迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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これにて決着です。
展開に納得いかないかもしれませんが、理由についてはあとがきで


仲間外れはよくないよな。

 盤面は再びひっくり返せた。

 しかし、俺はこのデュエルの敗北を半ば確信していた。

 

(来るだろうな。猿が)

 

 【EMモンキーボード】

 一度は禁止にまでなった【EM】テーマならドクロバットに並んでまず候補に上がるこのカードがこの窮地を前に大人しくデッキで寝ているはずが無い。

 ご都合展開と思わなくもないが、それを言ってしまえば俺の貪欲からのアーゼウスとて大差はないだろう。

 モンキーボードからドクロバットへ。

 ドクロバットから虹彩に繋げてペンデュラムスケールが揃いアストログラフ・マジシャンへ。

 そうなれば効果を使えないアーゼウスではどうしようもない。

 

(すまないな。頑張ってくれたのに)

 

 デッキに目を落とし心のなかで謝罪する。

 あの得体のしれない何かの言う通りにしていれば違う結果もあったのだろう。

 だが、浅ましく外野に頼るなんてまっぴらだ。

 これだけ愉しく戦えた先に得たのが負けなのだから、その結末を粛々と受け入れるのが俺の答えだ。

 

「俺のターン。ドローフェイズ。ドロー」

 

 最後まで諦めないとその顔に笑みを浮かべたズァークが勝利の1枚を引く。

 

「……え゛?」

 

 そして顔をひきつらせて固まった。

 

「? 何かおかしいことがあったのか?」

「いや、その…」

 

 尋ねると異様に歯切れの悪い様子で困った顔をするズァーク。

 

「オジサン。マナーが悪いのは承知なんだけど、これを引いちゃった」

 

 そう言いズァークが見せたカードは…

 

【火炎地獄】

通常魔法

相手ライフに1000ポイントダメージを与え、

自分は500ポイントダメージを受ける。

 

 空気が凍りついた。

 

「使ったら勝てるよね?」

「ジャストキルだな」

「使わなきゃ負けなんだけど、ここで使うのはなぁ…」

 

 うん。分かる。

 顔の見えないMDならこの状況だろうと引いた俺の勝ちだザマアミロと呵々大笑しながら叩き込めるが、戦いの儀ばりに熱くなったこの空気の中でバーンキルは無いと思う。

 

「いやでも、来たのに使わないってのもオジサンにもカードにも失礼だし…だけど…」

 

 あんまりな状況にまごつくズァーク。

 

「この状況でハスキーは火炎地獄を使える?

 私はちょっと無理」

「使いますよ。

 ハウスキーパーとして完璧に完了させます」

「ハウスキーパーは関係あるの?」

「これも『おもてなし』として私も使いますね」

「こっちもこっちで容赦ないわね」

 

 外野も外野で完全に空気が腑抜けてしまっている。

 そんな状況だからこそ、俺は気付いた。

 

「アハハハハ!

 そう云うことか!」

「オジサン?」

 

 突然笑い出した俺に驚くズァークに俺は言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「え?」

「俺達が熱くなってユーリを一人だけ仲間外れにしているから、()()()()()()()()()()()()()()

 

 体を貸しデッキも俺との再戦も譲ったのに蚊帳の外に追いやった俺達に対し、カードはユーリに代わって()()()()()()()()()()

 

「火炎地獄を使ってズァークが勝とうと、使わずに俺がアーゼウスで勝とうとどちらも()()()()()()()()

 そんな()()()()をカードにされちゃあどんな結果になろうと俺達は勝利したなんて言えないだろう?」

「…ふふっ、確かにそうだな」

 

 納得したとズァークは困った様子で苦笑を零す。

 

「それにカードのチョイスもいやらしいな。

 オジサンだけじゃなくて俺までバーンダメージを与える火炎地獄を選ぶ辺りカードの怒り具合が手に取るように分かる」

「そうだな」

 

 まったく、こればかりは反省するしかない。

 

