迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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ちょっと息抜きにエイプリルフールネタとして組んでたけど書けなかったネタを投下。


【番外編】姫様はMD次元でもポンである。

「すごい夢を見たな」

 

 いつもの癖で目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

 時刻は午前四時五十五分。

 薄暗い部屋の中、視界に広がるのは1Kアパートの自室とも呼べない大して物もない殺風景な寝るためだけの箱。

 あるのはテーブルの上にパソコンとタブレット、電子レンジに携帯糧食と栄養ドリンクの段ボール。

 部屋の半分を専有するベッドは短い睡眠時間を少しでも良くするため金を惜しまず買った唯一の高級品。

 

「今日は休みだったよな?」

 

 ()()()()()()()()()()の横に転がっていたスマホを拾い日付を確認し、二度寝するか考えた所で俺は気づく。

 

「……はぁ?」

 

 猫ネットミームみたいな声を零しながらもう一度ベッドを見る。

 

「スゥスゥ…」

 

 小豆色のジャージ姿で寝ている姫様がそこに居る。

 

「……はぁ?」

 

 何度見ても姫様である。

 

 絹糸のような艷やかな髪。

 側頭部から伸びる白い立派な双角。

 微妙にだらしなく緩んだ顔。

 着古して襟や袖が縒れた小豆色のジャージ。

 ジャージを盛り上げる嫌いな男は存在しないロマンの塊。

 どこをどう見ても姫様である。

 

 どういう事だ!?

 

 まさか姫様がMD次元に転移してきたのか?

 或いは今俺は夢を見ているのか?

 どれだけ考えても答えがあるはずも無く、混乱した俺はとりあえずこれが夢であると仮定して現実なら絶対出来ない事を試してみることにした。

 

 ふにょん

 

 姫様の両胸を思いっきり揉みしだいてみた。

 

 柔らかい。うん。ジャージ越しでも解るぐらい素晴らしい感触だ。

 

「人を駄目にするソファーなんて比較にもならない。

 これはまさしく人類が夢見た理想郷(アヴァロン)だ」

 

 揉めば揉むだけ多幸感が全身を駆け巡る。

 これに比べたら騙されて一度だけ使ったドラッグで経験した多幸感と全能感さえ糞ゲー以下だ。

 

「そう。それは良かったわね執事」

 

 せっかくだし生で逝ってみるかと欲を出そうとした俺は、その絶対零度の声に血の気を引かせながら姫様の顔に視線を上げる。

 

「ひめさま…」

「おはよう執事。

 とりあえず退いて下さるかしら?」

 

 何を口にすべきかと舌を縺れさせる俺に姫様は命じ、急いで従う。

 

「ふふふ。

 色々と言いたい事や話したい事が沢山あるけれど、とりあえず先ずはやるべき事が有るというのは解っているわよね?」

 

 にっこり笑いかける姫様だが、俺には攻撃力三万ぐらいの数値が見えていた。

 

「クックロックより脆いのだけはお忘れなくお願い致します」

 

 それだけを口にした直後、俺の視界はグルンと全身諸共回転した。

 

「夜這いをするにも雰囲気をちゃんと作りなさい!!」

 

 ちょっと違いませんかと思うより先に俺の意識は吹き飛んだ。

 

 

〜~~~

 

 

「それで、この犬小屋は何処なのかしら?」

 

 あれから数十分後、意識を取り戻した俺は腕を組みながらベッドに腰を下ろす姫様を前に土下座しながらそう問われていた。

 俺を執事と呼んでいることから精霊界で仕えていた姫様と同一人物であるらしい姫様に俺は答える。

 

「推定ですが、私がかつて居た次元ではないかと思われます。

 それと犬小屋ではなく私の自室であるかと」

「こんな物置より狭い場所に人が住めるの?」

 

 酷い言われようだが、城の中しか知らない姫様なので悪意は無いのだろう。

 

「最低限生きるだけなら十分です」

「ふうん。

 つまらない理由ね」

 

 普通なら傲慢で嫌味な言葉だが、(『騎士』にふっ飛ばされるのも含めて)常に楽しんでいる姫様が言うとあまり気にならない。

 

「それより執事。

 私お腹空いたのだけど用意してくれないかしら?」

「畏まりました。

 と、承りはしましたが、私は姫様を満足させられる料理を提供出来ないので既製品をご用意するしかありません。

 その上で近くの店舗から調達してくる必要があるので少しだけお待ちいただけますでしょうか?」

「アリアスも居ないみたいだし仕方無いわね」

 

 了承を頂き、すぐに近場のコンビニに向かうため上着から財布を取り出す。

 

「そうだ。

 姫様が手持ち無沙汰にならないようこちらを使ってください」

 

 そう言い、俺はタブレットを起動して【遊戯王MD】を起動する。

 

「それは何かしら?」

 

 初めて見るタブレットに興味津々の様子を見せる姫様に俺は説明する。

 

「これは以前お話した離れた者と簡単にデュエル出来る装置です。

 使い方は画面をこうやって触れて…」

「こう? こうね?」

「はい。

 デッキのページを開いて新しいデッキを…」

 

 下手なことをされても困るのでタブレットの使い方も含めてアプリの詳細をレクチャーしておく。

 

