迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
シリアスさんお疲れ様でした!
深紫色の巨竜の放つ神を一撃で二度殺して余りある一撃が、『
「こ、怖え…」
耳を塞ぎ目を閉じてなお網膜を焼いて鼓膜を突き破りそうな極光と破砕音が通り過ぎた後の破壊痕は綺麗に抉れ、ツルツルに磨かれたように円筒形に奔っていた。
「…何故か?」
震えた声が俺に問う。
「何故に
アークリベリオンが破壊した『白銀の迷宮城』を背に『白銀の城のラビュリンス』は顔を真っ赤にして怒りの声で俺に問う。
「俺がいた場所では、どこまで行こうとも
俺の本意を察して攻撃を外してくれたアークリベリオンに視線だけで感謝を告げながら俺は言う。
「先攻で一万のバーンダメージを叩き込もうが、盤面を完全に使用禁止にしようが、何時間も掛けてデッキごと全て除外しようが、無限ループを駆使してライフを百万にしようが、時間切れを狙って便所に籠もろうが、カードを偽ってプレイしようが、
「なによそれ?」
神聖なデュエルを侮辱しデュエリストの風上に立つ資格もないような真似さえ許容されていたと聞いた迷宮姫は訳が分からないと困惑する。
「どうしてかって?
簡単だよ。俺の居た場所では、
闇のゲームなんてのは漫画とアニメの中だけで、世界を作った存在にカードの神様なんてものは関わっていなくて、それこそOCGは
「だから俺は怖くなったんだよ」
迷宮姫が本気で死を受け入れ、従者達が無駄と分かっていてそれでも我慢できず主の死に涙を流している様が怖くなった。
「人殺しになるのが怖かった」
相手がカードゲームのモンスターだから問題ない。
この世界のルールだから許される。
自分が生きるためだから仕方ない。
殺されたくないなら殺すしかない。
巫山戯るな!!
ただの一般人がそんなもの背負えるわけ無いだろうが!!
侮辱でいい。蔑まれて構わない。どんな罵詈雑言もいくらだって聞き入れる。
あれだけ啖呵を切っておいて散々格好つけながら、それでも俺は臆病な自分のために全部投げ捨てた。
「だからお願いします。
俺に罪を背負わせないでください」
膝を揃え両手を着いて土下座しながら頼み込む。
「…貴方は、自分が何を口にしているか理解しているのかしら?」
自分の行いが迷宮姫の矜持につばを吐き掛けていることは百も承知だ。
冷たい声で問い掛ける迷宮姫の言葉に顔を上げずに頷いた。
「……そう。
ですが、貴方が我を通すように私にも曲げられない矜持があるの。
だからサレンダーはしないわ」
……やっぱり駄目か。
アニメとかだと戦う意志を無くしたらターンが切り替わっていたが、ここでもそのルールが適用されるのだろう。
「もう一度だけ尋ねさせて戴くわ。
私に止めを刺すのは嫌なのね?」
「何が悲しくてアンタみたいな美人を殺した罪を背負った上にあんたの従者に恨まれなきゃならない。そんなの絶対嫌だ」
「美じッ!?…、コホン。
ならば致し方ありませんわね」
迷宮城の言葉と同時にデュエルディスクがブザーを鳴らす。
「このデュエルは貴方の勝ちよ。
でも、貴方に私を倒すことが出来ないなら私の勝ちでもあるわ」
んん?
「ならばこのデュエルは双方勝利!! 即ち引き分けということよ!!
オーホホホ!!」
楽しそうに勝利を謳う迷宮姫にそれはどうなんだと思いつつも、しかし戦いを終えるという選択を与えてくれた彼女に感謝しつつ立ち上がる。
「ありがとう」
「ええそうよ! もっと私に感謝の気持を捧げなさい。オーホホホ!!」
ご機嫌な様子で高笑いしている迷宮姫の後ろで早速城の修繕作業を開始していたアリアスが小さく会釈してから作業に戻る。
「では、早速勝者の権利を行使させて戴くわ」
視線を戻すと迷宮姫はビシリと指を差した。
「私は貴方を下僕に致しますわ!」
「はい?」
「魔境にて培われたデュエルの技術は私の手の中にあってこそ輝くわ!
