迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
といっても繁忙期はまだまだ続くんだよな…
今回は切りどころが無くて拡大版になります。
「何やら勘違いなされておられるようですが、赤馬零王はその真意を知った融合次元の反旗により失脚したはずでは?」
アリアスに教わった執事としての顔で表向きの赤馬零王の末路を口にするも、ロジェ局長は余裕のある笑みを浮かべたまま嘯いた。
「建前ではそうですな。
ですが真相は計画の確実性を求めた赤馬零王が次元統合の為に精霊界にまで手を伸ばし、その結果精霊界でも名うてのデュエリスト…つまり貴殿の介入を許した結果、計画基盤から崩壊させられ破滅したというのが正しい真実だ」
この男どこでその情報を掴んだんだ?
いや。ハゲを殴り叩き潰した実態こそ秘匿してもらったが、俺とハゲの会話やその後の殴り合いに関してユーリ以外にも見られていた可能性は十分あるし、何ならアカデミアにシンクロ次元からのスパイが紛れていてこの男にまで情報が流された可能性も十分あり得るか。
「……仮にそうだったとして、貴方は私個人に何か要求があるのですか?」
あくまで仮定の体を維持したまま俺は問を舌に乗せる。
ハゲやオーディンみたいに自陣営への引き込みを要求するなら会話は終わりだ。
また、それを出汁に何ら要求を通すよう脅迫しようと言うなら『敵』と見做して
といっても、今のところは物騒な言い方だがやるのは【催眠術】と【洗脳-ブレインコントロール】の合せ技で記憶を弄るだけで命を奪うつもりはない。
ただし、ラビュリンスに害を為そうというなら生温いことは止めてお代に命を貰うつもりだが。
「私が求めるものは『シティ』の秩序の維持だ。
私は貴殿が
「…ふむ」
ああ。コイツはハゲと違い多少周りが見えているようだ。
『シティ』が抱える歪み。それが外からはどう見えるのか理解しているようだ。
そしてコイツにとってその歪んだ状態こそが理想に近しいものであり、義憤に立たれて破壊されるのを避けたいと。
「どうやら局長殿は私を高く買っておられるようですが、私はそこまで高尚な人間ではありませんよ?」
「謙遜ですな。であるなら何故に赤馬零王を誅してのけたのですか?」
「降り掛かる火の粉は払うものでしょう?
そして放置して大火事になると分かっていたらそうなる前に火を消すのは当然では?」
「ふふふ。確かに初期消火で済ませられるなら多少の労も払いますな」
ハゲをぶちのめしたのは大義や義心からではないぞと言外に告げるとロジェ局長は納得したという態度をみせる。
「ですがそれが貴殿のシンクロ次元での振る舞いとイコールになるとは限りませんからね。
私としては立場としても貴殿程に力が有る者が
「成程。 確かに私は『シティ』が健全な都市運営をしているようには見えていません。
ですのでお尋ね致しますが、治安維持局局長のポストに座る御身は何故に現状を良しと思っておられるのですか?」
「無論私も今の状態が最良とは思っていませんよ。
しかし局長といっても我々もまた『シティ』を実効支配する『行政評議会』の駒に過ぎません。
体制を変えようと望むなら彼等にその必要性を認めさせるしかないのですよ」
「……そうですか」
実際に『シティ』の歪みが行政評議会による都市運営の結果物であるのは事実なのだろう。
一間筋が通った会話だが、俺にはロジェ局長が会話を誘導し俺が『シティ』へ抱いていたヘイトを行政評議会へと擦り付けたように感じた。
アリアスの邪悪さを間近で何度も観ていた俺には、ロジェ局長が悪意を持って俺に行政評議会への反感を抱かせようとしているのが感じ取れていた。
「貴方は役割を果たしているに過ぎないと。
そしてその為にも私に赤馬零王を打倒した誰かの様な真似をして欲しくないと、そう仰りたいのですね?」
あくまでハゲを倒したのは俺ではないという姿勢を崩さぬまま話は終わりだと言外に告げると、ロジェ局長は薄い笑みを貼り付けたまま「ええ」と応えた。
「この世界の問題はこの世界が責任を背負うべき債務。
くれぐれも
「承知しました。
そう言って俺は局長室を退室し、そのまま待っている車の下へと向かう。
(あの男は危険だな)
会話の中でロジェ局長からは狡猾さの奥に慎重さと野心が垣間見えた。
しかし同時に慎重さの中に度を超えた臆病さも伺えた。
総じて判断するに此方から手を出さない限りは安全…と油断すると野心の暴走からとんでもない先手を打たれる可能性もある厄介な手合という所だろう。
