迷宮姫に仕えているんだが、今日も姫様はポンである。   作:サイキライカ

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 今回はデュエル開始までとなります。

 それと今回は少し書き方を変えてみました


偶には人の心を投げ捨てたい(間)

 

 予想された妨害も無く、不気味なほど人気の無いセキュリティ本庁前に降り立った一同は故にこそ困惑していた。

 

「不利を悟り逃げたか、或いは」

「罠ですね」

 

 零児の言葉に断言する。

 

「ロジェ長官は言葉の端々から非常にプライドが高い事を伺わせる御仁でした。

 その様な人間がいまだ不利なだけで逃げ出すとは思えません。

 くわえて手元にはドクトルも居るとのこと。

 下手に逃げるより待ち構えるほうが合理的です。

 ですが、」

 

 あまりに人気がないことは流石におかしい。

 

「ダルク。人がいる場所は分かりますか?」

 

 既に杖を着いて霊術を発動していたダルクは求める答えを提供してくれる。

 

「建物の最上部に一人。それと地下に20人ほどが集まっている場所があるな。

 そこから少し離れた所に精霊界並の魔力が集約した場所にもう一人居る」

 

 霊術を解除し一息吐くダルクに感謝を告げてから作戦を決める。

 

「最上部はロジェ長官、地下の魔力溜まりの側に居る者はドクトルで間違いないでしょう。

 零児君。私が地下に向かいドクトルを確保していますので君達には上に向かいロジェ長官の対処をお願い出来ますか?」

「貴方一人で行かれるつもりか?」

「地下に集まっている者達の状態がわからない為デュエルで済まない場合もありえますから、いざとなれば【召喚】でモンスターを喚び出せる私がダルクと向かうのが確実かと。

 それに、ドクトルを拘束する手段にも持ち合わせがありますから役割分担としては適切でしょう」

「いや。マスターは上に行ってくれ。

 下には俺が行く」

 

 唐突にダルクがそう提言してきた。

 

「ダルク?」

「下にはパラサイト・フュージョナーが相当数待ち構えている。

 あの数をマスターを守りながら取り憑かさせずに乗り越えるのは難しい。

 マスター、俺に任せてくれないか?」

「しかし…」

 

 ダルクを信用していないわけではない。

 しかし戦えば絶対に勝つとはいえそこまで言うほどの数を任せるのは躊躇われた。

 

「ゆっくり話している暇はなさそうだぜ!」

 

 突如Dホイールを反転させアイドリングを開始するユーゴ。

 

 視線の先にはデュエルチェイサーのDホイールが接近しているのが遠くに見えた。

 

「俺が奴らを引き付けるからその隙に決着付けてくれ!」

「一人で行く気なのユーゴ!?」

「Dホイールは一台しか無いからな!

 大丈夫だリン。こんなのいつもの事だ!」

 

 そう言うと同時にユーゴがアクセルを吹かし一気に加速して迫りくるデュエルチェイサーへと向かってしまった。

 

「くそっ!!??

 ダルク、バグースカとレイダーズ・ナイトを付ける!

 速攻で片付けて来てくれ!」

「任されたマイマスター!」

 

 言うと同時にレイダーズ・ナイトと共に再びバグースカが【召喚】され、喚び出されたバグースカは不機嫌そうにしながらもダルクを乗せて駆け出したレイダーズ・ナイトを追って本庁へと入っていった。

 

「じゃあ僕はバスの護衛に残ろうかな。

 ユーゴを追いかけずに此方に向かって来る奴らも居るみたいだしね」

「なら俺も残るぜ」

「遊矢!私も一緒に戦うわ!」

 

 デュエルディスクを展開するユーリに一人で戦わせないと遊矢と柚子もデュエルディスクを展開する。

 

「皆さん。

 無理だと判断したらすぐに逃げてください」

 

 そう言い残しダルク達が入っていった入口を零児と月影の三人でくぐる。

 

「兄さんとユートは案内人さんをお願い」

「瑠璃!?」

「彼にはたくさん失礼を重ねたんだから少しは役に立ってきて!」

「行こう隼。こうなった瑠璃を止められないのはおまえが一番分かっているだろう」

「む、ぐっ…」

 

 妹の叱咤を受け苦しそうにしながらも時間が無いことを解っている隼はディスクを構える瑠璃とリンを背にユートと共に本庁へと入っていく。

 ダルク達は既に地下に降りたらしく不気味なほど静かな建物の中を急ぐためにエレベーターに向かおうとするユートを月影が留める。

 

