迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。 作:サイキライカ
零児と共に移動した先には秘書の月影氏が待機していた。
「まずは謝罪を。
我々の不手際により貴殿の苦労を水泡に帰すかもしれない事態に陥らせてしまいかねない状況になった」
そう頭を下げる零児に俺は了解の意を伝える。
「謝意を受け取ります。
それで、脱走したというのは誰なのですか?」
ハゲでは無いとのことだが、しかし赤馬コーポレーションに拘禁した科学者達はその殆どが危険人物だ。
「逃走したのはこちらの男になります」
月影が差し出した端末にはマグショットのような構図で撮影された左頬を大きく腫れ上がらせた痩せこけた男が映し出されていた。
「名前は『ドクトル』。
自称『アカデミア一の天才』と豪語していました」
「見るからにマッド・サイエンティストといった感じですね」
「父も頭脳以外評価するべきところは無い男だと評価していた程度にろくでもない男だった」
そう言うとその所業を思い出してか零児は眉間にシワを寄せ忌々しそうに吐き捨てる。
「因みに顔の腫れはメイドに暴力を振るわれたと訴えていましたが何か御存知ですか?」
ハスキーさんに殴られたのかコイツ。
好戦的だが瀟洒なハウスキーパーであるよう自重する彼女が手を上げたと言うなら余程の外道なのだろう。
「それ私の護衛ですね。
本性はドラゴンなので殴られて生きてるなら手加減はしていたのかと」
「あ、ハイ」
下手に詮索したら命に関わると思ったのかもうこの話は終わりと月影氏は説明に戻る。
「逃走の経緯ですがカードにされた人間を元に戻す研究に隠れて洗脳能力を持ったモンスターを開発し、警備員に寄生させて脱走したようなのです」
「そのため事態の把握が遅れ、他の被害者がいないかの調査に手間取り報告が出来ないまま今に至ってしまった」
「そうでしたか」
どうやらこの爺は【寄生虫パラサイド】に似たモンスターを操るようだ。
「モンスターについての仔細はわかりますか?」
「確保したカードが此方になります」
そう言って差し出されたカードを改める。
【パラサイト・フュージョナー】
効果モンスター
星1/闇属性/昆虫族/攻 0/守 0
このカードは、このカードの(1)の効果を適用する場合のみ融合素材にできる。
(1):このカードは、融合モンスターカードにカード名が記された融合素材モンスター1体の代わりにできる。
その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。
(2):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。
融合モンスターカードによって決められた、
このカードを含む融合素材モンスターを自分フィールドから墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
ある程度の専用構築を求めるものの割りかし優秀なカードに見えるが、問題はコイツが人間に寄生して対象を支配下に置くという能力を持っていることか。
「ダルク、来てくれ」
エクストラに入れてある【暗影の霊使い−ダルク−】を【召喚】し俺は尋ねる。
「いきなりですまない。
事情について聞いていたか?」
「ああ。カードを見せてもらえるか?」
「分かった」
カードを渡してやるとダルクは矯めつ眇めつ眺めてから俺に告げた。
「寄生能力の強化と引き換えに耐性を落としているようだから寄生されてしまっても俺の霊術でなんとか対処できそうだ。
ただ、そのためには俺を【召喚】し続けて貰う必要があるからマスターが
「そうか」
カードを月影氏に返却するダルクに何故か二人は驚いた様子を見せる。
「失礼だが、貴殿のリアルソリッドビジョンは誰が作成したものなのだ?」
零児が唐突にそんな質問を投げかけてきた。
「……ああ、そういう事か」
そう言えばその辺りの説明をしていなかったと思い出して俺は零児に告げる。
「今ここに立つダルクはリアルソリッドビジョンの質量ある映像ではなく、カードに宿る自我に擬似的な肉体を与えて受肉させた存在ですよ」
「カードの自我…それに実体を与えるなんて…」
「それについては後にしましょう。
兎に角今は逃亡したドクトルについての話に戻りましょう。
その後の足跡については判明しているのですか?」
「失礼しました。
どうもシンクロ次元に逃亡したようなのですが、中央評議会もセキュリティも把握していないと答えを返されています」
偶然とは言えないよな。
ズァークとレイの分割体の集結。
シンクロ次元へと逃走し行方を晦ませた狂科学者。
そして野心を秘めた怪しい治安維持局局長。