 ルールを守って()()()()()()()

 

 仲間外れを作って()()()()()()()なんて言える筈がない。

 カードゲームの基本にして最大のマナーを二人して破ったのだから俺達二人はこの罰を受ける以外にないだろう。

 

「どうする?使うか?」

「そうだな…」

 

 このままでいるわけにもいかないと訊ねるとズァークは少し考えてから答えを出した。

 

「スタンバイフェイズ。メインフェイズ。

 手札から【火炎地獄】を発動。

 オジサン。一緒に罰を受けてくれ」

「仕方ない。チェーンは無しだ」

 

 業火が俺達を包み、ライフポイントを削っていく。

 

「いつもより火力高くないか!?」1000→0

「分かっていたけど本気で熱い!?」1400→900

 

 罰なんだから痛いのは当然とは言え、いつもなら熱めの風呂に入ったぐらいの痛さなのに今回は誤って熱湯を被った時のような洒落にならない痛みが襲いかかった。

 

 ギャーギャー二人して悲鳴を上げていると十秒ほどで炎は消え痛みも引いていく。

 

「ああ、クソッ!

 こんな絞まらないデュエルは初めてだ!」

 

 言わずにはいられないと不満を叫ぶズァークに俺はカードをデッキに戻しながら宥めすかす。

 

「こんな事もあるさ。

 絞まらない結末に笑うしかないような、そんなくだらないデュエルだって偶にはあっていいんだよ」

「分かってるよ。

 俺はもっと肩の力を抜いて嫌なことを嫌だとはっきりと言っていれば…違う道が続いていたって事は」

 

 そう口にするズァークの顔にはそれまであった張り詰めた雰囲気が完全に消え去っていた。

 

「俺はたくさん間違えてあんな結末に辿り着いてしまった。

 それはもう取り返しがつかない事だけど、やり直すことは出来るんだってオジサンに教えてもらったからもう大丈夫だ」

「そうか。なら良かった」

「だからこそ残念だ。

 オジサンとはもうデュエル出来ないのが」

 

 そう寂しそうにズァークは言った。

 

「それは無理をした代償か?」

「ああ。誰とも統合しないまま表に出て来るために力を使いすぎた。

 次に目覚めるには全員が統合を果たすか、ずっと未来の先までかかると思う」

「そんなにか」

「うん。俺の分割体が爺さんになるぐらいまではかかると思う。

 だから、オジサンとのデュエルもこれが最後になる」

「だったら問題ないな」

「え?」

 

 何故と驚くズァークに俺は言う。

 

「今すぐってわけじゃないが、俺は仕える姫様のために人間を辞めるつもりなんだ。

 だから、五十年後だろうと百年後だろうと俺は現役のデュエリストを続けているさ」

 

 そう軽く嘯いてやるとズァークはポカンとした顔を晒した。

 そして、顔を俯かせて肩を震わせ始める。

 

「なんだよそれ…?

 人間辞めることを軽く言い過ぎだよ…」

「そうか?

 惚れた女が悪魔族で、その人と一緒にいたいと思ったからってしっかり考えての結論なんだぞ?」

「オジサンはもう…こんなの笑うしかないじゃないか」

 

 顔を上げ笑い過ぎて浮かんだ涙を拭いながらズァークはそう口にする。

 その涙が本当に笑い過ぎによるものなのか聞くのは無粋だろうと俺は腕を組みふてぶてしい態度で堂々と宣う。

 

「どれだけ掛かろうと、俺はお前との再戦をいつでも受けてやる。

 だから安心して休みな。

 ゆっくり休んで、そして目が覚めたら自慢のデッキを持って俺のところに来い。

 今度はしっかり倒してやるからよ」

 

 挑発を混ぜてそう宣うと、ズァークは浮かんだ涙を拭って好戦的な笑みを返した。

 

「違うよオジサン。

 次は俺と俺のデッキが勝つんだ」

「上等だ」

 