「お疲れ様でした。
この後は予定通り『フレンドシップカップ』のスタンディングデュエルの部が開催される中央スタジアムに向かいますが、昼食は如何しますか?」
「いえ。お気持ちだけで十分です。
このまま会場に向かってください」
「わかりました」
無いとは思いたいが、念のためシンクロ次元にいる間は食事は控えておこうと確認を取る職員にそう告げて車を発進させる。
中央スタジアムはシンクロ次元では非主流となるスタンディングデュエルの為に急ピッチで建造が進められている会場の事だ。
5D'sと同様にシンクロ次元でも主流はライディングデュエルであるのだが、他の3次元ではライディングデュエルは名前すら存在していないため公平性を期す為にスタンディングデュエルのために大規模スタジアムを建造する事にしたそうだ。
余談だがスタンダード次元には『アクションデュエル』なる特殊レギュレーションが存在していて、フィールドには『アクション・マジック』なる相手ターンでも即時発動可能な専用速攻魔法が落ちているのを拾いながら戦うらしい。
聞くにアクションデュエルではフィールド魔法を使うとアクション・マジックが拾えなくなるデメリットが有るらしいので、【白銀の迷宮城】をキーカードにする【ラビュリンス】はもちろん【魔法族の里】や【王家の谷−ネクロ・バレー−】等のフィールド魔法を使い分けて使用する【霊使い】もアクションデュエルとの相性はあまり良くなかったりする。
今回のシンクロ次元で行われる『フレンドシップ・カップ』はライディングデュエルとスタンディングデュエルの2つの部に分かれており、俺が参加する『フレンドシップ・カップ』もアクションデュエルとの事なのでアクションデュエルに合うデッキを専用に組むか【ラビュリンス】でゴリ押しするか迷っていたりする。
「オジサーン!!」
観客席からスタジアムを一望しつつデッキの構築を悩んでいると、自分に向けたらしい聞き覚えのある声がフィールドの方から聞こえてきた。
「ユーリ?」
見ればフィールドの中にアピールするように両手を振るユーリと隣で呆れた様子のセレナの二人が見つけられた。
なるべく待たせぬよう急いで観客席からフィールドに降りて二人の元に向かう。
「久し振りだなユーリ。セレナ。
シンクロ次元に居るってことは二人共『フレンドシップカップ』に出場するのか?」
「そうだよ!
オジサンも『フレンドシップカップ』に出るんだよね?」
「ああ。
といっても俺はライディングデュエルの免許を持っていないからスタンディングデュエルだけだけどな」
「やったー!!」
そう言うとユーリは喜色満面で燥いだ。
「最近はセレナぐらいしか面白いデュエルにならなくて困ってたんだよね。
」
「よく言う。
お陰で私までデュエルジャンキー扱いされているんだぞ?」
「いいじゃん。セレナだって僕以外には骨がないって愚痴ってるんだからお互い様だよね?」
「それとこれとでは話が別だ」
俺と戦えると最近の不満を口にしながら期待に胸を膨らませるユーリに巻き添えで迷惑していると不満を口にするセレナ。
「二人共上手くやれているみたいで安心したよ」
一見チグハグに見えてなんだかんだでお互いにブレーキとしての役割を担い合っている様子が伺えて苦労が報われている実感に口元が緩む。
「でさ、オジサン。
折角だしデュエルしようよ。
久し振りにオジサンの本気とやりたいんだよね」
ディスクをちらつかせて不敵に笑うユーリだが、俺は本気で申し訳ないと断った。
「スマン。今持っているデッキはいつものと違いデュエルで使うにはちょっとばかり問題を抱えていてな」
「問題?」
「ああ。簡単に説明すると
だから対戦しても楽しいデュエルにならないから今回は勘弁してくれ」
「デュエルをしないデッキ?
そんな事を言われたら逆に気になるんだけど?」
「それってタイミングが難しい複雑な処理を求めるカードの対処を求める試験デュエルのデッキみたいなものか?」
「大枠なら間違いないかな?」
ワンキルの絶望に対する耐久訓練と考えればまあ、嘘にはならんな。
「ちぇ〜。新しい【捕食植物】のカードを使っても超えてくるだろうって期待したのに」
「ハハハ。そいつはまた歯ごたえたっぷりで楽しそうだ」
おそらくブフォリキュラとかトリアンティス辺りを手に入れたのだろう。
俺が渡したアナコンダも加味したらフルパワー【ラビュリンス】でないと真面目に厳しいだろうな。
「じゃあさ、代わりにどんなデッキか教えてよ!