故に貴方は私に仕えその辣腕を奮い私の栄光を支えるのよ!」
「い、いや、だけど俺は…」
「それに貴方、帰る場所はあるのかしら?」
「うっ!?」
そうだった。
俺はどうしてこの世界にいるのか、なんでMDで使っていたデッキを持っているのか何一つわからないままなのだ。
当然帰る手段なんて知っているわけがない。
「さっきの話からして貴方は人間界とも違う次元に住んでいたようですが、このまま着の身着のままで私の城を出て行くあてがあるのかしら?」
「うぅ…」
迷宮姫の言う通り、仮に人間の住む世界に出られたとしてもおそらくはデュエルモンスターズが席巻し全てがデュエルによって解決するトンデモ世界に放り出されてしまう事になるだろう。
デッキが強いから安全?
その実盗んだカードでキングを名乗ってても勝てば許される末法の世だろうが。
ついでに世界の危機とかもごろごろ転がっているヤバい世界なのも俺は知っているんだぞ?
「分かった。
厄介にならせてもらう」
我儘ではあるが身内には優しいみたいだし、あてもなく彷徨うよりは世話になるのも悪くないだろう。
「ふふふ。
では、貴方は今から【迷宮城の執事見習い】として私に仕えるように。
それと、私に勝った報酬として私を伴侶にする事を…」
と、負けた屈辱から言い淀んだ迷宮姫をガランガランと鐘の鳴る音が遮った。
「なんだ?」
「来たわね!」
と、迷宮姫は先程とは打って変わり真剣な様子に変わる。
「アリアス!『おもてなし』の準備は出来ているわね?」
迷宮姫の問いに作業を中断してアリアスが答えた。
「それなのですが、先程の城へのダメージにより仕掛けておいた罠が全て駄目になっています」
「な、な、なんですって!!??」
どうやら俺以外に侵入者が来たらしい。
いや、俺が異分子で、本来の来訪者があちらなのかもしれない。
「執事!! 貴方の責任なんだから何とか時間を稼ぎなさい」
「ええ?」
唐突に指名され戸惑いながらふと、召喚しっぱなしで若干居心地が悪そうなアークリベリオンに視線が行った。
「とりあえず、彼をけしかけますか?」
一応仕える立場になったので敬語でそう聞くと迷宮姫は「採用!!」と認めた。
「え〜と、そう言うわけだからもうひと仕事頼む」
そう頼むとアークリベリオンは爪で器用にグッドサインを返すと攻撃で開けた穴を抜けて侵入者が居るらしい場所へと飛び立った。
「さあ、今のうちに『おもてなし』の準備を終わらせるわよ!!」
急かす迷宮姫に慌ただしく駆け出すアリアス達。
「というか、アークリベリオンで撃退されるんじゃ…」
「あの程度で勝てるなら私は常勝無敗でしてよ」
「えぇ…?」
「貴方もさっさと行きなさい」と背を押されながらアリアスに指示を仰ぐ為駆け出すが、アークリベリオンで勝てない侵入者って何者なんだ?
こうして俺の【迷宮の執事見習い】としての騒がしい日常は幕を上げた。
余談だが、侵入してきた『騎士』にアークリベリオンは本当に退けられ、感想も「即死攻撃は怖かったけど回避パターンを見つけるまでのタイムロス以外は怖くなかった」と言われて凄く落ち込んでいた。
決着についてですが、とどめを刺したら執事になんてなってないし、そもそもパンピーがデュエルだからって相手を本当に殺せるかって言うことでこういう形にさせてもらいました。
というか、あそこで本当にアークリベリオンでオーバーキル出来るやつは可愛い女の子を殴ったり傷付けて喜ぶ変態だと思う。
という訳でシリアスさんはお休み。
次はドッタンバッタン大騒ぎなホームコメディにするよ!