「デッキが完成したら保存を押せば姫様のデッキの完成になります」

「執事が言っていた通り凄く手軽ね。

 それに精霊界で入手が難しいデッキも作り放題じゃない!」

「では、私は食事をお持ちしますのでしばしお待ちを」

「早くしてよね!」

 

 タブレットに夢中になりながらそう急かす姫様の言葉を背にアパートを出る。

 

「買い物ついでに口座から幾らか引き出しておくか」

 

 手数料的にあまりコンビニのATMは使いたくないが、早朝故に致し方ないかと諦めコンビニへと急ぐ。

 

 有り難いことに朝の品出しは済んでいるようで品揃えは十分。

 問題は姫様の口に合うかだが、そこは我慢してもらうしか無い。

 とりあえず普段ならスルー一択のチルドメニューを幾つかとタラコパスタにサンドイッチとおにぎりを数種かごにぶち込み、ドリンク数本と後はデザートコーナーでケーキを含む数品を追加する。

 

「合計で五千二百六円になります」

「イッテェ…」

 

 コンビニに通い続けて人生で初めて見る金額に辛みを感じながら袋詰めされた商品を受け取り帰路を急ぐ。

 

「ただいま戻りまし「しちゅじぃぃぃ!!」うえっ!?」

 

 帰ってくるなりギャン泣きした姫様のダイブを喰らい根性で耐える。

 

「どうしました姫様!?

 部屋にGでも出ましたか?」

 

 ゴミは小まめに処理しているから可能性は低いが外から入ってくることもあるため油断は出来ない。

 

「わたしのデッキがぐちゃぐちゃにされるの!!」

「……はい?」

 

 何を申しているんだ?

 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら姫様が泣きわめく。

 

「でゅえるしようとしたらみんながみんなうららなげてじゃましたりわたしのたーんなのにいっぱいかーどつかってぼうがいしてくるの!!」

 

 ぐずぐずと鼻を啜る姫様の鼻をかみながら言葉を噛み砕き、ああと納得した。

 

「環境デッキにボロクソにされたんですね」

「わたしはさいきょーなの!!」

 

 びーびーと泣き喚く姫様をあやしつつタブレットを引き寄せる。

 

「ちょっと失礼します」

 

 対戦データを開きLoseが二十ぐらい並ぶ今日最初の対戦戦績をリプレイしてみる。

 

「これは酷い」

 

 姫様の手札はうららや墓穴が無いことが気になるぐらいでかなり良い。

 

 が、最初にアリアンナを出したらうららを打たれ、シャンドラを墓地に送ったらサロニールの召喚コストに使われた。

 そして返しターンに【烙印ビーステッド】の理想展開が広がりワンキル決められていた。

 

 次は後攻を引き相手は【相剣バロネス】の理想展開で完封体制を敷ききり、姫様はろくな展開も許されずに手札無し場は空でターンを返して次のターンにライフを消された。

 

 そして続いていく【ライザー入りふわんだりぃず】【ティアラメンツ&クシャトリラ】【ナチュルルーン】【深淵ブラック・マジシャン】【月光ワンキル】【ヌメロン】【ヌメドラワンキル】【キスキルスプライト】【トライブリゲード】【芝刈りエルドリッチ】エトセトラエトセトラ。

 

 対して姫様は毎度手札こそ好調だが妨害札は一度も引けず、羽根箒や拮抗勝負で展開した場は叩き砕かれ狙いすました妨害に成すすべなくターンを終えるばかり。

 

 そして最後は【ラビュリンス】とのミラーマッチになり先攻を引くも、相手の貼った【闇のデッキ破壊ウイルス】により全てをご破産にされて相手の姫様によりとどめを刺されて終わった。

 

「姫様。世にはこんな言葉もあります。

 【妨害引けないほうが悪い】。

 今回は運がなかったと納得して気を落とさずに」

「出来るわけ無いでしょ!!」

 

 認められないと喚く姫様だが、気になってデッキを開いてみたら負けた理由は一目瞭然だった。

 

「姫様、妨害札が入ってないですよ?」

「そんな物無くても私は」

「一度も勝てませんでしたよね?」

「うにゅぅぅぅ…」

 

 厳しい事を言っている自覚はあるが、しかしMD次元でデュエルをしようと思うなら妨害は前提と思うべきである。

 しかも最初に俺とデュエルした時のデッキらしくエクストラも無いしロールバックも入っていない純【ラビュリンス】とくれば、MDでは鴨以外になりえはしまい。

 

「だったら執事はどうなの!?」

「私ですか?」

「そうよ! 貴方も【ラビュリンス】もっているんでしょ!?

 そうまで言うなら貴方の【ラビュリンス】を私に教授しなさい!!」

 

 そうぐっと顔を寄せてくる姫様を押しやりつつ俺は1番勝率の高い【ラビュリンス】を開いて見せる。

 

「私が使ってたのはコレですね」

「……」

 

 内容を検めた姫様はピシリと石になってしまった。

 

「ねえしちゅじ?

 なんで【ラビュリンス】なのに【ティアラメンツ】と【クシャトリラ】が一緒にいるの?」

「そうした方が強いからです」

「【ラビュリンス】使いとしての誉れは?」

 

 泣きそうになってしまっているが、しかし嘘はつけない。

 

「誉れは環境デッキに殺されました」

 

 ペタンと膝を着く姫様に俺は現代遊戯王の無常をただ噛み締める事しか出来なかった。




次回はアンチノミーとデッキ問題について。
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