オジサンのデッキだからリンクモンスターは入っているだろうけど融合モンスターは入っているのかな?」
「融合モンスターは今回は入っていないな。
だが、組み合わせをちょいと弄ればシンクロでも融合でも儀式でもなんなら【千眼の邪教神】でもキーカードに仕立て上げられるのがこのデッキの怖さだな」
「流石にそれは盛り過ぎだよね?」
「さて? どっちだろうな?」
「「アハハハ!」」
なんかこう、学生時代の馬鹿なノリで二人して呵々大笑しているとセレナが呆れた様子で溜息を吐いた。
「いい加減にしないかユーリ!
今日は他の代表者との顔合わせも兼ねているんだからあまり恥ずかしい真似をしないでくれ!」
「なんだよもう、いいところなのにさぁ」
不満そうに口をへの字に曲げるユーリ。
セレナの言葉に俺は辺りを見回し、そしてその顔に驚きを隠せないでいた。
「こいつはまた…」
そこに居たのは【榊遊矢】と彼の幼馴染の【柊柚子】に【赤馬零児】。
そして黒いマントを肩掛けにした紫色の髪質を持つ少年と少女と二人よりやや年上らしい目付きの鋭い少年の三人組と、黄色のシャギーが入った髪に白いライダースーツの少年と明るい緑色の髪の少女の二人組のグループが二組。
そのどちらもユーリ、遊矢によく似た少年とセレナ、柚子によく似た少女の組み合わせとなっていた。
其々の容姿からおそらくは少年の方は両者ともズァークの分割体。
そして相方の少女も赤馬零王が喪った娘のレイの分割体なのだろう。
(偶然…なのか?)
全員がズァークの分割体であるのだからデュエリストとしての実力の高さ故に選出されたという可能性は十分あり得る。
しかしレイの分割体らしき少女達までもが全員一緒に揃うなんてあまりにも出来過ぎだ。
「そういえばセレナも大会には出場するのかい?」
「? ああ。ライディングデュエルの方に参加することになっているぞ」
「そうか。知り合いもいるからちょっと挨拶してくるよ」
そうユーリ達に断り俺は赤馬零児のもとへ向かう。
「久し振りですね零児君。
その節には大変な仕事を押し付けてしまい申し訳ありませんでした」
藁にも縋る思いで頼ったことを本気で悔いた謝罪に零児君はいやと手を翳す。
「父の愚行が本格始動する前に停めて頂いたのだ。
事後処理程度は貴殿の気苦労に比べれば軽いものだ」
「そうですか。そう言ってもらえればホッとします」
礼儀正しく社会人としての対応を見せる零児君。
まだ二十歳にもならない子供にこんな態度を当たり前にさせる原因となったハゲをもう一発殴ってこようかな。
「それはそうと『フレンドシップカップ』には零児君も参加するのですか?」
「ああ、いえ。
出場するのは此方の2人です」
そう榊遊矢と柊柚子を紹介する零児君。
「そうですか。
お二人共初めまして。
私の事は『迷宮の案内人』とでも呼んでください。
今回は精霊界の代表デュエリストを担わせていただく事になりましたので、対戦することになったら是非お互いに納得のいくデュエルをしましょう」
「榊遊矢です!」
「柊柚子です!」
丁寧に挨拶したら二人共気遅れたのかガチガチに固まったまま自己紹介してくれた。
「榊遊矢…ああ。君がスタンダード次元で初めてペンデュラムモンスターを使用したという榊遊矢君ですね」
「俺を知っているんですか?」
「零児君から話は聞いていますよ。
将来有望なデュエリストだと」
赤馬零児から聞いていた情報を基に光栄だと手を差し出す。
「メインデッキではありませんけれどペンデュラムカードは私も使用する事がありますが、君程完璧には使いこなせていないので対戦の際には薫陶を頂けるよう善戦させて頂きますね」
「は、はい…」
慇懃な態度に気が引けてしまったのか腰が引けた様子で握手に応じてくれる遊矢。
「あの!」
と、手を離したタイミングで紫色の髪の少女が俺に声を掛ける。
「人違いだったらすみません。
もしや貴方は【マジカル・マジシャンズ・カーニバル】の支配人さんじゃないですか?」
と、俺にとって半ば黒歴史と化した役柄を口にした。
【マジカル・マジシャンズ・カーニバル】とは
「え? ええ。確かにエクシーズ次元の慰問団の取りまとめ役として代表を預からせていただいていますが、と言うことは貴女はエクシーズ次元の方なのですね?」
「はい。【黒咲瑠璃】と言います。
貴方達には沢山の元気を分けて頂いて本当に感謝しています」
ありがとうございますと瑠璃は頭を下げる。
「いえいえ。
私達に出来るのは励ます事だけですので、そんなに畏まられても困ります」
「ああ、ごめんなさい!
