダーズ・ナイト!?」
「止めてくれるなマスター!!
こんな、私の愛馬を…」
と、指差す先にはピカピカに磨かれた機械馬の姿があった。
「痛たた…いきなり酷いなぁ」
「何をしているんだアンチノミー?」
サイコ・ショッカーに憑依していた時と同一人物とは思えない剽軽さを見せるアンチノミーに訝しんで問うも、アンチノミーは包帯だらけの痛々しい姿を忘れそうになる気の抜けた笑みを返した。
「いやぁ、起動完了したからお礼を言いに君を探していた最中にとても魅力的な子を見つけてね。
つい、整備して車体を磨いてあげたくなっちゃったんだよ」
「えぇ…?」
キャラが変わり過ぎでは、いや、デルタイーグルに対する様子からしてもそんな雰囲気はあったし偏愛的なメカフェチなのは素なのかもしれない。
「それは一旦置いておこう。
調子の方はどうなんだ?」
「ああ。うん。
無理矢理合わせている部分も【電子光虫】が上手くサポートしてくれているから不具合は抑えられているね。
人格の変化は、どうも遊星の仲間として居られた頃に引っ張られているみたいでね。
中身は変わっていないから心配しなくていいよ」
どうやら遊星達と共に居た頃はムードメーカーであったようだ。
ほややんという感じの気の抜けそうな様子を見せるアンチノミーに安堵しつつ俺は告げる。
「そうか。少しでも異常があったら隠さないで言ってくれ。
できる事は限られているが可能な限り手助けする」
「ありがとう。
それでなんだけど、執事君。あのバイクも整備してもいいかな?」
そうマスカレーナのバイクを示すアンチノミー。
「ちょっ!? 私の愛車になにする気なのよ!?」
新たな矛先となったマスカレーナがバイクを隠すように立ち塞がる。
「君がその子の操縦者かな?
とても大事にしているみたいだけどちゃんと整備しているかい?
良ければフロントカバーのヘコみも直したいんだけど」
「大きなお世話よ!!」
悪意は無いのだろうがバイクへ異様に食いつく様子に猫みたいに威嚇するマスカレーナ。
「なんか、思ってたのと違う」
険悪も暗いシリアスも望んでいた訳では無いが、こんなコメディチックな展開になると思わなかったため情緒が追い付かない。
「そういえばレイダーズ・ナイトはどうしたんだ?」
性格的に謝罪に動いていてもおかしくないのに何ら動きを見せないレイダーズ・ナイトを探すと、レイダーズ・ナイトは相棒の前で四つん這いになっていた。
「ど、どうしたレイダーズ・ナイト?」
orzと図形で表せそうな見事な四つん這いの体勢に理由を問うと、レイダーズ・ナイトは絞り出すような声で理由を告げた。
「相棒から彼の整備を認めないならもう乗せたくないと乗り換えを希望されました」
「はい?」
真逆の言葉にコメントを失う背後で整備させて欲しいと告げるアンチノミーと全力で抵抗するマスカレーナの整備交渉がBGMに流れる中、うらら達を背に空を飛ぶペンテスタッグが視界を過ぎり俺は思わず呟いてしまった。
「この混沌を俺にどうしろってんだ?」