「待ってください。

 エレベーターは逃げ場が無くなるので危険です。

 階段で上がりましょう」

「階段って、最上階までは二十階以上有るんだがそれを全部階段で登る気か?」

「このモンスターがエレベーター内に大量に湧いて出てくる危険とどちらがいいですか?」

 

 そう言って月影が【パラサイト・フュージョナー】のカードを見せると真っ先にセレナが階段を駆け上がり始めた。

 

「ウダウダ言っている間に走れ!!」

 

 男気あふれる台詞だが、言っているのは男衆を差し置いてセレナの口から出ているのが実にシュールである。

 

「明日…いや、明後日は筋肉痛になるのもやむを得ませんね」

 

 ハスキー仕込みの登山走破の技術を応用して先行するセレナを急いで追いかける。

 

「社長。あまり無理をしないように」

 

 そう言って月影も恐るべき速さで階段を駆け上がり始める。

 手摺を使い筋肉への負担とスタミナの消耗を最小限に駆け上がるのに対し月影は跳躍を駆使してあっさり追いついてきた。

 

「月影殿。貴方は本当に忍者だったのですか?」

「勿論ですよ!

 もしかして格好だけと思ってたのですか!?」

「いや、隠密を必要とする任務でもない昼間に忍服を着ているから趣味かと」

「違いますからね!?」

 

 短い冗句を交わし十分程を掛けて長官室がある階まで駆け上がったが、加齢が容赦なく現実を突きつける。

 

「流石に…キツい…」

 

 ゼェゼェと息を整えつつ零児達を待つ間息を整えておくが、膝はガクガク逝っているし筋肉痛どころか今すぐこむら返りを起こしそうなほどびくびくと筋肉が痙攣しまくっていた。

 

「代用ぐらいにはなりますのでこちらでアイシングしてください」

「ありがとうございます」

 

 どこから取り出したのか不明だが差し出された制汗剤を借受けて掻いた汗を冷やしてから筋肉を落ち着かせていると間もなく零児達も階段を登り終えて来た。

 

「やっと…終わりか…?」

「この借りは、必ず、返してくれる!」

「み、水…」

 

 疲労困憊といった様子でへたり込む三人。

 

「すみませんが時間が惜しいので先に行きます。

 月影殿、三人をお願いします」

「おい待て…」

 

 制止を聞かず長官室の扉を開く。

 

「どうやら私の要求は聞き入れていただけなかったようですね?」

 

 チェスの駒をもて遊びながらそう嘯くロジェ長官に言う。

 

「言ったはずですよ?

 降り掛かる火の粉は払い除けると。

 それと、今私は少々気が立っていましたね。

 礼儀作法に瑕疵が浮いているかも知れませんがお見逃し願いますよロジェ長官」

 

 ゆっくりと近付き、ある程度進んだ盤面を広げるチェスボードから、徐ろに白いナイトを拾い適当に指す。

 

「それは怖い。

 して。私にどうして欲しいのかな?」

 

 ビショップを無防備な位置に移動させるロジェ。

 しかしよく見れば下手に取ろうと動けばポーンが狩りに来れる位置であった。

 

「先ずは我々への捕縛命令の撤回を。

 叶わないと申すのであれば精霊界は調停機関を通して正式に抗議の用意をさせていただきます」

 

 定石はナイトを下げるかルークを押すところだが、敢えてキングを前に立たせる。

 

「…ふむ。それは困りますね。

 部下達の勘違いでシンクロ次元の政治的地位を揺るがしたとなれば私の地位も危うい」

 

 攻めるに機と言う状況だが、ロジェはクィーンを下げていった。

 返しにポーンを前に移動させて言う。

 

「それと、逃亡中のドクトルの引き渡しもお願いします。

 彼は重大犯罪を犯したため司法の場に引き立てて判を降します」

「それは無理ですね。

 彼はシンクロ次元への亡命を要求し、最高評議会はそれを承認しました。

 彼はもうシンクロ次元の住人です。

 罪状を裁くのならシンクロ次元の法に従ったものを此方で降します」

 

 ナイトで前に出たポーンを蹴落としながらロジェ局長は嘯く。

 

「部下の勘違いについて謝罪しましょう。

 私は彼等に『不法侵入者を捕らえろ』と命じましたが、彼らはそれを現場の全員と判断したのは私の説明不足に因るもの。

 これは隠し立て様もない事実ですから」

「都合の良いことをベラベラと…」

 

 セレナが不快感を向けるがロジェ長官は薄笑い嘯く。

 

「私を非難しても貴方個人が得られる物はありませんよ?