それらに加えて本来の流れにイレギュラーを引き起こしたであろう俺という存在。
「嫌な予感がしますね」
一つ一つは偶然でも、偶然が重なればそれは必然になるという。
運命の名を騙る誰かの
「クソッ!!」
遅きに失したと後悔しながら4人でフィールドに戻ると、フィールドにはバイクで乗り込んだセキュリティのデュエルチェイサーに包囲されるユーリ達の姿があった。
「何をしているのですか貴方方は!?」
不安と緊張が漂う空気の中にそう声を張り上げるとセキュリティの一人が俺を訝しみながら包囲の理由を口にした。
「まだ隠れていたのか。
貴様達は不法侵入の現行犯で逮捕する!!」
「我々は『フレンドシップカップ』の出場者です。
全員が中央評議会から正式な許可を得てこの場に立っている。
そちらこそ誰の命令で我々を捕縛しようとしているのか答えなさい!」
ロジェ局長が本当にやらかした可能性を考慮しつつ毅然とした態度でユーリ達の前に立ち塞がる俺に男はサングラスの奥に嘲りの感情を浮かべながら嘯いた。
「ハッタリだな」
「なんですって?」
「俺達はそんな連絡は受けていない。
大方身なりを良くしておけば騙せるだろうとたかを括ったんだろうが、甘いんだよ『コモンズ』のクズ共が!!」
馬鹿にしたように俺を嘲笑し他の隊員までもがそれに合わせて俺に嘲りの感情を向ける。
「うわぁ。コイツらどうしようもないね?」
「感心している場合じゃないだろうユーリ!」
そんな奴らにドン引きするユーリに緊張感を持てと警句するセレナ。
「瑠璃、俺達の傍を離れるなよ!」
「瑠璃には指一本触れさせない」
「ユート、兄さん…」
瑠璃を庇うように左右に展開する隼とユート。
「クソッ!デュエルはこんな事のためにあるんじゃないのに!?」
「遊矢私達どうなっちゃうの?」
不安そうな柚子のために意にそぐわない覚悟を抱く遊矢。
「チクショウ!
Dホイールが無いとデュエルが!?」
「ユーゴ、私のディスクを使って!」
「助かる!」
リンからディスクを受け取り急いで腕に装着するユーゴ。
今目の前に広がる光景を画面の向こう側に見ていたなら、きっと俺はどんなデュエルになるのかワクワクしていただろう。
しかしこれはフィクションの世界ではない。
ああ。気に入らない。
「大人しくお縄につくなら痛い目に遭わせないでやったものを。
だが、抵抗すると言うならデュエルで拘束する!!」
デュエルディスクを展開する姿に他の隊員達もバイクに取り付けられたデュエルディスクを起動する。
「「「「「「「「「デュエ…」」」」」」」」」
「
戦いの火蓋が切られるその刹那、執事が【召喚】したモンスターが粉塵を巻き上げ大地に振動を与えながら着地した。
「何が起きた!?」
唐突な割り込みに最初に言葉を発した男が警戒の声を漏らす中、粉塵の中よりその正体が露わになる。
それは象のような長い鼻と牙を生やした紺色の肌の四足獣に見えるが、酩酊した様子で顔を赤らめながら後ろ足2本で立っており、その手には蓋の開いた酒瓶を大事そうに抱える奇妙な生物だった。
「なんだコイツは!!??」
「あれって、モンスターよね?
一体誰が…?」
「うわぁ…オジサンを本気で怒らせちゃったかぁ…。
セレナ、危ないから一旦離れるよ」
「おい待てデュエルは…」
「そんなの本気で怒ったオジサンが潰しに動いたんだから始まらないよ」
見たことは無いが現実にありえない姿形に召喚されたモンスターだと当たりをつける困惑の中、以前彼の地雷を踏み抜いてあと一歩でデッキを味噌汁にぶち込まれそうになった経験のあるユーリはこの先に待っている大惨事の予感にセレナを引っ張り退避する。
デュエルを中断させた闖入者に騒ぐ周りの喧騒に構わずモンスターは抱えた瓶を逆さに傾け中の酒精をグビグビと嚥下する。
『グゥウェフゥゥゥゥゥゥゥ』
そして凄まじく酒臭いゲップを吐いてそのまま仰向けに倒れ込むと凄まじく喧しい鼾を立て始める。
「うっぷ…気持ち悪い…」
吐き出されたゲップに遊矢達は吐き気を催し蹲り、セキュリティのデュエルチェイサー達は吐き出された吐息に含まれた酒精に激しい酩酊感を覚えて倒れ伏す。
「何なんだ一体…!?」
「この程度ですか」
カツンと態と音を起てながらむせ返るほど濃い酒精の中を平然と歩く執事の姿にチェイサー227は恐怖を堪えながら問い掛ける。
「貴様がやっ「黙れ」がっ!?」
問い掛けに執事は靴の爪先を叩き込むことで黙らせる。
「貴様に問う権利は無い。
答えろ。誰に命令された?」
そう尋ねる執事の目にチェイサー227は絶句した。
仕立ての良い服を着ているだけのオッサンであったはずの男の目は瞳孔の形が変化しており、まるで山羊のような横に細長い瞳孔に変化していた。
「ば、ばけもの…」
「俺が化物なら貴様は何だ?