沢山の人がカードにされて、カードが憎しみ合う道具に使われて、デュエルで笑顔をなんて願いはもう叶わないのかなって暗い気持ちになっていた私達を励ましてくれた皆さんにはとても感謝しているんです」
そう想いを告げる瑠璃の姿に俺は徹夜続きのハイテンションに任せるままにノリと勢いで始めた事がきちんと結果を残してくれた事にこちらこそ感謝をと想いを告げた。
「カードにされた人達は必ず帰ってきます。
ですから今は辛いでしょうが希望を捨てずに頑張って下さい」
「はい!」
改めて【霊使い】達を連れてくるべきだったなと迂闊な己を悔いつつ瑠璃と共に居た2人にも挨拶をする。
「初めまして。
お二人には支配人の方が通じるでしょうか?
今回はデュエリストとしての参加なので『迷宮の案内人』と呼んでいただけたらと思います」
「瑠璃の兄で【黒咲隼】だ。
貴様には融合次元の件では感謝している」
だが!と俺を指差し力強い視線を叩きつけてきた。
「瑠璃に色目を使うようなら貴様を地獄に突き落としてやるからな!!」
何を言っているんだコイツは?
「何を言っているのよ兄さん!?」
「早くそいつから離れるんだ瑠璃!!
そいつはいい年にもなって【霊使い】達のような年若い少女を大量に侍らせている男だ!!
お前のような可愛らしくて若い娘にどんな欲望を滾らせているかわかったものじゃないんだぞ!?」
「いくらなんでも失礼過ぎるよ!!??」
いやまあ、言わんとすることは分かるよ?
四十路も見えてるオッサンが【霊使い】とか使っているからロリコン疑惑も百歩譲れなくもないし、瑠璃が可愛いから不安になるのも分かるのだが、流石に公衆の面前でその台詞はないのではないか?
怒りよりも呆れが勝る中、俺は彼に妙な既視感を感じ、その正体にすぐ気づいた。
「あ、ニンギルスと同類だ」
【聖杯に誘われし者】の本名であり別名に『妹を救う以外何でも出来る男』なる不名誉極まりない渾名を持つ彼とは【星遺物】世界から迷い込んできた際に保護したことから面識があり、その際にも妹に下心を持っていないかと警戒されまくったのだ。
最終的には理解を得てニンギルスは俺を友人と呼んでくれたのであれはあれでいい思い出と思っている。
彼等の旅は今頃どうなっているのだろうか?
歴史は変わらないのか、或いは俺が渡した【宵星の機神ディンギルス】と【オルフェゴール・ガラテア】によって違う未来に辿り着けたのか。
「何を笑っている」
彼等とのやり取りを懐かしく思い緩んだ口元を隼に指摘され、俺は失礼と謝罪する。
「知り合いに貴方と同じように妹を大事にしていた者が居まして、彼とのやり取りを思い出してしまったのですよ」
「ふん!」
「ああ、それと。私は既に心を決めた御方がおりますので貴方の懸念は見当違いですよ」
「貴様! 妹が可愛くないと言うのか!?」
「兄さん!!??」
何を言っても気に入らないと噛みついてくる姿にますますギルスを思い出して俺は微笑ましく笑ってしまう。
「と、失礼しました。
貴方の名前も伺っても宜しいですか?」
「……ユートだ。
隼が無礼を重ねたことを謝らせてくれ」
言葉少なげにそう謝罪するユートに俺は頷く。
「いいですよ。
兄弟仲が良いと前向きに受け取っておきます」
「助かる」
クールな印象だが、表情から何やら面白くないという感じを受ける。
何か気に入らない点があるのか?