 それでも物申したいと言うのなら融合次元代表として正式に私に抗議を出しなさい」

「このっ…!?」

「セレナさんストップ」

 

 煽られ激昂仕掛けたセレナを制止しつつ俺は予測の一つを言葉にする。

 

「成程。貴方が欲しているのは他次元からの正式な抗議ですか」

 

 そう口にするとロジェの笑みが消える。

 

「どういう事だ?」

 

 動ける程度に回復し長官室へと乗り込んできた零児がそう尋ねる。

 

「長官殿の目論見は中央評議会に政治的瑕疵を与え、自身がその席に座ることなのですよ」

「…っ!? その為のパラサイト・フュージョナーか!?」

「おそらくは中央評議会のメンバーの半数以上がパラサイト・フュージョナーに寄生されているとみて間違い無いでしょう。

 そして彼が欲しいのは中央評議会の退陣と交代に不足のない政治的瑕疵。

 私達を襲撃したのは他次元からの正式な抗議という問題行為を求めての事。

 違いますかな?」

 

 そう問い掛けるとロジェ長官は再び薄い笑みを浮かべる。

 

「中々興味深い話ですな。

 仮に私が本当にその様な策略を練っていたとして、それを証明する手段がお有りなのですかな?」

 

 余裕そうに嘯くロジェ長官だが、その頰に一筋の汗を流すのを見逃さなかった。

 

「私の部下にやらせてもらえれば確実ですよ。

 その者はカードの精霊で闇属性モンスターのエキスパート。

 パラサイト・フュージョナーの除去も可能ですので是が非でもやらせて頂きましょう」

「………」

 

 対処方法も手元にあると言ってやればロジェ長官は忌々しげに顔を歪めた。

 

「そんな表情をなされると云う事は図星で間違いないようですね」

「貴様のように頭が切れる男が紛れていたことが私の最大のミスだったと認めよう『迷宮の案内人』。

 いや、『迷宮の執事見習い』と呼ぶべきかな?」

「その呼び名を何処で!?」

 

 シンクロ次元はおろか自由都市でさえ俺は執事と呼ばれていてもそれが正確には()()()()()()()()だと名乗った事は片手で数えられる程度。

 別に知られて困るような事ではないが、その名を知るという事は件の人物は【ラビュリンス】についても知っていると言うことになる。

 

「私には貴様をよく知る友人が居るのだよ。

 それは一旦置かせてもらうとして、私と手を組まないか?」

「メリットが有りませんね。

 貴方と手を組み私に何の利があると?」

「金、地位、カード。見返りは十分用意しよう。

 それに私の友人が誰なのか知りたくはないかね?」

「浅はかですね。教えてもらわなくても言わせる方法は幾らでも有るんですよ?」

 

 人の心を捨てて手段を問わなければ選択肢は洗脳寄生なんでもござれ。

 それこそ脳髄から直接情報を引きずり出すことも殺して魂から奪い取ることだって思いのままだ。

 

「それに貴方に用意出来る程度の報酬では到底足りませんな」

「言ってくれるじゃないか。

 良かろう。貴様が欲する物を言ってみるがいい」

 

 挑発を受け怒りを滲ませるロジェ局長に素で欲しているカードを告げる。

 

「リンクモンスター【S:Pリトルナイト】」

「リンク…モンスター?」

「ええ。ペンデュラムカードに次ぐエクストラデッキを使用する第五のカテゴリーです。

 エクシーズはおろか融合すら容易に手に入れられないシンクロ次元の貴方に用意できますか?」

 

 マスカレーナが新しい友達が出来たと嬉しそうに性能含めて語っていたカードで、【霊使い】【ラビュリンス】のどちらでも十二分に活躍できる汎用性の高いカードであると判断したため手に入らないか探している。

 

「そもそも貴方と手を組んでも私の望みは到底叶わない。

 それがわかりきっているのだから一考する必要さえ有りませんよ」

 

 クィーンでルークを倒しそう嘯いてやるとロジェ長官は忌々しそうに睨み付けた。

 

「そうか。ならば仕方ないな」

 

 そう言って立ち上がった直後、ロジェ長官の足元に切れ目が走り中心に立っていたロジェ長官が下へと消えていく。

 

「逃げた!?」

「クソッ!?」

 

 すぐに追いかけようとするも抜けた穴は閉じてしまう。

 思いっきり踏み付けて穴を開こうとするが何度蹴りつけても床は抜ける気配もない。

 

「いつの間に鍵をかけた!?」

「退けユート!!」

 

 時間稼ぎのためか長官室の扉にも鍵がかかっており隼と月影の二人掛かりで体当りしても扉はびくともしない。

 

「完全に閉じ込められたか…」

「いいえ。まだ問題無いですよ」

 

