迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
収束した豪炎が光線のように一直線に迸る。
触れたものを塵一つ残さず溶断するだろう閃光の先にはそれを迎え撃たんと構えるメイド服の女が一人。
女は眼鏡の奥に刃のごとく鋭い眼光を湛え引いた右手の五指を揃えた手刀に力を籠める。
「シィィィ…」
女から吐き出される息の熱に空気中の水分が蒸気となって揺蕩う中、ギチギチと音を立てる程に引き絞られた筋肉の悲鳴が宛ら竜の唸り声を想像させる。
「シャアァァッ!!」
そして、迫りくる閃光を蛮力を籠めた手刀を以って迎え撃った。
普通に考えれば腕どころか熱線の余熱で全身諸共蒸発するだろう。
だが、それは
熱線は手刀を焦げ付かせることさえ叶わず飛散し、まるで花火のような鮮やかな光の乱舞が日の光さえ押し退けて周囲を照らし輝かせる。
衝突の時間は数秒程度。
しかし見る者に遥かに長い時間を感じさせる衝突の後に女は体勢を戻しながら手刀を解いた右手を見つつ先の攻防を口にする。
「やりますね。
殺す気のない一撃でしたから完全に受け流しきれたと思っていましたが、爪が大変な事になってしまいました」
見ればその爪には幾条もの亀裂が入っており、並の者なら風が触れただけで痛みに悶絶しているだろう。
「服も焦げ付きがこんなに…。
手加減してなお
そう女、【ドラゴンメイド・ハスキー】は自らが戦う相手が好敵手に収まらない存在であると、その顔に本来の姿を想像させる壮絶で獰猛な笑みを浮かべた。
『グルル…』
ハスキーの挑発とも取れる言葉に反応を返すようにアークリベリオンは短く唸り、ハスキーはその声に応える。
「ええ。解っていますとも。
貴方は
ですが、最強種たるドラゴンの手合わせにその様な浮ついた気持ちは必要ありません。
死ぬほうが悪いのです。
ですので、私もここからは殺す気で行きますので貴方も加減を捨てドラゴン
ゴウッ!
宣告の直後、ハスキーの全身からエネルギーが奔出しハスキーの姿を覆い隠す。
『キュォォォォオオオオン!!』
鳥類のようにも聞こえる甲高い雄叫びが轟き、エネルギーのベールを引き裂いてアークリベリオンと背丈を同じとする艶かしささえ感じる白と黒の鱗を持った竜がその姿を現す。
『グォォォォオオオオオン!!』
ハスキーの変態を前にアークリベリオンも轟々と戦意を昂らせ興奮した様子で力強い雄叫びを返す。
そして、どちらともなくほぼ同時に動き出し互いに掴み合いに転じた。
「どうやらハスキーも完全に火がついたみたいだね。
執事君。いつでも【死者蘇生】が使えるよう準備しておいてくれ給え」
壮絶なぶつかり合いを前に楽しそうにそう口にするアリアスに「ああ」と応えつつ、どうしてこうなったと俺は困り果てた。
始まりは昨日に遡る。
「時に旦那様。
以前お願い致していた件は覚えておられるでしょうか?」
アリーナでのデュエルを終え、護衛として共に帰途を歩いていたハスキーさんが不意にそう口にした。
「お願い…?」
はて?ハスキーさんから何かの要望があっただろうかと首を傾げているとハスキーさんは怒った様子もなくその要望を口にした。
「アカデミアで旦那様の主力モンスターと手合わせを願いたいと、そう申し上げた件です」
「ああ、あれか!」
え゛? あれ、本気で言っていたのか?
「いや。すみません。
戯けた際の話だから乗っかってもらっただけと本気にしていませんでした」
「確かにタイミングがタイミングでしたからそう取られても致し方ないですが、私は本気です」
「う、うん?」
いや、やりたいなら俺は構わないんだけど、本当に本気なの?
「わかりました。
では明日1日空いていますからそこで本人から同意が取れたらということで宜しいですか?」
「ありがとうございます」
まるでデートを楽しみにしているような華やかな笑顔でとても嬉しそうに感謝を述べているが、その内容が物騒過ぎてチグハグな印象を抱いてしまう。
そんなやり取りを経て翌日。
朝早くにデュエルディスクを装着した俺はハスキーさんと庭に移動した。
「それでは『召喚』しますが、誰を呼べばいいんですか?」
「そうですね…」
ハスキーさんはわずかに思案したあと希望を口にした。
「アークリベリオンをお願いいたします」
「分かりました」
自身と同じドラゴンであったため妥当な選択だなと納得しつつ俺はアークリベリオンを召喚する。
「反逆の翼を羽ばたかせ自由の空にその名を刻め!
【アーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!!」
結構な量のデュエルエナジーを吸い上げながらアークリベリオンが実像を結び顕現する。
『グゥ…』
「喚び出しに応じてくれてありがとうアークリベリオン。
今日喚び出した理由なんだが…」
俺が説明しようとする前にハスキーさんが間に入ってアークリベリオンと視線を交わす。
「やはり貴方は良いですね。
強さを求め父祖より受け継がれた肉の身体さえも勝利のために捧げる強靭な意思を宿すその瞳の輝き。
とても美しい」
ほう。とまるで恋い焦がれる乙女のような顔でアークリベリオンを賛ずるハスキーさん。
なんか流れが変わったというか、雨も降っていないのに急激に川を流れる水が増えたような嫌な予感を感じさせる空気は気のせいだろうか。
「さあ、私と一曲
それとも、相手の方から
言葉だけならダンスホールでのやり取りにも見えなくもないが、ハスキーさんの纏う雰囲気は完全に殺戮に酔う修羅のそれである。
闘争を誘うハスキーさんに対し、アークリベリオンは静かに首をもたげて視線を俺へと向ける。
言葉は無い。
だけど、その目が俺の答えを問うているように感じたので俺は言った。
「強制はしない。
俺はお前の選択を尊重する。だからお前が望む通りにしていいぞ」
『……ぐるぅ』
短くアークリベリオンが喉を鳴らすと再びハスキーさんへと顔を向け、そして…
『グゥオオオオォォォォオオオオン!!』
ビリビリと空気を震わせる猛々しき咆哮を轟かせた。
「素晴らしい!!
やはり貴方は私が見込んだ通りの強き雄!!
この血の滾り、存分にぶつけさせていただきます!!」
ゴゴゴ…とハスキーさんの戦意に空気が震え地面までもが恐怖に揺れ始める。
「って、ちょっと待った二人共!!」
「なんですか旦那様?
これから
不満そうに俺を見るハスキーさんに俺は屋敷を指差す。
「今の戦意で屋敷にダメージが入ってるんだよ!
ついでに近隣もすごい混乱しているから場所を変えてくれ!!」
見れば窓ガラスに罅が入り屋根の一部が砕けてしまっている。
更には塀の外には武装した自警団が怯えた様子で屋敷を包囲する姿もあった。
「あら?
これは失礼しました」
周りを見渡し状況を察したハスキーさんは素直に謝罪する。
そして冒頭へと時間は進む。
因みに一般ドラゴン族にアレが普通かと聞いたらんな訳ねえだろと怒られます。←