迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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デスマの隙間に入ったので今のうちにぶっ込んどくぜ!!

そして宣告通り今回は禁止カード使います。


偶には人の心を投げ捨てたい(起)

 

 朝の始まりは一杯のコーヒーを楽しみながら新聞に目を通すことから始まる。

 こんなに優雅で贅沢な朝が過ごせている事を1年以上過ぎても未だに信じられない気持ちを抱きつつ一面の見出しに視線を落とすと、中々に無視できない一文が記されていた。

 

「うわ、ついに来たか」

 

 それはレギュレーション改訂の知らせであった。

 故郷なら一カードゲームのレギュレーションなんてものを見出しにできるはずもないが、この世界はそのカードゲームこそが世界の中心なので、寧ろ見出しにしないほうがおかしいだろうというのが常識である。

 

「げ!? 【カイザー・コロシアム】が禁止入りか…」

 

 【霊使い】で度々世話になっていたフィールドコントロールの要の一枚が使えなくなるのはかなり厳しい。

 

「おはよう執事君。

 変な声を出していたみたいだけど何かあったのかい?」

 

 朝を迎え自室から出てきたブルーノに新聞を差し出しつつ理由を答える。

 

「おはようブルーノ。

 レギュレーション改訂でデッキ調整の必要が出て来たんだよ」

「成程。確かにカード次第ではそんな声も出しちゃうね」

「今だと展開を制限する【サモン・リミッター】が制限に上がったのは有り難い気がするかな」

 

 サモリミはMDなら食らわせる側として【霊使い】にも入れていたが、今は寧ろ食らう側だったので動きやすくなるだろう。

 

「あれ? なんでこのカードが禁止になるんだろう?」

「どれだ?」

「【カタパルト・タートル】」

 

 ブルーノの言葉に俺は自分の目が死んだのを自覚した。

 

「そっかぁ…遂に奴が逝ったんだな」

「どうしてそんなひどい顔をしているんだい?

 君は【カタパルト・タートル】を使ってなかったよね?」

「あのカードには()()()記憶しかないからだよ」

 

 一番有名なのは【月光カタパ】だろうか。

 とある動画投稿決闘者が最も愛用していた無慈悲を通り越した悪夢の先攻ワンキル型ソリティアデッキの一つであり、ニビルや【妖怪少女】達妨害カードさえ簡単にすり抜けていく様は見ている分には爽快だが対面は本気で遠慮したいデッキである。

 

「必要カードはあったはずだからカタパルト・タートルのワンキルデッキ再現してみようか?

 どんなデッキかは組めばブルーノにはそれだけで悪夢の度合いが理解出来るだろうし」

「本気で遠慮したいんだけど、そこまで言われると怖いもの見たさで見たくなるかな…」

 

 そんなぐだぐだ気味な会話のしばらく後…

 

「どうしよう、本当に完成させちゃった…」

 

 欲望に抗えず作っちゃった。

 

「うん。これは人の心以前にデュエリストの心が無いね。

 というより40枚にこんなに展開ルートを盛り込もうだなんて、どうしてここまで突き詰めてしまったかなぁ?」

 

 並べた状態のカードを見たブルーノはどういう展開になるのか予測出来たようで感心と呆れと疑問がミックスされた素晴らしい顔を披露してくれている。

 

「先攻制圧による対話を拒否したデッキが故郷の環境を支配したからかな?

 お前達がデュエルで対話しないなら此方はデュエルそのものを否定してやるって殺意が極まったんだと思う」

「封印櫃のラインナップ的にそんな予想はしていたけど本当に酷い世界だね」

環境握る側(ガチ派修羅勢)はそんな状況をのたうち回りながら楽しんでるから本人達は良いんだと思う。

 俺は好きなカードで遊びたい側(カジュアル派エンジョイ勢)だから環境で殴り合うのは遠慮するが」

 

 酷すぎるとブチ切れて誉れ無きガンメタデッキや【暗黒未界域withプリーステス・オーム】なんかを持ち出したりもするが、それは人間だから仕方ないと思う。(KONAMI感)

 

「そこまで行けたならある意味それもクリアマインドの境地なのかも…?」

 

 いや、連中は解脱じゃなくて魔境に堕ちた修羅だからブルーノ達と一緒にすんなし。

 

「どうする?