「もう。兄さんだけじゃなくてユートまでなんでそんな態度なのよ」
「いや、俺は…」
瑠璃の叱責にあからさまに慌てふためくユートにその理由を察し、俺は苦笑を零しながらフォローしてやることにする。
「瑠璃さん。あまりユート君を責めないであげてください。
可愛い恋人が他の男と仲良くしていては面白くないのも仕方ないかと」
「え!? いや、俺は…瑠璃とはまだ付き合っては…」
口にするのは恥ずかしいらしく言葉が尻すぼみに消えていくが、俯いてなおハッキリと耳まで真っ赤になった様子が分かるところからユートが瑠璃に対しどんな感情を抱いているか容易に見て取れた。
それに気付いた瑠璃も顔を赤くし、そんな二人に隼が爆発する。
「ユートぉ!!
瑠璃と付き合うのは許したが成人するまで手を繋ぐ以上のことは許さんからな!!」
「大声で恥ずかしいこと言わないで!!」
「じゃ、挨拶があるのでこのへんで失礼します」
矛先をユートに変えた隼の暴走からの馬鹿騒ぎが始まる中、シレッと輪から外れてその場を逃げ出しておく。
初めて使ったがアリアス直伝の回避術は凄いな。
とはいえ相手を選ばねば信用問題に関わるので多用は出来ないが。
「さてと。
挨拶が遅れてすみませんでした。
お二人のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
そう尋ねれば少年がニッカリ笑って手を差し出した。
「俺はユーゴ!こっちはリン!
よろしくなオッサン!」
差し出された手を取ると勢いよく上下に振り出すユーゴ。
「こらユーゴ!!
失礼な真似をしないの!!」
「え? 俺何か間違えてたか?」
「いきなりオッサン呼びは失礼よ!!」
「え゛!? わりぃオッサン!
そんなつもりは無かったんだ!!」
リンに指摘され慌てて頭を下げる様子を見るに、どうやら快活が過ぎて馬鹿と受け取られるタイプのようだ。
あまり学が無いのは間違いないようだが、しかし他の三人に比べてこう、教養が低すぎではないだろうか?
「いえ。別に怒ってはいませんよ。
それはそうとなのですが、無礼に聞こえたら申し訳ないのですが貴方達は学校に通われた経験はありますか?」
予想通りなら笑顔なままで聞くのはマズイと表情を引き締め訊ねるとユーゴはいやと否定した。
「俺達は『コモンズ』の孤児院で育ったから学校なんか一度も行ったことなんかねえよ」
「そうでしたか。申し訳ありません」
「いいってことだぜ!
上手く言えねえけどオッサンは『トップス』の連中みたいに馬鹿にするためじゃなくて俺達をちゃんと一人の人間として見たから俺達を知ろうとしたんだろ?
だったら怒るわけねえよ」
そう言って謝罪は必要ないと笑うユーゴに、俺はシンクロ次元のクソッタレっぷりにニビルとアーゼウスで根刮ぎ薙ぎ払いたいと呼びたくて堪らなくなる。
「……君は強いんですね」
「勿論だ!
俺はキングみたいにデュエルでテッペンまで登るまで絶対諦めないって決めているからな!!」
強気な笑みで拳を握るユーゴにヤレヤレと肩を竦めるリン。
そんな彼等に別れを告げ、一旦離れて考えてみる。
もしかしてなんだが、ズァークとレイは恋人関係にあったのかもしれない。
単純にズァークが復活の兆しを見せた際に対処しやすいよう近くに転生しただけなのかもしれないが、しかし四人が四人とも良好以上の関係の兆しを見せているのでありえない話でもない。
もしそうならハゲからカードを奪ってズァークを封じたのも、ズァークが唯一人に封印されたのも相手がレイだったからと辻褄は合う。
尤も、だからといってどうしようということもない。
ズァークとレイの感情に起因していようが彼らの恋路は彼らだけの物なのだし、それを態々前世に引っ張られているだけだと否定する必要もない。
思うのはただ、一つだけだ。
「俺も一度ぐらい彼女欲しいなぁ」
学業とバイトと部活ばかりで灰色だった青春時代に背中が煤けているような気がしてかなすぃ…。
「少しいいだろうか」
と、そこに真剣な顔の赤馬零児が声を潜めて呼び掛けてきた。
「どうしましたか?」
「下手に聞かれると困るので場所を変えたい」
そこまでの案件と考えて、俺は一つの可能性に思い至る。
「まさか赤馬零王が脱走したのか?」
「いや。脱走したのは父ではない。
詳しくはあちらで」
そう促す零児に頷きながら、俺はデッキが小さく鼓動を打ったのを確かに聞いた。
カタパ「ステンバーイ」
アーリべ「ガタガタガタガタ」