 悔しそうに呻く声にエクストラデッキからカードを抜いて【召喚】する。

 

「来なさい!【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】!!」

 

 大量のデュエルエナジーを糧に鋼の巨竜が長官室を破壊しながらその身をくねらせ大空に大翼を羽ばたかせた。

 

「「「「「………」」」」」

「地上に降りますので乗ってください」 

 

 リアルソリッドビジョンに慣れていた一同でさえ絶句する光景の中、乗りやすいようビルに身体を寄せるサイバー・ドラゴン・インフィニティの背へと移動する。

 

「早く! ロジェ長官を逃すわけにはいきません!」

 

 落ちたら一巻の終わりという高さに慄いてしまった彼等には無理と判断した月影が告げる。

 

「案内人殿!

 流石にそのドラゴンに6人は無理です。

 私達は扉を破壊して下に向かうので貴方は先に行ってください!」

「分かりました!

 彼らを頼みます【星杯神楽イヴ】!」

 

 パラサイト・フュージョナー対策にモンスターを付けてからインフィニティに地上へと向かうよう指示を出す。

 

 上空から見ればユーリ達のデュエルは終わっており戻って来たユーゴも含め呆気にとられた様子でインフィニティの姿を見上げていた。

 

「っ! 見つけた!!」

 

 ユーゴ達の無事を確認し本庁周辺を注視していると黒塗りの高級車が地下から飛び出すのが見えた。

 

「前方をブレスで破壊しろインフィニティ!!」

 

 先回りして車を停めさせるよりこちらの本気具合を分からせるほうが優先と命を降し、命じられたインフィニティが口腔から閃光を放ち逃げようとした車の先の道路を破壊する。

 解き放たれた光線は道路を寸断し、このままでは落下すると車が急停止したところに後方を塞ぐ形でインフィニティを降り立たせる。

 

「諦めなさい。

 貴方はもう終わりだ」

 

 降伏勧告を行うと車内で癇癪を起こして暴れたかのように車がガタガタと揺れ、少しの間を置いてから運転席が開く。

 

「まだだ…私はまだ、終わっていない…」

 

 目をギラつかせ、デュエルディスクを構えるロジェ長官。

 

「貴様をカードにし、全員パラサイト・フュージョナーで手駒にしてやれば私はこの街の王になれるのだ!!」

「みみっちい」

「……あ゛?」

「みみっちいと言ったんだよ三流が」

 

 背後から駆けてくる足音を聞きつつ言い放つ。

 

「どうせここまでやったなら四つの次元全部を支配する絶対君主になるぐらい言えよ。

 そこまでの野心も抱けず、街一つで満足できるお前には三流でも役者不足だがな」

「きさ、きさっ、きさまぁぁっっ!!??」

 

 激昂し狂乱するロジェ。

 ダルク達がドクトルを撃破するまではデュエル出来ないので、このままインフィニティに殴らせて終わりにしてしまう他ないかとそう言おうとしたところにハイウェイを駆けるレイダーズ・ナイトが俺の横で急停止し同乗していたダルクが降り立った。

 

「マスター! ドクトルは無力化した!!」

 

 ボロボロのローブを翻しそう報告するダルクの頭を撫でて褒める。

 

「ご苦労。よくやってくれた。

 そして済まないがもう一仕事必要なんだが、行けるか?」

「ああ。問題ない」

 

 そう答えを聞いた俺は【召喚】を解除し全員をカードに戻してデッキに差し込む。

 

「さっき愉快な事を言っていたな?

 俺をカードにすると」

「ぐっ…!?」

「それが現状殺害宣言と変わらないことを理解していながら言ったんだとしたら、覚悟は出来ているとそう受け取らせてもらうぞ」

 

 オートシャッフルを起動し、デュエルの支度を完了させながら最終勧告を告げる。

 

「デュエルディスクを捨てて投降しろ。

 さもなくば、()()()()()()()()()に遭わせるぞ」

「五月蝿い!!

 私は卑小などではない!!