権力に尻尾を振り立場の弱い者を嘲笑い踏みつけるお前達は自分が人間だと思っているのか?」
無造作に振り抜かれた脚に蹴り飛ばされ仰向けになったチェイサー227の腕を踏みつける。
「がぁぁぁぁああっ!?」
「犬みたいな鳴き声を上げるじゃないか。
どうやらお前は人間じゃなくて人の皮を被った犬畜生だったみたいだな?」
激痛に悲鳴を上げるチェイサー227の腕をそのまま踏み砕こうと力を込めた所でバグースカの吐息から逃れ遠くに避難していたユーリが提言する。
「オジサーン!流石にやり過ぎじゃないかなー?
ソイツはどうでもいいけど、やっちゃったら
ユーリのその言葉に執事はピタリと動きを止め、そして数回の瞬きを繰り返して瞳が元の形に戻るとゆっくりと足を退けてユーリに応えた。
「それは嫌だから今回はこの辺にしておきましょうか。
ダルク、遊矢くん達を介抱してください」
「…ああ」
「後で良い酒を用意しますから起きてくださいバグースカ」
『グォォッ?』
酒の単語に反応したのかバグースカはぱっちり目を開くと赤ら顔を晒しながらキョロキョロと辺りを見回し始める。
「では改めてお尋ねしますよ?
私達を捕らえるよう指示を出したのは誰ですか?」
「ぐっ!? ぐぐ…。
……長官からお前達を捕縛しろと直命を下されたんだよ」
背後のバグースカの不快そうな唸りに先程以上の暴虐を恐れたチェイサー227は抵抗を諦め指令者を告げる。
「ありがとうございます。
それと、この男を見たことはありますか?」
ドクトルの映像を見せるとチェイサー227は『セキュリティ』の地下施設でこの男を見たと答える。
「そうですか。ご協力感謝します」
そう言うと執事はバグースカを送還し零児達のもとに向かう。
「下手人は判明しました。
私はこれから
クソくだらない大人の欲望に子供を巻き込むのは忍びないと口にしていた執事に隼が割って入る。
「お前は一人で全部片付けるつもりか?
黙って見ていろというのか!?」
「奴等の目的は君達を手駒にする事です。
君達はデュエルを真剣に楽しむためにシンクロ次元に来たのです。
大人の理不尽な都合に付き合う必要はありません」
「それは違うぞ案内人」
やられたらやり返すと息を巻く隼に対し、子供が戦う事を良しとしない執事の言葉に零児は否を突きつける。
「彼等には力が有る。
自らを害しようとする者に立ち向かえる
「力の有無ではありません。
零児君。人は否応なく何れ大人になる。
理不尽への義心により立ちたいという気持ちは否定しませんが、庇護を許される内は甘んじておきなさいと私は言っているんです」
「しかし」
「私は連れて行くべきかと」
執事の言わんとすることも否定出来ない零児は尚もと口を開いた所で月影が口を挟んだ。
「月影殿?」
「善意からだとしても無理に押さえつけても反抗されるだけですよ。
私たちだけで動こうと彼等は自ら行動を起こすでしょう。
だったら手の届くところに居てもらったほうが安全ではないですか?」
「……確かに」
隼を始め何人かはそういった逸りに任せて行動しかねない危うさがある。
「仕方ありませんね」
そうしてセキュリティに乗り込む面子が決まったのだが、結局全員揃って『セキュリティ』に向かう事になった。
執事の目の変化はポケモンのフォルムチェンジみたいなもので、デュエルエナジーに馴染みきっていよいよ種族変更が可能になった兆しです。
因みに現在は『種族:無し(人間)』です。
現在の変化出来る候補は『悪魔族』『魔法使い族』『サイキック族』『戦士族』で、それ以外になるには身体を改造する必要があります。
カタパ「ターゲット確認」
アーリべ「 」