 一回ぐらい回したのも見ておくか?」

「僕のデッキだと先攻を握っても捲り返されるの止められないから遠慮するよ。

 殺るなら壁とやっていてほしいな」

「だよね」

 

 実際、精霊界の魂を乗せたデュエルに持ち出していいものでもないのでこれはお蔵入り決定だな。

 レシピに必要なカードの一部を【霊使い】のエクストラデッキから引き抜いているから早急に崩さねばならないのが残念だが、しかし作ったからには使いたいと思うのがデュエリストの性である。

 

「アリーナに打診してみるか。

 なんかこう、追放者に対する公開処刑用的な感じでなら一回ぐらい披露しても許されるのでは?」

「主題が逆転しているよ執事君!」

 

 と、そこでブルーノは時計に視線を向け焦った様子を見せた。

 

「もうこんな時間だ執事君!

 今日はシンクロ次元に行かなきゃならないって言っていたよね!?」

「あ!? そうだった!!??」

 

 4つの次元の和平政策として合同デュエル大会を行う事になり、その打ち合わせに顔を出すよう言われていたのだった。

 

「ヤバいヤバい!!

 とりあえずデッキ戻している暇が無いからコイツ持って行くしかない!!」

 

 慌てふためきながら【月光カタパ】をデュエルディスクに装填して屋敷の転移装置に飛び込む。

 

「って、【霊使い】に拘らずとも姫様を使えばいいだけじゃん!?」

 

 転送後に気付くも今更戻る時間も無い。

 

「遅かったですね?

 何か問題有りましたか?」

 

 装置を管理している職員にそう尋ねられ、隠すのも恥かと素直に答える事にした。

 

「ああ、いえ。

 少しばかりデッキを弄るのに夢中になって時間を失念してしまったんですよ」

「ああ。分かりますよ。

 私も新しいカードを手に入れると時間を忘れがちになってしまいますからね」

 

 職員の同意にハハハと笑いが沸き起こる。

 

「とはいえ、若人ならまだしも私はいい大人なのでそれで遅刻も情けないだけですが」

「確かに。車の用意が出来ていますのでそちらに案内します」

「宜しくお願いします」

 

 職員に案内されて迎賓用の防弾仕様の高級車に乗り込み会議の開催場所へと向かう。

 

(やっぱりこの次元はブルーノには見せられないな)

 

 過ぎゆく街並みにそんな感想を抱いてしまう。

 シンクロ次元は幾つもの高層都市が連なる高い建築技術が目立つが、同時に俺が乗る車を言葉にしたくない感情を込めた視線で見る見窄らしい装いの子供を十分も経たずに何人も見るほどに『トップス』と『コモンズ』の間に貧富の差が絶望的なほどの広がりを見せるディストピアの様相を呈していた。

 ブルーノの話で『ネオ・童実野シティ』と名を変えた童実野町も『シティ』と『サテライト』で明確に貧富の差がある街であったと聞いていたが、シンクロ次元の『シティ』は特権階級とそれ以外の区分さえ無い程に格差が広がっていた。

 初期の遊戯王を知る身からすればある意味で遊戯王()()()世界に見えるが、正直気分がいい話ではない。

 だからといって義憤のままに部外者の俺が間違っていると暴れるのも違うと思う。 

 この世界の問題はこの世界に生きる者達が解決せねばいずれ同じ事が繰り返されるだけになるだろう。

 そんな遣る瀬無い気持ちを抱きながら車に揺られて数十分後、話し合いの場となる『セキュリティ』のビルの前に車が停まった。

 

「ようこそ。お待ちしておりましたよ精霊界のデュエリスト殿。

 私は治安維持局の長官を任されている『ジャン・ミシェル・ロジェ』という者です」

「本日はお時間を頂きありがとうございます。

 お互いに忙しい身ですので余計な前置きは省いておきましょう」

 

 長官室に案内され、軽く自己紹介を交わしてから打ち合わせに入る。

 打ち合わせといっても当日の警備配置などの大まかな確認だけなのでさしたる時間も要せず打ち合わせは終了した。

 

「それにしても態々局長自ら打ち合わせの対応を成されたのは何故でしょう?」

 

 俺の立場はハゲを直接下したことは伏せられているため、ハゲのやらかしにより混乱をきたした4つの次元の調停役を担った精霊界の代表デュエリストであり、ゲストとしては相応の扱いはされても治安維持の局長が出張るような立場には無い。

 

「それは当然でしょう。

 赤馬零王の悪逆非道を単身で食い止められた『英雄』殿には最大限の礼儀を払わせて頂きますよ」

 

 知られているはずが無い真実を言い当てられ、俺は背筋に冷たいものを過ぎらせた。




カタパ「ステンバーイ」
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