 全てを手にする王になるべき存在なのだ!!」

 

 最後の慈悲をロジェは投げ捨てた。

 

 そして双方が5枚のカードを手に取ると、俺のディスクに『先攻』(死刑)の表示が点る。

 

「そうか。なら、お前には()()()()()を教えてやる」

 

 




アーリべ『は????』←マスターをカードにすると言われぶちギレ


次回、現代遊戯王炸裂。




※没シーン【移動中の会話パート】

Dホイールを運ぶ必要があるユーゴとユーゴの支援にと『レイダーズ・ナイト』を【召喚】して並走する執事以外の面子はバスに乗りロジェ局長とドクトルが待つセキュリティ本庁へと向かっていた。

「ユーリは案内人さんとは仲がいいんだよな?」
「そうだよ」

 機械馬にしがみつくように騎乗する執事を面白いと笑いながら眺めていたユーリに遊矢が問い掛けた。

「ユーリはなんであの時案内人さんがデュエルの邪魔をしたのか分かるか?」

 デュエルチェイサー達を遊矢達ごとバグースカで抑え込んだ執事の真意が分からないと問う遊矢にユーリはあっさりいう。

()()()()()()()()()をさせたくなかったんだと思うよ」
「つまらないデュエル?」

 「そ」っと視線を遊矢に向けながらユーリは笑みを浮かべて嘯く。

「オジサンは()()()()()()()が好きなんだよ。
 だからそうならないって分かっていたからデュエルの邪魔をしたんだよ」
「意味が解らん」

 隣で聞いていた隼が吐き捨てる。

「第一奴の言う楽しいデュエルとはなんだ?」
「マスターの重視する楽しさは過程と終了後に納得出来る事だ」

 と、そこで『パラサイト・フュージョナー』対策に【召喚】された状態でバスに同乗していたダルクが口を挟む。

「互いが互いにデッキに敬意を払い互いに選び取った戦術を駆使した上で勝利と敗北のどちらでも納得して受け入れられるデュエルがマスターが求める()()()()()()()なんだ」
「それって、普通のデュエルよね?」

 ダルクの言葉に柚子がそう指摘するもダルクは皮肉げに口を歪める。

「そうだな。()()ではそれは当たり前だな」
「精霊界のデュエルは違うのか?」
「いや。精霊界のデュエルも同じだ。
 そうじゃないのはマスターの故郷だ」

 遠くを見るような目で虚空を眺めながらダルクは言う。

「あの世界のデュエルは勝利に取り憑かれ闘争の行き着く果てに到達してしまった餓狼が互いを貪り喰らい合う終わりのない共食い(死亡遊戯)だった。
 マスターも含めて全てのデュエリストが()()ではなかったが、研ぎ澄まされ過ぎた殺意が踊り狂う終わりなき闘争に疲れ果てた多くのデュエリストがデッキを捨てて去っていった。
 そんな世界を知るからこそマスターは()()()()()()()を大事にしているんだ。
 デュエルの楽しさを忘れて勝利に固執した果ての、対戦相手さえも見向きもしなくなった()()()()()()()()()がマスターが一番忌み嫌うものだから戦いの手段にデュエルを選んだ彼らをマスターは排除した」

 そう語るダルクの言葉に気圧されその場の誰もが言葉を失った。

「だからマスターはシンクロ次元を好ましいとは思えない。
 今はまだ自重しているが、相当の怒りを抱えている今、弱者を見下し踏み潰す事に愉悦を得るような者が敵対したらきっと()()()()()()()()()()()()()()だろうな」

 執事の秘めた狂暴性を口にするダルク。
 その横で嘗ての自分が正にその様な人間性を剥き出しにしていた自覚があるユーリは、本当に水際で助かったのだと改めて命拾いしていた事に安堵し一筋の汗を流した。

「そんな世界が本当に存在するのか?」

 ダルクの言葉を俄には信じられないと呻く声にユーリが言う。

「僕はあり得ると思うよ?
 オジサンは故郷の話をたまにしていたけど、デッキ構築が余程じゃないと【ハーピィの羽根箒】と【サンダーボルト】と【死者蘇生】がデッキに入っているのが当たり前の世界みたいだし」
「全部伝説級のレアカードだぞ!?
 そんな訳は流石に…」
「3枚ともマスターの故郷ではレアリティに拘らなければストラクチャーデッキを買うだけで手に入る普及カードだな。
 あちら側ではそれが普通で、此方から見れば途轍もなく()()()()世界なんだよ。
 一応言っておくが、精霊界ではこちらと同じく入手はほぼ絶望的だぞ」
「「「「……」」」」

 価値観の違いの根幹を突きつけられ誰もが絶句する中、恐る恐る遊矢が訊ねる。

「あのさ、案内人さんの世界で初めてペンデュラムカードを生み出したのって誰なんだ?」
「いや。それは分からない。
 ただ、十年前には普及していたのは確かだ」
「十年前……」

 世界が違うからでは受け入れきれない言葉にがっくり項垂れる遊矢。

「そろそろ見えてきます。
 皆さん警戒しておいてください」

 さらなる追求が始まろうとしていた所に真剣な声で月影がそう言い、戯れの時間は終わりと全員気を引き締める。
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