 そうして2人で声を上げて笑い合う。

 ひとしきり笑ったところで憂いの晴れたズァークは言った。

 

「それじゃあ行くよ。

 バイバイオジサン。()()()

「ああ。またいつか。ズァーク」

 

 そうして、人の悪意なき悪意に翻弄された少年は永い眠りに就いた。

 

 ズァークが眠りに就き、間もなくユーリがゆっくりと目を開いた。

 

「あ〜もう。今日は散々だよ」

「おつかれさん」

 

 しんどそうに愚痴るユーリを労わりつつ大事無いか尋ねておく。

 

「魂の人格を表層に起こす負荷は小さくないらしいからな。

 少しでも不調を感じるなら早めに休んだほうがいい」

「うん。結構だるいし部屋に戻って寝るよ」

「ああ、そうだ」

 

 信賞必罰は大事だからな。

 

「ズァークにデュエルを譲ったご褒美をやるよ。

 欲しいだろ?」

 

 そう【捕食植物ヴェルテ・アナコンダ】を俺は差し出した。

 

「え!? いいの!!??」

「カードが怒るぐらいのけ者にしちまったからな。

 詫びも兼ねているから受け取ってくれると有り難い」

 

 今のうちに渡しとかないと遊戯王と同じく禁止カードになっちまうだろうからな。

 

「やったー!!」

 

 新たな使用するテーマのカード、それもリンクモンスターという新たな召喚方法を用いるカードに年相応にはしゃぎながらユーリは走り出す。

 

「またねオジサン!!

 次は僕とデュエルだからね!!」

 

 走り去るユーリを見送り、その背が見えなくなった所で俺は漸く気力だけで保っていた膝を折る。

 

「あ゛〜。なんとか片付いたか?」

 

 どつきあいした後に精霊界と変わらないリアルダメージ付きのデュエルを乗り越えなんとか大人としての面目を保ち切ることに成功した。

 ただし、その代償は安くない。

 

「お疲れ様でした。

 ですが旦那様。休むのはまだ先になるかと」

「本当?」

「ええ」

 

 眉を寄せて困った表情を浮かべるハスキーさんの横で暗い雰囲気でマルファが語る。

 

「カードにされたエリス達は取り戻せたけれど、奴等はカードにした者達を新世界創造のエネルギーにするつもりだったから元に戻す方法を持っていなかったわ」

「やっぱりか…」

「加えて一手遅く既にエクシーズ次元への侵攻が開始されていました。

 そちらについては全軍に作戦中止と撤退を指示させましたのでこれ以上の被害は広がらない筈ですが…」

「命令を無視した半暴徒化した兵士の発生の懸念と、カード化されたエクシーズ次元への民事及び政治的対処に加えて、首魁の赤馬零王が掌握していた融合次元の支配の解放に各次元への賠償問題とアカデミアの思想矯正。

 加えて精霊界の方も同じ仕事やる必要あるよな?」

「頑張ってください執事。

 逃げたらユーリ達に多大な責任が被されますが、それは嫌なのですよね?」

「……大人って辛いなぁ」

 

 もう二、三百発ぐらいあのハゲをぶん殴りたい気持ちになりながら、迫りくる大量の仕事に俺は項垂れるしかなかった。




なんであんな絞まらない決着にしたかについて。

当初のプロットではズァークがスターヴヴェノムを召喚して執事を倒す展開だったのですが、書いている最中にユーリの影がどんどん薄くなっているのが気になりました。
 で、これだけカードが自己主張しまくっている状況でユーリのカードだけが黙っているのかと思うようになり、また、普通に勝つのではズァークは過去に囚われたままになるのではと悩んでいた所で偶々【火炎地獄】が目に入り、ユーリなら使いそうだしこれならいい感じに笑いに持っていけるとオリチャーをぶち込んでしまいました。

 気に入らないと思われる方も居られるでしょうが、仲間外れが居るのに楽しいデュエルだとは自分は思えなかったのでそこはご理解頂きたいです。

 次回は後日談です。
 
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